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真面目令嬢は自領以外どうでもいい  作者: 宇和マチカ


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3/6

その頃主家では

お読み頂き有難う御座います。

主家のお嬢様の結婚式が近いようですね。

「オジェーヌ、明日の婚約披露式、本当に楽しみだわ」

「ええ、お母様……。

 本当に、本当に、本っ当に大変だったものね……」


 国の要職に就く侯爵家同士の婚約披露は、三年以上を掛けて準備が為されていた。

 筆頭侯爵であるレレンレーノ家の威信を賭けているのだ。使用人達の動きも何時もより慌ただしい


 派閥の貴族を全てに送られた招待状に始まり、当日のカトラリーの細部に至るまで、全てが万事、特別製で誂えられた。

 式典に供する葡萄酒だって、領地自慢の葡萄酒をかなりの数を用意していた。

 昨年の冷害も、ソト川の氾濫も有って、領民共々苦労した逸品で、やっとのことで数が揃った。

 しかし……。


「アタクシ、半年前に葡萄酒倉庫に小火が出た時は、本当にどうしようかと不安で不安で……」

「警備隊長と侍女長は、夫婦揃って寝込んだものね。わたくしも倒れるかと思ったわ」

「そうね、お母様。人の居ない池の畔で良かったけれど。

 まさか、割れた瓶に夏の光が反射して燃えたかもしれない、だなんてねえ」

「どうして、あんな池の畔に割れた瓶が棄ててあったのかしらね」


 それも、夜間に見回りの騎士達が確認した時は、全く瓶なんて落ちていなかった。

 しかし何故か火事の後、小屋の周りには、かなりの数の割れた瓶が散乱しているのが見つかる。

 破落戸が深夜に押し入って酒盛りでもしていたのか、という見解で落ち着いた。

 だが……それらしき破落戸は誰も見つからず捕まらず、そのまま。

 オジェーヌの胸は、苦しくて悔しくて堪らない。


「あの周りは見回りも多いのに、破落戸なんて彷徨くのかしら。もしかして、我が家に親しみを湛えたフリをした泥棒だったのかもしれないわね。

 葡萄酒自体は地下倉庫に大半が移されていたけれど、樽は殆ど燃えてしまったし……恐ろしいこと」

「お母様も不審に思われたのね。

 アタクシも怖いわ。とても酷い被害だったもの……」


 つい先程日が落ちる迄、槌の音が響いていた。

 小屋の梁や柱は何とか焼け残ったが、樽に残った酒精が燃えたせいで高温となり、壊して新たに建てる事になったのだ。

 見回りを強化して火災には気を配っていたのに、と誰もが訝しんだ。


 もし、誰かが忍び込んで故意に火災を引き起こしたとしたら、とても和やかに対応出来ないし、手酷く手討ちを命じてしまいそうだわ、とオジェーヌは思った。

 婚約はレレンレーノ侯爵家の威信を賭けたもので、生半可なことでは償えないことだった。


「それに、泥棒といえば……オジェーヌ、覚えているかしら?」

「ええ、お母様。

 一年前の、代々のレレンレーノの花嫁が被るヴェールが盗まれた件ね……

 お母様の憂いも、眉間の皺と共に深まってしまわれたわね。

 だって、あのヴェールは本当にかけがえのない物だったもの」


 淑女らしく微笑みながらも、オジェーヌの目はギラリと怒りに満ちて冷たい。


「急遽、レース編みの職人を他家にお借りして、王都にも一部依頼して方々から集めて……本当に大変だったわ。

 ドレスの事もあるし」

「ドレスと言えば……倉庫から時代遅れの古ドレスが大量に盗まれたのも有ったわね。

 アタクシ、とても気持ちが悪かったわ、お母様」

「アレはお義父様のお兄様の愛人が無理矢理作らせた物だから、手入れされていなかったのよね。

 そもそもあんな粗悪品、よく残っていたこと」


 前レレンレーノ侯爵の祖父の兄はとても奔放で、領地の端の端に追いやられて、平民の愛人と暮らしていた筈だ。僅かな蓄えで質素にせざるを得なかった割には、丈夫な身体だったらしい。

 だが、遂に祖父の怒りが限界を迎え、天に召されてしまったのだが。


「粗末で汚れた置き土産にも、困ったものだわ」


 片田舎に建てた粗末な家とは言え、栄誉有るレレンレーノ家の家である以上、綺麗にしておくものなのに。中々愛人が出ていかず、使用人が困らされたと聞いている。


「ご本人が居なくなったら、中身ごと直ぐに片付けられてしまうってこと、殿方は分からないものなのかしら」


 結局は使用人が手を汚して処理する事となり、大変な迷惑だった。


「そもそも、オジェーヌ。

 虫干しも碌にしていない布は虫食いだらけでしょう。ドレスの形はしていたかもしれないわ。でも、最早着れたものではないのよ」

「まあ、そんなものを盗んだの? 平民は強欲ね」

「もし纏う者が居ようものなら、きっと虫に刺されて全身の掻痒で苦しむわ」

「大変。では、割いて焚き付けにしたのかしら?」

「解体して端切れにして、小物を作ろうとしたメイドが変死してからそのままだったらしいの」

「まあ。怪奇現象が続くのね……。

 本当に、不可思議だこと。

 まるで、人為的に……内部犯行のような、気配がすること」


 眉根を寄せるオジェーヌに、母親はお菓子を勧めた。未だ話があるらしい。


「そう言えば、分家のひとつの……何だったかしら。

 ……ウチのオンドレイと同じ齢……に見えない、虫のようによく跳ね回る落ち着きのない息子」


 そう言えば、そんなのも居たわね? とオジェーヌは曖昧な記憶を探る。だが、レレンレーノ家には分家が沢山ある。だから頼りになる親しい子息しか、名前を覚えていなかった。


「……アタクシも名前を失念して出てきませんけれど、その令息が何か?」

「どうも、婚約者以外の女……平民の周りを跳ね回って居るようよ」

「……婚約者の方のお名前は思い出しましたわ、お母様。チューケン伯爵令嬢のマガレッタ嬢でしたわね」


 そんな程度の令息と縁付いてしまうとは、お気の毒様ではあるけれど、政略なのだから仕方ないのかしら、とオジェーヌは嘆息し、マガレッタ嬢のことを思い出す。

 黒い髪に青い目をした、美人ではないけれど落ち着きのある、身の丈を知った振る舞いのご令嬢だった。


 あの領地の辺りなら、トレナイ鉱山関係の政略だろうか。

 周辺の三家が権利を有しているが、二家のご当主はご高齢で跡取りが居られないから、実質チューケン伯爵が採掘権を独占している筈だ。


 チューケン伯爵領は重要な土地で、領地への愛も深い。

 そんな所へ婿へ行かされる割に、虫のような令息は、優秀ではないようだ。


「正しくお邪魔虫。いえ、不利益しか齎さない害虫なのかしら。

 アタクシ……最近、婚儀の支度で目まぐるしくて、派閥のご令嬢へと目が届かなかったわ……。

 弟は地方の士官学校で学んでいるから、まだまだ私の目が必要だというのに」

「虫の母親も、お義父様の遺産がどうとか触れ回っていたらしいし……。

 ご家族のご不幸で患っていたようだ、と受け流してはいたけれど、まさかねえ」


 何故分家筋如きがレレンレーノ侯爵家の遺産に関係があるのか。

 取るに足らない戯言と一笑に付すのは簡単だが、オジェーヌは嫌な予感がした。


「お祖父様の遺産? それは調べるべきね……。

 お母様、アタクシ、チューケン伯爵令嬢に連絡を取りますわ」


 そして、次の日。

 慌てふためいた使者が、レレンレーノ侯爵家を訪れた。

 信じられないような知らせを持って。





名家レレンレーノ侯爵家の命名は、某名作のお掃除好きな紳士より。

家紋は箒木。コキアとも言いますね。

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