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幕間 ラバコス・レノアールの独白

長く商人をやっていると、様々な“人”に出会うものです。

人間以外にも、時には耳長エルダ小人ダーフ、近年では魔族の方々を見かけることも、少なくはありません。

けれど、やはり最も多く出会うのは、最も数の多い人間なのです。ここ聖王国リグランティオが人間の国であるのも、当然のように人間が多い理由ではあるのですがね。


今回、私が出会ったのも、奇妙な二人組の人間でした。

……いえ、奇妙と言っては、あまりにも失礼ですね。他の人間達とは違う空気を纏った二人組、と訂正しておきます。


一方は『アレク』と名乗る商人で、とても商人とは思えない鍛えられた身体つきをした赤髪の男性。

もう一方は『フィリア』と紹介された冒険者で、冒険者と言うよりも、『豪商か貴族の娘が身分を隠して平民を装っている』とでも言われた方が納得出来そうな、綺麗な銀髪を持つ少女。


お二人は名前しか名乗らず、家名や出生地を伏せていました。……ということは、何かしら訳アリなのでしょう。詮索する気はありませんが、気にならないと言えば嘘になってしまいますね。


フィリア殿が主、アレク殿が従の関係で、身分を偽って旅を続けているのやも、と思いましたが……結局、私には判断が付きませんでした。

主従を隠す時によく使われる言い訳は、親子の身分を名乗ること。ですが、試しに世間話のように話を振ってみたところ、見事に否定されてしまいましたので。


それはさておき、私にとって最も重要なのは、旅の護衛が務まるか否か、という事です。

素人目でもアレク殿は、護衛役に充分な実力を備えているように見えました。

しかしアレク殿が護衛役に指定したのは、フィリア殿の方だったのです。


愚かにも私は、フィリア殿の実力を疑ってしまいました。

いえ、すぐに冒険者証を確認させて頂いて、そこに書かれた『7級冒険者』という文字を見れば、護衛を任せるに足る『最低限の実力はある』としか考えなかったのです。


恐らく私の頭の中は、フィリア殿は身分を隠した貴族の娘である……というイメージに染まってしまっていたのでしょう。

アレク殿がいるなら旅の護衛としては申し分ない、と考えたせいで、フィリア殿の実力を軽んじてしまったのも、あるのだと思います。……今では反省しきりです。


お二人との旅は、最初にアレク殿が仰っていたように、快適な旅である、と言えたでしょう。

元々、街道で魔獣と遭遇することは低確率で、護衛は“保険”のようなものなのです。

ですが保険がなければ心配にもなります。リスクを冒せば、もっと多くのお金は稼げるでしょうが……かといって、命には代えられません。

それに今回の護衛は、次の街──農協都市ロアヌに到着するまでの同乗を条件に結ばれたものであり、護衛の費用は一切掛かっていないのです。これで文句を言うのでは、罰が当たってしまいます。


一先ず街道沿いの村ナアフに辿り着くまでは、何の問題もない旅でした。

ナアフ村では昼食を摂り、その後に自由行動にすると言ったら、フィリア殿が商売の見学をしたい、と言い出しました。

商売なんて特に珍しくもないでしょうに、フィリア殿は少々世間知らずなようです。


ナアフ村へ辿り着くまでの道中でも、フィリア殿はアレク殿から色々と教わっていたようですし……私の中で、フィリア殿は『箱入りのお嬢様』というイメージが加速してしまいました。


初めて問題らしい問題が起こったのは、ナアフ村での夕食時のことです。

『魔王殺し』の英雄──アレックス・ロラ・ローヴァントの名を出した途端に、フィリア殿の様子が一変しました。


それまでもフィリア殿とは、あまり会話を交わしてはいませんでしたし、寡黙な気性のようではあったのですが……その時は正に『心ここに在らず』といった様子で、黙り込んでしまったのです。

食事の手も止まってしまって、アレク殿が食事をするように促しても、暫くの後には再び手を止めて、最後には席を立ってしまいました。

その間、私は状況も分からずに、オロオロするばかりでした……。


夕食前に聖魔戦争の話題を出してしまったのは、私の配慮不足であり、実際に不適切であったと反省しました。けれど、その戦争を終結させた英雄に、悪い感情を抱く者がいるなどとは、思ってもみませんでした。

まして、アレックス・ロラ・ローヴァントの名前を聞いただけで、これ程にフィリア殿が取り乱すとは、予想だにしていなかったのです。


予想していなかったからと言って、許される訳ではないのは、分かっています。

それからアレク殿もフィリア殿を追いかけて席を立ち、一人残された後、私は深く反省することになりました。


フィリア殿は聖魔戦争で大切な者を失ったのかもしれない、とは思っていましたが……もしかすると、その大切な者の“死”に、件のアレックス・ロラ・ローヴァント殿が関わっていた、ということなのでしょうか。

考えても答えは出ません。デリケートな問題なので、本人に尋ねる訳にもいきません。

しかし確実なのは、話題を出してしまった私が悪いという事。それだけは、動かしようのない事実なのです。フィリア殿には、ちゃんと謝りたいと思いました。


そうして私が一人で反省している内に食堂内では、村に立ち寄ったのはアレックス・ロラ・ローヴァントの偽物だ、という話になっていたらしく……気付いた時には、お二人の姿は食堂内にはありませんでした。


反省を終え、フィリア殿に謝罪をしようと決めた私は、食堂のスタッフに大皿を借りて、テーブルの上の食事を載せられるだけ載せた後、宿の一室に向かうことにしました。

向かったのは言うまでもなくアレク殿とフィリア殿の部屋で……フィリア殿には謝罪を受け取って貰うことが出来て、一先ずはホッと胸を撫で下ろすことが出来ました。


ただ、問題はそれで終わりではありませんでした。

更なる問題に行き当たったのは、その翌日の話です。


ナアフ村を出発してすぐに、昨夜のアレックス・ロラ・ローヴァントの偽物と遭遇することになったのです。

正確に言えば、遭遇というか、アレク殿が草むらに隠れていたその方を発見した……と言うのが正しいですが。


そして、その偽物の方を、アレク殿が竜車に乗せたのです。

あぁいえ、竜車に乗せたこと自体は、別に構わないのですよ。ただ単に、身元も分からない方だったので、不安を覚えたというか……。

……いいえ、やはり正直に言いましょう。偽物だったとはいえ、フィリア殿が取り乱した原因に当たる方を乗せるのは、気が気ではなかったのです。

しかし見捨てるのも確かに道理に反すと言いますか……竜車に乗せたのは、仕方のない判断だったとは思います……。


話を聞いてみれば、その偽物の方──ダガン殿は、気の毒な境遇に遭われた方でした。

ナアフの村でも特別に悪さをした訳ではありませんし、他の村でも自発的に悪事を働いた訳ではないようでした。

もしかすると、ダガン殿には更生の余地があると分かっていたからこそ、お二人はダガン殿を連れて行く判断を下したのかもしれません。……流石に、そこまでは考え過ぎでしょうか。


ともあれ、ダガン殿を竜車に乗せた後は、二日目も順調な旅路を辿ることに相成りました。

ありがたいことに、“運び屋”というものを営んでいたダガン殿は竜車を扱えるとのことで、二日目の道程の半分ぐらいは、ダガン殿に運転をお任せして、荷台の上でゆっくり過ごすことが出来ました。

途中で運悪く魔獣に遭遇するアクシデントもありましたが……そのアクシデントに遭遇したからこそ、私はフィリア殿の実力を、とんでもなく見誤っていた事に気付けたのです。


魔獣を倒す際にフィリア殿が使った魔法は、今まで見てきた護衛の冒険者の中では、群を抜いて素晴らしいものでした。

……と言うより、初めて見た時は、空恐ろしいものを感じました。

まだまだ若年であるはずのフィリア殿が、これ程に洗練された魔法を使いこなせるのか……と。

魔法は門外漢ではありますが、今までにも冒険者の魔法を間近に見る機会があったからこそ、そう思ったのかもしれません。


しかし一番驚いたのは、昼の休憩時にフィリア殿が氷の塊を動かしていた事です。

同じ事は、水と風の加護があれば、簡単に出来るでしょう。

けれど、フィリア殿が氷の塊を動かすのに使っていた魔法は、風の魔法ではありませんでした。

ではどんな魔法を使ったのか、と問われれば……私には到底理解が及ばない、としか答えられません。


最も驚くべきは、その理解の及ばない魔法を、魔獣を狩る為ではなく、料理を作る為だけに使っていた、という点ですね。


フィリア殿のことを『少々世間知らず』と評しましたが、これを見てしまうと、『少々』では済まないかもしれません……。

私には、やはりフィリア殿は『お忍びで冒険者をしている貴族の令嬢』だとしか思えなくなりました。

あまりフィリア殿が口を開かないのは、余計なことを言わないようにしているだけ、ということも、あり得るのでしょうか。


そうであったとすれば、もう詮索は絶対に出来ませんし、向こうが身分を名乗らないなら、気付かないフリを徹底しなければいけません。

貴族とは、そういう扱いを好んでいるはずですから。これ以上、不興を買わないように、気を付けなければ……と、心に誓うことになりました。

きっとアレク殿も、苦労されていることでしょう。


さて、その後はフィリア殿の作った料理を頂きました。

トライホーンというのは高級肉に分類されますので、美味しいのは当然なのですが……焼き具合も味加減も適切であった事に驚きを覚えました。

普通の貴族は、料理などしないものですから。美味しい肉が美味しいまま提供されたことには、驚くと同時に深く感心しました。

貴族の道楽と言うには、少し度を超えているような……と、疑問に思わなくもなかったのですが、料理が美味しいに越したことはありませんし、『好奇心は竜をも殺す』と言います。気にしない方が良いに決まっています。


昼食を頂き終われば、忙しないですが出発です。

そこから農協都市ロアヌまでは、本当に問題のない旅でした。

護衛役のはずのフィリア殿が途中で眠ってしまいましたが……何かあればアレク殿も起こしていたでしょうし、旅が平穏な証拠でした。

何より、護衛役というのは普通、ほとんどが気を張っていて、会話らしい会話が無いことも、少なくありません。

それを考えれば、今回の旅はダガン殿が加わってからは尚更に賑やかになりましたし、眠ってしまえるぐらい、緊張とは無縁だった、ということなのでしょう。

アレク殿はちゃんと起きていたので、護衛に不安を感じることがなかったのも大きいかもしれませんけどね。


やがて竜車は、農協都市ロアヌに辿り着きます。

二日間という短い旅でした。何も問題が無かったとは言えないものの、終わってみれば楽しい旅でした。

アレク殿とフィリア殿──お二人とは、また何処かで縁があれば、こちらから護衛をお願いしよう、と思える“良き出会い”となりました。

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