表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/64

第15話 色々と足りてない

 三本角の魔獣の解体を(主にアレクさんが)終えてから、再び竜車は街道を走り始めた。

 その解体作業中が、実質の休憩時間になってた訳だけど……アレクさんが嬉々として解体に勤しんでいたのは、この魔獣の肉が美味しいから、ということらしい。


 肉が食用足り得る魔獣は、兎系のホーンラビを始めとして、猪系のニードルボアや、鳥系のロックバード等……他にも蛙や蛇系の魔獣も、毒持ちでなければ食用になるし、それなりの種類が存在する。

 そういったラインナップの中でも、特に美味しいと言われるのが、牛系の魔獣なのだそうだ。

 今回遭遇した魔獣──トライホーンという名称らしい──は、予想していた通り、牛系魔獣だったので、期待は膨らむばかりである。


 トライホーンの解体が終わったら、魔石は私のベルトポーチに入れて、部位毎に切り分けた肉と討伐証明の角(三本セット)はアレクさんの空間バッグに入れて貰うことにした。

 肉もそうだけど、近くで見たら角もベルトポーチに入るサイズではなかったのだ。

 ……やっぱり、もう少し口の大きい空間バッグを、早めに買わないといけないなぁと思った。


 そういえば先刻、トライホーンを倒す為に《間欠泉》を使った際の急ブレーキは、走竜が驚いたのではなくて、ダガンさんが驚いて思いっ切り手綱を引いてしまったせいらしい。

 荷台の積み荷はロープで固定されていた為、荷物が横倒しになることはなかったみたいだけど……ラバコスさんがひっくり返りそうになったところをアレクさんが助けたらしく、ダガンさんは皆に頭を下げて回っていた。

 ポーションを飲んでいた私の所にもダガンさんが来て謝ったので、謝罪を受け入れる意味で頷いておいた。


 各々の休憩時間は、アレクさんはトライホーンの解体、ダガンさんは状況説明と謝罪、ラバコスさんは竜車の点検をしていて、あまり休憩らしい休憩にもなっていなかった。休憩時間中に最も暇だったのは、ヒールポーションを飲んだ後は周囲の警戒をしていただけの私なのは確実だ。

 まぁ元々は走竜を休ませる目的の休憩なのだから、走竜さえちゃんと休めれば、問題もなかったと言える。


 そして現在は、アレクさんが解体を終えるや否や、移動を再開する運びになったので、竜車に乗って移動中なのである。


「それにしても、フィリア殿の魔法には驚かされました。7級冒険者の方に護衛をお願いしたことは過去に何度もありますが、あれだけ見事な魔法は、今まで見たこともありませんでしたよ。」


 出発してから暫くの後、ラバコスさんはそんな風に声を上げた。

 魔法を褒められるのは悪い気はしないけど、中級の《間欠泉》と初級の《凍結》を連続発動させただけなので、私としては特別な魔法を使ったという意識は全くない。

 ただ、遠目ではあったし、魔法の知識がなければ、いきなり魔獣を氷漬けにした、と勘違いされたのかもしれない。

 訂正しようかとも思ったけれど、どうしようかと迷っている内に、アレクさんが先に口を開いた。


「実を言うとフィリアは先日ランクを上げたばかりでね。7級には納まらない実力は持っているんだ。」


「なるほど。お若いのに、それだけ実力があるというのは、頼もしい限りです。」


 ラバコスさんは、うんうん、と頷く素振りを見せた。

 褒められるのは悪い気はしない……とはいえ、目の前でそんな会話をされると、ちょっと居た堪れない……。


「あっしも、お嬢のことを見くびってやした……申し訳ねぇです!」


 と、更にはダガンさんも会話に加わってきて、暫くは褒め殺しのような状態が続いた。

 その間、私はそっぽを向いて聞こえないフリをしながら(……と言っても、目の前でされてる会話なので、かなり無理があるけど……)、無言で遠くの景色を眺めることに集中した。


 やがて私への褒め殺しが終われば、別の話題へと推移していく。

 街道を行く旅とは、本当にのんびりとしたものである。……まぁどちらかと言うと、暇を持て余している感じだった。


 次の目的地……というか護衛として竜車に同乗するのは、『農協都市ロアヌ』という街に到着するまで。そしてその農協都市ロアヌは、まだまだ影も形も見えないのである。

 何かが起こって欲しいと思う訳じゃないけど、荷台の上で揺られているだけというのは、あまりにも退屈なのだ。

 私の場合は特に、話を振られた時以外は会話に参加せず、話半分に聞いているばかりだったから、余計にそう思えたのかもしれない。

 護衛って、こんなに暇で良いのかな?……なんて思ったりもした。


 本の一冊でもあれば、暇潰しには事欠かなかっただろうけど……サイズ的にベルトポーチには入らないし、持ってても荷物になるだけだから仕方ない。

 そもそも街を出るまで、竜車に乗って移動するなんて思わなかったのだから、本を買おうという発想すら出なかった訳で。……本を買えるだけの金銭的な余裕もないので、尚更だった。


 暇に耐え兼ねて魔法の練習でもしたくなった。けど、一応は護衛役なのだ。先刻みたいに魔獣に遭遇した時に魔力が無くなっていては、本末転倒である。我慢するしかなかった。


 そんな感じで、頑張って“暇”に耐えながら。更には、暇すぎて襲ってくる眠気にも耐えながら。車上の旅は続いた。

 ちなみに眠くなった原因は、折り畳んだ毛布を下に敷いて、荷車の揺れでお尻が痛くなるのを緩和していたせいかもしれない。






 さて、暇な道中を頑張って乗り切った後は、ナアフ村を発ってから三度目の休憩に入った。

 二時間に一度ぐらいの頻度で挟まれる休憩であり、三度目の今回は、昼食を摂る為に少し長い休憩になるらしい。

 昼食は、昨日は村の食堂で摂ったけれど、本日は近場に村も無いらしく、野外での食事になる。


「正確には、少々街道から外れた場所でしたら、村は在るのですが……今日中に農協都市ロアヌに到着する為には、寄り道などはしていられないのです。」


 というのが、ラバコスさんの談だった。

 野外での食事は、私は山岳都市ルミオラではいつも山の中で昼食を摂っていたし、すっかり慣れてしまったので抵抗はない。

 もっとも、その頃は午前中に狩った魔獣の肉を、火で焼いて食べるぐらいのものだったけど。

 今回の食事では、アレクさんが片手鍋を持っているのは以前に確認済みなので、料理の質を上げられることだろう。

 ちなみに私以外の三人は、あまり料理もしないということで、調理は私に一任された。……アレクさんが、私が前回、ホーンラビで美味しい料理を作った、と言ったせいで、ハードルが上がった気がしなくもないけど、それはそれである。


 その料理に関して、アレクさんからの提案によって、食事にはトライホーンの肉を使用することになった。折角美味しい肉を使うのであれば、こちらも気合を入れて臨まないといけない!

 ……とはいえ、あまり凝った料理は作っていられない。限られた休憩時間で準備しないといけないし、調理器具の問題もある。野菜にしてもベルトポーチに入らないサイズの物が多かったので、買い溜めたりはしておらず、材料も不足しているのだ。


 アレクさんも野菜は買わないみたいで、そうなると結局、ただ肉を焼くだけになってしまうけど……でもそれだと何だか負けたような気がするので嫌だった。

 なので、何か適当な野菜を……と念じながら、諦め悪くベルトポーチを探ってみれば、意外にも手に触れるモノがあった。


──……でも野菜は本当に、買った記憶、ないんだけどなぁ……。


 と思いつつも、ベルトポーチから取り出して見ると……確かにそれは、街で購入した野菜ではなかった。


──……あ、これか……。


 私が手に握っていたのは、複数の房が集まって球形を成した野菜──ガリューだった。

 ガリューは肉や野菜と一緒に炒めて香り付けをする為の所謂、香味野菜であり……確かに一応は野菜である。……求めていたような、ちゃんとした野菜とは違ったけど。

 そしてこのガリューは、ベルトポーチにも入るサイズだったので、家を出る時に持ってきた物だった。


──……使う機会が無かったから、持ってきたことすら、忘れてた……。


 求めてるような普通の野菜ではなかったけど、まぁ野菜と言えば野菜なので、折角だし使ってみることにした。


 草の地面にシートを広げて、アレクさんにブロック状のトライホーン肉(……背中辺りの肉かな?)をシートに置いて貰ったら、時間的な余裕もないので、いざ調理開始だ。

 ……と、その前に……。


「……《洗浄》。」


 調理の前には手を綺麗にしておきたいし、また、トライホーンを倒した時に竜車から地面に落下したせいで、全身に土汚れも付いたままだし、ついでとばかりに全身を《洗浄》することにした。

 更にベルトポーチからナイフを取り出して、それも《洗浄》すれば、準備万端である。

 そうして改めて調理に取り掛かろうとして……重大なことに気付いてしまう。


──……あ。……調理台……どうしよう……。


 せめて、まな板でもあれば良かったのだけど……当然そんな物はベルトポーチに入らないので、持っていない。

 野外で調理することを考えると、空間バッグは絶対に新調しないといけないし、他にも調理器具を色々と揃えなければ、満足に調理も出来ない。そんな現実を突き付けられたようで、途方に暮れてしまいそうだった。

 しかし無い物ねだりをしていても解決する訳ではないのだから、今はどうにかして代用品を用意するしかない。


──……取り敢えず、台になる物があれば、何とかなる気はするんだけど……。


 そう思って周囲を見回してみる。けれど都合よく、そんな物が落ちてるはずもなく……。


──……荷台に積んである木箱、借りれないかな……?


 などと考えたりもしてみた。でも仮に木箱を借りられても、木箱の上に直接食材を乗せて切る訳にはいかないな、と思い直す。

 それを避ける為に、例えば木箱の上にシートを敷いたりしても、食材と一緒にシートも切れてしまいそうだし……流石に許容出来ない。


──……それならいっそ、魔法を使ってどうにかする、とか……?


 欲しいのは、『上に乗せて食材を切れるような台』なのだから、《変幻する水》を使えば、形だけなら作るのは簡単だ。

 問題は、水のままだと柔らかすぎてダメということ。つまりは硬度だけど……。


──…………《変幻する水》で形を作った後に、《凍結》させたら……?


 『魔法で作る』とは単なる思い付きだったのに、具体的に考えると、いけそうな気がしてきた!

 私は早速、魔法を使って氷の台を作ってみることにした。


「……《変幻する水》。」


 薄いと割れてしまうかもしれないので、厚みは十センチ程にしておいて、まな板のような長方形状の水を作り出す。

 気を遣うのは、なるべく表面を平らにならすことぐらいだ。

 そうしてから──


「……《凍結》。」


 作業中に割れたり溶けたりしないように、念入りに魔力を注いで、長方形状の水を凍らせた。

 これにて、調理台?まな板?の完成だ。思ったより無駄に時間を使ってしまったので、その後は急いで調理を始めることとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ