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第12話 旅は道連れ

 翌朝、私は宿のベッドで目を覚ました。

 二度寝したい衝動に駆られながらも上半身を起こして、ボーッとした頭で周りを見回すと、部屋の中に居たのは私一人だけみたいだった。


──……あれ。……昨日、どうしたんだっけ……。


 アレクさんに話を聞いて貰って、アレクさんから聖魔戦争の話を聞いて……その後、魔法の練習をしたのも覚えてる。それで途中で眠くなって、寝てしまったような気がする。

 昨日は日中に魔法を使わなかったから、魔力が切れて意識を失ったとかは、なかったはずだけど……色々と頭を使ったせいで、疲れてしまったのかもしれない。


──……ところで、アレクさんは、どこ行っちゃったんだろう?


 窓の外は明るくなり始めていたから、私が起きたのは、そんなに早い時間でもなかったんだろうし。アレクさんが先に起きてたとしても、別段おかしなことはないんだけど。

 アレクさんが寝てたはずのベッドを見れば、近くに置いてあったはずのアレクさんの黒い剣も見当たらない。


──……うん?……あれ?…………ね、寝過ごした!?


 ふと、最悪の事態が頭を過って、急速に目が覚めていくのを感じた。


──……お、置いてかれたり……してない、よね……?


 アレクさんは昨日、アレックス・ロラ・ローヴァントと“知り合い”だと言っていた。

 それで私がアレックス・ロラ・ローヴァントを恨んでるから、こっそり置いていかれた、なんてこと…………ないとは言い切れない。

 冷静に考えれば、そんなことはないと分かったはずだけど……何せ寝起きだった為、頭は冷静ではなかったのだ。


 私は慌ててベッドから下りて、頭をスッキリさせる為に《洗浄》を自分に使った後、すぐにローブと帽子を着用して部屋を出た。


──……ええと……ラバコスさんがまだ村に居れば、置いてかれてはいない、ってことだから……。


 でもラバコスさんの部屋を訪ねるのは流石に躊躇われたし……他に確認方法はないかなぁと考えていたところで、私は一つの閃きを得た。


──……そうだ!……走竜と荷車が残ってれば、まだ村を出てないっていう証拠になる!


 そうと決まれば、宿の一階に下りて、そのまま外へ出て、宿の裏手へと走った。

 辿り着いてみると……そこには走竜も荷車も存在した。それどころか、アレクさんとラバコスさんの姿もあった。


「フィリアか。おはよう。」


「おや、フィリア殿。おはようございます。」


 いきなり登場した私に少し驚いてたみたいだったけど……アレクさんもラバコスさんも、先ずは尋常に挨拶をしてくれた。


「……あ、は、はい。……おはよう、ございます。」


 二人の姿を確認した私は、息を整えながら挨拶を返す。

 同時に心の中では、置いてかれた訳じゃなくて良かった……と、安堵した。


「そんなに慌てて、何かあったか?」


 質問したのはアレクさんだ。……何だか怪訝そうな表情をしてる。

 ……けど、よくよく考えてみれば、私の行動は傍から見れば、不審なものだったかもしれない自覚はある。


──……置いてかれたと思って、走竜と荷車を確認しに来た…………なんて、言えないし……。


「……あ、えと……その……お、起きたら、アレクさんが……いなかった、から……。」


 なんて言ってはみたものの……。


──……いなかったから……探しに来た?…………流石に不自然かな……?


 『置いてかれたかもしれない』という前提から、おかしかったのだから……上手い言い訳をひねり出すのは困難を極めた。

 けれど、アレクさんは恐らく不審には思いながらも、追及したりはせずに、


「ああ、早くに目が覚めてしまってな。この村の村長の所に行ってきたんだ。」


 と、大人の対応をしてくれたので、私がこれ以上の言い訳を考える必要はなくなってホッとした。

 それから続いてラバコスさんが、アレクさんの行動の詳細を伝えように声を上げた。


「ええ。アレク殿が手伝って下さると仰ったので、お言葉に甘えていたのですよ。村長さんの家で、昨日の商品の代価となる農作物を受け取ってきたのです。」


 ちゃんと説明を受ければ、状況は把握出来たので、私は頷きを返しておいた。


「それと、今から村を出発するらしいから、丁度フィリアを起こしに行こうと思っていたところだ。」


 そんなことを言うアレクさんは、もしかしたら私の不安なんて、お見通しだったのかもしれない。私は『自分が置いてかれそうになってた訳じゃなかった』と分かって、安心することが出来た。


 その後、アレクさんとラバコスさんは宿の退出手続きをするということで……私は一人で部屋に荷物を取りに戻ってから、宿のロビーにて二人に合流した。


 手続きを終えて宿を退出したら、再び宿の裏手に回った。

 地面に刺さった木の棒に手綱を引っ掛けて繋がれていた走竜を解放したラバコスさんが竜車を動かし、私とアレクさんは荷台の後ろに座って、そのまま村を出発する運びとなる。


 ラバコスさんは村では人気者だったけど、見送りなどは特に無いようだ。……昨日の偽物さんの騒動のせいで、見送りが中止になった可能性も、ないとは言い切れないけど。

 何にしても、これでこの村──街道沿いの村ナアフとはお別れなのである。

 広場から村の出入口へと向かう竜車の荷台に乗りながら、感慨深い気持ちに……は、ならなかった。

 まぁ滞在したのは半日だけだし、村の人間とも特に交流をした訳でもない。

 広場に宿と食堂が隣り合わせで建っていたのだから、広場内で用事が済むようになっていたし、ウロチョロしない方が良いのだろうなと思っていたので、村の中を見学する事もしなかった訳で。

 それに、どちらかと言うと偽物さんの印象が強すぎて、村自体の印象は薄れてしまった感じもする。


──……そういえば、あの偽物さんって、どうなったんだろう?


 のどかな村の風景を視界に収めながら、私はそんなことを考えた。

 もしかすると偽物さんの処遇を相談する為に、アレクさんは村長さんの所へ一緒に付いて行ったのかもしれなかった。


 ……真相は不明だけど、でも私が気にすることでもないかな……と、すぐに思い直したのだけれど。


 そんなことを考えながら村の景色を眺めていると、やがて竜車は村の出入口へと到着し、速度を緩めた。


「ラバコスさん、もう出立かい。」


「道中、お気を付けて。」


「ええ。ありがとうございます。それではまた、一月後に。」


 兵士の人達とラバコスさんは、短く挨拶を交わすと、竜車はそのまま村を出て行く。

 竜車が通り過ぎる時、兵士の人達は少し緊張した面持ちになっていたけど……アレクさんが偽物さんを叩きのめした(……と私は思ってる)ことを警戒しているのかもしれなかった。

 まぁ流石に呼び止められたり、声を掛けられたりはしなかったし、アレクさんを危険人物と思っている感じでもなさそうだった。

 アレクさんも別段、居心地悪そうにはしてなかった。……であれば、私が気にする必要はない。


 そうして竜車は街道を進んで、村の出入口は遠ざかっていく。

 とはいえ、街道に沿って木の柵が続いているので……広大な畑や、そこで労働する人間の姿は、まだ視界に入ってくるのである。

 畑仕事をしている村人達の中には、こちらに……というかラバコスさんに向かってだろうけど、手を振る人の姿も見えた。

 私はそれらの風景を目に映しながら、こんな暮らしもあるんだなぁと、今更ながらに思うことになった。

 そして、他にも人間達の暮らしを色々知りたいな、と思い始めた。


──……冒険者じゃなくても、生活出来る術が、もしかしたら見付かるかもしれない。


 そんな淡い期待を抱きながら、私は遠ざかっていく街道沿いの村ナアフを見送った。

 ……しかし、村から完全に遠ざかるまでには、もう一波乱あったのである。






 “それ”は、村を囲っている木柵が、そろそろ途切れるかどうか、という頃に起こった。

 アレクさんが、御者台に座るラバコスさんに、声を掛けたのだ。


「ラバコスさん、すまないが止まってくれ。」


 特に切迫した様子はなく、何かに気付いたといった風だったけど、少なくとも竜車を止めなければならない事態が発生したらしい。

 魔獣が現れたのかもしれない……と、アレクさんの索敵範囲の広さを知ってる私は、少々身構える。

 ラバコスさんはアレクさんの意見を聞き入れたようで、竜車は徐々に速度を落としていって、やがて完全に停止する。

 それからラバコスさんは、御者台から後ろを振り返ると、幾分緊張した様子で、アレクさんに質問を飛ばした。


「あ、アレク殿、何か問題が発生したのですか……?」


 ただ、アレクさんの方は緊張とは無縁である。


「あー……いや、大したことでもないんだが……。」


 と、少々言い辛そうに言葉を発していたけど……隣を見ればアレクさんは難しい顔をしていたので、緊張とは異なる理由なのが分かった。

 しかし、状況を理解しているのはアレクさんだけなので、竜車を止めた理由は説明して貰わなければ、具体的には何も分からない訳で。


「ラバコスさん、少し待っていてくれ。」


 それだけ言うとアレクさんは荷台から地面に降り立った。


──……私への指示は、特になかったけど…………待機するか、それとも、付いて行くか……どっちが正解なんだろう?


 などと考えている内に、アレクさんは村の柵とは反対側の草原に足を踏み入れていた。

 多分アレクさん一人の方が動きやすいだろうと思って、私は静観することを決めた。……別に今から追いかけるのが面倒になった訳じゃない、うん。


 そうしてアレクさんを眺めていると、途中で立ち止まって、地面を見下ろしながら、少し呆れ気味に声を発したのが聞こえてきた。


「お前はこんな所で何をやっている?」


 アレクさんが言うと、何だか情けない声が聞こえてきた。


「ひっ……か、勘弁してくれ!……も、もう名前を騙ったりしねぇよ!……だから見逃してくれぇ!」


 何となく聞き覚えのある声と、その言葉の内容から、誰がその場に居たのかは、容易に想像が付いた。

 そして予想に違わず、草むらから“偽物さん”が立ち上がって、姿を見せたのだ。

 どうやら、草の地面に這いつくばって、身を隠していたらしい。……何でそんなことをしてたのかは、よく分からないけど。


──……近くに魔獣でも居たのかな?


 そう思って、周囲に魔獣の気配がないかを探ってみたけど……私の分かる範囲に魔獣の気配は感じられなかった。

 アレクさんはその間に、偽物さんと何度か言葉を交わしていたらしかった。

 短い会話を終えると、アレクさんは竜車の方へと戻って来て、荷車に乗り込みながら、謝罪の言葉を発した。


「お待たせしてすまない。」


「い、いえいえ。……ところでその……あの方は、昨日の……?」


 御者台の上からでも、偽物さんの姿は確認出来たのだろう。ラバコスさんは言葉を濁しつつ、ちょっぴり不安そうな声を出していた。

 対してアレクさんの方は、落ち着いた肯定を返す。


「ああ、例の偽物だ。」


「やはり、そうですか……。」


 二人とも、私を気遣って名前を出さないでくれているのかもしれないけど……別にアレックス・ロラ・ローヴァントの名前を聞いたくらいで動揺したりしないので、気の回し過ぎだと思う。

 でも、こんな風に余裕を持って構えていられるのは、“偽物だ”と分かってるから、かもしれないな……。


──……二人の厚意は、素直に受け取っておこう。


 と、私がそんなことを考えた直後、アレクさんがラバコスさんに出発を促した。


「それじゃあラバコスさん、出発してくれ。」


「分かりました。」


 やっぱり偽物さんの処遇についての相談は、事前に村長さんの家とかで済ませていたのだろうか。ラバコスさんも不思議がる素振りは見せずに同意していた。

 ラバコスさんが手綱を揺らすと、走竜は少しずつ速度を上げていこうとする。そこに──


「ま、待ってくれ!」


 という声が掛かった。

 声の主はアレクさんではないし、ラバコスさんでもない。当然、私でもない。

 よって、私達に『待った』の声を掛けたのは……偽物さん以外には、あり得なかった。


「お前の相手をしている暇はない。」


 アレクさんは偽物さんに向けて、冷たく言い放った……のだけど、偽物さんは草むらから飛び出して、竜車の方に走って近付いて来た。

 そうして必死に竜車に追い縋りながら、偽物さんは声を上げる。


「お、俺……いや、あっしも同行させて下せぇ!」


 一体全体、どうしてそんな考えに至ったのか……まるで見当も付かなかったけど。どうやら本気で言っているらしいことだけは伝わってくる。

 偽物さんの必死の訴えを受けて、ラバコスさんはチラチラと、アレクさんの方を確認していた。竜車を止めるか否か、答えを欲してのことだろう。


 竜車を最高速度まで上げれば、たとえ荷車を引いていたとしても、普通の人間の足では走竜に追い付けないはずだ。

 未だ振り切れずに付いて来られているのは、ラバコスさんが速度を上げて良いものかを悩んでいる証拠だった。


 アレクさんは偽物さんの真意を確かめようとしていたのか、息も絶え絶えに竜車に追い縋る偽物さんを、無言で見ているだけだったけど……その必死に後を追う姿に、私は自分を重ねて、同情してしまった。

 私には、お母さんも、“あの人”も、追いかけることすら出来なかった。……でも、追いかけることが出来たなら、きっと私も、必死で追いかけただろうから。


「……アレクさん。」


 呼び掛けながら私は、アレクさんの着ている外套の裾を、クイクイと引っ張る。

 するとアレクさんは私の方に顔を向けたので、私はそのタイミングで、お願いを口にした。


「……連れていってあげて下さい。」


 私のお願いにはアレクさんも驚いたようで、


「本気で言ってるのか?」


 と怪訝そうに問われてしまったけど……私はコクリと頷きを返してみせた。


 それから少しの問答はあった。けれど、最終的にはアレクさんが折れてくれた。

 速度を緩めた竜車に追い付いた偽物さんは、アレクさんの手で荷台に引っ張り上げられ……荷台の上で大きく息を切らせながら、何度もアレクさんに頭を下げていた。


「一先ず、次の街に着くまでだからな。」


 と、アレクさんは言っていたけれど、それでも偽物さんは喜んでいるように見えた。


 こうして私達の旅には、旅の道連れが増えたのであった。

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