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第1話 街道沿いの村

 私は現在、草原に吹く風を身に受けながら、街道を進む竜車の荷台に揺られている。

 山岳都市ルミオラを出て数時間……魔獣の襲撃を受けるでもなく、のんびりとした車上の旅が続いていた。

 竜車に乗るのは初めての体験だったし、荷台の後部に腰掛けて、荷台の外に足を投げ出すようにして座っているので、景色が後ろから前に流れるというのも新鮮だった。


 時々ガタンと大きく荷車が揺れて、お尻が痛いのだけが難点だったけれど……軒並み平和な旅であると言えた。

 隣を見れば、そんな揺れには全く動じていない様子の、アレクさんの精悍な横顔が目に入った。


「ん?」


 視線を感じ取ったらしいアレクさんが私の方を向き、正面から目を合わせることになった。

 ……けど、「お尻痛くないんですか?」なんて正面から訊く訳にもいかないし……。


「……あ、えと…………何でも、ないです。」


 と、視線を逸らして縮こまり、誤魔化すしかなかった。

 ……まぁ、そんなこんなで、平和な旅だったのだ。


 竜車は二時間に一回くらいのペースで、荷車を引く『走竜』を休ませる為に、十五分程の休憩を今までに二度挟み、それ以外の時間は、ひたすら街道を真っ直ぐに進んでいた。

 ちなみに、『走竜』というのは元々魔獣らしい……とは、退屈を紛らわせる為の雑談交じりに、アレクさんが教えてくれた。


「聖王国内の一部では、悪しき魔獣を使役する忌まわしい技術だ何だと言われてるのもあって、推奨はされていないが。利に聡い商人であれば、毛嫌いする理由もないだろう。何せ走竜には餌代が不要なんだからな。」


 今でも当然、野生の走竜は存在してるという話だけど、森や山には生息していないみたいなので、私は野生の走竜というのを見かけたことがなかった。


「野生の走竜──アースドラコは、主に荒野に生息している。魔獣は魔力さえあれば生きられるから、過酷な環境に身を置いても、特に困ることもないのだろう。温厚な性格のアースドラコは、大昔に他の魔獣との縄張り争いを避けて、荒野に行き着いたという説もある。……と、前にグランジーが話してたな、確か。」


 走竜は、魔獣名ではアースドラコと言うらしい。

 そしてそのアースドラコという名前も、冒険者ギルドに貼り出された討伐依頼で見た覚えがなかったのは、生息地である荒野が山岳都市ルミオラの近辺に存在しなかったからだ。

 グランジーさんは、街の近くに生息してないアースドラコの生態を、どうやって知ったんだろう?……確か別の街の生まれだったから、出生地の街の方に生息してた、ってことかな?


 ……まぁそれは兎も角として。

 走竜の姿──出発前や休憩中に何度か目にした──は……足がずんぐりと太く、腕と尻尾は短くて、頭だけは大きい、翼のない二足歩行の小さい竜(……私の背丈よりは全然大きいけど)といった風情だった。

 人懐っこそうな感じで、愛嬌のある顔をしてるなぁと思ったりはしたものだけど……野生の走竜ことアースドラコには、きっとその辺りの部分は当て嵌まらないのだろう。


 旅をしていれば、そのうち野生のアースドラコとも遭遇するタイミングがあるかもしれない。

 情が湧くとアースドラコを倒せなくなりそうなので、走竜とはなるべく関わらないようにしよう、と思った。


 そんな風に、アレクさんから、走竜の話や、次に向かう街の話も聞いたりしながら、周囲の景色を楽しみつつ荷車に揺られていたのだけど……。

 後ろに流れていく草原の景色も、ほとんど代わり映えしなくて、少々退屈になってきた辺りで、荷車を運転していた『人間』の商人──ラバコスさんが首だけ振り向いて、私達に声をかけた。


「お二方、村が見えました。今日はそちらで一泊します。」


「ああ。了解したよ。」


 すかさずアレクさんが返事をしたので、私は口を開く暇もなかった。


 竜車で進んだのは半日くらいなので、まだ陽は高いけど……野宿しなくて済むなら、それに越したことはない。急ぐ旅ではない(……と思う)し。

 何より、ずっと座りっ放しだったせいで、お尻が痛いから、ベッドでゆっくり休めるのは歓迎だ。


 それから二十分程で、村の入口に到着したらしく、竜車は動きを止めて、私とアレクさんは一旦、荷台から下りた。

 村の様子は、竜車が走ってる最中にも横目で確認していたけど、広い畑ごと村の周囲を木の柵で囲われていた。

 木柵は街道に沿って建てられたものであり、柵が途切れている場所が、村の入口ということだった。


 村の入口は、門があったりとかはせず、柵の切れ目というだけだったけど、そこには上半身に皮鎧を身に着けた兵士っぽい人が二人立っていた。

 片方は年配で、片方は若年(……私よりも年齢は高そうだけど)の、どちらも『人間』だった。

 恐らく山岳都市ルミオラの門衛の人達と同じく、村への入場者をチェックする立場の人達なのだろう。

 ただし、門衛の人達と比べると、態度はとても友好的に感じた。


「おお、ラバコスさん。景気はどうだい?」


 と、年配の兵士の方が、軽く右手を上げながら、挨拶をする姿を見た為だ。

 同じ声を掛けるにしても、門衛の人達は、もっと厳しい態度や口調で接してたので、この村の兵士の人が友好的だと感じるのは当然だった。


「ははは、いつも通りですよ。稼がせて貰っています。」


 対するラバコスさんも、兵士の人の気軽な態度には慣れているみたいだったし、これがこの村での常態の遣り取りなのだろう。

 そんな風に観察していると、もう片方──若年の兵士の人が、ラバコスさんから少し離れて立つ私達の方に目を向けた。


「ところでラバコスさん、そっちの方は護衛ですか?」


 この訊き方も、私とアレクさんを不審に思っている訳ではなくて、単に事実確認をしているだけのようだった。


「ええ。片方は私と同じ商人ですけどね。」


 ラバコスさんがそう言うと、若年の兵士の人は、私達をジッと見比べて……直後に首を傾げた。

 私もアレクさんも、商人には見えないだろうから、その反応は当然かもしれない。


「俺が商人のアレク。こっちは護衛のフィリアだ。」


 アレクさんが言うと、兵士の人達はちょっと驚いたような表情をした。

 兵士の人達は、アレクさんが護衛で私が商人だろう、という想像をしてたのかもしれない。……私も未だにアレクさんが商人とは思えないので、気持ちは分かる。

 まぁでも、名目上の護衛は私だけど、実際はアレクさんが護衛なのだから…………うん、ややこしい。


 それはそれとして。兵士の人達は、驚きが通り過ぎれば、私達のことを温かく迎え入れてくれた。


「アレクさんにフィリアさん。ようこそ、ナアフの村へ。」


「畑以外は大した物もない村ですが、ゆっくりしていって下さい。」


 年配の兵士の人は、笑顔で。若年の兵士の人は、しかつめらしく言って、村の中へと招き入れてくれた。






 『街道沿いの村ナアフ』というのが正式名称らしいナアフの村の中は、兵士の人が言っていたように、畑の面積が多くて、家屋などの建物は少ないようだった。

 村の入口から暫くは、畑が続いているようで、『のどかな村』という表現が相応しいのではないかと思う。

 そうした田園風景を横目に見ながら、私は再び荷車に揺られていた。


「村の中心に広場があるので、先ずはそこに向かいましょう。」


 というラバコスさんの提案の下、村の敷地内に入った後で、再び竜車を走らせることになったのだ。

 とはいえ、街道を進んでいた時ほどのスピードは出さずに、人が早足で歩く程度の速度に納まっている。


 さて、そんな感じでゆったりと、畑を見ながら進んでいると、十分と経たずに竜車は停止した。


「着きましたよ。」


 ラバコスさんが広場への到着を知らせてくれたので、私とアレクさんは荷台から地面へと降りた。


 広場と呼ばれた場所を見回してみれば、そこは確かに広場のようではあった。

 けど、どちらかと言うと、『ちょっと広い十字路』みたいだった。

 私達がやって来た村の入口からここまでの道に加えて、奥にも道が続いているし、左右にも道が続いていたので、そんな感想になってしまったのかもしれない。

 まぁでも、ここまでの道幅(竜車が二台すれ違える程度の幅)よりも、三倍くらいの幅があるし、広場と呼んで差し支えないのだろう。


 そんな広場の奥側には、道も確かに続いていたんだけど、他の住居とは違った造りをした建物が、道を挟んで左右に建っていた。

 いや、片方は住居と呼んでもそこまで違和感はないかもしれない。でももう片方の建物に関しては、住居には見えない。


 向かって右側の建物は二階建てで、一定の距離で窓が取り付けられている、しっかりとした造りの建物。……何というか、他の住居より“しっかりし過ぎている”という印象を受ける。

 同じく左側の建物の方は、一階建てではあるけれど、真正面に大きな扉が付いていて、扉の左右にこれまた大きな窓が一つずつ取り付けられている。窓から中を覗けば、内側が丸見えなんじゃないかな、って思ってしまう建物だった。

 そうした謎の建物が道を挟んで二軒並んでいるというのは……ここが重要な施設だから、なのだろうか。

 ちょっとよく分からないし、勝手にアレクさんやラバコスさんの傍から離れるのもあれなので、近くで見てみたい欲求は頑張って抑え込んだ。


 また、左側の建物の扉付近には、歳を取った人間達が数名、寄り集まっているのが見えた。

 老齢では畑仕事も出来ず、退屈を紛らわせているのかもしれなかった。


 ……そんなことを考えていると、ラバコスさんは走竜の手綱を握ったまま、歩いてその老人達の方へ近付いて行った。なので私とアレクさんも、後を追いかけた。


「おお、ラバコスさん。景気はどうじゃ?」


 と、その老人達の一人がラバコスさんに気付いて……村の入口にいた年配の兵士の人と同じような挨拶をしたので、思わず吹き出しそうになってしまった。


「ははは、いつも通りですよ。稼がせて貰っています。」


 ラバコスさんの方も、笑いながら全く同じ返しをしたので、余計に面白かったけど……頑張って耐えた。


 私が笑いを堪えている間に、他の老人達も加わり、ラバコスさんを囲んで口々に何かを話しかけて……と、随分と親しげであった。


──……ラバコスさん、人気者だなぁ。


 人間の中には、あくどい商売をする者もいると聞くけど、きっとラバコスさんは誠実な商売をしてるのだろう、と思った。

 そうでなければ、こんなに人望は得られないんじゃないかな、という気がした。


 それから暫くの間は、老人達に囲まれていたラバコスさんだったけど……一通りの挨拶を交わし終えて満足したらしい老人達が、ぽつぽつとその場を離れて行ったので、ラバコスさんは私達の方を振り返った。


「どうもお待たせしてすみません。宿を取って、食事にしましょうか。」


 私もアレクさんも頷いて了承を示すと、ラバコスさんは右側の建物の方へと、走竜を誘導して行った。


 どうやら、右側の建物──住居っぽくはあるけど“しっかりし過ぎている”と思った二階建ての建物は、宿屋だったみたいだ。

 先に宿の裏手に回って、剥き出しの地面に屋根だけ張られているスペースに竜車を停めて、地面に刺さった太い木の棒のようなものに走竜の手綱を引っ掛けてから、宿の正面扉に戻って来る。

 ラバコスさんが扉を開けると、中の光景が目に入ってきて……しっかりとした造りの宿屋だというのが見て取れた。

 これなら、私が山岳都市ルミオラで利用していた安宿よりも、全然ちゃんとした宿な気がする。


「あっ……ラバコスさん!」


 と、ここでも、宿の受付にいた女性とは顔見知りらしく、ラバコスさんは挨拶を交わしていた。

 挨拶が終わるとラバコスさんは、私達の名前を、受付の女性に教えた。


「こちらがアレクさん、こちらがフィリアさんです。」


 ……まぁ宿の手続きには名前が必要だから、話しの流れで紹介されるのは、別に不自然ではない。

 アレクさんは、「よろしく。」と応じていた。私は軽く頭を下げるだけに留めた。


 その後、無事に宿泊手続きを終えると、荷物を部屋に置いてから宿のロビーに集合しよう、という話になった。

 ちなみに、借りた部屋は二部屋。どちらも二階で、ラバコスさんが一部屋、私とアレクさんで一部屋、という部屋割りになった。

 アレクさんは私が『半魔』だって知ってるから、私の側は別に良いんだけど…………アレクさんの側は、何とも思わないんだろうか。……と、ちょっと気になった。


 そういえば、荷物を部屋に置いて……という話だったけど。私は旅支度として購入した雨具や毛布を入れたバッグを部屋に置いただけで済んだし、アレクさんに至っては手荷物というのは何もなかった訳だけど……。


「……その剣、目立つ、ので……部屋に置いてった方が、良いんじゃ……。」


 竜車での旅の間は、荷台の端に置かれていたアレクさんの黒い大剣は、現在はその背中に戻っていた。

 それを指摘してみたら、アレクさんは難しい顔をして、渋々ながらも頷いた。


「まぁ確かに……食事するだけなら剣も不要か。」


 武器を手放したくない、というのは、分からない訳じゃないけど……。

 それでも、こんな『のどかな村』の中では、アレクさんの剣は悪目立ちしてしまうことだろう。

 ……アレクさんが目立つと、近くにいる私も一緒に注目されてしまいそう……という、割と自分本位な意見ではあったけど。無事に受け入れて貰えたので、私はホッと息を吐くことが出来た。


 そういった経緯もあって、アレクさんも黒い大剣を部屋に置いてから、一緒に一階のロビーへと引き返し……ロビーに到着して一分程の後に、ラバコスさんもロビーに下りて来て、私達と合流した。


「お待たせしました。それでは行きましょう。……まぁ、すぐそこなんですけどね。」


 と言ったラバコスさんの先導で宿を出て、それから向かったのは…………なんと、道を挟んで隣にある、一階建ての建物だった!……本当にすぐそこだった。


 一階建ての建物の、大きな正面扉から中に入ると、内部は大きな食堂だった。

 お昼時を少し過ぎているせいか、中にいる人数は少ない。

 そしてこの食堂も、宿と同様に“村の食堂としては大き過ぎる”という印象を受けた。


 設置されたテーブルも椅子も結構な数があるし、山岳都市ルミオラの冒険者ギルドの併設食堂の二倍くらいの広さがありそうだった。……実際のところは分からないけど。


 私は、そんな広すぎる食堂内を見回しながら、ラバコスさんやアレクさんに遅れないように、後を付いて歩いた。

 席はほとんど埋まってなかったので、席は自由に選び放題だ。その中からラバコスさんは、扉から入って右奥──窓際にある四人掛けのテーブル席を選択した。

 席順としては、私とアレクさんが並んで座って、アレクさんの正面にラバコスさんが座る……という感じになった。

 そうして席に着いたら、ラバコスさんオススメの料理を幾つか注文して、私達三人は少し遅い昼食を摂ることとなったのだ。

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