第一章・終
さて、ここまで『竜殺し』『魔王殺し』と二つの偉業についてを語ってきたが、彼のその後を知る者は少ない。
アレックス・ロラ・ローヴァントという名は、『魔王殺し』以降、歴史の表舞台に再び登場することはないのだから。
一説には、魔王との戦いにて受けた傷により、早晩命を落とした……という見解もある。
しかしながら、その説は誤りであると、筆者はここに強く述べたい。
救国の英雄でもある彼の死を、聖王国が伏せるというのは、あまりにも不自然ではなかろうか。
時の聖王イルミナェラ・アルザハート・リグランティオ王は、その野心によって魔族との戦争を引き起こしたとされる。
であれは、イルミナェラ聖王が民の求心の為に、アレックス・ロラの死を利用しなかったとは考え難い。
無論、民草の不安を煽らない為だ……などと、反論する余地があるのは承知の上だ。
あるいは、誰知らぬ地にて、ひっそりと息を引き取った故だ……と言われれば、否定するだけの根拠を用意する術は持たない。
では何故、此れを誤りだと述べるのか。
その答えは、聖王国内に於ける『災厄の魔獣』への関心が一つの論点になると考える。
『災厄の魔獣』という言葉が一般に広まったのは、魔族との戦争が終結した聖王歴343年よりも後年だというのは、今更論じるまでもない事実である。
では『災厄の魔獣』が、それ以前には聖王国に出現しなかったのかと問われれば、答えは否である。
『災厄の魔獣』とはその名の通り、『災厄を齎す魔獣』に他ならないが、この言葉が語られたのは、実は聖王歴341年──聖魔戦争の切っ掛けとなる対談が行われた年である、と記録されている。
当時、聖王イルミナェラは、「災厄の魔獣を討伐せんと、聖王国内に魔族を送る許可を願う」との魔王からの嘆願を、侵略の為の口実であると判じ、戦争を始めた……という記録が残されていたのだ。
誤解のないように述べておくが、これは記録として残されている厳然たる事実であり、決して聖王イルミナェラを貶めようとする意図はない。
『災厄の魔獣』が一般に知られていなかった当時の状況を考えれば、侵略行為であると結論を出すのは致し方ない部分もあったであろう。
しかし、ここで一つの疑問が生じる。
魔王の言う『災厄の魔獣』とは、実際に聖王国内に存在が確認されたのか?という部分についてである。
存在の有無を確かめる為に、聖王国側も調査を行なったであろうことは想像に難くない。
その調査の結果、魔王の言が『正しくない』と断じたからこそ、戦争を引き起こす結果に至ったのではないだろうか。
つまり、その調査で『災厄の魔獣』が発見されることはなかったのだ。
では、魔王の言う『災厄の魔獣』の出現が与太話であったのか?と問われれば……後の時代を生き、『災厄の魔獣』の存在を知る我らには、到底そうは思えない。
すると、魔王が討伐せんとした『災厄の魔獣』は、何処へ行ってしまったのか?という疑問が、新たに生じる。
棲み処を移したのか、あるいは、何者かに討伐された故に、発見に至らなかったのか。
筆者は、これを後者であると考える。
更に言えば、魔王の指摘した『災厄の魔獣』とは、先に語ったアレックス・ロラの討伐した『竜』だったのではないだろうか、と同時に思うのだ。
今でこそ知られる『災厄の魔獣』の外見的特徴は、『全身が黒く染まった魔獣』という点であるのは、ご存知の通りだ。
それでは、アレックス・ロラの討伐した『竜』が、どんな姿であったか……今一度思い出して頂きたい。
そう、先の『竜殺し』の項でも語ったように、その『竜』は『黒き鱗持つ竜』であったと伝えられている。
こじ付けに過ぎないと、そう思われる方もおられるだろう。
とはいえ、『災厄の魔獣』が忽然と姿を消した、などと都合良く考えるよりは、その方が納得のいく答えなのではなかろうか。
では、『竜殺し』そして『魔王殺し』によって『災厄の魔獣』の存在を知ったアレックス・ロラは、その後、どのような行動を取ったのであろうか?
歴史の表舞台からは姿を消したアレックス・ロラだが、それらしき人物を各地で見かけたという風聞も、信憑性の有無は兎も角、実際に幾つか残されている。
無論、彼がどのような余生を過ごしたかは、神の身でもなければ、断定は不可能ではある。
しかしながら、想像の翼を広げてみれば、自ずと答えは知れるのではないだろうか?
彼は人知れず『災厄の魔獣』を討伐する旅を続け、その果てに、人知れず命を落とすことになった。あるいは、その総てに打ち勝ち、天寿を全うした。
名声に驕ることなく、人事を尽くした彼は、真に『英雄』と呼ぶに相応しい人物像を、我々に想像させてやまないのである。
~『聖王国 英雄録 アレックス・ロラの章』より抜粋~
これにて第一章は終わりです。
ストックが尽きたので、更新再開までは少し期間が空くと思います。
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