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半魔の少女は英雄譚を望まない  作者: 水無月七海
第一章 始まりの出会い
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第34話 昇級

 マッスルベアの群れを倒した後、次に遭遇した群れはシザースディアだった。

 群れと言っても三体で、一か所に寄り集まっていたので、六体いたマッスルベアの時よりも気が楽だったし、魔力的にも楽に済んだ。

 シザースディアというのはギザギザのハサミのような形状の角を持つ鹿の魔獣だ。足は遅いので、《水の檻》で四方を囲んだ後は、ちょっと大きめの《水球》を出して《凍結》させた。

 マッスルベアと違ってシザースディアは体重が軽いので、《間欠泉》ではどこに吹っ飛んでしまうか分からない。なので《水球》に頼るしかなかったのだ。


 討伐証明は特徴的なギザギザの角を切り取って、魔石も取り出した。……主にアレクさんが。

 私の持ってるナイフじゃ、魔石はともかく、角は切れなかったのだ。安物のナイフなので、これはその内、買い替えようかなと思う。


 そんな感じでシザースディアを倒した後、アレクさんに体力の限界を訴えて、ようやく山を下りることになった。

 山を下りる前には勿論、休憩を挟んだ。


「魔力のことしか気にしてなかったが、そうか……確かに魔導士なら、体力的に厳しいという面はあるな。そこまで気が回らなくて、すまなかった。」


 アレクさんはそんな言葉で謝ってくれた。

 それから充分な休憩──体感で三十分ほど──を取ってから、山を下りる際にはアレクさんが前を歩いてくれたので、ずっと維持していた《流水の盾》は密かに解除して、これ以上の魔力消費も抑えられた。


 当然のように帰り道で魔獣に遭遇することはなく、順調に山を下りて行ったのだけど……今日は普段よりも山の奥に進んだ為、帰り道も結構な距離になってしまって、街に帰り着くだけでも中々に辛かった。

 道中でアレクさんが時折、「大丈夫か?」と声を掛けてくれたお陰で、頑張って歩くことが出来たのかもしれない。


 そうして疲労困憊になりつつも、何とか街まで帰って来た頃には、もう陽は沈みかけていた。


「ギルドに行く前に、少し休憩しようか?」


「……はい。……休憩したい、です……。」


 アレクさんの提案を断る理由はなかった。

 正門から街に入って、一先ず目に付いたベンチに、並んで腰を下ろす。


「……はぁ……。」


 私はベンチに座り込んで、ため息に近い吐息を漏らす。

 普段よりも長い距離を歩いて疲れたというのもあるけれど……もし7級になったら毎日この距離を往復することになるのか、と思うと、少々憂鬱になってしまったのだ。

 しかも、帰り道にアレクさんが前を歩いてくれるなんてこともなく、一人で魔獣を警戒しながらである。

 この先の自分の未来を想像すると、今すぐ7級にならなくても良いんじゃないかな、という気がしてくる。


 元々、日々の生活がどうにかなれば良い、というスタンスだったのだから、無理してランクを上げることもない。

 やっぱりランクなんて、ゆっくり一つずつ上げていけば良い……と、そう思って言葉に出そうと思った時、アレクさんの方から声を掛けられた。


「フィリア、少し話しがある。」


「……話し、ですか?」


 そうして切り出されたアレクさんの言葉に、私は驚きと同時に、困惑することになった。

 けれど、それは私にとって、決して悪い話ではないように思えて……。

 だからこそ、私はランクを上げよう、と思い直すことが出来た。






 十五分ほどの休憩の後、私とアレクさんは、冒険者ギルドへとやって来た。……朝方にも来ているので、戻って来た、と言う方が正しいのかもしれないけど。

 兎も角、受付の順番待ちの列に並んで、依頼報告を済ませることにした。

 両手で大きな革袋を持って、である。


 先程の休憩中にアレクさんが、マッスルベアの手とシザースディアの角を、自前の革袋に入れてくれたのだ。

 冒険者ギルドまで運んでくれたのはアレクさんだけど、受付には一人で並ぶので、ギルド前で受け取った。

 防水の革袋らしく、血が滲んで床を汚すことはない。

 なので私は列に並びながら、袋の口に両手を添えた状態で地面に置いて、前進する時にだけ袋を持ち上げて、受付の列を進むことになった。……革袋の中身がそこそこの重量があるので、しょうがないことと言える。


 そうして十数分後に、ようやく順番が回ってくる。

 陽の落ちかけた夕刻なので、順番待ちの列に並ぶ冒険者が多くて、それだけの時間が掛かってしまったのだ。


「次の方、どうぞ。」


 と声を掛けられた私は、受付に自分の冒険者証と、ホーンラビ四体分の角と魔石を提出する。


「三日前に受けていたホーンラビ討伐の報告ですね?少々お待ち下さい。」


 受付嬢の人は、そう言ってから角と魔石を受け取り、代わりにホーンラビ四体分の討伐報酬と魔石の代金──銅貨八枚分を用意してくれた。

 一先ず、私はその銅貨を受け取って、ベルトポーチにしまう。

 それから受付嬢の人に視線を戻すと、続いて三日ほど前に受けた説明を、繰り返してくれた。


「先日もお伝えしたと思いますが、フィリアさんは既定の依頼数を達成しましたので、昇級の為の指定討伐依頼を受けることが出来ます。どうされますか?」


 私はちょっとドキドキしながら、それに対する返事を返す。


「……あの……その前に、これを…………確認して貰って、良いですか……?」


 床に置いていた革袋を両手で持ち上げて、受付台の上に置く。

 別に依頼以外の魔獣を討伐してはいけない、なんてルールはない。なので受付嬢の人も、さして疑問には思わず、革袋の口を開けて中身を見た。


 けど、まぁ……その袋に入っているのは、私の認定ランクより上位の魔獣の討伐証明部位なのだ。

 受付嬢の人は、袋の中を見て、暫し固まってしまった。


 とはいえ、それも十秒に満たない短い間のことだ。

 ランク毎に報告する受付が別れている訳でもないので、マッスルベアの手やシザースディアの角なんか見慣れているだろうし。受付嬢の人が固まったのは、9級の私がそれを持ってきたという部分に関してのみだろう。


「……これ、7級の魔獣ですね?」


 少し声のトーンを落として、受付嬢の人が、私に問う。

 私は反射的に背筋を伸ばして、「……は、はい。」と肯定を示す。


「適正ランクより二つも認定ランクが上の魔獣を倒してくるなんて、褒められた行為ではありませんよ。……しかも、これだけの数。」


 一体や二体であれば事故で済んだかもしれないけど……マッスルベアは六体、シザースディアは三体倒してるのだから、故意にやったと判断されるのが当然だ。

 むしろアレクさんは、事故で済ませないように、群れを倒す提案をしたのかもしれなかった。……というのは、今更ながらに思った。


 受付嬢の人は、「……はぁ。」と軽く息を吐いてから、言葉を続けた。


「7級魔獣をこれだけ倒しているのですから、昇級の指定討伐依頼を受けるまでもなく、7級の実力があるのは確かですね。……ですので、今回は指定討伐依頼なしで、7級にランクを上げることにしますけど、今後はランク上げの為に、このような無茶なやり方はしないようにお願いします。」


 後に続いて「いいですね?」と念を押すのが聞こえるようだった。


「……は、はいっ。……ご、ごめんなさい……!」


 この段になってようやく、自分がちょっぴり悪いことをしてしまったんだと自覚して、謝罪を口にする。

 アレクさんの口車に乗せられた形ではあるけれど……最終的に決めたのは自分なのだから自分の責任である。


「分かって貰えたのなら良かったです。では、冒険者証を7級に更新してからお渡ししますので、少々ロビーでお待ち下さい。……あ、こちらの魔獣の討伐報酬も、その時にお渡ししますね。」


「……はい。」


 受付嬢の人の、声のトーンは、最後には元の明るめな感じに戻っていたので、私は少しホッとしながら頷いて、受付の最前から列を横に抜け出した。

 それから、何となくアレクさんの定位置になりつつある入口付近の壁へと、俯き加減にとぼとぼ歩きながら向かった。


 しかし到着してみれば、そこにアレクさんの姿はなく、私はキョロキョロと視線を彷徨わせる。

 すると、食堂のある側から、こちらに向かって歩いてくるアレクさんを発見することが出来た。


「フィリア、無事に7級には成れたかな?」


 アレクさんは私の前までやって来ると、自分が席を外していた件には触れずに、そんな風に質問するだけだった。

 きっと小用にでも行っていたのだろうと思ったので、特に私からも訊いたりはせずに、受付での出来事を伝えることにした。


「……はい。……でも、褒められたことじゃない、って……叱られちゃいました……。」


「叱られた……か。ギルドの規則的にはそう言わざるを得ないだろうが、まぁ何にせよ、昇級を認めて貰えたのなら良かったよ。昇級おめでとう。」


「……ありがとうございます……。」


 別に私は「叱られたのはアレクさんのせいだ」と言いたい訳ではないんだけど……アレクさんが悪びれもしなかったのが、ちょっとだけ複雑な気分ではあった。


「では、どこかで食事にするか。」


 と、続いてアレクさんが言った。

 けど私はまだ冒険者証を返して貰っていないので、慌て気味に口を開くことになった。


「……あ、冒険者証の更新が……まだ……。」


「ん?……ああ、そういえば、待たされるのだったか。」


 冒険者証の更新で待たされるのは、私も二回目ではあるけど、更新自体がそれほど高い頻度で行われる訳ではないから、忘れてしまっていたのだろう。

 10級から始めて1級まで上がるとしても、更新の機会は最大で九回。アレクさんは今回私に勧めたように、上位の魔獣を狩って一足飛びにランクを上げたことも多分あるのだろうから、そうなれば最大数は九回よりも少なくなる。

 また、ランクが上がれば上がる程、更新までの期間は空くはずだ。そう思えば、忘れていても不思議ではない……のかな?

 何だか少し引っ掛かる気もするけど、そういうこともあるのだろう、と自分を納得させておく。


 そうして入り口付近で待機すること五分程……ギルドの制服を着た職員さんが、私とアレクさんの方へと歩いてくるのが見えた。


「フィリアさんですね?」


 ギルド職員の人は私の2~3歩分くらい手前で立ち止まると、すぐに私に声を掛けた。


「……はい。」


 私が頷きを返すと、ギルド職員の人は手に持っていた冒険者証を差し出しながら、


「お待たせしました、冒険者証の更新が完了しました。それと、こちらが魔獣の討伐報酬となります。あとは、お預かりしたこちらの革袋をお返しします。」


 冒険者証に続いて、銅貨の入った小袋、討伐証明を纏めて入れていた革袋を、順番に渡してくれる。

 私は、それらを差し出されるまま受け取った。


「7級からは討伐・採取以外にも、護衛や調査などの依頼も受けられます。質問等あれば、冒険者ギルドの職員に尋ねて頂ければ、お答えします。それでは、今後も頑張って下さい。」


 ギルド職員の人はそれだけ言うと、一礼してから、元来た方へと引き返していった。

 両手がいっぱいになってしまったので、一先ず銅貨袋と冒険者証をベルトポーチにしまってから、革袋だけを持った状態で、アレクさんを見上げる。


「……これ、綺麗してから、返したいんです、けど……。」


 他人の目がある場所で《洗浄》……というより、魔法を使うの自体が、余計な注目を集めてしまいそうで躊躇われた。

 その意図を理解してくれたのだろう、アレクさんは、


「そんなのは宿に戻ってからで良い。」


 と、私の望む答えを口にしてくれた。

 更には、「食事の間中、ずっと抱えてる訳にもいかないだろう?」と言って、私の手から革袋を取り上げると、自分の空間袋の中に、さっさと収納してしまった。


「……はい。……ありがとうございます。」


 私がお礼を言うと、アレクさんは優し気に微笑んだ。


「では食事に行こう。何か食べたい物はあるか?」


「……屋台の串焼きが、食べたいです。」


 食べたい物と問われれば、真っ先に浮かぶのが、兎とネイギの串焼きだった。

 それを口に出せば、アレクさんは「はは。」と愉快そうな笑い声を上げてから、私の申し出を了承してくれた。


「フィリアは本当に、あの屋台の串焼きがお気に入りみたいだな。それじゃあ、今日も屋台巡りをするとしようか。」


「……はい……!」


 連日屋台での夕食に付き合わせてしまうことに、少なからず申し訳なさはあったけど。

 それでも私は、アレクさんが嫌な顔一つしなかったことで、安堵と同時に嬉しさも感じていた。

 もしかしたらアレクさんの方も、あの屋台の串焼きを気に入ってくれたのかな……という想像をさせられてしまうくらいに。


 それから私達は冒険者ギルドを出て商店通りへ向かい、私の希望した通りに、あの屋台の串焼きを食べることになった。

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