第31話 ホーンラビ
食堂での休憩を終えた後、私とアレクさんは冒険者ギルドを出て大通りを歩き、正門を通り抜けて街の外へ、そして山へと向かった。
アレクさんと一緒に山の中を歩くのは、これで三度目になる。初めては『災厄の魔獣』に襲われた帰り道。二度目は夜間、『災厄の魔獣』の討伐に向かう行き道。そして『ホーンラビ討伐』に行く今が三度目だ。
「危ないと思えば手を出すが、基本的には手を出さないので、普段と同じように討伐をしてくれれば良い。」
と、そういうことらしいので、今回ばかりは私が前を歩いて、アレクさんが後ろから付いて来る……という配置で、山の中を進むことになった。
『災厄の魔獣』がいなくなった今、何の心配もせずに山を歩くことが出来るのだから、すごい気が楽だなぁ……などと思って、存分に気は緩んでいたと思う。……こういうところが、危機感が足りてない原因なのだろうな。
でもちゃんと最低限は警戒もしているし、今日は奇襲対策の防御魔法も、ちゃんと山に入る時に使用した。
奇襲対策というのは、一人の時にいつも使っている《流水の盾》という魔法である。
ローブに《流水の盾》を掛けて、魔力を通し続けて維持することで、多少の衝撃なら弾いてくれるようになるのだ。
持続させるのにちょっと魔力が必要になるけど、死んでしまっては元も子もないのだから、魔導士で一人なら絶対にこういう備えは必要になってくる。
魔力を惜しんでいては命を落とし兼ねないし、こういう備えは他のソロで活動する魔導士達も行なっているという話なので、私だって疎かにすることは出来ないのである。
まぁ《流水の盾》は、衝撃の許容量を超えると弾けてしまうらしいけど……という新事実は、『災厄の魔獣』の襲撃によって弾け飛んでしまったフード部分が物語っている。
ただ、少なくとも『災厄の魔獣』レベルの魔獣にほいほい遭遇することはないと思うので、今のところは《流水の盾》で問題はないだろうし……問題が出そうなランクになった時に、改めて考えようと思う。
──……そういえば、フードがなくなったんだから……帽子には別個で掛けなきゃいけなかったんだ……。
そう思って、歩きながら自分の帽子に手を当てて、「……《流水の盾》。」と唱える。
「ん?」
後ろから疑問符が降ってきたけど、うーん……うっかり忘れてたとは言い出し難いので、アレクさんの反応には気付かなかったことにしておこう。
私はツッコまれない内に、別の話題を出すことで、なあなあで済ませよう作戦を取る。
「……えと……あの…………あ、そうだ、アレクさん。……街には、あと何日くらい居るつもり……なんですか?」
咄嗟には思い付かなくて、話題選びに少々難航はしたけれど……後ろを振り向いて質問をすることで、突然の《流水の盾》をアレクさんの意識から逸らすことに成功した。
……いや、実際に成功したかは分からないんだけど、少なくともすぐにアレクさんからツッコまれることもなくて、ちゃんと質問に答えてくれたので、私はそのように判断した。
「ん……あー、そうだな……用事は『災厄の魔獣』を倒すことだったから、明後日にでも出立することになるか。」
「……明後日……ですか。」
お別れするまでに、あまり時間は残されていないようだった。
思い付きで振った質問だったけど、アレクさんの答えを聞いて、私はちょっとしんみりしてしまう。
そんなに急がなくても……と思う気持ちはある。でも、用事さえ済めば、山岳都市ルミオラに居残る理由もないのだろう。
──……本来なら、今日出立していても、おかしくはなかったんだろうし……。
そう考えると、二日前──『災厄の魔獣』に襲われるより前にホーンラビと遭遇しなかったのは、私にとっては幸いだったと言えるのかもしれなかった。
──……お別れを言う時間があるだけ、マシだと思おう。
私は私の中で、何とか気持ちに折り合いを付けようと努力する。
……と、その時、ガサッと草が揺れる音がして、私は反射的に音のした方へ視線を飛ばした。
進行方向の左前方──数十メートル先に、草を掻き分けて、ナニカが動いているのを発見する。
背の高い草なので、それが動物か魔獣なのかも、判断は付かない。
けれど直感で、それが魔獣だと判じる。
「……《水球》。」
私は手を翳し、魔法を発動させる。
ナニカがいる地点に魔力を集中させて、出現させた大きな水の玉によって、周囲の草ごと《水球》の中にナニカを閉じ込める。
そうしてから、私は《水球》を目印にして、慎重にその付近へと歩みを進めていく。
目視可能な範囲まで近付いて、《水球》の中にいるナニカが動かなくなったのを確認してから、《水球》を解除してナニカの正体を確かめる。
草の陰に横たわっていたのは討伐対象である、一角兎の魔獣──ホーンラビだった。
「見事な手並みだな。」
いつの間にか真後ろに立っていたらしいアレクさんが、そう言って褒めてくれたので、ちょっぴり嬉しくなった。
けれどその後、「だが……──」と続けたので、思わず後ろを振り向いてしまう。
「《水球》は下級魔法だろう?……昔見たのは、もっと小さかった気がするんだが……俺の記憶違いか?」
その質問を受けて、私は迷わず返答を返す。
「……《水球》に限らず、……言葉に込めた魔力の量によって、魔法の大きさは、変化しますよ?」
「……な、なるほど?」
アレクさんからは疑問形のように返ってきたけど、魔導士じゃないアレクさんには、魔法系の知識があんまりないから、そういうのも分からないんだろうな、と思う。
一人前の魔導士は、意識せずとも、状況によって込める魔力量を自在に変化させる……と、私は教わったのだ。
私はまだまだ一人前には程遠いので、意識しないでやるなんてのは絶対無理だけど。いきなりやれと言われて出来るものでもないので、普段から魔法に込める魔力量を意識して使っている。
その内、一人前の魔導士になる為にしている、自分なりの努力である。……冒険者としては、そこそこのランクがあれば充分なんだけど、一人前の魔導士になるのは私の目標なので、それとはまた別の話なのだ。
取り敢えず、アレクさんからはそれ以上の質問はされなかったので、私はホーンラビの処理に取り掛かる。
腰のベルトポーチからナイフを取り出し、《洗浄》をしてから、ホーンラビを解体していくのだ。
……まぁ解体と言っても、討伐証明の角を切り取って、体内から魔石を取り出して、後は適当に食べれそうな部分を、食用肉として確保するくらいだ。
本当は一匹分を丸々持ち帰って、毛皮も売ればお金の足しにはなるんだけど……綺麗に皮を剥ぐのは中々面倒だし、冒険者ギルドに解体をお願いするにしても、解体費用が必要なことを考えると、あまり得にはならない。
何より、解体せずに一匹丸ごとは、物理的にベルトポーチに入らないので、この辺は自分でも割と雑なことをしてるなぁという自覚がある。
一応、依頼達成報酬と魔石を売るだけでも、数さえ狩れば日銭としては充分なので。それ以上の手間はかけたくない、というのが本音かもしれない。
そんな感じで、結構雑な解体作業をして、角と魔石と足肉二本を確保したのだけど……顔を上げると、何とも言えない微妙な表情で、アレクさんが私を見ていた。
「……?」
コテンと首を傾げると、
「あ、いや、何でもないよ……。」
と、何かを言いたげなのを堪えた様子だった。
多分、私の解体が雑なのが気になったのだろうと思う。自分でも自覚があるくらいなのだから、他人から見ると、余計にそうなのかもしれない。
さて、必要な部分は取り終わったので、ナイフを《洗浄》してベルトポーチにしまった後、残りの不要な部分はその場に放置して、私は次のホーンラビを探すことにした。
その後、三匹のホーンラビと遭遇し、ついでに発見したスモールニードルボアも一匹、全て《水球》による窒息で仕留めて解体までを終えた頃……空腹感が襲ってきたことで、今がお昼時だということに気付く。
見上げれば、木々の隙間から覗く太陽は、高い位置へと移動していた。
「……そろそろ、お昼ご飯に、しましょう。」
「ああ。了解だ。」
先ずは焚火の準備を……と、地面に軽く穴を掘って、周囲に落ちていた木の枝や葉っぱを、その中に積み上げる。
その作業が終わってから、ふと思い付いて、アレクさんに声を掛ける。
「……あの。……アレクさん。……片手鍋、持ってたり……しませんか?」
「ん、ああ、持ってるよ。」
アレクさんは肩にかけた袋を開けると、その中から片手鍋を取り出して、手渡してくれた。
空間拡張された大きな袋を持っていて、街から街へ移動しているようなので、持ってるかもしれないと思って言ってみたんだけど……本当に持ってるとは。
「……ありがとうございます。」
お礼を言って、ありがたく使わせて貰うことにした。
それから、発火石を二つベルトポーチから取り出す。
発火石は板状の石で、発火石同士を擦り合わせると火花が発生するという石だ。
火を点ける際に重宝するので、料理の際には必須であると言える。……火の加護を持っていて、魔法で火を点けれる人なら別だけど。
あとは一応、世の中には火を起こす魔導具なんてのも存在するらしい。ただし貧乏人には縁がない物なので、私にとっては発火石こそが必須アイテムなのだ。
私は一旦、片手鍋を草の地面に置いてから、発火石を両手に持ち、木の枝と葉っぱが積んである穴の上で、勢いよく発火石を擦り、火花を起こした。
火花は葉っぱを燃やし、火が周囲の葉や木の枝へと燃え移っていく。
それを見届けた後で、片手鍋を拾い上げる。片手鍋をその火の上で熱しようという算段だ。
しかし先ずは使う前に綺麗にしておこう。という訳で……。
「……《洗浄》。」
片手鍋を《洗浄》してから、素早く片手鍋を火にかけて熱した。
そうして左手で片手鍋を火にかけながら、右手は次の準備の為にベルトポーチへ。
……と、ベルトポーチから食用油の入った陶器の小瓶を取り出した時、私は自分の失敗を悟った。
──……あ……片手じゃ、瓶の蓋が開けれない……!
まぁこれは、『片手鍋を一旦どこかに置いて両手を開ければ良い』とか、『アレクさんに頼んで開けて貰えば良い』とか、そういう次元の話だった……と、後で気付いたのだけれど。この時の私はもっと強引な、別の選択肢を取った。それ則ち、魔法である。
「……《変幻する水》……!」
私は右手で陶器の小瓶を持ったまま、蓋の部分──木を加工して作られた円柱状の栓を、《変幻する水》を操作することによって引っ張り上げる。
そして蓋を無事に開ける終わると、私は小瓶の中身を片手鍋へと少量注いでから、待機させていた《変幻する水》を操って、小瓶に木の栓をし直してからベルトポーチに戻した。
「……ふぅ……。」
軽く息を吐きながら思う。《変幻する水》を使う機会って、意外と頻繁にあるのかもしれないな、と。
そんな、ちょっとどこかズレた感想を頭に浮かべながら、私は片手鍋に注いだ油が温まるのを待ってから、またベルトポーチに手を入れて、今日狩った分のホーンラビの足肉(骨付き)を取り出す。
足肉を取り出す傍から片手鍋に並べていって、四匹分の足肉・計八本を並べ終わると、片手鍋の底面は肉でぎゅうぎゅう詰めの状態になった。
手早くベルトポーチから、塩の入った小瓶──これも蓋付きだったので《変幻する水》を使って蓋を開けた──を取り出して、片手鍋全体に満遍なく、パラパラと塩を振りかけていく。
片手鍋を何度か揺すって、塩を全体に慣らしてから、そのまま暫し肉が焼けるのを待った。
程なくして、熱されたホーンラビの肉が油によって焼ける匂いが漂ってきて、私のお腹がぐぅ、と鳴った。
しかし、パチパチと爆ぜるように焼かれていく肉の音によって、お腹の音をアレクさんに聞かれることもなかったはずなので、恥ずかしくはない。
肉の表面が白っぽくなってきたあたりで、私は右手を再びベルトポーチに向かわせた。
三又の銀のフォークを取り出し、片手鍋を少し火から遠ざけた状態にして、中の肉を全てひっくり返した後、フォークをベルトポーチに戻す。
フォークをしまう前にはきちんと《洗浄》を掛けたし、そのついでとばかりに、肉を触った右手も、こっそり《洗浄》の対象範囲に含めた。
さて、ひっくり返した肉は、良い感じの焼き色が付いていた。
私はそこで、ベルトポーチから乾燥ハーブの入った小瓶(やはり蓋付きである……)を取り出し、すっかり慣れた動作で《変幻する水》を操作した後、中身の乾燥ハーブを、焼けた肉の表面に均等に振りかけていく。
肉と油と塩に、更に熱されたハーブの匂いも混じって、益々お腹が減ってくる。しかし完成まで我慢である。
それから空腹に耐えながら片手鍋を時々揺すって、待つこと暫し……およそ二分の後に、肉が焼き終わる。
といっても、まだ完成ではない。
片手鍋を火から下ろしてから、私はベルトポーチに手を入れて、チーズの塊とナイフを取り出し、薄く切ったチーズを肉の上に一枚ずつ載せていく。
その作業を終えれば後は、もうやることがない。チーズが溶けるのは余熱に任せるのだ。ナイフは《洗浄》してからしまっておいた。
今まで肉を焼くことに集中していた私は、このタイミングで顔を上げてアレクさんの姿を探す。
アレクさんは私から少し離れた場所に立って、周囲の気配を探っているようだった。
私はまたしても、ここで自分の失敗を悟る。
周囲への警戒を疎かにした……と言うよりも、全く気にせず、料理を作ることにのみ集中してしまっていたのだ。
「……あ、あの……ごめんなさい……ありがとうございました……。」
小走りにアレクさんに駆け寄ってから、私は謝罪と感謝を告げる。
「ん?……ああ、気にしないで良い。昼食が出来たのなら、頂かせて貰うよ。」
気軽な感じて言って、片手鍋の置いてある方へと歩いて行くアレクさんを、私は慌てて追いかけることになった。
そうして私達が戻った頃には、肉の上に載せたチーズも、余熱で良い感じに溶けていた。
「ほう……美味そうだな。」
片手鍋の近くに片膝立ちで座って、首を伸ばして中を覗き込んだアレクさんは、そう呟く。
見た目は殊更、褒める程でもないのだろうけど……焼けた肉と塩、ハーブ、チーズ、それらが混合された匂いによって、空腹感を刺激されたのだと思われる。
私も近くに腰を落ち着けてから、すっかり聞き忘れていたことをアレクさんに確認する。
「……あの……お皿……ありますか?」
訊けばアレクさんは頷いて、すぐに木皿を袋から取り出してくれた。
私は木皿を受け取って《洗浄》してから、三又のフォークを使ってホーンラビの肉を一個ずつ順番に掬い上げて、八個全部を皿に並べてから、片手鍋に残った油を肉の上から回し掛ける。
油にも塩とハーブが溶け込んでいるので、それで良い感じにチーズにも塩とハーブの風味が加算されたことだろう。
そうして、完成した料理を載せた皿を、私とアレクさんが座る間の地面に置いて、「……ど、どうぞ……。」とアレクさんに勧める。
「では頂くとするよ。」
「……あ、待っ……せ、《洗浄》……!」
骨付き肉だったからなのだろう、手掴みで肉を取ろうとするアレクさんに静止の声を上げようとして、けれど、すぐに間に合わないと判断し直して、強引にでもアレクさんの手に《洗浄》を使う。
いきなり水の膜が発生したことで驚かせてしまったのだろうけど……まぁそれは仕方のないことだと思っておく。
「一体何事かと思ったが……いや、フィリアはちょっと、気にし過ぎじゃないか?」
水が消えるのを待ってから、アレクさんは苦笑気味に言って、骨に近い部分を摘まみ上げた。
「……手で食べるなら、綺麗にしないと……ダメです……!」
私は先程出したフォークで皿上の肉を刺しながら、力強く言い切った。
「はは、それはその通りだ。いや、失礼した。……それじゃ改めて、フィリアの作った料理を食べさせて貰おう。」
アレクさんは軽く笑いながらそう言って、私の焼いたホーンラビの肉を口へ運んだ。
自分が作った料理にどのような感想を持たれるのか……気にならない訳ではなかったけど。それよりも空腹が限界だったので、私もフォークに刺した肉を口の前に持っていって、大きく口を開けてかぶり付いた。
口に入れた瞬間、熱されたチーズの強い香りが口の中に広がる。その後で、ハーブの爽やかな香りが、鼻の奥へと抜けていく。
そのまま肉を噛めば、ハーブによって良い風味に転化されたのであろう肉の風味までもが、後を追いかけてくる。
味は塩とハーブと、チーズが元々持っていた塩気だけ。けれど、物足りなさは感じない。
良い具合に熱を通された肉は、噛めば弾力を返してきて、中から熱い肉汁が滴ってくる。
ハーブに塩にチーズに兎肉という組み合わせは、焼いた肉にとっての、一つの到達点なのだろう……と、そんな気さえする。
端的に言えば、「すごく美味しい」のだ。
自分で作ったものなので、改善の余地なんていくらでもあるのだと思う。
けれど、適切に火を通されて、適切な味付けが施された、しかも焼き立ての肉というのは、それだけでご馳走である。
あるいは塩を振って焼いただけの肉に対しても、同じ感想を持ったかもしれない。
であるなら、塩に加えてハーブとチーズも使っているのだから、文句など出ようはずもなかったのだ。
私は夢中で肉を噛みしめる。
噛めば、肉とチーズは口の中で渾然一体となる。それを支えるのは、やはり塩味とハーブである。
それらの調味料が染み出た、後から回し掛けた油も、しっかりと味を際立たせる一助になっていることだろう。食べ進めれば食べ進める程、止まらなくなっていく。
そうして、一つ目のお肉は、すぐに胃袋へ消えてしまった。残ったのは骨だけである。
しかし、一つ目を食べ終えたことで、内心の不満が露わになった。
味や焼き加減に不満があるのではない。フォークを使って食べることに、不満を覚えたのだ。
──……やっぱり、手で持って食べた方が、食べ易い……。
人前だったので、お行儀よくフォークを使って食べてはみたけれど……食べている内に何度か骨の部分を、空いてる左手で掴みそうになっていた。
手を使わないようにして食べる……それは骨付き肉を食べる上で、中々のストレスだった。
──……ううん、もういいや。……好きに食べることにしよう。
私はフォークを木皿の淵に立て掛けるようにして置いて、自分の両手を《洗浄》してから、二個目の肉を、骨の辺りを右手の指で摘まんで持ち上げた。
それから一切の躊躇を覚えることなく、お肉にかぶり付く。左手を皿代わりにして。
──……こうして食べる方が、美味しく感じる。
実際には、これで味が変わる訳ではないし、気分の問題だったりはするのだろう。
けれど、余計なストレスを抱えずに物を食べられるのだから、この方が良いに決まっているのだ。
私は落とさないように指に力を入れて肉を支えたまま、肉を食べ進めた。
二個目を食べ終わって、三個目を取ろうとした時、私は一旦伸ばそうとした手を引っ込める。
木皿に置かれた肉は、いつの間にか残り一個になっていた。
全部で八個あった訳だから、アレクさんが今食べているのが五個目……という計算になる。
──……私が三個食べたら、アレクさんが五個だけど……それでアレクさん、量は足りるかな……?
お腹はそこそこ満ちてきている。三個目を食べれば、それこそ、お腹いっぱいになってしまいそうな気もする。
なので私は、アレクさんに判断を委ねてみよう、と思って口を開いた。
「……アレクさんは……まだ、食べられますか?」
肉を咀嚼していたアレクさんは、口の中の肉を飲み込んでから、私の問いかけに答えた。
「食べられはするけど……フィリアが遠慮することはない。足りなければ、俺は何か適当に食べるから。」
「……はい。」
遠慮……と言われれば、そうかもしれなかった。
食べたいのなら、食べれば良い。量が足りなければ、別の物を食べれば良い。それは極々自然なことだった。
だから私は、木皿に残った最後のお肉を、躊躇うことなく、手に取る選択をした。




