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半魔の少女は英雄譚を望まない  作者: 水無月七海
第一章 始まりの出会い
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第29話 A:グランジーへの報告

 フィリアが目を覚ました翌朝。俺は起床して身支度を整えると、頃合いを見て彼女の部屋へ……向かおうと思っていたのだが、よく考えたら部屋番号を知らなかったので、自分の部屋で待つことにした。

 昨夜は逃げるように部屋を出て行ってしまったフィリアが、自ら訪ねて来てくれるかは少しばかり心配していたが、やがてノックの音がして、フィリアが姿を見せた。


「……お、おはようございます……。」


 挨拶はしてくれたものの、少し居心地悪そうにしていた。


 まぁ俺も昨夜は『とんでもない勘違い』をしてしまったので、他人のことを、とやかく言える立場ではない。

 思い返すと、今なお羞恥に駆られる程だ。

 如何にフィリアの言い方が紛らわしかったとはいえ、だ。フィリアが下世話な話とは無縁であるというのは、少し考えれば分かったはずなのだから。

 ……と、あまり蒸し返してしまうと、自ら墓穴を掘ることになり兼ねないなので、この件にはもう触れないでおくとしよう……。

 という訳で、特に無駄口は叩かず、俺の方からも「おはよう。」と無難に挨拶を返して、フィリアを一旦、部屋の中へ招き入れる。


 現在は朝とは言っても、早朝という訳でもない時間帯だ。

 陽の高さ的に、ぼちぼち飲食店や屋台が準備を始める頃合いだと思われるが、気の早い店や冒険者向けの店であれば、既に開店準備を済ませている頃だろう。

 そう思って、俺は世間話的に質問を振ってみる。


「フィリアは、朝食は済ませたか?」


「……いえ、まだです。」


 フィリアは答えた後、ハッとした様子で、お腹の辺りに手を遣った。

 その行動の理由に、数秒遅れで思い当たる。


──今日は別に、お腹の音が聞こえた訳じゃないんだがな。


 と、思わず笑いそうになるのを堪えながら、フィリアの行動には触れずに、一緒に食事を摂る提案をすることにした。


「俺もまだ朝食を済ませていないから、ギルドに向かいがてら、どこかで食事にしようか。」


 フィリアは、少し気恥ずかしそうに身を揺すった後で、コクリと頷いた。






 冒険者ギルドへの道行きにある商店通りで、既に営業していた適当な食事処に入って食事を済ませた後、俺達はそのまま冒険者ギルドへと向かった。

 食事内容は、パンとスープとサラダに鳥肉のステーキを注文したが、中々悪くなかった。

 パンは手に取り易いサイズの、楕円形のロールパンを十個ほど。スープはトメットをベースにした酸味の効いた野菜スープ。サラダは千切った生の葉菜を何種類か混ぜて、塩と合わせたオイルに絡めたシンプルな物。鳥肉のステーキは辛めのソースがかかっていて食べ応えがあるものだった。

 ロールパンにステーキナイフで切れ目を入れて、そこにサラダ及び食べ易いサイズに切った鳥ステーキを挟んで、即席のロールサンドにして食べるのが、中々に面白味もあった。

 ちなみに、この食べ方は、フィリアがやっていたものを真似たのだ。

 そうして合間にトメットのスープを飲んで、ロールサンドを食べていたら、確かな満足感と共に、食事を終えることが出来た。……否、俺にとっては、少々量が物足りなかったと言えるかもしれない。

 しかしまぁ追加を頼まないといけない程、腹が満ちていない訳でもなかったので、食事を終えれば、水を一杯貰ってから、店を出ることになった。


 食事処を出てから冒険者ギルドに着くまでの間、適当な雑談でもして、間を保たせようかとも思ったが……結局ほとんど無言で歩みを進めることになった。

 今は話をしても、自然と『災厄の魔獣』関連の話題になってしまいそうな気もしたので、避けたというのもある。また、全く関係ない話題を選ぼうにも、この年頃の少女にどういう話題を提供するのが相応しいのか分からなかった、という事情もある。

 ……と、そんな感じで、話しかけようか、どうしようか、と何度か思いながら、フィリアの歩く姿を視界に収めていると、ふと、気付くことがあった。


 陽の下で改めてフィリアを見ると、なるほど、きめの細かい白っぽい肌も、陽の光を反射するように輝く銀色の髪も、共に質感が良く、着ているローブや帽子にしても薄汚れている印象は一切ない。

 一昨日、フィリアに初めて出会った時は、山の中で『災厄の魔獣』に襲われた直後であり、魔力欠乏によって意識を失って地面に倒れた姿だったので、土汚れが付いていたりと、冒険者相応の汚れ具合に見えていたのもある。

 以降その日の内には魔法──確か《洗浄》と言っていたか──を使う機会もなかったようだし、再び『災厄の魔獣』討伐に向かう夜までに着替えたりもしていなかったので、フィリアがこれほど身綺麗にしているとは、思っていなかった。


 『災厄の魔獣』に襲われる以前には、常にフード(……今は破れて消失してしまっているが)を被っていただろうと考えれば、たとえ身綺麗にしていても、肌や髪の露出が少なく、それほど違和感もなかったかもしれない。

 だが今のフィリアの恰好──破れたフード代わりに帽子を被っている姿では、肌質や髪質が綺麗なのがよく分かり、『冒険者にしては清潔に過ぎる』という感想を抱く結果になった。

 ローブ姿でなければ冒険者だとは思わないだろうし、傍から見れば、ローブ姿であろうとも、今のフィリアは冒険者のようには見えないかもしれない。


 しかしまぁ、昨夜フィリアの魔法によって強制的に身綺麗にされた俺も、周りから見れば似たような感想を持たれるのかもしれないな、と苦笑する結果となる。


 さて、そんな風にフィリアを観察しながら道中を過ごし……冒険者ギルドに到着した俺達は早速、ギルドマスターたるグランジーへの面会を申し込む。

 もっとも、いつぞやと同様に、面会申請はフィリアにお願いをして、俺自身は適当な場所で待機していただけだったが。

 ちなみに昨日フィリアが意識を失っている間に、一人で冒険者ギルドにやって来て、ギルドマスター宛のメモ──『災厄の魔獣』の討伐完了したと伝えるだけの物──をギルドの職員に渡した……ということもあったのだが、それはそれとして。


 そしてどうやらグランジーは、俺が報告に来るのを今か今かと心待ちにしていたらしく、特に待たされることなく、フィリアと一緒に前回案内された会議室へと、再び通されることになった。


「それでは、座ってお待ち下さい。」


 案内を受け持ってくれたギルドの職員はそう言うと会議室を出て行き、俺達は前回同様、横並びで椅子に座る。

 それから二分と経たない内に、グランジーが姿を見せた。


「おお、待っておったぞアレク!」


 と、やけにテンション高く扉を開けて入って来たグランジーはそのまま、長方形の机を挟んで反対側──俺達の座る正面の椅子へと腰を下ろす。

 フィリアはそんなグランジーのテンションに驚いたのか、ビクッと身体を震わせたようだった。前回、「怯える必要はない」とは伝えたが、まだ慣れないようだ。


 そうして無駄にフィリアの心の平穏を脅かした後、我関せずの顔で席に着いたグランジーは、俺を見て訝しそうに言う。


「ん?お前さん、いやに身綺麗にしておるな。」


「ああ、これは──」


 俺が答えを返そうとすると、グランジーが勢いよくそれを遮った。


「いや、そんなことより今は『災厄の魔獣』じゃ!当然、回収してきておるんじゃろうな!?」


 その言い様に、俺は内心でため息を吐く。……否、実際にも、口からため息が漏れていた。


──こいつの変人ぶりは、相変わらずだな……。まぁ、とはいえ……ある意味、予想通りの反応ではあるのだが。


 一々グランジーの言動を気にしていたら、こっちが疲れるだけだ。

 気を取り直して、俺は話を進めることにした。


「先ずは報告からだ。……『災厄の魔獣』の討伐を完了したというのは、事前に伝えた通りだが、その討伐時の詳細を伝える。」


 俺がそう言えばグランジーは、「うむうむ。」と首を縦に振りながら話を聞く体勢を取る。


「『災厄の魔獣』は、フィリアが魔法で降らせた雨に釣られて現れたが……──」


 と、話を始めた俺だったが……。


──……あぁ、そうだ。思い出した。……こいつに文句を言ってやろうと思っていたんだった。


 思い出してしまった以上は、文句の一つも言わざるを得ない。


「そのフィリアが降らせた雨に、『災厄の魔獣』だけじゃなく、他の魔獣も大量に釣られて来たんだが……グランジー、アンタはそのことを事前に分かってて教えなかったのか?」


 自然と問い詰めるような、きつい言い方になったが……しかしまぁ、幸か不幸か、グランジーが動じることはなかった。


「ふむ?確かにワシは『血を触媒にした魔法を使え』とは言ったが、『血を触媒にして、魔力を含む雨を降らせ』とは言っておらんぞ。」


 ちょっと何を言ってるのか分からず、「違いが分からん。」と、すぐさま口に出す。するとグランジーは、


「要は、血を触媒にして、魔法という現象を起こしさえすれば、それだけで良かったんじゃ。……恐らくお前さんが降らせた雨とやらは、魔力で水を操作する魔法の応用だったんじゃろう?その水には現象としての水に加えて、後から水を動かす為に、魔力が通ったままになっておったはずじゃな?」


 前半は俺に向けて、後半はフィリアに向け言ったが、俺にはやはり理解が追い付かなかった。

 なのでフィリアに目を向けてみると……フィリアの方はグランジーの言い分を理解することが出来たようで、控えめに「……は、はい……。」と頷いていた。


「うむ。そうであるなら、それはお前さんの魔力を周囲に撒き散らしたのと同じことじゃ。そんなことをすれば、当然、他の魔獣も集まって来るじゃろうて。」


 グランジーはフィリアとの短いやり取りを終えると、満足そうに頷いていた。


──……難しいことは分からんが……あの場で俺がフィリアに『雨を降らせることは出来るか?』というようなことを言ってしまったせいで、他の魔獣まで集まって来てしまった……ということらしい。


「……ご、ごめんなさい……。」


 フィリアが俺を見上げて、震える声で謝ったが、しかし……この件は、どちらかというと俺に責任がある。

 なので、俺もフィリアにきちんと頭を下げて謝罪をする。


「いや。俺の方こそ、軽率なことを言ってしまったらしい。……申し訳なかった。」


 フィリアは、「……い、いえ。……私の方が……。」などと口ごもってしまい、そのまま俯いてしまった。

 グランジーに文句を言うはずだったのに、こんな結果になるなら、言わなければ良かったな……と反省していると、能天気な口ぶりが聞こえてきて、少しイラっとしてしまった。


「まあ実験に失敗は付き物じゃからのう、そのように落ち込むこともあるまいて。」


 誰が魔獣相手に実験などするか!……と怒鳴りそうになったが、グランジー相手にはエネルギーの無駄になるだけなので、グッと拳を握って堪えた。

 それから自分を落ち着かせる為に深呼吸をすると、少し気持ちが落ち着いた。


「で、相対した『災厄の魔獣』は、どのような能力を持っておった?」


 俺が呼吸を整えるのを待って、グランジーは話の先を促す。

 この辺りの気遣いというか……発言自体は変人のそれだが、別に場の空気を読めない訳ではない、という部分が、俺がグランジーとの付き合いを続けられる理由の一つであろう。

 グランジーは変人ではあるが、悪い人間だと思ったことは一度もない。


 そうして、その変人に促されるまま、俺は冷静に答えを返す。


「ああ。瞬間移動とかワープとか言われるような魔法を使っていた。」


 それを聞くと、グランジーは意外そうな顔をしながら口を開いた。


「ん?お前さんがそれに気付いたのか?」


「倒したのだから、気付いたに決まっているだろうが。」


 ……まぁ最初に気付いたのはフィリアなのだが。フィリアに関することは『雨を降らせたこと以外の情報は話さない』と決めたので、グランジーに伝えることはしない。

 そのワープに関しては、フィリアに指摘された後で、俺も『災厄の魔獣』の動きを見て実際に確証を得たのだから、嘘を言っている訳でもないのだ。


 少々訝しむような視線を向けてくるグランジーだったが、俺が沈黙を保っていると、「まあ良かろう。」と呟いた後、続いて『災厄の魔獣』の使った魔法についての予想を述べ始めた。


「瞬時に場所を移動する……それで魔法じゃと……ふむ、パッと思い付くのは、《転移》あるいは《影渡り》かのう。」


「《転移》は分かるが、あれは《転移》ではない。……《影渡り》というのは聞いたことがないな。どういう魔法だ?」


 『災厄の魔獣』は、影のような揺らぎを纏っていた。その姿を見ていないはずのグランジーの口から、『影』というワードが出たことには、少し驚く。

 ある種、確信めいたものを感じつつ、俺はその《影渡り》とやらの魔法の詳細を聞くことになった。


「陽の光によって、物にも人にも影が出来る。そういった影へと瞬時に移動出来るのが《影渡り》じゃ。ただし移動可能な距離は、視認可能な範囲でしかない為、長距離の移動は不可能じゃ。それに加えて、移動する際には数秒間、無防備を晒すことになるので、戦闘には不向きな魔法じゃよ。」


「奴は全身に影を纏っていたし、その移動魔法を、距離を離す時にだけ使っていた。……その《影渡り》であったとしても、不思議はないな。」


 《影渡り》とやらの魔法の知識があれば、視界を遮るなどして対処が可能だったのかもしれない。

 ……まぁ本当に《影渡り》だったのかすら、今となっては確かめようもないことだが。


「なるほどのう。確かにそのような使い方をして、お前さんに奇襲を繰り返せるだけの速度を兼ね備えておれば、あるいは厄介な使い方と言えるじゃろうな。」


 顎に手を添えながらグランジーは、納得したように何度も頷いた。

 一先ず、それで好奇心は満たされたようだ。だが、この爺さんにとっては、むしろここからが本題であろう。

 頷く動作を終えて顔を上げたグランジーの、モノクル越しに俺を見据える瞳が、ギラリと光ったように見えた。


「では今回お前さんが倒した『災厄の魔獣』を出すがいい。」


「ああ。」


 俺はグランジーの要求に従い、空間バッグから『災厄の魔獣』だったモノを取り出そうとするが──


「いや、やはり待て。」


 と、グランジーが静止の声を上げる。そしてすぐに、


「運ぶのも手間じゃし、アレク、研究室に来い。」


 などと言って、こちらの返事も聞かずに席を立って、足早に会議室から出て行った。


 俺は空間バッグに一度入れた手を引き抜いて、軽くため息を吐く。

 それから左隣に視線を向けると、ポカンとした表情をしているフィリアが目に映った。


「フィリアは待っていても良いが、どうする?」


「……あ……い、いえ、……行きます……。」


 声を掛けると、フィリアはゆっくりと俺の方に顔を向けてから、俯きがちにそう答えた。

 それから二人でグランジーを追いかけて、研究室へと足を向けることになった。

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