第21話 魔獣達との戦い
魔法で作り出した雨が、しとしとと降り注ぐ中……魔力に惹かれてやって来た魔獣達との戦闘になった。
魔獣達は最初、こちらを遠目に窺うだけだったけど、一匹が向かって来たと思ったら、それに続くように、木陰や茂みから続々と飛び出して来た。
アレクさんは私の五メートルくらい前方に陣取り、現れた魔獣を次々切り伏せていく。
黒い刀身を持つ剣が振るわれる度、魔獣の屍が増えていった。
時々すり抜けて来る魔獣──アレクさんが選別して、こっちに流してるのかもしれない──は、私が《水刃》の魔法を使うことで対処した。
夜間なので確かなことは言えないけど、9級冒険者の私が踏み込める低層に出現する魔獣ばかりのはずなので、アレクさんが苦戦することはないだろうと思われる。
──……それにしても、アレクさん、本当に強いなぁ……。
大きな剣を軽々と操っていて、剣を振るう動作は、素人目にも洗練されているのが見て取れる。
更に、一つの動作が終わったら、流れるように次の動作へと移行しているのだ。
そして、剣閃は途切れることがない。
魔獣とは本来、人や魔族にとって脅威である。
それを剣の一振りで次から次へと倒していく姿は、憧れを抱かずにはいられない。
……とはいえ、この状況で見入っている訳にもいかず……。
「……《水刃》……!」
アレクさんの横を抜けて来たホーンラビに対して、高圧縮した水を飛ばし、身体を断ち割る。
普段であれば、魔石や肉を綺麗な状態で手に入れる為に、こんな風に魔獣を真っ二つになんてしない。
しかし今は、魔石など気にしていられる余裕もないし、出し惜しみをしていられる状況でもない。
その為に私は、費用対効果の高い《水刃》の魔法を選んだ。
途中で魔力切れしてしまうと迷惑をかけてしまうので、今は低燃費で魔獣を殺すことだけを考える。
──……今ので六体。……残りの魔力量に、まだ余裕はあるけど……。
魔獣の攻勢がいつまで続くかも分からない以上、魔力が有り過ぎて困ることはない。
しかし、マジックポーションを飲める程の時間的余裕はなさそうなので、魔力残量だけは常に意識しておこうと思う。
「フィリア、後ろにも魔獣が何体か居る。仕留めるか、足止めを頼めるかい?」
「……倒します……!」
私はアレクさんの指示に従って、素早く後ろを振り返る。
丁度そのタイミングで、数体の魔獣が暗闇から姿を見せた。
一体ずつ《水刃》で倒していたら、撃ち漏らした時に対応が間に合わなくなるかもしれない。
そう瞬時に判断を下して、私は使用する魔法を変更する。
幸いにして、条件は整っていた。
「……《凍結》……!」
手をかざして、魔法を発動させる。
放出した魔力が、雨に打たれて濡れた魔獣の外皮を凍らせる。
体の芯まで凍り付かせる……なんてことは到底無理な話だけど、体表の熱を奪われた魔獣の動きは、見る見るうちに鈍くなる。
《凍結》させるだけで倒せないのは百も承知だ。
これは魔獣を倒す為ではなく、一気に倒す為の下準備、なのだから。
動きが鈍れば、この後に使う魔法を回避される確率が下がる。
同時に、魔獣が私の下に辿り着くまでの、時間的余裕を作り出すことが出来る。
そうして下準備を済ませてから、私は今度こそ、魔獣を殺す為の魔法を口に出す。
「……血の祝福により、大なる鋭刃と成れ、《水刃》……!」
唱えた後、振り払うようにして左手を横に振る。
少量の血と魔力が混ざり合い、《水刃》は長大鋭利な水の刃へと変化して、動きの鈍った魔獣達へと一直線に飛んで行く。
ホーンラビ、ポイズントード、ソードテイルウルフ、他にも魔獣が何体かいたけれど、それらは全て水の刃の一撃によって命を刈り取られる。
魔獣達が物言わぬ屍になったのを確認した後、私は急いでアレクさんの方を振り返る。……と同時に声を上げる。
「……アレクさん、倒しました……!」
「ああ。良い腕だ。」
後ろを見る暇などはなかったはずなのに、しっかりと戦況を把握している様子のアレクさんの返答が頼もしかった。
それに、たとえお世辞でも、実力を認められたような気がして、つい口元が緩みそうになってしまう。
──……いけない。……戦闘中なんだから、気を引き締めなきゃ……!
自分に言い聞かせてから、間断なく襲って来る魔獣の動きに注視しつつ、思考を巡らせる。
『災厄の魔獣』との戦いでは、きっと私は役に立たない。
それなら、今襲って来てる魔獣の相手を、私がもう少し受け持った方が、アレクさんの負担は減るんじゃないだろうか、と。
けど、それは無理な話なんだろうな、というのも、本当は分かっていた。
私の肩書きは『9級冒険者』なのだから。
9級の実力で無理なく倒せる魔獣の相手しか許されない。
アレクさんにしてみれば、私の実力を実際のランク以上に見積もってしまうと、魔獣を倒し切れないリスクが発生する可能性を考えなければいけなくなる。
だからアレクさんがスルーして、私に向かって来る魔獣は、9級か10級の魔獣ばかりだった。
それ以外の魔獣に手を出せず、もどかしい気持ちは当然ある。
でも今は、9級に見合う魔獣を倒すことだけが、最もリスクが少ない、最善の選択と言える。
それなら私は、私に許された最善を、果たしてみせる。
「……《水刃》……!!」
再びアレクさんの横を抜けて来た、蛇の魔獣に水の刃を飛ばす。しかし……──
──……避けられ……っ?
気負い過ぎてタイミングを外した……のかと思ったけど、それにしては違和感があった。
蛇の魔獣は咄嗟に身を伏せて私の《水刃》を避けた後、私の方に向かって来るでもなく、あらぬ方向へと去って行った。
それは一見すると、魔法を受けそうになって、命の危険を察して逃げ出したようであり……──
──………………逃げ出し、た……?
慌てて周囲を見回せば、アレクさんに向かっていた魔獣達も、急に方向転換して、各々別々の方向に走り出しているところだった。
魔獣達が逃げて行く方向は、バラバラのように見えたけど……よくよく観察すると、一方向にだけは絶対に向かわない。
その一方向というのは、山の傾斜を昇る方向。……つまり、山の高い位置から、ナニカが下りて来たことを示す。
アレクさんがスッと私を庇うように、目の前に立った。
その瞳は山の上方を油断なく見据えていて…………そんなアレクさんの様子を見れば、嫌でも理解させられてしまう。
──……『災厄の魔獣』……本当に、来たんだ……。
山頂へ続くであろう木々の間で、闇が揺らめいた気がした。




