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半魔の少女は英雄譚を望まない  作者: 水無月七海
第一章 始まりの出会い
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第18話 その夜

 商店通りの屋台をはしごして、夕食を終えれば、私の滞在している安宿でアレクさんの部屋を借りてから、私達は街の正門へと向かった。

 着いた時には、すっかり陽が落ちていて、やっぱりというか、門は閉ざされてしまっている。


──……外に出られないんじゃ、今日はもう『災厄の魔獣』の討伐に行けなくても、しょうがないよね……!


 ……などと考えたのは、実に安易だった訳だけど。

 何故なら、アレクさんもそのくらいのことは予め分かってたはずで。それなのに、商店通りで屋台を巡ってた時も、時間を気にする様子もなかったのだから。

 “抜け道”がないと考える方が、この場合、どうかしていた。

 まぁその……現実逃避というか、諦めが悪いだけだったのかもしれないけど……。


 正門に辿り着けば、門衛の人というのは、夜でも門の見張りをしているらしかった。

 アレクさんはその内の一人に近付いて行って、私はアレクさんの後ろを、足取り軽く追いかけた。

 門が閉まってて良かった……なんて思ってるとは、おくびにも出さないように気を付けながら、ではあったけど。


 そんな感じで、私達が近付いて行けば……途中で気付いた門衛さんが、


「夜間の通行は禁止だぞ。」


 と、こちらに注意を発した時には、思わず拳をグッと握ってしまった訳だけど……その直後に、急転直下……と、なった訳だ。


「冒険者ギルドのギルドマスターから書状を預かっている。中を確認してくれ。」


 アレクさんは肩からかけた大きな袋から、丸まった紙を取り出すと、守衛の人に手渡す。

 はて、そんな物をアレクさんが受け取っていた記憶はないけど……そういえば、私が『災厄の魔獣』討伐に同行することになった事すら、自分の記憶に残されてないのだから、私の記憶がない間に受け渡しをしたのだろう、と納得しておくしかない。


 門衛の人は丸まった紙を受け取って、それに目を通すと、「……少し待て。」と言って、正門の脇にある扉を開けて中に入って行った。


 それから待つこと、三分弱。

 先程、門衛の人が入って行ったのと同じ扉から、同じ門衛の人(……だとは思うけど、兜で顔が見えないので確信は持てない)が姿を見せて、こちらに向かって声を上げた。


「夜間に門を開けることは出来ないので、お前達には、この先にある非常用の出入口を使って外へ出て貰う。」


「了解した。」


 それだけ答えて、アレクさんは後ろに付いて来ていた私を振り返り、右の手を差し出す。

 この手を取ったら、もう逃げることは出来ない。


 ……いや、そもそも、私には初めから逃げる選択肢なんて、用意されていなかった。


 あの『災厄の魔獣』とかいう黒い魔獣は、私のことを狙っているらしいのだから。倒さない限り、私が冒険者を続けることは不可能なのだ。

 そして冒険者を続けられなければ、『半魔』の私には、他に生きる術はない。


 けど……怖いものは怖い。

 また死にかけるかもしれないし、今度こそは本当に死ぬかもしれない。

 そう思うと、中々アレクさんの手を取る勇気が出ない。 


──……私は、冒険者には向いてないんだろうな……。


 自分に自信を持てない。これは冒険者としては致命的な欠点だ。


 自信を持てないのは、元々の性格なのかもしれない。『半魔』という、他人に知られてはいけない秘密を抱えてるせいも、あるのかもしれない。

 ……まぁ秘密の方は、アレクさんにはバレてしまったんだけど……それはこの際、置いておくとして。


 自信を持てないし、勇気も持てない。

 ここまで来ても覚悟を決められないのだから、私はつくづく臆病な性格なのだろう、とは自分でも思う。

 臆病であり、それでいて、楽観的でもあるから、困りものなのだ……。


 ()()()私はアレクさんの手を取る。

 アレクさんは強いから、きっと『災厄の魔獣』なんかには負けない……と、そんな他力本願なことを思いながら。


 そう、私が戦いに参加する必要はない。というより、戦いには付いていけないだろう。

 今回私が同行するのは、『災厄の魔獣』を誘き寄せる『餌として』なのだから。ただ守られていれば良い。

 きっとアレクさんなら守ってくれる。


 それは暗示のようなもの──自分に言い聞かせているだけ、かもしれなかったけど。

 私は私を信じることは出来なくても、『災厄の魔獣』から助けてくれたアレクさんの強さは、信じてみることが出来た。


 アレクさんは、私の手を優しい力加減で握りながら、安心させるように一つ頷いた。

 私の中の不安は、少しだけ取り除かれた気がした。






 それから、門衛の人に案内されて、正門の脇にある扉を潜ると、その内部は門衛の人達の詰所みたいだった。

 幾人かの怪訝な顔をする門衛の人達──休憩中だからか、兜を外していたので表情が分かった──とすれ違い、短い廊下を歩かされた後は、緊急用の出入口という所から街の外へ出して貰った。


「戻ったら、そこの壁に埋め込まれた魔石に魔力を通せ。そうすれば、こちら側から扉を開けてやる。」


 門衛の人は私達を見送る際に、そんな言葉をかけた。

 高圧的な物言いではあったけど、門衛という職業柄そういう話し方をしているだけで、実は親切な人なのかもしれない。

 真偽は分からないけど、私は勝手にそう思っておくことにした。


 門衛の人が緊急用の扉を閉めたのを見届けてから、アレクさんは、


「さて……それじゃあ歩きながら詳しい作戦を話すよ。」


 と言って、ゆっくり歩き始めた。


 アレクさんは詰所の中でもずっと手を繋いでくれていたけど、外に出た辺りで、どちらからともなく手を離した。

 夜は魔獣の活動が活発化するので、片手が埋まってるのは不用心だし仕方がないのだけど、手を繋いでいた時には取り除かれていた不安感が、そのまま戻って来た気もする。

 まぁでも、元より逃げ道なんてなかったとはいえ、物理的にも逃げ道は塞がれてしまったのだから……たとえ不安だろうと、頷いて了解の意を示すしかなかった。


 街の外は草原地帯が広がっていて、正門から真っ直ぐ、地面が剥き出しになった道が続いている。

 この道は別の街へ向かう街道なのだけど、あまり利用する冒険者はいない。

 別の街に行く時、あるいは護衛依頼を受ける時以外は、冒険者がその道の上を歩いたりすることはないんじゃないかな、と思う。

 山岳都市ルミオラで活動する冒険者にとって、メインの狩場は、東西北の三方にそびえ立つ山々なのだ。

 だからつまり、『歩く』というのは、街道の道へではなくて、街を囲う高い壁に沿って、ということだった。


 そうして壁沿いに、草を踏んで歩き始めると、アレクさんは私に、『災厄の魔獣』討伐に於ける作戦を話してくれた。

 ……ただ、これは私が記憶を飛ばしていた間に語られた内容の繰り返し、ということらしいので、作戦を考えたのはグランジーさんみたいだ。


「まぁ作戦と言っても、シンプルなものだけどね。」


 そんな前置きをしてから、アレクさんは言葉を続けた。


「フィリアには血を媒体とした魔法を使って貰う。『災厄の魔獣』がフィリアの魔力に釣られて姿を見せたところを、おじさんが倒す。……以上だ。」


「……あの……もし『災厄の魔獣』が、姿を見せなかったら……?」


 思った以上に行き当たりばったりな作戦に思えたので、つい訊いてしまった。


「その時は諦めて帰るしかないね。」


「……はあ。」


 アレクさんがそんなことを言うので、私は気が抜けてしまって、曖昧に頷いた。


 折角覚悟を決めたのに(……いや、実はそうでもなかったかも)、水を差された気分だ。

 これで『災厄の魔獣』が出て来なかったら拍子抜けだなぁと思う──


──……いや、違う。……そうじゃない。


 もし今日の内に『災厄の魔獣』が現れなかったら、日を改めて討伐に向かわないといけない、ということなんだ。

 それが明日か明後日か、はたまたそれ以降になるかは分からないけど……その間、私は『災厄の魔獣』に襲われる可能性があるから、冒険者活動が出来なくなってしまう。

 流石に9級の討伐依頼にまでアレクさんに付いて来て欲しい、なんて言えない。

 つまり、日数が伸びれば伸びる程、ただでさえ少ない貯えが、どんどん消えていく……ということになる。

 2~3日で干上がってしまう訳ではないにせよ、死活問題であることに変わりない。

 そんな状況に、ふと気付いてしまった私は、不安感だの何だのは一切かなぐり捨てて、ただ一つのことを心の中で願う。


──……どうか、今日の内に出て来て下さい……。


 ……何だかおかしい気もするけれど、私としては、そう願う他なかった。

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