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半魔の少女は英雄譚を望まない  作者: 水無月七海
第一章 始まりの出会い
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第12話 ギルドマスター

 受付嬢の人の先導で、冒険者ギルド内部の職員用(?)通路を歩き、案内されたのは、小規模な会議室っぽい部屋だった。

 左右に長い『ロの字型』の机が、部屋の中央に鎮座してるだけの、飾り気のない部屋だ。

 机の長い一辺にだけ、木の丸椅子がそれぞれ五個ずつ置かれている。


「座ってお待ち下さい。」


 とだけ言うと、受付嬢の人は、恐らくギルドマスターさんを呼ぶ為に、部屋を退出していった。


 私とアレクさんは、部屋の奥側に移動して、五個並ぶ椅子の内、二番目と四番目の椅子に腰を下ろした。

 椅子と椅子との間隔が狭かったから一つ分を開けただけで、別に隣同士で座りたくなかったとかそういう訳ではない。……アレクさんがどう思ってたのかは、分からないけど。

 ただ、この時は正直、そこまで頭で考える余裕はなかった。

 微妙に地面に足が届かない椅子に座りながら、「今からどんな話をされるんだろう」とか「私はこの後どうなるんだろう」とか考えて、不安と緊張でいっぱいいっぱいだったのだ。


 私がそんな状態だったから、アレクさんも何て声を掛けたら良いのか分からなかったのかもしれない。ギルドマスターさんが来るまでの間、二人で無言になって椅子に座っていた。


 それから体感で五分が経過しようという頃、部屋の扉が外から開けられた。

 扉を開けて現れたのは、老人と言って差し支えない外見をした人間の男性だった。


──……この人が、ギルドマスターさん……?


 会うのは当然初めてなので、確信は持てなかったけど……よくよく観察してみれば、相応の貫禄があるように思えた。


 その外見は、所々に薄い汚れの付いた白衣を着て、左目にモノクルと呼ばれる眼鏡をかけた、長い顎髭の割に頭髪の薄いお爺さんだ。

 推定ギルドマスターのそのお爺さんは、眉間に皺を寄せながら、アレクさんを見て、次に私を見て、再度アレクさんを見た。

 そして放たれた第一声は、


「お前さん、いつの間に子供なんぞ作ったんじゃ?」


 という、緊張感の欠片もないものだった。

 そんな思ってもみない発言が飛んできたせいで、私は緊張の糸が切れて、机に突っ伏しそうになった。……けど、ギリギリで堪えることには成功した!


 お爺さんの発言に、アレクさんは軽く溜息を吐いてから、言葉を返したのだけど……、


「この子は俺の子供じゃない。アンタ、自分のギルドの冒険者くらいは把握しておいた方が良いんじゃないか?」


 私には優しげに接してくれていたアレクさんが、推定ギルドマスターさんに対してぞんざいな口を利くのを聞いて、今度は椅子からずり落ちそうになった。……こっちも何とか頑張って耐えた!


 幸いなことに、ギルドマスターのお爺さんは、アレクさんの物言いを、特に気に留めた様子もないみたいだった。

 何故ならアレクさんの言には特に応じず、私に視線を向けると、すぐに質問を始めたからだ。


「お前さん、此奴とはどんな関係じゃ?」


「……あ、アレクさんには……命を助けて、貰いました……。」


 答えると、お爺さんは顎に手をやって、「なるほどのう。」と頷く。

 それから続けてお爺さんは口を開く。


「ようやく話が見えたわい。『災厄の魔獣』に襲われたんじゃな?」


 今度の問いかけは、私にではなくアレクさんにだった。

 ただし、その発言には、私が無視することの出来ない部分が含まれていた。


──……え?……『災厄の魔獣』って……あの“黒い魔獣”のことだった……?


 ……もしかして、冒険者なら誰でも知ってるような知識だったりするの……かな?

 知ってました、みたいな顔しておかなきゃ……。


 ……そんなしょうもないことを考えてる内に、いつの間にかお爺さんは、『ロの字型』の机を挟んだ向かい側──五個ある内の真ん中の椅子に、腰を下ろしていた。

 かと思えば、すぐに身体ごと私の方を向いて、


「で、お前さん、ランクは?」


 と、更なる質問を続けてくる。

 話の脈絡が不確かで、一瞬、何を問われたのか分からなかった。


「……え、……あ……9級です……。」


 私が言葉に詰まりながらも、何とか質問の内容を理解して答えを告げると、お爺さんはクワッと目を見開いた。


「9級と言ったか!?そんな低位の狩場に『災厄の魔獣』が現れたじゃと!?」


「……は、はひっ……!」


 ギルドマスターさん(仮)の、怒鳴るような剣幕に押されて、返事をしながら私の身体は反射的に退こうとした為、バランスを崩して後ろ向きに倒れていく。


──……あっ……。


 突然の浮遊感に身体が竦んでしまい、そうなるともう、自力で耐えられるはずもなく…………。


「……っと、危ないな。」


 しかし、二つ右横の席からアレクさんが左腕を伸ばして支えてくれたので、私の背中が床に叩き付けられることはなかった。


「……あ、ありが…と……ござ……ましゅ…。」


 腕の力だけで椅子の上に戻されながら、私はおずおずと、お礼を言う。


「この爺さんはまぁ……変人の部類ではあるけど。そんなに怯えなくても大丈夫だよ。」


 アレクさんは少し苦い表情をしていたものの、優しげな口調で、私を安心させるように、そう告げた。

 遅まきながら自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じつつ、私はコクコクと頷きを返す。


 確かに変な人なのだろう。私が倒れそうになったり、それをアレクさんが助けてくれたり、といった光景が目に入ってない様子で、一人でぶつぶつと呟いていたのだから。

 私が呆然としながらお爺さんの姿を視界に入れていると、アレクさんが、その正体を教えてくれた。


「この爺さんだけど、名前はグランジー・シルヴァ・エイスニード。研究の片手間に、素材集めの為に冒険者をやっていた、元冒険者だよ。引退した現在は、山岳都市ルミオラ支部のギルドマスターに指名された訳だ。」


 と、向かい側の席で未だ独り言を漏らし続けるお爺さん──グランジーさんのことを紹介してくれたのだ。


──……やっぱりこの人が、ギルドマスターだったんだ……。


 グランジーさんの人柄に少し不安を覚えたけど……でも、低ランクの私には、今後関わる機会は早々ないことだろう、と自分に言い聞かせる。

 けれど、この場に居ながら全く関わらないなんてことは出来ない訳で。そういう意味では、覚悟を新たにする必要もあったと言える。


──……早く話し合いが終わってくれますように……。


 ……それは覚悟ではなく、希望的観測……いや、ただの願望だった。

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