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半魔の少女は英雄譚を望まない  作者: 水無月七海
第一章 始まりの出会い
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第11話 面会申請

 冒険者ギルド内には、冒険者達の姿は、疎らにあるだけだった。

 依頼を受けるには遅い時間帯であり、依頼を報告するには少し早い時間帯。

 そんな、ある種の空白時間に、私は“一人で”入口正面にある受付カウンターへと足を向けた。


 普段私が利用する時間帯であれば、他の冒険者達が順番待ちの列を成している受付にも、この時間では一人の姿があるだけだった。

 その一人が受付を離れるのを待ってから、受付カウンターの上に冒険者証を提示すると、見慣れた受付嬢の人が、少し意外そうな声を上げた。


「フィリアさん?……あぁいえ、失礼しました。今朝と恰好が変わっていましたので……。」


 ……そういえば、そうだった。

 今朝、依頼の受付をした時には、フードを被っていたけど、今の私は古着屋で買った帽子を被っているんだった。


「……あ、えと……あの…………は、はい……。」


 魔獣に襲われてフード部分が失われてしまったから帽子を買った……みたいな説明をしてしまうと、何故そんなに頑なに頭を隠したがるのかと不審に思われそうなので、私は言葉に詰まった挙句、頷いておくことにした。


 これはこれで怪しい受け答えになってしまったかもしれない。

 けど、受付嬢の人は気にした風もなく、


「今朝の依頼の報告ですか?随分早かったですね。」


 と、私に話しかける。

 そう言われて私は、ハッとする。『ホーンラビ討伐』の依頼を受けていたのに、すっかり忘れていたことを思い出したのだ。


「……あ……その……ご、めんなさい。……依頼は、まだ……です。」


 討伐依頼は緊急のものを除けば、期限などは無いようなものである。

 特に9級のような低ランクの討伐依頼は、緊急性などあろうはずもなく、日を跨いで報告したとしても、問題ないのだけど……そうなると、依頼完了報告でもないのに、何故受付にやって来たのか、という疑問が生じる。

 実際、受付嬢の人は、そんな疑問を呈するような表情をしていた。……ように、私からは見えた。

 なので、問われる前に、急いで自分から用件を口に出すことに決めた。


「……依頼の報告では、なくて。……あの……ギルドマスターさんに、面会を……お願いします。」


 私の口から出てきたセリフが相当意外だったのだろう。受付嬢の人は、少しだけ眉をひそめた後に、こう言った。


「ギルドマスターは多忙な方なので、緊急時以外は、面会をお断りしております。」


 ……それは知ってる。……というより、事前に“聞かされた”。

 だから私は、事前に“言われていた通りの言葉”を、受付嬢の人に伝える。


「……『災厄の魔獣』……と、ギルドマスターさんに、伝えて下さい……。」


「……はあ、分かりました。伝えてみますので、少々お待ち頂けますか?」


 受付嬢の人は要領を得ないようだったけど、一応の承諾をしてくれた。

 私はコクリと頷いて、受付カウンターの上から冒険者証を回収すると、踵を返して、ギルドの出入口付近の壁に佇むアレクさんの元へと戻った。


「どうだったかな?」


「……はい。……ギルドマスターさんに、伝えて貰いました。」


 訊かれて、私はアレクさんに首尾を報告する。


「それは良かった。手間をかけさせてしまって悪かったね、フィリア。」


「……いえ。」


 この会話から分かる通り、ギルドマスターへ面会を願ったのも、その際に『災厄の魔獣』という言葉を伝えるというのも、アレクさんから“お願い”されたことだった。

 アレクさんは元冒険者ではあるけど、今は冒険者証を持ってないので、この街の冒険者として認知されてる私から伝えた方がスムーズに事が進むだろう……みたいなことを言っていた。……それに関しては分からなくもない。

 けれど『災厄の魔獣』というのは、実は私も何の事か分かっていない。合言葉のようなものかもしれない、と自分なりに解釈はしているけど。

 多分教えてくれるつもりはないんだろうな、って思って、質問したりもしなかった。


 アレクさんは命の恩人ではあるけれど、私の保護者でも何でもない。

 恐らく、別れたら、もう会うこともないだろう。

 山道を一緒に歩いていた時は、パーティーを組んでいるような気分になって、ちょっぴり嬉しく思っていたものだけど……私とアレクさんには、実際は大した繋がりもない。

 私を『半魔』と知りつつ、目が覚めるまで待っててくれて、食事まで用意してくれたのも、アレクさんがたまたま『良い人間』だったというだけだ。

 結局は他人同士であり、それ以上の関係性を望むべくもない。アレクさんにしても、同じように考えているだろう。


 私にとっては命の恩人であるので、アレクさんに何かお礼はしたいと思ってる。

 けど、それは私の側の都合であって、現在の繋がりはある意味、アレクさんの言葉一つで簡単に解消される程、脆弱なものだった。

 そして、繋がりの解消が、望ましくない方向に転じることだって、あり得ないとは言い切れない。


 『半魔』は人間と必要以上に関わるべきじゃない……という思いが、私の中で強まっていく。

 そうして気分が落ち込みそうになった時、


「フィリアさん。」


 いつの間にか目の前に立っていた受付嬢の人が、私の名前を呼んだ。

 私は無意識に俯いてしまっていた顔を上げて、受付嬢の人を見る。


「その……ギルドマスターが、面会を受諾するそうです。……お連れの方もどうぞ、ご案内します。」


 少し困惑している表情の、普段は見ない様子の受付嬢の人が、何だか面白いな、と思ってしまった。

 それから頷きを返すと、受付嬢の人は、受付カウンターの横──ギルドの奥へと繋がるであろう扉に向かって歩き始めた。


「……私、ここで待ってた方が……良いんですよね?」


 と私が確認したのは、アレクさんに対して、だ。

 何か緊急の用件があったとしても、私には関わりのないことだろうし。

 だから私の役目は、冒険者ギルドのギルドマスターに面会を取り付けるところまでだ……と、思っていたのに──


「いや。……フィリアも同席してくれ。」


 アレクさんの言葉が意外に過ぎて、私は目を見開いて、思わずアレクさんの顔を見上げる。

 目が合うと、アレクさんは私に向かって力強く頷きかけた。


──……あれ?……もしかしたら、私…………何かヤバイことに、巻き込まれそう……?


 頭に浮かんだ疑問に答えてくれる者はいない。

 むしろ、答える者がいなくとも、自ずと答えは知れてしまう。


 私は一度、深呼吸して、それなりの覚悟を持ってから、受付嬢の人の後ろ姿を追いかけることにした。

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