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神様ネット~獣の神の場合~

作者: 海蛇

 ここは(けだもの)界、獣神(じゅうしん)が管理する獣達の楽園。

生まれたばかりの獣もいれば、虫や魚や両生類、爬虫類に毛が映えた程度の者もおり、二足歩行する獣なる霊長も住まう大変野性味あふれる世界である。


 今回の『神様ネット』は、この獣神(心優しき人型エルク)が担当する事となっていた。

獣達のモフモフお便りが、今日も彼を癒すことになるのだ。


「それでは早速行ってみようか。ペンネーム:うさニャン(兎猫獣人・オス・18歳)。中々業の深いご両親だね……」


※獣人は異種族との婚姻を禁じていることが多い。


『初めまして獣神様。神様にお便りするには、ちょっと品のない質問になるのですが』

「大丈夫だよ。僕はどんな質問でも受け止める」


 獣神はとても寛容である。

超常種であるが故に。


『私のお母さんは兎人(とじん)種なのですが、クラスの他の異種族の子達から「兎人種は年中発情してるんだろ」とからかわれてしまう事が多く、悩んでいます』

「うわあ大変だなあ。種族が違うと生き様も文化も違うからね。そういう時困るよね」

『何故兎人種だけがそんな風に言われるのか納得いきません。本当に兎人種だけがそうなのですか?』

「そうだよ? 兎人種は元になった最初のカップルがどちらも年中発情期の種族だったから割増しで発情しやすくなってるよ」

『また、もしそうなら何故そうなっているのか教えていただけると助かります』

「弱いからたくさん産まないと絶滅しちゃうんだ。野生の知恵だよ」


※兎人種は肉食動物からは草原の前菜扱いされています。




「次のお便りに行こうか。どれどれ……ペンネーム:ピーちゃん(コカトリス・メス・253歳)。長生きだねえ」


 獣界において長寿とは何より誉れ高い名誉である。

ほかならぬ獣神もこの世界における最高齢25億7000万ちょっとである。


『初めまして獣神様。あたしはコカトリスとして生まれ今年で253歳になるのですが』

「長生きだねえ」


 獣達は基本あまり頭を使わないので同じことが書かれてる事も多い。


『今の今まで一度も卵を産んだことがありません。ニワトリは毎日でも卵を産めるのに何故あたしは産めないのでしょうか?』

「コカトリスはオスが産むから……」

『というかあたし以外にメスを見た事がないのですが』

「まあ雄鶏しかいないもんね」

『もしかしてあたしはコカトリスではないのでしょうか?』

「君バジリスクなんじゃないの?」


※諸説あります。



「続いてどんどん読むよ。短そうなものは一言だけ返して次の人の番にするよ」


 獣神は獣たちに大人気の神様なので彼の担当回には大量のお便りが押し寄せてくる。

このような時、彼は公平を期して内容の長さと深刻度に比例して対応を決めることにしていた。


「ペンネーム:四聖獣ゴリラ(ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)。性別や年齢までゴリラとは恐れ入るね」

『複乳派ですか?』

「あればあるほどいいけどなくてもなんとかなる」


 獣神は多様性に寛容だった。


「ペンネーム:蟻絶対殺すマン(キリギリス・メス・1歳半)。蟻と何があったんだい?」

『獣神様は獣の下半身でヒトの上半身とヒトの下半身で獣の上半身ならどちらがいいですか?』

「ヒトと獣が混じった頭で上半身が獣下半身がヒトだと滅茶苦茶興奮する」


 獣神は業の深い性癖だった。


「ペンネーム:キングぱおーん(ゾウ獣人・オス・25歳)。おお、希少種族だ。大事にしてあげたいね」


 獣獣は絶滅危惧種には寛容だった。


『何故ヒトはパンツをはくのでしょうか? 全裸こそが我々のナチュラルな在り様では?』

「猿と区別付ける為……かな」


※獣人はノーパンが基本です。




「うーん、色々読んでいったけど今日も大分平和な一日だったようだ。危機感溢れるお便りが一通もない」


 基本弱肉強食ながら、それなりに平和なのが獣界のいいところである。

小難しい質問をしてくる者も滅多にいないし、難しいことを考えている者も少ない。

おかげで獣神はいつものんびりである。


「そろそろ一休みしようかな……おや、次が来たか。どれどれ……」


 ちょっと疲れたので小休憩を挟もうとした辺りで、一通のお便りが届く。


「ペンネーム:たすけて。種族も年齢も性別も書いてないや。どれどれ……」

『たすけてくださいらいおんにおそわれています』

「がんばれ!」


 弱肉強食は獣界の鉄の掟である。



「おや次のお便りが来た。休む暇もないね。えーっと、ペンネーム:あの時助けてもらったツルです(白狐・オス・3歳)。ツルなのかゴンなのか」


 情報と性癖が倒錯していた。


『初めまして獣神様。実は私の知り合いの妹がヒトのオスに恋をしてしまいまして」

「ヒトの撫でテクはすごいからねえ。僕も鹿に変身して下界に降りた時に撫でられて思わず変な声を出しちゃった事があったよ」

『他種族のメスがヒトのメスに変身してお嫁さんにしてもらった例を見て手だけヒトのメスの手に変身して挑んだのですが』

「ちょっと無理がない?」

『見事相手を篭絡して結婚することに成功してました。こんな事ってあるんですね』

「相手は多分手以外を見たんだろうね」


 ヒトは時々業が深い生き物だった。


『私も今年で尻尾が九つに分かれてアラクオになりましたので』

「アラクオというパワーワード」

『この知り合いの妹の例を参考にヒトのオスを篭絡してみようかと思います』

「君オスだよね?」


 狐は時々業の深い生き物だと獣神は思った。


『どうせなら位の高いヒトのオスを篭絡したいのですが』

「まあ農民よりはカワハギや鍋の具にされる率は低いかなあ」

『もし子宝に恵まれた際に名付けで無教養とさげすまれる事のないように獣神様の一案を頂けたらと思います』

「童子丸でいいんじゃない?」


 白いみたいだし、と、投げ槍な返答をしたまま獣神は休憩を挟んだ。




「――そろそろ最後のお便りかな? 日付も変わる」


 休憩後も数多のお手紙が押し寄せ、それを時として分身したり並列処理したりしてこなしていった獣神だったが、流石に日付も変わろうという頃には空気を読んで送られてくる手紙の数も激減し、ようやく最後の一通になる。


「どれどれ……ペンネーム:変態皇帝ネロ(竜人・オス・2524歳)。ほほう、竜人とは珍しい。でもこの人、前見た時はヒトのオスだったような……?」


 変わったペンネームはなんとなく覚えている獣神であった。


『余は息が臭いのを直すのを諦め、息が臭いのは世界の常識であると認識させる為竜の神になろうとしたのだが、何かの間違いで人間と竜の中間的な不思議生物になり果ててしまった』

「なんて無駄にスケールが大きな迷惑竜なんだ……」

『だが、余はその途中で料理にはまってしまい、料理人として生きようと思うようになったのだ』

「その方がいいよ絶対いいよ」


 料理はヒトの産み出した知恵である。

文明を押し広げてきたその強烈な個性は、現代においても数多の種族にその影響を与えている。

最近では機械生命体が有機物を使った料理に目覚めた。


『そこで獣神に問いたい』

「好きな料理とかかな?」

『お前を食材にしたら美味いだろうか?』

「大味だと思うよ」


 獣神様は筋張っていてあまり美味しくなかった。

ぶっちゃけ不味かった。


『ついでにお前の好きな料理を聞きたい』

「自分を食材にしようとしてる人に好きなもの教えると思う? 水草のサラダだよ」


 獣神は草食系マッチョ(メン)だった。


『その返答次第では……余と被る為、食材の確保のために大喰らいなお前を討伐する必要があると思ったのだ。面白き返答を期待している』


 あくまで愉快犯なこの変態皇帝に、獣人は温和な表情を崩し、にたりと笑った。


「僕と戦う気がある人なんて珍しい。これは君の好きなものを選ぶべきだったかな? 確か千年前は『人間の乙女の生き血』が好物だったよね君?」


 




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