迂海路
「寒いなぁ……」
寒風が吹き付ける海岸通りを歩きながら、独り言を呟く。吐いた息は白く立ち昇るが、強風に掻き消される。高校までの通学路だから仕方がないとはいえ、天気に左右されやすいこの道は苦手である。少しでも寒風から逃げる為に、マフラーに顔を埋めた。
「嗚呼、すいません。部長、渋滞情報が入りましたので迂回していきますね」
道の先に黒いスーツを着た男性が、スマホを片手に話をしている。大人は大変だなと思いながら、その人の後ろを通り過ぎた。
どぼん。
「……え……」
質量のある物が水に落ちたような音が響き、反射的に振り向く。
先程居た男性の姿はなく、海面の一部だけが酷く荒れていた。