天に響くは少林寺の歌
(僕は無力だ)
小学5年生の男子トイレで
男の子達は騒ぎながら外に走っていく
数秒後、ずぶ濡れになった男の子が1人出てくる
チャイムが鳴り
教室に戻ると、担任の先生が言う
『響!!もう授業は始まってるぞ!!
水遊びなんてしてないで席に付け!!』
クラスの生徒達はクスクスと笑う
僕は黙って席に付く
教科書を出そうと机の中を見ると、
沢山のゴミが今日も入っていた。
先生やクラスメイトは何事もなかったかのように授業をする
僕以外は
学校が終わり、
帰り道の土手沿いで
クラスの人気者、上野
上野の子分、水嶋
ガキ大将てき存在の、山乃江
の3人がやってきて、土手沿いの高架下で
丸裸にされ、殴られたり蹴られたり
酷い目に遭わされた
上野は水嶋に言う
『どうだ?撮れてるか?』
『バッチリ撮れてますよ、昨日買って貰ったスマホで動画撮って見たかったんです。』
そう言うと、3人は笑いながら何処かに行った。
僕は泣きながらズタボロの服を着て帰る
どうして?
どうして僕がこんな事に?
貧乏だから?弱いから?臆病だから?
原因は有るのだと思う、だけど
そんな事も分からなかった、分かっても解決にはならなかったと思う
安そうでボロい団地に住んでいるのが僕だ
母さんはとうの昔に死に、気弱そうな父さんと2人暮らしていた
父さんは傷だらけの僕を見ても、見て見ぬふり
先生やクラスの皆と同じ、見て見ぬふり
いつもはアニメを見たりテレビを見たりして過ごしていたけど、今日は悲しくて直ぐにベッドで寝た
こんなにツラい人生にいつまで耐えれば良いのか分からないまま泣きながら寝た
翌朝
いつものように学校に行き
いつものように馬鹿にされ
いつものようにいじめられ
いつものように下校した
そして
また土手沿いの高架下で
僕はボロボロになり泣いていた
目の前に手の平サイズの小石を見つけ
僕は八つ当たりをするように遠くに投げた
イテ!っと誰かの声が聞こえ
僕は慌てて逃げようとしたが
ズボンを脱がされていたから、
足元がふらつき転けてしまう
誰かが近づいてくる
僕は顔を伏せ怯えていた
すぐ近くに誰かがいる、
でも 何も言ってこない?
僕はゆっくりと顔をあげると
さっき僕が投げた石を持った、小汚いお爺さんが立っていた
お爺さんは僕に言う
『ハヨ服を着ろ』
僕は服を着て、お爺さんに謝った
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
何度も、何度も
昔いじめられてた時見たく何度も
お爺さんは頭を掻きながら言う
『こんな小石でもな、子供や女性、年寄りに当たれば大怪我をするぞ!!
まぁ、ワシは昔、中国で修行をしていたからヘッチャラじゃったがな』
お爺さんはガハハと笑う
僕はランドセルを取り、逃げようとすると
お爺さんは言ってきた
『お前さん、いじめられておるのか?
もし良ければ、爺さんに話してみぃ』
僕の足は止まり、
涙がポロポロと流れた
大人の人で
僕に優しくそう言ってくれる人は初めてだったから
僕は話した
今まであったツラい事全部を吐き出すように話す
話を終えると、お爺さんは簡単に言う
『なら仕返したらええ!!
殴られたら殴り返せばええ!!
悪い事する奴には手を挙げてもええ!!』
僕はガックリしながら教えてあげる
『僕にそんな事できる訳ないよ、
だって、僕は貧乏で弱くてダサくて』
『グジグジ、グジグジ
泣きべそかいて響は満足なのか!?
ヨシ分かった!!、それなら明日の朝5半にここに来い!!
ワシが少林寺仕込みの稽古を付けてやる!!』
お爺さんはそう言った
僕は怯えていた
だけど
弱くて泣き虫な僕とお別れ出来ると思い
翌朝
5時に起き、待ち合わせの場所に向かった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
僕は学校に行く格好でその場所に向かうと
お爺さんは、ラジオ体操をしていた
お爺さんは僕を見つけ、呆れながら言う
『響!なんじゃその服装わ!!
修行をする服装では無いだろ!!』
『でも、7時から学校があるし』
『運動服わ?』
『今日は体育の授業があるから持ってきてるけど...』
お爺さんは僕を連れ、
近くの段ボールでできた家に連れて行く
ここは?っと僕が聞くと
ココはワシの家じゃ!っとお爺さんは言った
こんな犬小屋見たいな家に住んでるんだ
っと思ってしまった
僕は段ボールハウスにランドセルを置き
体操服に着替えて外に出てきた
『おっそれなら大丈夫そうじゃな、ホレ』
お爺さんは僕に白いゴミ袋を手渡してきた
コレで何をするのか聞く、今から町内を走りこの袋に空き缶を沢山集める!、僕は言われるがまま走り、空き缶を集める
学校が始まる頃には、僕は汗だくでヘトヘトになっていた
それから
僕は毎朝その修行をさせられた
3日からは、僕が歩くとお爺さんは木の板で僕を叩いてきた
転んだりズリむいたり
学校に付く頃にはボロボロだった
朝はその修行
学校が終わった昼からは
お腹でバスケットボールを受けたり
片足で階段を登ったり降りたり
公園の鉄棒を使ってぶら下がったり
腹筋、腕立て伏せなど、色んな事をやらされていた
修行をしている時
お爺さんは日本語ではない歌を口ずさんでいた
その歌が何か聞くと、
少林寺にいた頃に教えてもらった歌だとお爺さんは言う
変な歌だなぁ、そう僕は思った
休みの日は
隣町のコンビニまで走って行き
安い肉マンを買いに行くという
お使いまでさせられた
学校ではいじめられ
お爺さんに合うと、コキ使われ
そしてまた学校でいじめられ
僕の涙は
修行のバネになっていた
そんな修行をして1ヶ月
だいぶ体力が付いたのか、隣町のお使いぐらいなら
すんなりでは無いが、走って行けるようになっていた
でも
僕はまだ弱かった
空手や柔道を習っている子達には勝てる訳でも無かった
こんな訳の分からない修行に、
正直嫌になっていた
お爺さんの修行は日に日にエスカレートしていき
小さな小石まで投げてくるようになった
僕はツラ過ぎる修行に
嫌になっていた
そして
『もういい!!』
『ホレどうした?あと腕立て伏せ50回残っておるぞ!』
『こんな事したって僕は弱いし、
誰にも勝てない!!』
『勝つためだけが少林拳法では無い!!
耐えて、耐え抜くのも少林寺の道じゃ!』
『殴る練習をしたり、蹴る練習をしたり、
そんな修行を僕は考えてたんだ!!
それを使って僕は僕をいじめてた奴にやり返して
学校にも来れないぐらいボコボコにしてやりたかった!』
お爺さんは響に空き缶を頭に投げつけ言う
『馬鹿モン!!武術は人に怪我させる技では無い!!』
何のための修行なんだ!
そう思い、僕は何処かに走った
走りながら思った
また僕は逃げ出した
ツラい事から逃げ
修行からも逃げた
気がつくと
いつも来ていた隣町のコンビニまで走っていた
いつもの日課でココまで来てしまったのか
ココまで来ればあのお爺さんも追いかけて来ないと考えたのかは分からないが
そう思ってココまで来たのかも
コンビニの裏から
別の小学生4人が
1人の小学生をいじめていた
いつもの僕なら、
関わらず逃げ出していたかも知れない
だけど今は違った
むしゃくしゃしてるのもあり
僕はとめに入った
『よ、弱い者イジメはカッコ悪い..ぞ...』
それから僕はどうなったのかあまり覚えていない
ボコボコにされ目が覚めると
いじめてた奴らもいじめられた子もいなかった
殴られボコボコにされたけど
何故だろう
全く痛くも無かった
次の日
僕はお爺さんの元に戻って、謝った
お爺さんは何も言わず
また修行を付けてくれた
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
修行を始めて半年
いつからだろう、
僕は打たれ強くなっていたのか
クラスメイトから意地悪されたり
殴られたりしても
動じなくなっていた
そんな僕を見て、
いじめてた人達は僕に飽きたのか手を上げなくなった
殴られたら殴り返す
僕はそうしなかった
師匠が僕に技を教えてくれた時に言っていた
『いいか響!お前の拳は誰よりも痛く重い
その拳は自分のためでは無く、誰かのために振るえ!』
僕は師匠の教えを守った
学校の帰り道
僕はいつものように師匠の元に向かい修行をした
師匠の歌を一緒に歌いながら
師匠は僕に言った
『受け身が上手くなったな響』
『ありがとうございます』
『中学に入ったら、武道の道に進むのも良いかも知れんな?』
師匠はそう言うが
僕はそんな事を考えていなかった
修行を終え 帰り道
ふと、
隣町の肉マンが食べたくなり、僕は走って買いに行った
コンビニに付くと
コンビニの裏から、聞き覚えのある声が聞こえて来た
また4人の小学生達が1人の小学生をいじめていた
その近くには泣いている女の子もいた
いじめられてる子の妹なのだろうか?
顔が似ている気がした
僕はまたトメに入る、
いじめっ子達は僕を見て言った
『またお前か?』
『コイツもやっちまおうぜ』
いじめっ子達は僕に殴りかかってきた
相手は4人、僕は1人
喧嘩なんてした事無かったけど
僕はその日初めて人を殴った
殴られたら殴り返し
そんな時間が過ぎた
喧嘩に勝ち負けなんて無いとその時わかった
倒れて鼻血を出してる子を抱えて何処かに行く
いじめっ子グループの4人
僕はいじめられてた子と小さな女の子に何も言わず、
コンビニの肉マンを買って歌いながら帰った。