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5匹のムジナ in the same hole

作者: jima

第一夜


 奴は「コール」と発声すると、自分の手をさらした。クイーンのフォーカード…。

「俺の負けだ」

 俺はガクリと肩を落としたが、奴は俺に言った。

「ガッカリするのはまだ早い。俺のカードをよく見てみろ」

「何?」


 俺は奴が置いたカードをじっと見つめる。

「顔が…ない」

 カードの4人のクイーン…その顔はすべてのっぺらぼうだ。

「ギャアアアアアア」

 恐ろしさに俺は叫んで、横のディーラーにすがりつく。


 ディーラーは伏せていた顔をあげてこう言った。

「そのカードのクイーンはこんなだったかい?」

 ディーラーの顔も目鼻がなかった。


 カジノの灯りがスッと消えた。



第二夜


 愛娘の初節句を前に俺は妻や娘と雛人形を買いに来た。

 評判の人形店、どれもいいもののようだ。豪華なもの、可愛いもの、上品なもの…

 店の主人が来て、俺に聞く。

「どんなものをお探しですか」

「そうだな。俺はあんまりゴテゴテしたものは好きではないから、すっきりとした美しさのあるものがいいな」

 店主は一度顔を伏せ考えていたが、何かを思いついたように顔をあげる。


「こんな顔ならスッキリしてますか?」

 店主の顔には目鼻がなかった。

「ギャアアアアアア」

 あまりの恐ろしさに俺は横の妻にすがりつく。

 だが、妻は白い顔で人形を指さす。

「あなた、人形を見て」

 その雛人形はお内裏様とお雛様、三人官女や五人囃子、その他の何もかも、全員すべて顔がなかった。


「アワッワワワ」

 腰を抜かして妻にすがりつく。すると妻と抱かれていた娘の二人がこちらを見下ろした。

 その顔には目鼻がなかった。


 ぼんぼりの灯りがスッと消えた。



第三夜


 俺は西部のガンマン、この街を守る保安官さ。今、悪党一味の親玉と最後の決闘をする。

 俺は奴と背中を合わせる。十歩進んで打ち合う予定だ。早撃ちは俺の得意技だ、見てろ。

「一、二、三………八、九、十!」


 俺は素早く振り向いて奴の額めがけて弾丸を撃ち込んだ。

 見事、奴の頭に弾は当たったが…俺は眼を疑った。奴は倒れない。そして…


 やつの額には撃たれた弾の跡はあったが、目鼻がない。

「ギャアアアアアアア」

 あまりの恐ろしさに俺は叫ぶ。

 そして思わず見物人のジェーンのところに走り、その豊満な胸に顔を埋めた。


 バシッ!


 ジェーンが俺に平手打ちを浴びせて言った。

「私の胸をよく見てごらん」

 何とジェーンのふたつの胸には目鼻があった。その眼が俺を睨んで言う。

「このスケベ野郎!」「地獄へ堕ちろ!」


 俺は腰を抜かしてそこにへたりこんだ。


 そんな映画をやっていた映画館の灯りがスッと点灯した。観客のブーイングと共に。



第四夜


 名人がバシッ!と駒を盤上に置いた。俺の負けだ。

「負けました」

 俺は深々と頭を下げ、名人もそれに応える。いい勝負だったが…

 だが名人が顔をあげない。

「どうしましたか?」

 ようやく名人が顔をあげる。当然顔がない。

「ギャアアアアアアアアア」


 毎度おなじみだが、恐ろしさのあまり叫んだ。

 のっぺらぼうの名人が言う。

「駒をよく見てご覧なさい」

 俺が盤上の駒をよく見ると、すべての駒に様々な顔が描いてあった。実に表情豊かで可愛い。

「てへぺろ」とか「詰みだニャン」とか「王手でピエン」とか落書きもしてある。


 俺や周囲の立会人、棋譜の係含めて全員が頬を緩める。

「今回は勝負なし♡…かな?」


 将棋会館の灯りがすべて一斉にスッと消え、将棋の神様による怒りの裁きが下る。




第五夜


 師匠が出来かけの(あめ)の棒を俺に見せる。複雑に構成された金太郎飴だ。

 見事な出来に見える。これを適当な大きさに切っていけば、名人の金太郎飴の出来上がりだ。

「師匠、お見事です!」

「まだだ。よく見ていろ!」


 師匠がトントントンとリズミカルに飴の棒を切っていく。次々と飴が弾かれて出てきた。

 しかし、俺は眼を疑った。

 

 顔がついているはずの飴に顔がない。すべてのっぺらぼうだ。

 師匠が自慢げに言う。

「どうだ!のっぺらぼうの金太郎飴だ!画期的だろう」


「ギャアアアアアアアアア」

 あまりの恐ろしさだか何だかに俺が惰性で叫び、隣の女将さんにすがりつく。


 女将さんは冷たく言う。

「あんた、これじゃ普通の飴じゃん」


 伝統の灯がスッと消えた。







第零夜


 すべての原稿を読み終わった先生が俺たちに言った。

「全部読ませてもらったよ。今回のお題は小泉八雲の『むじな』のパロディ…だけど」

 先生は難しい顔で唸った。

「うーん。いまひとつかなあ。もう少し、広がりや深みが欲しいよね」


 俺たちは残念な気持ちでうなだれた。先生は気を取り直して言う。

「まあ、まだ文化祭には時間があるから、もっと企画を練り直そう。さあ、みんな、顔をあげて」


 俺たち五人の作者はそろって顔をあげる。もう予想はついたことだろうが、全員顔がない。

 先生があまりの恐ろしさに悲鳴をあげる。

「ギャアアアアアアアアアア」


 そして読者に向かって叫んだ。

「恐ろしい。あ、あなた。そこで暢気にこの話を読んでいるあなたですよ。助けてください」


 先生は読者であるあなたの顔をのぞきこむ。あなたの顔にも目鼻がない。


 その時、パソコンの灯りがスッと消えた。



*「あまりのくだらないオチに読者の表情がスッと消えた」というオチとどっちがいいですか。

 どっちでもいいかあ。





 最後まで読んでいただいてありがとうございます。10編くらい考えて比較的マシな5つを選んだつもりですが、そうでもない感じです。おかしいな。

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