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第3話:差別

 トゲラ帝国はとある山脈のふもと、とても険しい環境の中に、一つ、とても大きな建物があった。

 

 辺りに広がるのは、鬱蒼とした森と断崖絶壁の岩山、大きな建物以外、建物らしい物は何一つ見当たらない。

 

 その大きな建物はコンクリートで出来ており、入口と思われる大きな扉以外窓などが一切ない。

 

 この露骨な建物こそ、退魔師たちの拠点〔黒白教会〕だ。通称〔クロシロホーム〕。

 

 四方を結界で囲み、悪魔を寄せ付けない鉄壁の要塞のようなたたずまい。

 

 ここにくるのは、退魔師と、その関係者達のみ。

 

 

 

 そんな、クロシロホームの内部は、意外とアットホーム的な優しい作り。

 

 任務を終えた退魔師達の疲れを癒す空間、鍛練をする部屋、大食堂、巨大銭湯、退魔研究室など、かなりの部屋がクロシロホームにあり、その分敷地がバカみたいに広い。

 

 そんな、クロシロホームのとある部屋、入口のプレートには「教団長室」と書かれていた。

 

 その教団長室の前には、一人の男性。

 

 薄いあごひげ、優しそうな蒼い瞳、赤みが掛かった短髪、そして膝まである白いコート。

 

 コンコン!

 

 男性―――アルティンは教団長室のでっかいドアをノックした。

 

 すると、「どうぞ」と、部屋の中から声がした。

 

 「失礼します」

 

 アルティンはそっと扉を開ける。

 

 

 アルティンが部屋の中に入ると、そこには一人の男性が。

 

 「アルティン、次の任務だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・」

 

 「・・・あのー」

 

 「・・・・・」

 

 「あの、すみません」

 

 今、スイナは試験会場の受付にいた。

 アルティンに送ってきてもらってから一週間、スイナは何とか飢えをふせぎ、第一試験日の今日、いま受付をするところなのだ。

 しかし・・・

 

 「すみません!!」

 

 「・・・・・」

 

 受付の人はスイナを完全無視。

 しかし、スイナは諦めない。

 

 「すーいーまーせーん!!!!」

 

 「うるさいっ!!」

 

 突然、受付の人(中年の男性)が叫んだ。

 突然の事にスイナはビックリ!

 

 「さっきからあーだこーだと、うるさいんだよ、山の民が!!」

 

 差別・・・しかし、スイナはそれには慣れっこ。

 

 「わ、私はちゃんと願書を出しました。だからいいじゃないですか!」

 

 「なんだ!山の民が偉そうに!お前なんかに退魔師なんか無理だ!!」

 

 「なっ・・・中年のデブのあなたに何が分かるんですか!!」

 

 「この・・・クソガキがぁ〜!!」

 

 受付の人は今にもカウンターを乗り越えて殴り掛かってきそうな勢いだ。

 

 スイナは少し後ずさる。 

 (少し・・・言いすぎたかな・・・)

 

 受付の人はついにカウンターを乗り越えた。

 スイナの後ろで受付を待っていた青年はびっくりしている。

 

 (や、やばい!!)

 

 スイナは回れ右をすると一気にダッシュ!!

 

 「待て、クソガキ!」

 

 受付の人はスイナを追ってきている。

 

 「くっ・・・」

 

 スイナは受付会場ドームの出口へ全力疾走。

 

 その時!

 

 バンっ!!

 

 誰かとぶつかった。

 

 スイナはその勢いで顔面から倒れた。

 

 「痛った〜・・・」

 

 スイナは顔を押さえながらのたうちまわる。

 

 「大丈夫か?」

 

 ぶつかった人であろう、黒いコートを着た男性がそっとスイナに手を差し出してきた。

 

 「す、すみません」

 

 スイナは男性の手を握り、ぐいっと立ち上がる。

 

 すると・・・

 

 「あ、ナバルさん、そのガキ捕まえて!!」

 

 猛ダッシュで走ってきた受付の人が、スイナとぶつかった人に向かい叫んだ。

 

 「は?なんで?」

 

 「そいつは俺の事中年のデブって言ったから!」

 

 「事実じゃん・・・」

 

 黒いコートの男性―――ナバルは、鼻を摘んでいるスイナを見た。

 

 「大丈夫?鼻血か?」

 

 「あー、大丈夫です」

 

 スイナはすぐに出口に向かい走ろうとしたが、ナバルに腕を掴まれた。

 

 「だーいじょうぶ。俺があのオッサン説得してやんから」

 

 ナバルはそう言うと走ってきた受付の人の前へ。

 

 「ナバル君、そのガキを俺によこせ!!」

 

 怒り状態の受付の人。

 

 「まーまーオッサン、本当の事言われたくらいでかりかりしない」

 

 ナバルはワックスで固めてあるオレンジ色の髪を軽く整えながら言った。

 

 「ナバル君、何言ってんの!?」

 

 「だってそうじゃん、オッサン太ってるし、もう年だし・・・それに、あんなペッタンこいじめて何が楽しいの?」

 

 ナバルはちらっとスイナの方を見た。特に胸部。

 

 「なっ・・・!!」

 

 スイナはナバルが自分の事を言ってると分かると、顔が真っ赤に、そして鼻血が大量に!!

 

 それに比べ、ナバルはつまらなそうな顔。

 

 「な、ナバル君、君はどっちの味方なんだ」

 

 受付の人は結構テンパっている。

 

 「う〜ん、俺は昔から面白そうな人の味方!」

 

 ナバルはそう言うと、鼻血と対決中のスイナの元へ。

 

 「あんた、名前は?」

 

 「す、スイナ・・・」

 

 「スイナか。俺はナバル。退魔師。よろしく!」

 

 ナバルはコートのポケットからティッシュを取り出すと、スイナに向かい投げた。

 

 「え〜いナバル君、いい加減そのガキをこっちによこせ、そいつは山の民なんだぞ」

 

 受付の人は着ている長袖の服の袖から仕込みトンファーを取り出した。

 

 「げっ!!待てオッサン、ここじゃマズイって」

 

 怒りモードの受付の人―――もといオッサンは、既に戦闘体制。

 

 「だから俺、短気な人は嫌いなんだよ。退魔師は暴君をやっつける仕事じゃないの!」

 

 しかし、オッサンはナバルの話を無視し、スイナに一直線。

 

 「うそっ!!」

 

 スイナはすぐに逃げる体制。しかし・・・

 

 「受付がちょーしこくな、バカ」

 

 オッサンとスイナの間にナバルが入り込む。

 

 「ナバル君、どいてくれ!!」

 

 「やだ」

 

 そう言うとナバルは一気にオッサンに接近、腰にぶら下げている刀を鞘ごと持ち、オッサンの脇腹に向かい振るう。

 

 バキッと、嫌な音がした。

 

 そして、オッサンはスローモーションのように倒れていった。

 

 どさっ・・・

 

 「・・・やり過ぎた」

 

 白目で泡を吹きながら倒れているオッサンを見ながらナバルが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、新たな受付の人が残りの入学希望者の受付を担当、スイナも無事、受付を済ませた。

 

 「受付を終えた人から更衣室にて訓練用コートに着替えて、魔法師希望の入学希望者は1番ゲート、聖剣師希望の入学希望者は2番ゲートにお集まりください」

 

 ドーム内に鳴り響くアナウンスを聞いたスイナは、とりあえず更衣室へ。

 

 (どうしよう・・・)

 

 ざっと見た所、入学希望者は二百人以上はいる。

 しかも、まだ魔法師か聖剣師かを決めていないのは二百人中多分スイナだけ。

 

 (と、とりあえず私、魔法使えないから、今は聖剣師・・・にしておこうかな・・・)

 

 かなりいい加減な理由だが、確かにスイナは魔法の使い方が分からない。

 

 とりあえずスイナは更衣室に入り、受付で渡された訓練用コートに着替える。 コートは退魔師が普段着用しているコートと全く同じ素材でできた膝まである大きなコート。

 コートの下には専用のジーンズみたいなズボン、それにブーツ、手袋。

 コートの色は黒でも白でもなく、灰色。

 恐らく、訓練生という意味だろう。

 

 (す、すごい・・・)

 

 超がつくほどの貧民だったスイナにとって、この服装は豪華すぎると言っていいほど。

 

 (ま、まだ入学もしていないのに・・・)

 

 スイナは更衣室の壁に備え付けてある鏡の前へ。

 

 そこには、何となく退魔師みたいな感じのスイナの姿が。

 

 (すごぉ〜い!!)

 

 その時

 

 「入学希望者は至急、ゲートに集合して下さい」

 

 アナウンスがドーム内に響く。

 

 「はっ!!」

 

 スイナはぱっと気づき、急いで着替えを済ます。

 貴重品や元着ていた服などは受付で渡された袋に入れ、受付に預ける。

 

 「えーっと、2番ゲート・・・」

 

 スイナは2番ゲートをさがす。

 

 ドームの中は分かりやすい構造にはなっているものの、人が多過ぎてゲートの看板が見えない。

 

 (あ〜もう!!)

 

 現在16歳、身長150センチくらいと、スイナはあまり大きくない。

 

 このドームにはいろんな国からいろんな年齢の人がやって来ている。

 そのため、女の子で低身長など、人混みに流されるだけの存在に等しい。

 

 「ちょ・・・まっ・・・うぅ・・・」

 

 いつの間にか人の波に飲まれていたスイナは圧死しそう。

 

 ゆっくりゆっくりと人に流されていくスイナ。

 

 (きつい・・・息がしにくい・・・)

 

 その時、誰かの尻がスイナの顔面を直撃!

 

 どんっ!

 

 「むぎゃっ!!」

 

 スイナはバランスを崩しその場で倒れた。

 

 「あらあら、ごめんあそばせ」

 

 スイナにぶつかったデカ尻の人・・・は、ふくよかな女性だ。

 何か香水くさく、パールなどの真珠のネックレスを首に掛け、分厚い化粧、マスカラたっぷりの目、髪はおだんご。多分40はいっているだろうか。

 

 (この人、もしかして貴族の人!?)

 

 スイナがア然と言った表情で女性を見ていると、女性は突然、倒れているスイナに蹴りを入れてきた。

 

 ばんっ!!

 

 「ぐっ・・・」

 

 蹴りはスイナの腹を直撃、スイナは腹を押さえながらうずくまる。

 

 「あなた、よく見たら山の民じゃない。あらま、わたくしったら謝ってしまったわ」

 

 女性は凄い形相でスイナを睨みつける。

 

 「小娘、あなた死になさい」

 

 女性は懐から短剣を取り出し、スイナに投げた。

 

 スイナは突然の事でビックリ。

 

 「わたくしはね、あなたみたいな山の民が大嫌いなの。人にぶつかって謝りもせずにわたくしに謝らせて。だから死になさい」

 

 ぶつかってきたのはそっちでしょ、とスイナは言いたかったが、腹に力が入らず断念。

 

 「さ、早く死になさい。わたくしにぶつかった罪は重いわよ」

 

 女性は「おほほほほ」と高飛車な笑い。

 

 「黙れ・・・」

 

 やっと声が出せたスイナだが、超小さい声。

 

 「あらあら、何かしら山の民小娘」

 

 「黙れってんだよ、このボンボン」

 

 スイナはぬくっと立ち上がる。

 

 「こっちはね、必死に勉強して、必死にお金貯めてここに来てるのよ、あんたみたいなボンボンに何が分かるのよ」

 

 言い忘れていたが、スイナは短気。

 

 「それにぶつかって来たのはあんたの方でしょ」

 

 「んまぁ〜!!」

 

 女性はカンカンだ。

 

 「山の民が偉そうに・・・貴方、わたくしを誰だと思っているの?わたくしはマーゼラ・ハリトンよ、ハリトン家なのよ!」

 

 (やっぱり貴族か)

 

 スイナはそう思いながら足元の短剣を拾う。

 

 「何貴方、わたくしをソレで刺そうとでも?馬鹿馬鹿しい。わたくしは柔道三だ・・・」

 

 次の瞬間、女性―――マーゼラの首元にはスイナの持つ短剣の刃が。

 

 それを見て青ざめるマーゼラ。

 

 「・・・私はね」

 

 スイナはポツリとつぶやく。

 

 「約束したの、退魔師になるって。あの二人に」

 

 マーゼラは動かない、いや、動けない。

 

 「必死に体力作って来たのよ、あんたはしてないでしょ?体力作り」

 

 スイナはマーゼラの体、とくにふくよかな腹部を見る。

 

 「う、うるさい。わたくしは柔道三段よ。貴方みたいな山の民に・・・」

 

 「山の民なめるなぁ〜!!!」

 

 スイナは思い切りマーゼラの腹にパンチ!

 

 「がばっ・・・」

 

 マーゼラは一撃でノックダウン。

 

 (あ・・・やり過ぎた!!)

 

 マーゼラは白目に泡を吹き倒れている。

 

 細い体から出た渾身の一撃は、ふくよかな貴族を吹っ飛ばした。

 

 先程のナバルの気持ちが少し理解出来たスイナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 周りの、刺すような視線が痛い。

 

 スイナは2番ゲートの入口にいた。

 

 さっき吹っ飛ばしたマーゼラはあの後すぐに意識を取り戻し、逃げるように1番ゲートに向かっていった。

 

 (参ったなぁ〜)

 

 スイナは周りの視線を避けるため、軽く俯く。

 

 その時

 

 「おーおー、結構集まってるな」

 

 突然、前の方から声がした。

 

 (ん?この声は・・・) 

 スイナは顔を上げ、前を見る。

 

 「ざっと百人って所か、おーしお前ら、注目」

 

 (あのオレンジの髪は・・・)

 

 スイナ含め、聖剣師希望入学希望者は皆、彼の方を向いた。

 

 「俺はナバル・ウィリア16歳。これでも退魔師二年目、そして今日君らの審査員。よろしく!」

 

 ナバルははにかんだ。

どうでもいいですが、タイトルの「黒白の退魔師」は(くろしろ)ではなく(こくびゃく)と読みます。

 

・・・どうでもよくはないか・・・。

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