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第十八話 VS悪役令嬢戦、これが最後です

 私とリカルドが侯爵家にたどりつくと、通用門の近くでミケーレとジュリアが話しあっていた。話の内容は分からなかったが、ふたりの声は聞こえた。夜のやみに、明るい金の髪が輝いている。ミケーレの杖についたサンゴが、彼を守るように光っていた。

 けがひとつないミケーレの姿に、私はほっとする。ジュリアの目的は彼だ。きっとジュリアが、ミケーレに回復魔法をかけたのだろう。ミケーレは私とリカルドに気づいて、安心したように笑った。

「無事でよかった、ソフィア。リカルド先輩も」

「お前もな」

 リカルドは笑った。だが三人で再会を喜ぶわけにはいかない。ジュリアは、私とリカルドをにらみつける。

「新月の夜に、やみ魔法の得意な私に向かって、戦いを挑むつもりですか?」

 私とリカルドは、杖と剣を魔法で出現させた。ジュリアは黒色の杖を構える。ミケーレはこちらに来ようとしたが、リカルドが、来るな! と視線で伝えた。

「ちょうどいいです。今、この場で記憶改ざん魔法をかけます」

 ジュリアは、ばかにしたように笑う。私とリカルドは示し合わせて、さっと左右に別れた。私たちの背後にいた少女が、一歩前に進み出る。彼女は、かぶっていたフードを取った。

 明るい茶色の髪が現れる。まだ十三才の子どもだ。美少女というわけではないが、勝気な瞳が人目をひく。

「おひさしぶりね、悪役令嬢ジュリア」

 少女の怒りに満ちた声に、ジュリアはひるんだ。

「いくら私が主人公でチート能力があって前世の知識まであるとはいえ、魔法を封じられた上で、家族みんなで北の辺境まで連れさらわれて、なんとか帰宅してみれば、大事な食堂を荒らされていて、……ここまでされると、さすがに負けそうだったわ」

 主人公のサラだ。私とリカルドは食堂で、サラと彼女の家族と会ったのだ。サラはど根性で魔力を取り戻し、辺境の村から王都まで家族とともに約一か月をかけて戻ってきた。帰ってきたとたん、主人公補正のめぐりあわせのよさで私とリカルドに出会った。

 出会った瞬間、私とリカルドは「よくも食堂を壊したわね」とサラに怒り狂われた。けんかになりかけたが、その誤解はすぐに解けた。

「復讐しにきたの? けれど私は、簡単にざまぁされないわ。今は私にとって有利で、あなたにとって不利な夜よ」

 ジュリアはさきほどひるんだものの、余裕ありげに笑った。サラがもっとも得意なのは、光の魔法だ。日の光がある昼間の方が、魔法は強くなる。

 しかしサラはちゅうちょなく、ジュリアに向かって一歩を踏み出す。逆にジュリアは一歩下がる。サラの右手に、オーケストラの指揮者のような細長い杖が出現する。ゲームで見たとおりの杖だ。

「ばかね。不利な条件がそろっていても、それでも勝つのが主人公よ」

 サラの杖が金色に輝く。勇ましい交響曲を奏でるように、彼女は杖を振った。

「やみよ、しりぞけ。わが道をさえぎるな。わが名はサラ・マリーノ。光をつかさどる者!」

 主人公だけが使える、聖なる光の魔法だ。

「スペランツァ!」

 サラを援護すべく、私とリカルドも光の魔法を使う。光が爆発する。真昼の太陽が、この場に現れたかのようだ。まぶしさに、私は両目を細める。光がおさまると、ジュリアの杖が白く輝いていた。

「熱いっ」

 彼女は顔をしかめて、杖を手放す。杖は一瞬で砂になって、さらさらと地面に落ちた。ジュリアはぼう然とする。

「あなたの魔法を完全に封じた。これであなたは、何も悪事を働けない」

 サラが冷然と言う。たったひとりの味方を失ったように、ジュリアは顔を真っ青にする。私とリカルドは、表情を変えずに安堵した。チートなジュリアの魔法は、大きな脅威だったから。

 ジュリアはサラをにらむと、侯爵家の邸に向かって逃げ出した。しかしジュリアをリカルドが追う。リカルドはあっという間に、彼女を捕まえた。

「離しなさい!」

 ジュリアは身をよじる。けれど無力なものだった。彼女の両手は、背後に立つリカルドがしっかりとつかんでいる。もうジュリアは逃げられない。彼女のもとへ、サラが歩み寄る。サラは右手を振り上げて、ジュリアのほおをぶった。

「今のは、長旅で体調を崩して、毎日のように吐いていた弟の分よ」

 ジュリアは驚いて、両目を見開いた。サラの体は、怒りで震えている。白い手には、あかぎれがあった。彼女は、相当に苦労したのだ。サラの怒りは理解できた。サラはまた、ジュリアのほおをたたく。

「今のは、父さんの分。私たち家族のために、乞食のようなことまでしたのよ」

 サラは再度、腕を振り上げる。ジュリアは、びくんと震えた。

「やめろ!」

 リカルドが一喝する。サラは腕を上げたままで、止まった。

「やりすぎだ」

 リカルドは冷静に言う。サラは腕を降ろした。だが唇をかみしめ、顔が真っ赤になっている。本当はもっと、ジュリアをぶちたいのだろう。それだけのことをされたのだ。自分だけではなく、家族をも苦しめられた。

 けれど無抵抗の人間に暴力をふるい続けるのは、やめた方がいい。サラもそう感じたから、リカルドの言葉に従ったのだろう。ジュリアはショックを受けた様子で、サラを見ていた。今、初めて自分のしたことが分かったのかもしれない。

 私はサラのもとへ駆け寄って、彼女の小さな体を抱きしめた。

「サラはえらい。たたくのをやめたのは、本当にえらい。あなたは真実、光の聖女よ」

 やせた背中を優しくなでる。過酷な旅のせいで、やせてしまったのだろう。サラはこらえきれなくなって、わっと泣き出した。主人公は、本当に主人公だった。光の道を、まっすぐに歩く。

「ロレンツォ隊長、どこですか? 出てきてください」

 リカルドは周囲を見回した。あたりが急に明るくなる。この世界に街灯はない。しかし魔法で街灯のような明かりをたくさん作りだし、周囲を明るくすることはできる。

 いったん明るくなると、あちこちに騎士たちやコルティーナ魔法学校の先生たちが隠れていた。私とリカルドとサラが失敗したときに備えて、やみ魔法の得意な先生たちが控えていたのだ。

 親衛隊隊長のロレンツォが、リカルドとジュリアのもとへやってくる。彼は一枚の書類をジュリアに見せた。

「国王陛下のご命令だ。君を城に連れていく」

 ジュリアは書類を見て、表情をくずした。誰か、助けてくれ、と彼女の目が訴えている。彼女は、まだ十五才の子どもなのだ。でも子どもだからといって、許されるわけではない。私はジュリアに同情したが、何もできない。ミケーレも悲しそうな顔をしている。

 リカルドはジュリアを、ほかの騎士に引き渡す。そのとき邸の中から、中年の男女がやってきた。

「侯爵様」

 ロレンツォが中年の男の方を見て、気まずそうに呼びかける。男は、――ジュリアの父親はつらそうにしゃべる。

「私たちは、情けない親です。娘が何をしたのか、よく分かっていません。けれど私たちを、娘とともに城まで引っ立ててください」

「それはなりません。あなたとあなたの奥方を罪人扱いできません」

 ロレンツォは困っている。

「娘と同じく、罪人扱いしてください。私たちはわが子について、何も理解できていません。ジュリアは昔から、前世の知識とやらのせいで大人びた子どもでした。私たち親に心を開いていないことも感じていました」

 父親はさびしげに笑う。それから強く話した。

「それでも、私たちはあの子の親です。今、このときにジュリアに寄りそわなくて、何が親ですか!?」

 父親の気迫に、ロレンツォはけおされた。

「承知しました。あなたたちも城にお連れします」

 その瞬間、ジュリアの瞳からぽろりと涙が落ちる。彼女はうつむいて、ただ涙を流した。ジュリアのそばには、彼女の親がいる。どんなときでも守ってくれる存在が。ジュリアたち親子を、ミケーレはじっと見つめていた。

「よかった。真実の愛は、ジュリアのそばにある」

 彼は、茶色の両目を優しく細める。ミケーレもジュリアにひどいことをされたのだから、彼女に怒ってもいいはずだ。だが彼は今、ジュリアが親から愛されていることを喜んでいる。私は、泣いているサラを抱きしめながら笑った。

「今、ジュリアを思いやることができる、私はそんなミケーレ君が大好きだよ」

 ミケーレは目を丸くした。そして照れたように笑う。

「俺が優しくて穏やかなのは、ソフィアのおかげさ。君こそが、俺の真実の愛だ」

 大人びた顔を見せる彼に、私のほおは赤くなった。私の心からの愛は、今、目の前にいるこの少年だ。彼がいるから、私は私でいられる。サラがくすんくすんと泣きながら、笑う。

「さすがイタリア風異世界、アモーレの国。男はみんな口がうまいのね」

 私は思わず笑ってしまった。ミケーレは、悪口を言われたのかほめられたのか分からなくて、首をかしげた。

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