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第十七話 ミケーレ君VS悪役令嬢です

 ミケーレがジュリアから解放されて、侯爵家の通用門から外に出たとき、あたりはすっかりと真っ暗だった。もう夜だ。ミケーレは今からソフィアとリカルドの家に行くつもりだが、彼らに会えるだろうか。

 門のところに立つジュリアは、くやしそうな顔をしている。彼女はミケーレに、何度も記憶改ざん魔法をかけた。しかし今から魔法をかけますと言われて、バカ正直にそれにかかるほど、ミケーレはおろかではなかった。

 ジュリアは同じ魔法を何回もかけて、ミケーレは毎回、それに耐えた。そのうち、ミケーレには耐性ができた。今、この国でもっともジュリアの魔法にかかりづらいのはミケーレだろう。

「今夜は月がない。やみ魔法の使い手の私にとって、都合のいい夜。あなたを見送った後で、私は王都中の人に記憶改ざん魔法をかけるわ」

 ジュリアは勝気に言った。ミケーレは静かな調子で話す。

「でも俺は二度と、君の魔法にかからない」

「前回よりずっと強力な魔法を使う。だからソフィア先輩もあの魔法剣の男も、正しい記憶を失う。あなた以外のすべての人が、あなたを私の婚約者の王子として扱うのよ」

「俺は、みんなにかけられた魔法を解くよ」

 真実を知るのが自分ひとりだけになっても、ミケーレは戦い続ける。ミケーレにとっての真実は、抱きしめたソフィアのぬくみ。彼女からの愛。

「解けないわ。もし解けるとしても、時間がかかる。あなたが手こずっている間に、ソフィアはきっと本来の相手と結婚する」

 ジュリアは勝ち誇ったように言う。しかし寒さに震える少女が虚勢をはっているだけのように、ミケーレには思えた。あわれだが、負けてあげるわけにはいかない。

「ソフィアが俺以外の男と結婚するとして、それがリカルド先輩なら俺に不服はない」

 ミケーレはほほ笑んだ。ジュリアはショックを受けて黙る。リカルドは、これ以上はなくかっこいい男だ。ソフィアを守る、頼もしい騎士だ。世界をほろぼすという、伝説のやみのドラゴンを倒しそうなほどに強い。

 だからミケーレはソフィアの相手がリカルドならば、涙をのんで笑って彼らを祝福する。ソフィアとリカルドの幸せを願い続ける。

 ミケーレはジュリアに連れられて侯爵家に行く途中、何度も公園を振り返った。ソフィアとリカルドが、大けがをしていたからだ。本当は公園にかけもどって、ふたりを助けたい。

(けれどふたりの安全を思うのなら、ジュリアを公園から、――特にソフィアから遠ざけるべきだ。ジュリアはソフィアを、ひどく憎んでいる)

 ミケーレは苦渋の思いで、ジュリアについていった。ミケーレがまた振り返ったとき、公園から薄い桃色の光の柱が二本たつのが見えた。最上級のいやしの魔法だ。こんな魔法が使えるのは、コルティーナ魔法学校の先生か城に勤める魔法使いぐらいだろう。

 おそらく公園での騒ぎに気づいて、先生たちがやってきたのだ。ミケーレは安堵のあまり、腰が抜けそうになった。ソフィアもリカルドも、今ごろ先生たちに助けられている。公園の火事も、先生たちが消してくれるだろう。

 だがソフィアたちの無事な姿を見るまでは、ミケーレは完全には安心できない。よってジュリアと別れたらすぐに、彼らの家に行くつもりだ。

「あなたは、私の知っているミケーレ王子ではないわ。彼はもっと暗くて、心に深い傷を負っている。そんな風に、優しく穏やかにほほ笑まない」

 ジュリアは苦しそうにしゃべった。

「俺は、ちょっと抜けているところがあって、魔法を失敗して自分自身が燃えちゃうミケーレ君だよ。けっして完璧な人間ではない」

 ミケーレは苦笑した。その欠点のあるミケーレを、ソフィアは愛してくれているのだ。

「ミケーレ王子は何でもできる完璧な人で、孤独な人でもあるの」

 ジュリアは言い張る。なぜ彼女は、こうもミケーレのことを決めつけるのか。ミケーレは、ジュリアと仲がいい自信はある。先輩として頼られているのも感じている。しかしあくまで友人のひとりであって、そこまで深い付き合いではない。

「俺には母がいる。今はもう会えないけれど、父もいる。ふたりは俺を愛してくれている」

 ミケーレは冷静に反論した。ジュリアは心底嫌そうに、顔をゆがめる。

「親なんて、自分に都合のいいときしか子どもを愛さない。中学受験で第一志望校に受かったときは、喜んでくれた。なのに大学受験で失敗しただけで、――たかが現役合格を逃しただけで、手のひらを返した!」

 ミケーレは、ジュリアが何について話しているのか分からなかった。だが、彼女が苦しんでいることだけは感じとれた。

「一浪して、しんどくてたまらなかったとき、私はゲームの中であなたに出会った。あなたは『完璧な王子にならなくてはならない。そうでないと父から関心すら寄せられない』と嘆いていた」

 ジュリアはさけび続ける。そのときミケーレは、侯爵家の邸の二階にある窓から、彼女を見つめる人影をふたつ見つけた。ジュリアの両親だ、と気づいた。

 彼らは突然、家にやってきたミケーレに驚いていた。けれどミケーレもジュリアも何も話さなかったので、ただ心配そうなまなざしをジュリアに送るだけだった。

「私はあなたのおかげで、難関大に合格できた。私をバカにする親を、見返すことができた。でも、トラックにひかれて死んだ。だから今度は私が、あなたを国王にしてあげる」

「ジュリア!」

 軽率に過ぎる発言に、ミケーレは彼女をしかりつけた。ジュリアはびくっと震える。

「今の言葉は、二度と言うな。国王になるのは、俺の兄であるレオナルド王太子殿下だ」

 いくら王位継承権を捨てたとはいえ、ミケーレは王の子どもだ。さらにジュリアは、侯爵家の令嬢だ。ふたりの立場を考えると、王位を望むような言動は危険だった。平地に乱を起こすようなものだ。

「それに、君の両親は君を愛し案じている」

「どうして、私と卒業・進級パーティーで踊ってくれなかったの!? しかも男同士で踊って、私をこけにして」

 ジュリアはミケーレの言葉を聞かず、爆発したように責めた。ミケーレは、ぽかんと口を開ける。ミケーレは、ジュリアが自分と踊りたがっていたことを知らなかった。彼女は一言も、踊ってくれと言わなかった。

 パーティーのとき、ミケーレは親友のエドアルドと踊った。ソフィア以外の女性と踊りたくないという気持ちもあったが、実のところただの悪ふざけだった。

 もしジュリアが事前に踊りたいと言っていれば、話はちがっただろう。ミケーレは多分、ソフィアに相談した。ソフィアは、「いいよ。踊ってあげなよ」とほほ笑んだだろう。ちょっとぐらい嫉妬してくれるとは思うが、彼女は寛大な人だ。

「私は悪役令嬢のジュリアなのに、なぜ私と婚約してくれないの? 優しくしてくれるから期待していたのに、パーティーでも踊ってくれない。あなたが四年生のときのパーティーはあきらめている。でも二年生と三年生のときぐらい、踊ってくれてもいいじゃない!」

 ミケーレは黙って、話を聞いた。彼女の言うことは支離滅裂だ。子どもが、かんしゃくを起こしているだけだ。実際にジュリアはまだ十五才で、子どもなのだ。

「あなたが踊ってくれなかったから、私は……」

 ジュリアは言葉を止めた。目が泣きだしそうだった。ミケーレは彼女を、まっすぐに見つめる。

「ジュリア。君が俺と踊りたがっていたことに気づかなくて、すまない」

 きちんと謝罪する。ミケーレがこの国で一番かっこいいと思うリカルドなら、きっとこう言う。ジュリアはすがるように、ミケーレに手を伸ばした。

「けれど俺が踊らなかったからといって、俺や周囲の人たちに記憶改ざん魔法をかけていいわけではない」

 彼女の細い手が止まる。ミケーレは無詠唱で、魔法の杖を出現させた。ミケーレを鼓舞するように、深紅のサンゴが光っている。

 深紅は、ソフィアの好きな色だ。彼女の杖も赤い。そしてサンゴは、父親からの贈りもの。王の息子らしく、強くなりなさいというメッセージ。

「ましてや、ソフィアとリカルド先輩を傷つけていいわけでもない。俺は負けない。君の思いどおりにはさせない」

 ジュリアはミケーレをにらみつけて、呪文を唱えて杖を出す。夜のやみに溶けるように黒い杖だ。ミケーレは、ジュリアと窓辺に立つ彼女の父母に向かって宣言した。

「俺はどんな状況でも、真実の愛を見つけ出す。そしてそれは今、ここにある」

 やみの中に隠れている光をつかむ。希望スペランツァのともしびを手に持ち、他者に分け与える。ジュリアがくやしそうに歯がみした。

 ミケーレは、二階にいるジュリアの両親に呼びかけようとした。だがその前に、夜の暗がりからソフィアとリカルドがやってくるのに気づく。ミケーレのもっとも愛する女性と、もっとも尊敬する男性だ。

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