表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/24

第十五話 歯をくいしばって、がんばります

「はい」

 私は答える。

「私は、国王陛下に仕える騎士ロレンツォだ。ソフィアさん、今からわれわれと城に来てほしい。陛下に対面して、ここであったすべてのことを話してくれ」

「もちろんです」

 私は言った。

「隊長。俺はジュリアの家に、ミケーレを助けに行きます。ソフィアをお願いします」

 リカルドがロレンツォに言う。しかしロレンツォは顔を厳しくした。

「それはならん」

「なぜですか?」

 リカルドはとまどった。彼は今すぐにミケーレのもとへ行きたいのだろう。私も同じ気持ちだ。

「相手は侯爵家だ。騎士ひとりが行っても、邸の中には入れてもらえない。さらにジュリアは、やみ魔法が得意な魔法使いだ。対してわれら親衛隊は、根が単純なやつが多いのか、光魔法が得意な者が多い」

 ロレンツォは言ってから、空を見やる。太陽はすでに落ちかかっている。夜が来るのだ。やみの魔法にとって有利で、光の魔法にとって不利な夜が。

「今から城に戻り、ことの次第を国王陛下にご報告申し上げる。おそらく陛下は、私たちに侯爵家に向かうようにお命じになるだろう。われわれは明日、日の出を待って、陛下の命令書を携えて侯爵家へ行く」

 それが正しいやり方だ、と分かった。だが私は唇をかむ。今すぐミケーレのもとへ行きたいのに。リカルドも、くやしそうにうつむいた。

「ソフィアさん、君の大切な人をすぐに救出できなくてすまない」

 ロレンツォは腰を落として、私より低い位置から謝ってきた。彼は誠心誠意、謝罪している。

「いえ。ミケーレ君をお願いします」

 私は笑顔を作る。あまり上手に笑えなかったが。

「わが主、アンドレア国王陛下の名にかけて」

 ロレンツォは力強い声を返す。彼はさっと立ち上がり、リカルドに命令した。

「リカルド、レディの扱いは心得ているな? 彼女を、王城の国王陛下のもとへお連れしろ」

「はい」

 リカルドが返事をすると、ロレンツォは立ち去った。私は、国王と会うのは初めてだ。正直な話、緊張する。けれど国王はミケーレの父で、息子を愛している。ミケーレのために尽力してくれるだろう。私はきっと、国王とうまく話せる。

 国王はゲームの世界では、主人公のサラがミケーレとくっつく場合にのみ現れる。このルートのときだけ、国王はわが子の卒業を祝うために、コルティーナ魔法学校の卒業・進級パーティーにやってくるのだ。そしてサラにほほ笑みかける。

「君は息子を笑顔にした。それは、やみのドラゴンを倒したことよりすごいことだ。ありがとう。心より感謝する」

 そこまで思いだして、私は考えた。私は、本編には出てこないモブキャラだ。悪役令嬢という主要キャラのジュリアに立ち向かうのは厳しい。悪役令嬢に勝つのは、誰だろう。それは……。

「リカルド。王城へ行く前に、寄ってほしい場所がある」

 私の唐突なお願いに、彼は驚く。

「彼女が味方になってくれるか分からない。もしかしたら、ジュリアみたいに敵かもしれない」

 前世の知識があるかもしれない。ないかもしれない。性格のいい子かもしれない。悪い子かもしれない。何もかも分からない。

「でも会ってみたい。助けてくれと頼みたい。ミケーレ君のためにやれることは全部、やっておきたい」

「彼女って誰だ? 俺の知っている人か?」

 リカルドは、まゆをひそめた。

「知らない人よ。私も会ったことはない。けれど私は彼女を知っているし、どこに住んでいるのかも分かっている。この国で、もっとも魔法の才能がある女の子。特に光の魔法が得意で、将来は光の聖女とまで呼ばれる」

 明るい性格で、ちょっと勝気な少女だ。みんなから愛されて、運も強い。運の強さは、主人公補正というものだ。私の説明に、リカルドは当惑している。しかし私は止まらない。私は彼女に、いちるの望みをかける。

「このゲーム、『光のスペランツァ』の主人公サラ。悪役令嬢ジュリアに勝てるのは、――ミケーレ君を助けだせるのは、ヒロインのサラだけ」

 リカルドは少しの間、黙って悩んだ。私の言っていることが理解できないのだろう。だが彼はすべてをのみこんで、うなずいた。

「分かった。お前を信じる。行こう」

「ありがとう」

 私は感謝した。リカルドのさきに立って歩きだす。たとえサラとミケーレが出会って、ゲームの展開どおりにふたりがひかれあっても構わない。ミケーレが笑顔でいるなら、私は身を引ける。どれだけつらくても、笑ってみせる。

「場所はどこなんだ? 城から近いのか?」

 リカルドはたずねる。

「ある程度、近いわ。それから、あなたの家の近所よ」

「え?」

 リカルドは目を丸くした。サラの両親は、王都で小さな食堂を営んでいる。パスタもピッツァもおいしく、スイーツも絶品だ。いわゆる隠れ家レストランで、テーブルが四卓、カウンター席が五席あるのみだ。

 地元の人たちから愛されて、いつも食堂は混んでいる。ときに、王侯貴族もお忍びで食べに来る。実際にゲーム本編では、ミケーレ王子がお忍びでサラに会って食事をするために来た。

 だがこじんまりとした食堂なので、リカルドは知らなかったのだろう。私は食堂の存在を知っていたが、サラと鉢合わせしたくなくて避けていた。

 日はどんどんと落ちて、あたりは暗くなる。私とリカルドが着いたとき、食堂はすでに閉まっていた。意気ごんでいただけに、私は落胆する。

「明日、出直した方がよくないか?」

 リカルドが提案する。常識的な意見だった。

「そうね。でも……」

 私はあきらめきれず、食堂の二階を見上げた。そこでサラと彼女の弟と両親は、暖かな夕食を囲っているはずだ。ところが私は首をかしげた。二階に、明かりがいっさい見えないのだ。誰もいないかのように、静まりかえっている。

 私は不審に思って、食堂の玄関扉に手をかけた。扉にはカギがかかっておらず、すんなりと開いた。

「どういうことだ?」

 リカルドが、けげんな顔をする。もしサラたちが旅行などで留守にしているのなら、きちんとカギをかけるだろう。なのにカギがかかっていない。リカルドは魔法の呪文を唱えて、剣を出現させた。私も臨戦態勢になって、杖を出す。

「俺がさきに入る」

 リカルドは警戒しつつ、食堂に足を踏みいれた。私は彼に続く。食堂の中は暗い。

「ルーチェ」

 私は魔法で、あたりを明るくした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ