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第十二話 やっぱりリカルドは頼りになります

 翌日の昼下がり、私はひとけのない公園にひとりでいた。この公園はコルティーナ魔法学校の近くにある。そして花壇やベンチが少ないので、あまり人の来ない公園なのだ。

 季節は秋だ。小さな花壇には、真っ赤なケイトウの花が咲いている。赤は、私の好きな色だ。今、右手に持っている魔法の杖も、深紅だ。

「ソフィア先輩らしい色ですよね。青や白より、赤って感じがします」

 昔、ミケーレは私の杖を見て、そう言った。私が理由をたずねると、彼は照れながら「内に秘めたる情熱の赤」と答えた。

 私が花を見つめて待っていると、リカルドが学校帰りのミケーレをつかまえて、公園までやってきた。ミケーレは私の存在に気づくと、不快そうにまゆをひそめる。

「スパーダ」

 リカルドは呪文を唱えて、愛用の剣を出現させる。ミケーレは警戒して、私とリカルドを見た。彼も魔法の杖を出す。赤い宝玉のついた杖だ。

「わざわざ公園まで連れてきて、何の用ですか?」

 昨日、ミケーレから無視された私は、普段どおりに研究所に仕事に行った。嫌な夢を見て恋人に冷たくされたからといって、仕事を休むわけにはいかなかったのだ。

 私は勤務を終えてから、リカルドの家に行き彼に相談した。リカルドも同じ夢を見たらしく、彼はすぐに事情を了解した。

「ミケーレ。お前は、人の心を操る魔法や記憶を変える魔法を習ったか?」

 リカルドは問う。ミケーレはけげんな顔をした。杖を油断なく構えながら答える。

「この九月から習い始めました。ですが、それが何ですか?」

「ということは学習したのは、まだ初歩の初歩だけだな」

 リカルドは確認するように言う。私も口を開いた。

「私とリカルドは三、四年生のときに、心や記憶に関する魔法をしっかりと勉強した。人の記憶や想いをゆがめる魔法も、その魔法を解除する魔法も、その魔法にかからないようにする魔法も」

 ミケーレの茶色の瞳に、不安の影が見える。心当たりがあるのかもしれない。

「だから私たちは、嫌な夢を見るだけで済んだ。でも、あなたはちがう。あなたはこれから、それらの魔法を習得する」

 まだ成長途中の三年生だ。よって私とリカルドが、先輩として彼を助ける。

「ヴェリタ!」

 私は杖を、リカルドは剣をかかげる。何本もの光の矢が、ミケーレに突き刺さった。彼は杖を持ったまま、体を折り曲げる。がくんとひざをついた後で、顔を上げた。つきものが落ちたような表情だった。彼は私を見て、顔を青ざめさせる。

「ごめん、ソフィア! 俺は君に、冷たい態度を取った」

 彼は正しい記憶を思い出したのだ。私はほっとして、ミケーレのもとにかけよる。

「ミケーレ君が謝ることではないよ」

 私はほほ笑み、彼を立たせた。ミケーレは立ち上がると、今度はリカルドに謝罪した。

「ごめんなさい、リカルド先輩。俺はさっきまで、先輩に失礼な言動をとっていました」

「悪いのはお前じゃない。お前に魔法をかけたやつだ」

 リカルドも優しくほほ笑む。それから厳しい顔になって問いかけた。

「誰が魔法をかけたか覚えているか?」

「はい」

 ミケーレはうなずく。

「俺の後輩の、二年生のジュリアです。おとといの放課後、彼女とふたりで話しているときに、魔法をかけられました。彼女が『親とうまくいかない』と言うから、相談にのっていたのに」

 彼の表情は苦い。おそらくミケーレは真剣に、ジュリアの悩みを聞いていたのだろう。だが、その困りごとはうそだった。ジュリアは研究所で私と対面した後で、ミケーレに会って魔法をかけたのだろう。ミケーレの善意につけこんだジュリアに、私は怒りを覚えた。

「やはり犯人はジュリアのようだな」

 リカルドは冷静に言う。私は首を縦に振った。しかしジュリアは、本当にチートなようだ。記憶を変える魔法は難しい。その難易度の高い魔法を、彼女は私とリカルドとミケーレに使ったのだ。ひとりにかけるだけでも大変なのに。

「ミケーレ君、今から学校へ行って、先生方にこのことを報告しないといけない」

「記憶を変える魔法の使用は、基本的には禁じられている。ありていに言えば犯罪だ。ジュリアは退学だろう」

 私とリカルドはミケーレに言う。ミケーレは逡巡した後で、はいと答える。魔法学校の生徒にとって、退学は重い罰だ。

 一般的に、記憶を変える魔法は、つらいことを忘れたい人に対して使う。本人とその家族と十分に話しあい、さらに同意書に署名してもらってから魔法をかける。

「それと、これは私の予想だけど、ジュリアは、ミケーレ君の周囲にいる人たちにも記憶改ざんの魔法をかけている」

 私は言った。ミケーレは、はっとする。思い当たるふしがあるのだろう。ミケーレの記憶を変えても、彼の周囲にいる母親や友人たちの記憶がそのままでは、いろいろと具合が悪い。

 だからきっとジュリアは、私、リカルド、ミケーレのみならず、ミケーレのまわりにいる人たちにも魔法をかけた。ミケーレは深刻な顔つきで、唇を引き結んでいる。

「もしかすると、あなたを含め三年生全員が魔法をかけられたのかもしれない。そうなると、私とリカルドだけでは対処できない。先生方を頼りましょう」

 この私の予想が正しければ、ジュリアはこの国で一番の魔法使いだ。学校の先生でも、これだけ大勢の人たちに記憶改ざん魔法を使えない。それをたった十五才の少女がやったのだ。

「ソフィアの考えは合っていると思う。とにかく学校へ戻ろう。先生方はまだ校舎内にいるはずだ」

 ミケーレは決然と言う。

「魔法学校で先生方と相談した後は、俺たちは城にも行かないといけない」

 リカルドが重々しく話す。ミケーレは首をかしげた。

「今日、俺と親衛隊隊長で確認したが、ミケーレの王位継承権放棄の書類が城から紛失しているんだ」

「え?」

 ミケーレは目を丸くした。こんな話は予想していなかったのだろう。私はすでにリカルドから、書類がなくなった話は聞いていた。

「書類には、国王陛下と王太子殿下の署名も入っている。そんな大事な書類が消えた。今、隊長たちは書類を盗んだ犯人を探している。ただ俺とソフィアは、ジュリアが書類を盗んだのではないかと疑っている」

 ミケーレの顔から血の気が引いていく。ことの重大さを、彼は分かっているのだ。

「もし書類を盗んだ犯人がジュリアならば、彼女はどうなるのですか?」

 ミケーレにとって、ジュリアはかわいい後輩だったのだろう。彼はジュリアの身を案じていた。

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