未知との遭遇
「うわあ! 本当に足がない――!」
フワフワ浮いている――! 青白く光っている――! まさに半分青い!
「いやあああ! 顔が無いのに喋ったわ――!」
……それな。
マジで凹むから言わんといてくれるかな。驚き過ぎだろう、お化けのくせに。
「貴様いったい何者だ」
「……」
敵か味方かさえ分からないお化けだが、どうやら襲ってはこないようだ。だが油断は禁物。
「……ゆっくり近づいてきて生気を吸い取る系のお化けなら勘弁してほしいところだが」
「そんなことしません。っていうか、できません」
本当かなあ……お化けって嘘つくからなあ……。
「お化けとはいえ、魔王城に不法侵入するとはいい度胸だ」
おかげでとんだ時間外労働だ。
男子トイレの前で事情徴収をした。どうやら夜だけしか活動出来ないのをいいことに、せっかく魔王城近くに来たから見物に寄ったそうだ。
「だったら入場券を買って入ればいいのに」
一日八二〇〇円のチケット。年パスなら二六八〇〇円……。魔王様……ひそかに鬼だ。魔王城耐震補強工事の費用を稼ぐのに必死だ。
「わたし、お金持ってないの」
「それは……そうだな」
お化けなんだから。
「だからこうやって夜にすり抜けて入ってきたのです。……でも、トイレは我慢できなくて」
「……」
頬を赤くしないで。
そもそもお化けってトイレ行く必要があるのだろうか。何が出るというのだ。
「ひどおい~!」
急に両手で拳をつくりプンプン怒る姿に呆れてしまう。
「すまない。私にはアンデットの体の仕組みが理解できていないだけだ」
アンデットの生態系も理解できていないのだ。
「自分もアンデットなのに?」
――!
「私はアンデットではない。……魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンだ」
知らないとは言わせないぞ。超有名な四天王なのだぞ、四・天・王!
「えー! あ、あなたが宵闇のデュラハン……様」
「さよう」
ちょっと胸を張って凛々しく見せることになんの罪悪感もない。
「噂通りですね」
「う、うん」
――めっちゃ気になるぞ! 噂通りって――!
「で、先ほどまで一緒にいたのが魔王様だ」
「え、魔王様!」
「ああ」
我ら魔王軍の総帥たる魔王様がお化けの声を聞いただけで一目散に逃げ出したから……さぞかしガッカリしているだろう。
「お化けの声を聞いてすっ飛んで逃げたことは。皆に内緒だぞ」
「はい。分かりました」
クスクス笑っている。
「不法侵入の件は他の魔族に内緒にしておくから、今のうちに城から出るがよい」
「出ると言っても……わたし、こわあい。暗くてどこから出ていいか分かんない」
「『こわ』と『い』の間に『あ』を入れるでない」
ため息が出る。魔王城内で迷子か。真夜中だから館内放送も使えないし、サービスカウンターも開いていない。サービス悪い。
「仕方がない、一階玄関まで送っていこう」
「ありがとう。さすがは魔王軍四天王」
礼を言われるまでもない。だが、さりげなく腕に腕を絡ませようとするでない――。初対面で馴れ馴れしいぞ!
こうやってお化けはじりじりと近づき生気を奪っていくんだぞ――!
お化けの手口だぞ――! たぶん。
「あら、デュラハンまだ起きていたの。珍しい~」
「――!」
三階から二階へと階段を下りる途中、酔っ払ったサッキュバスとバッタリ出会ってしまった。胸元が大きく開いた淫らな服装で深夜の魔王城内を徘徊するなと説教してやりたいところなのだが、今は分が悪い。マズいところを見られてしまった……。
お化けの白い服がスケスケだからよっぽど淫らだ。破廉恥だ。変な噂を流されそうで怖い。だが、みんな安心してくれ、私が興味あるのは女子用鎧だけなのだ。裸体とかにはぜんぜん興味ないのだ。
「変態?」
あんたは黙ってて。
「サッキュバスこそ深酒はやめて早く寝るのだ」
もう四時だぞ。もうすぐ外が明るくなるのだぞ。
「一緒に飲まない」
「飲まぬ。明日の職務に支障をきたす」
明日というよりも今日……。
「じゃあ、一人で何やってるのよ」
一人じゃないだろ。
「ああ、こちらのお化けに魔王城内を案内しているのだ」
お化けも軽く会釈をする。
「ひょっとして……酔ってる」
酔っているものか。今日は一滴も飲んでいない。深夜勤務中ともいえる。
「酔っておらぬ……。いや、まさか、サッキュバスには見えないのか」
「なにも」
なんだ見えないのか。ふー助かった。安心したぞ。
「アンデットだから見えなくても仕方がないか」
お化けの方を見るとペロッと舌を出している。こっちもやれやれだ。
「早く寝るのだぞ」
「は~い。お・や・す・み」
「・」を間に挟むなっつーの。
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