丑三つ時
魔王様の部屋で懐かしいゲームをして時間を潰した。
まるで修学旅行の夜のような盛り上がり……。「ウノ」って言い忘れて何度もカードを取らされた。
布団に入って好きな女子の名前を言い合った。実際には布団に入っているのは魔王様だけで、私はベッドの下の大理石の床の上だ。金属製鎧がちーんと冷たくなる。せめてモーフぐらいは欲しい。新聞紙敷いてほしい。
……魔王様がまだ石像になった女神のことが好きなのを聞いてしまい……未練タラタラだなあと思った。男って引きずるよなあ……とも思った。
「そういうデュラハンこそ、まだ女勇者を諦めておらぬではないか」
「やめてください。バラさないで下さい。さらに私が欲しいのは女勇者が身に付けている『女子用鎧、胸小さめ』でございます。キャ、言っちゃった」
「クスクスクス」
布団の中で笑わないで。
「変態」
「いえ、変態ではございませぬ。絶対に内緒ですよ」
「誰に」
「……」
誰にって……酷いぞ。まるでみんなにもうバレているみたいで涙が出てくる。
窓から差し込む月の光が雲に隠れ、とうとうその時間が来た。
――泣く子も黙る……丑三つ時。いや、草木も眠る……深夜二時。
「時間になりましたよ。起きて下さい魔王様」
「むにゃむにゃ。……あと五分」
あと5分って……。
仕方なく5分待った。
「魔王様、そろそろ起きてください」
「むにゃむにゃ。……デュラハンの……」
「デュラハンの……なんでございましょうか」
寝言を言っているのでしょうか。寝言は寝て言って欲しいぞ。魔王様のお顔にそっと耳を近づける。冷や汗が出る。首から上は無いのだ。
「クソが! むにゃむにゃ」
「……」
なんか腹立つなあ……。そんなハッキリ寝言を言わないで欲しいぞ。って言うか、絶対に起きているぞ――。仕返しに鼻を摘まんで差し上げる。
「……」
「……」
魔王様の寝室が静かになった。そりゃそうだ。
「プハー」
口がカパッと開き息をするのだが……まだ目覚めない。本気で寝ている。
試しに鼻と一緒に口も摘まんで閉じてみる。私には首から上が無いから鼻や口や目が羨ましいのだ。
「……」
「……」
――これで魔王の座は私のものだ――!
「ぶはー! やめ~い! 死ぬやろがっ!」
魔王様が急に目を開けて私の手を振り払った。……ちっ。
「冗談でございます。なかなか起きないので本当に寝ているのか試させていただきました」
「せっかくいい夢を見ておったのに」
「どんな夢でございますか」
あ、顔が赤くなった。……絶対にエッチな夢だったんだ。
準備していた懐中電灯を手に魔王様の寝室から男子トイレへと向かうことにした。
銀色の懐中電灯。単二の電池が二本入るやつだ。豆電球だから……ぜんぜん明るくなく、点けている方が逆に怖いのではないだろうか……。
魔王城内の照明は夜間、非常灯を除きほとんどが消される。省エネなのと……小さな虫が遠くから寄ってくるのを防ぐためだ。だから廊下が……暗すぎて嫌になる。まるでホラー映画に出てくる廃墟のようだ。
「廃墟は酷いぞよ」
「痛い!」
ギュッとお尻を抓らないで! 全身金属製鎧だが抓られると痛いのです。
いつもよりも廊下が……長く感じられる。
窓の外は月が出ていないと真っ暗だ。中庭から狂乱竜のイビキが不気味に響き渡る。
「……あんまりくっ付かないでください。歩きにくいです」
ピチピチギャルなら嬉しいのですが、魔王様なら……もっと嬉しい。懐中電灯は一つしかなかったので私が持っている。
「お化けなんか怖くないでしょ」
怖がり過ぎる魔王様にいささか疑問を抱いてしまう。いまどき小学生低学年でもここまで怖がらないだろう。
「いやデュラハンよ、お化けぞよ。実際に目にしたら滅茶苦茶怖いぞよ」
「ですが、お化けのモンスターなんてたくさんいますし見慣れているでしょ。なぜ無限の魔力を持つ魔王様がお化けなどを怖がるのか理解できません」
その気になれば辺りを明るくする魔法を唱えたり異次元へ移動させる魔法を唱えたりすればよいではありませんか。
禁呪文に……『成仏』とか『お経』とか『密葬』とかくらいあってもよさそうだ。
「では、卿は自分の家のトイレで見ず知らずのおっさんが勝手に入り込んで用を足していても怖くないと申すのか」
……。
「怖いです」
見ず知らずのおっさんが自分家のトイレで用を足していれば怖いに決まっている。それとこれとは話が別だ。
「ガチで怖いです」
――ある意味お化けよりも怖いぞ――。
「どこから入った!」とか、「あんた誰!」とか、「アンタあのコの何なのさ!」とか……冷や汗が出る、古過ぎて。
「であろう。お化けとはいえ不法侵入してはならぬのだ。魔王城に入るのであればたとえ幽霊や亡霊であっても入門許可証とか来場許可証とかの手続きを済ませなくては駄目なのだ」
そんなややこしく細かいルールがあったのか――。
いま作った感が拭いきれません――。
「顔写真入りICカードで管理を徹底しておるぞよ」
「剣と魔法の世界にそぐわないです」
そんなセキュリティーを設ければ、勇者パーティーに「ICカード偽造」のスキルが必須になります。
「入門前に検温も実施しておるぞよ」
「おやめください」
モンスターの体温って……みんなバラバラだろう。炎の精霊とかは……発熱していても分かりにくいだろう。
……普通の体温計で測れないだろう。脇の下がなさそうだから……。
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