表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫キャラにTS転生した私は、この世界で自由に生きる。  作者: うずいけ音叉
第四章 スローライフ及び平穏な日常での強化(仮)
86/167

86 なんちゃってスピネル型窒化珪素

 今日は朝から肌寒く感じる。

 暖房を入れると、肌が暖められて安心感が生まれた。


 強い寒風が吹き、部屋を横切るまでは。


「スラ子に、窓ガラスを割られてしまった件」


「ごめんなさい」


「あー、いや。責めたわけじゃあ無いんだよ」


 スラ子が、ちょっと本気を出しただけで、ボロボロになった家にも問題がある。

 レンガは無事だったが、ひび割れていたモルタルは全て剥がした。

 耐候面は優れていたが、耐久面に不安がある。


「そこで、衝撃波に耐えられるように何を作ろうかなと」


「あつさ、いちメートルの、コンクリートかべ」


「放射線でも防ぐのかな?」


 厚さは半分くらいでも機能するって話は聞いた事があるが、どうなのやら。

 さて、そこまでの防御力はいらないのだ。

 硬さというよりは、衝撃波の吸収が出来れば問題ない。


「シリコン樹脂を錬成するかー」


 ケイ素なんて、いくらでもあるし。

 サトウキビ辺りを原料にバイオマス合成樹脂をつくりーの。

 シリコンと混ぜてシリコンゴムをつくりーの。

 プラチナも加えてプラチナシリコンゴムから架橋して硬化させーの。

 壁に貼り付けるように錬成しながら成型、レンガに錬金溶接しーの。


「はいできたー、後はガラスか」


 実際は、数日掛けたが。

 透明なシリコン膜が家を覆い、レンガがむき出しになっているように見える。


 ここにきて、どれくらい経ったかな。

 肌寒いって事は、夏は過ぎているはずだけど。

 開発・研究してると、いつの間にか数日とんでるから困る。


「サトウキビ、しゅうかくたいへんだった」


 地下の植物工場で、ラインを増やして頑張っていたらしい。

 いつかやる必要のあった事だ、許せ!


 壁シリは劣化したら再錬成を掛けて戻せばいいだろう。

 つーことで、窓ガラスだけど。

 防弾ガラスって、何枚か別の素材を張り合わせるんだっけ?

 むー……。


「ちっと、時間かかるけど。据え置き型の錬成炉を作るか」


「もってるものじゃ、つくれないの」


「ダイヤを作るよりも、強い圧力が必要だからねー」


 開放型の錬成釜とかじゃあ、私には無理かな。

 錬金術に特化した人なら出来るのかもしれないが、出来ても効率は悪いだろう。




「出来た錬成炉が、こちらになります」


 ミスリルとファフニウムの合金で造った、足つきの球形錬成炉だ。

 この錬金炉に材料を入れ、魔力を流して錬成する。


 液体窒素、シリコン、グラビティストーン、ゴウエンタケに火の属性石。

 多少は魔法耐性を持たせたいから、悪魔の生き血も放り込む。

 足りない魔力は家の魔力変換機から引っ張って、錬成して加圧。

 終わったら、急速な冷却と減圧。

 吐き続ける白い煙が止まったら、終了の合図。


「おー、出来てる出来てる」


 綺麗に加圧された、透明な球体。

 圧力が足りないと非透過性の金属光沢が出るけど、きちんとガラスのような透明さが出ている。

 円周は、私が抱えても自分の手を繋げないくらいの大きさ。


「なに、つくったの」


「魔尖晶型シン・セラミクス。見た目はガラスだけど、相当硬いよ」


 ちょっとだけ、おっきな玉サイズになってるけども。


「どれくらい」


「ダイヤには及ばない、くらいだったかなー」


 だけど単結晶のダイヤと違って多結晶体だから、とても割れにくい。

 しっかり加工が出来て、無色透明な無属性武器の中ではトップクラスに強い。

 大抵の合金を切り裂ける程で、ダイヤカッターのように加工用の道具として使うのが一般的か。

 制作コストが重く、これを作るくらいなら属性武器でも背負った方が安いんだけど。

 今は武器として作ってるわけじゃあ無いから問題なし。


 一回だけでは量が足りないので、何度か作成。

 加工も本当は大変だけど、魔力はいくらでも使えるから錬成し放題だ。


「完成したこれを、窓にはめ――」




「ました!」


「お疲れさま」


 これで窓が割れることは無いだろう。

 はっきり言って壁よりも、窓の方が硬い。

 家を放棄するときも、窓だけは持って行かないとなあ。


「ところで、ここまでがんじょうにするいみは?」


「放火されて全焼してからの、死の灰が降るというデスコンボを警戒して」


「なにそれ、こわい」


 そこまでハードモードな世界じゃあ無いことを祈る。

 レールガン撃ってくるカマキリも怖いんだよなー。






 一仕事終えて、汚れを落としにシャワーを。

 髪の毛はパイラスが自ら洗っている。

 器用だと思っていいのか、自分で自分を洗うのは当たり前と思えばいいのか。


 それはさておき。

 程よい疲れを癒す温水に、思わず鼻歌が漏れる。


「~~~、~~~~」


 ふむん?

 あれ、これは使えるかも。

 隅々まで洗い終え、シャワースペースのエアカーテンを開く。

 パイラスがタオルで身体を拭いていく。


「ドクター。そのシャワー、ふだんからつかうものじゃないよ?」


「近いし、楽だし、つい癖で」


 研究開発室に設置してあるシャワーだ。

 使う事はまずないが、危ない薬品が掛かった時の緊急時、身体を洗うために使う。


 普段から研究室に引きこもっていると、よく使うんだよねー。

 だから、ついつい。


「いや、それどころじゃあ無いんだ。ちょっと思いついた事があるから」


 何かあったら呼んでね。

 部屋を出ながら、声を掛けた。

 今からやることは、趣味の範疇だから自室でゆっくりやりたい。




 コッ……コッ……。

 一定のリズム。

 心臓の鼓動と同じタイミングで、メトロノームが音を鳴らす。


 歌詞はいらない。

 母音だけの間延びした声を歌にする。


 明るいメロディライン。

 癒しを念頭に置きながら、鼻歌で曲を作っていく。


「なにをしてるの?」


 いつの間にか、スラ子が部屋に入って来ていた。


「面白いことが出来ないかなって。スラ子、催眠スキルをのせながら、私と同じ歌声を出してみて」


 よく分かっていなかったようだが、何度かお願いすると歌ってくれた。

 ふむ、やっぱり。


 催眠スキルは魔法では無い。

 スキルを使おうとした時、指や声、身体が動かす事で相手に催眠術を掛ける。


 今、歌声に催眠スキルがのっている。

 スライムの身体がそうしているのか、グラスハープのような澄んだ音。

 透明感のある声が室内に響く。

 合いの手に一定間隔で手を叩くことで、宗教的な一体感を得られる。

 緩いメロディが、起きていながら意識を遠くさせる。


 作ったメロディは、そう長くは無い。

 気に入った部分をループさせ、時にはアレンジを加える。

 スラ子は歌い続ける。

 未熟ながら試行を繰り返し、音だけでストーリーを組み立て、そして終わった。


 短く感じたけど、歌が終わる頃には身体の力が抜けるようなリラックス効果が出ていた。

 こいつ、作曲センスあるのかもなー。


「歌も悪くないでしょう?」


「うん、とってもふしぎだった」


 まだ、浸っているのか表情はどこか虚ろ。

 頭を撫でてあげると、少しずつ意識が回復する。

 すぐに、いつも通りのスラ子にもどった。


 これ、催眠効果が自身にも影響してるね。


「歌っていたスラ子にも催眠が掛かっていたみたいだけど、何とかならないの」


「なるとおもう、だけど」


 目を瞑って、思い返すように。


「それだと、あのきもちよさが、あじわえない」


 うーん。

 よっぽど危ない状況でもない限り、止める意味は無いんだけど。


「一応、催眠を掛けずに歌ってみて」




「むー、ふつう」


「普通だね」


 普通に歌ったスラ子は、何もかも普通だった。

 異様な引き込まれ方をする声が出ないので、意識を吸われることが無い。

 歌唱関係のスキルがあれば、丁度いい歌声も出せると思うけど、無いものは仕方ない。


「でも、歌は上達する努力をすると、ある程度までは上手くなるよ?」


 センスが求められるジャンルなだけに、才能がモノをいう世界だけど。

 それでも、良い物を知って、努力を続ければそれなりにはなる。


「うたの、どりょく……?。いまいち、やりかたがわからない」


 まあ、歌っていれば上手くなるなんて、そんなのは才能がある人だけだ。

 今は他人を気にしなくても良いから、スラ子の何が足りないかを考えるだけで良い。


「聞かれている場所で、歌っていればいいんじゃあないかな」


「ふーん、それでいいんだね」


「試しに、外で歌ってみたら? 催眠効果がどれくらいなのか、森の動物相手にみてみたいから」


「うたっていいの」


「良いよ、大丈夫。私以外に迷惑を掛けなければ、ね?」


 お外に、れっつらごー。

 特別な準備なんていらない。

 ただ外で歌うだけだ。




「好きなように歌っていいよ、私もスラ子の歌声を聞きたいから」


「わかった」


 玄関先、森に向かって空気を震わせる。

 うぐっ!?

 引き込まれそうな声に私のリミッターが反応し、不快感と共に意識が回復する。


 少し時間が経っていたようだ。

 枯らした更地の奥、森の入口付近に小動物が寄っていた。

 見える範囲ではリスや鳥、タヌキ。

 他の動物が混じっても喧嘩や狩りをして、場を荒らすようなのはいない。


 しばらく、歌声が響く。

 気持ちよく聞ければいいのだけど、リミッターがずっと不快感を訴えて来る。

 いまいち集中できず、暇になって来た。

 よーし、私も歌っちゃうぞー。


 別に私は音痴なわけでも、声質が悪いわけでも無い。

 しかし、私がスラ子の声にハモらせに入った途端、動物たちが騒ぎ出した。

 正気に戻った森の生き物が、すぐさま逃げるように去って行く。


 ……。

 ひどくね?

 スラ子の、責めるような視線が私を捉える。


「じー」


「えっと、その。ごめんね?」


「ドクターは黙っていて! 歌うの禁止!」


「お、おう」


 滅多にない流暢な早口で、怒られてしまった。

 そこまで嫌がらなくても。


 スラ子はその後も、しばらく歌い続けていた。

 私だけ家に戻り、リミッターの微調整をすることに。

 このままでは、日常生活にも支障をきたす。

 綺麗な歌声を聴く事が出来ないのは勿体ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ