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倉庫キャラにTS転生した私は、この世界で自由に生きる。  作者: うずいけ音叉
第四章 スローライフ及び平穏な日常での強化(仮)
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85 SR

 家の周りに、魔除けの水を撒いている。

 揮発した空間内に魔物が寄らなくなる、魔力に作用する神経毒。


 効果は幻覚。

 近づいても、変わったものが無いと錯覚してしまい、そのまま通り過ぎる。

 しかし、そのままだとぶつかって気が付かれる可能性がある。


 そのため、もう一つの作用。

 強力な光魔法の及ぶ空間だと認識させ、居続けたら存在が分解されそうに思わせる。

 もちろんフェイク、実際はそんな事にはならない。

 だけど、そう思わせることが出来れば十分。


 この二つの作用で、魔物が近寄れなくする。

 弱点は三つ。

 無機物には効かないこと、遮蔽物が無い状態で範囲外から見られたら看破されること。

 それと、幻覚作用が及ばないほどの強敵には効かないこと。

 魔力の薄い、普通の生き物には効果が弱いこと。

 あ、これじゃあ四つか。


 場所を選ぶが、非実体相手にも効くから便利だろう。

 撒くだけで、誰にでも使えるのも良い所。

 幻覚だけで実害を出すことは無いが、そこが逆にコストを抑えられて量産もしやすい。


 普通の人が使う時は、中和薬を飲んでもらわないと被害が出ちゃうかも。

 後で、専用の中和薬も作らないとダメか。


 それで、何故私の家の周りに撒いているか。

 少しの間だけど、家を留守にするからだ。


「後、どれくらいで来るの」


「さんじゅっぷん、くらい」


「ミノタウロスが来てるんだよね?」


「けいこく、むしされた」


 徒歩で来ているらしい、とほほ。

 霧の森も迷宮みたいなものだから、ミノタウロスが居ても不思議じゃあ無いのかな?


 今までも狼やオークのような魔物は見かけていた。

 どれも、遠巻きに見ているだけで、何もしてこなかったが。

 今回ミノさんが来たのは、みかじめ料を巻き上げに来たのだろうか。

 話も通じないし、ただ襲われるのを待つなんてするはずも無いが。


「それで、本当に大丈夫なの」


「やってみて、ダメだったらかんがえる」


 そう言うと、空に向けた手のひらに、球根のような物を出した。

 頂点の尖った部分から、四枚の葉が生えて。

 いや、よく見ると違う。


 葉では無く、プロペラだ。

 プロペラの上部は黒く染まっていて、高速回転して宙に浮く。


「それは?」


「ヒカリをすって、まりょくにかえる」


 プロペラの黒はソーラーパネルで、光を電力に変えて空を飛ぶ魔道具らしい。

 余剰電力は、中のスライムが吸収して魔力に変換される。


「魔力変換に、結構時間かかるね」


「こうりつわるいから、しかたない。でも、スリングまりょくの、もんだいかいけつ」

 

 二十分ほど経過したころ、おもむろにスリング紐を取り出した。

 何らかの改造をしたのか、表面が金属加工されている。


 球根発電機の下部に挟むところがあり、スリング紐の端を挟む。

 スラ子が紐を掴み、挟んだ部分を使って、しごきあげるように思いっきり引き抜いた。

 バチバチと放電音を立てながら抜かれた紐は、魔力で励起されて、ほんのり光っている。


 魔力を吸ってるはずなのに、何故に放電音が?

 変換効率が悪いのは、漏電してるからじゃあないのか。

 わざとそういう設計にして、雷属性を狙っているとしたら、たいしたものだ。


「ドクター、よくみててね」


 そう言われても。

 私の正面には、スラ子の斜め後ろの姿が見える。

 恐らく、これから投擲の対象になるミノさんも、予想地点が視界に入っている。


 スラ子は、丸い鉛玉をスリングにセット。

 振りかぶり――




 一筋の残光が、森を貫く。




 直後、音の壁を破壊した際の衝撃波が私を襲う。

 最近は常に体重を軽くしていたのでゴロゴロ転がったが、怪我も無く鼓膜も無事だ。


 振り抜いた腕が、全く見えなかった。

 スラ子の腕が音速を越え、衝撃波を出したのだろう。

 後ろの家を確認。


「どう?」


 満足そうなスラ子が、私に問いかける。


「どう? じゃないよ、窓ガラスが割れてるじゃねーか!」


「あっ」


 壁のモルタルにもヒビが入っている。

 あーあ、壁もガラスも錬成すれば作れるからいいものの、片付けるのが面倒だよ。

 レンガは大丈夫だろうな? 後でエコー検査して確かめないと。


「それで、ミノタウロスは倒せたの?」


「バッチリ。ちかくでスライム、かんそくしてた」


 森の方に目をやると、樹木に穴が空いている。

 貫通はしているが、余計な破壊をする事も無く、射線上の木が倒されたりはしていない。

 これでミノタウロスをワンパンか、大分強くなったなあ。


 スラ子は今まで毎晩、レベルカンストキャラをエナジードレインしていたからね。

 相手が弱体化しないように、手加減をしていたから成長速度はそれほどでも無かったけど。

 途中から、魔力が凝縮されたミルクを日常的に摂取して、成長は更に加速した。

 得られた強さは、主に戦闘能力に向けられている。


 その相手が誰かなんて、あえて言いませんが。

 人型に完全擬態してスライムの特性を使わず、前に会ったエスタとギリギリ殴りあえるくらいか。

 レベルアップですぜ、スラ子も、せいちょうしたもんだ。


 ところで、スラ子はエナジードレインを手加減してくれているって言ってたけど。

 何度か妙な弱体化を経験しているんですが、本当に大丈夫なんでしょうか?


「もう、敵になる相手は居ないんじゃあない?」


 なあんて、心にも思ってないけど。

 そもそも成長する余地は、まだ残っている。


「まだまだ、つよさがじょうしきてき」


 あー、まあ確かに。

 謎の無効化能力を持っていたり、時間を止めるとか。

 問答無用で即死なんてのもあるし、12660人相手のハーレム物とかもあったなあ。

 今後、どんな無茶苦茶な奴が出て来るのか分からない以上、安心できる強さなんて無いよね。


 だからこそ、引きこもって研究している訳だが。

 やれる事はなるべくやって、対応出来るようにしないと。


 起こってもいない問題に焦るのは、慎重では無く臆病だとは思う。

 だけど、問題が起きた時点で対策していないと詰むような状況は潰しておきたい。


 こう考えると、シミュレーションゲームの高難度モードみたいだな。

 いや、実際そうなのか?


「かえってきた」


「うん? ああ、ミノさんの戦利品か」


 ミノさんの近くにいた観測スライムが、戦利品を持ち帰る。

 そこそこ大きな魔石になると思うけど。

 しかし、持ってきたのは魔石では無かった。


「ドクター、これなに?」


「嘘だろ? 宝箱だ」


 ミノタウロスの角や斧が残るなら分かる。

 だけど、現実で腰の高さ程もある大きい宝箱が出て来るとか、どう考えても変だろ!


「あけていいの?」


「あっ、ちょっとまって。罠次第ではスラ子でも危ないから」


 そう言ったものの、鍵開けや罠識別のスキルなんてあるはずも無く。

 よくあるチープな鍵穴に、ロックピックを刺し込むのは無謀だ。


「スラ子、鍵穴から入って鍵と罠を解除出来る?」


「やってみる」


 にゅるりと入り込むと、すぐにカチリと解除音が聞こえた。

 少なくとも、ミミックでは無いようだ。


「クロスボウのや、セットされてたよ」


「ありがとう、開けて良いよ」


 一応、念の為に数歩下がって様子を見る。

 二重の罠も、無くは無いのが宝箱の怖い所。

 しかし、心配をよそにスラ子は難なく開けてしまった。


「いっぱい、はいってる」


 よく分からない短剣、数枚の金貨、糸玉。

 一目でゴミと分かるものが大量に入っている中、目を引くものがあった。


「おや、煤けた赤い箱だ。スラ子の戦利品だから、開けて良いよ」


 通称、赤箱。

 開けるとランダムなアイテムが入手できる、ガチャ箱だ。


「何が出るかな? 何が出るかな?」


「あけるよ、はいっ」


 ジャン!

 中身は何かな。

 カタツムリの皮、カニのハサミ?

 ほとんどが外れだから、期待しても仕方ない。


「……でんしチップ?」


「スキルチップだ、珍しい」


 手渡されたチップの裏を見ると、ヒュプノフライ<メズマライズ>と標記されている。

 マイナーなチップだなー、効果は、えーっと。


「催眠スキル、だったはず。チップを頭に当てて、受け入れる事でスキルを覚えられる、だけど」


 スラ子にチップを返した。

 自身の側頭部に指を当てて、トントンと示す。

 ただ、スキルチップには注意点もある。


「覚えられるスキルの総数には限りがあるから、不必要なら使わない方が良いよ」


 スキル忘却のNPCなんて、居る訳ないだろうし。


 スキルのレベルが上がって、新しい事が出来るようになると関連知識も解放される。

 料理のスキルを上げれば、レシピや素材の知識と経験がついてきたり。


 複雑なスキル程、情報量は増える。

 錬金術なんて、情報占有率はかなり高い方。

 なので、戦闘職はほとんどの人が覚えていない。


 催眠スキルはどうだろうか。

 もし、覚えたら催眠術を掛ける為の情報が加えられていく。

 その過程で、スラ子の人格に影響が出るかも。


 フルダイブVRでは、元の人格を保護したまま、コピーした情報体にスキルを埋め込んでいた。

 なので、得た情報はゲーム内で使えるだけに留まっていたわけだが。


 スキルチップは、こっちの世界の人から見たら、どう感じるだろうか。

 人格を変える悪魔の道具か。

 それとも神が遣わせた奇跡か。


 ダイブ型VR初期のように、人格に悪影響が出ないとは言いきれない。

 自身の能力を錯覚したり、錯乱して高所から飛び降り自殺なんて事件もあったし。


「じゃあ、つかう」


「使うんだ? スラ子には要らないと思ってた」


 搦め手の、直接的な強さには寄与しない能力だと思う。

 スラ子なりの考えがあるだろうから、止めたりはしないけど。


 躊躇なく、スキルチップを頭に当てると、溶けるように消えた。

 まあ、チップの形はしていても、実際は魔力に溶け込む魔道具という設定だった。

 才能と、最低限の能力を付与してくれるだけ。


「スキルとして覚えても、伸ばす事が出来るかどうかはスラ子次第だからね」


「わかった……ところでドクター、このゆび、なんぼん?」


 指を立てて、こちらに見せる。

 いきなりだなあ。

 同時に、逆の手が不自然な動きをして、気を取られる。


「六……いや、四本……かな。あれ?」


 指が増えたり減ったり。

 目をパチパチさせて焦点を、戻そうとがんばる。


「ごほんでした。おもしろいから、つかおっと」


 リミッターの精神健全化が、うまく働いてないな。

 心を許していたり、掛かりが浅いとスルーされるのかも。

 まあ、そうじゃあ無いと日常に悪影響が出るかもしれない。

 何となく、ぼーっとする事も出来なくなったら、落ち着かないからね。

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