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倉庫キャラにTS転生した私は、この世界で自由に生きる。  作者: うずいけ音叉
第四章 スローライフ及び平穏な日常での強化(仮)
83/167

83 代用

「ふむん、大体三日で収穫できるみたいだね。はい、どうぞ」


「いいの?」


 言い終わる前に、チェリーに食いついた。

 スラ子はその美味しさを、頬を溶かして表現している、物理的に。

 どんな表現だよ。


 私もパクッと。

 酸味と甘みが丁度いい、売れる味だ。

 まあ、そうなるように調整した種を使ったのだけど。




 倉庫キャラに持たせるアイテムとは何か?

 人によって答えは違うだろう。

 終わり。

 じゃあ無くて、ですね。


 私の場合は、レアリティの高い品、コレクションアイテム、金銭的価値が高く容量を圧迫しない物。

 あとは、大量に必要になる消耗品かな?

 この辺りを詰め込むタイプでして。


 一線級の武具はメインに持たせてしまい。

 二線級ともなれば、保持する必要も無く。


 装飾品や衣装はかさばるけど、自己満足で集めていた。


 少し長くなりました。

 今、栽培をしているチェリー……に限った事では無いのですが。

 品種改良された質の良い種苗は、重さの割に価値が高く、実用性もあるので持っていた物の一つになります。


「なにこれ」


「インタビュー形式」





 地下室。

 現在の環境では、人に見られることも無く、自重する必要は無くなった。

 有り余る魔力と材料を自動で錬成することで、色々な事が出来るようになっている。

 その結果、成長促進薬や肥料等を供給する、植物工場を作った。


 人工光や温度の調整など、植物ごとの管理が細かく違うので、区分けされた部屋が連なっている。

 そのため、地下空間がすべて植物工場で埋まってしまった。


 植わっているのは、野菜、果樹、根菜など有用な植物すべて。

 一種類に植木鉢ひとつ分のスペースがあれば栽培出来るが、果樹のせいで天井は高い。

 地下なのに、多種多様な植物が繁茂して空間内がとんでもないカオスになっている。

 根が外に進出して植生を荒らさないよう、壁をコンクリートで埋めたから、まるでシェルターだ。


 人の目があったら絶対やらないなー。

 面倒な事になるのが目に見えている。


 促進薬も栽培した植物から作っているから、材料には困らない。

 しかし、魔力だけはこの土地限定だ。

 他の場所では、湯水のように使えないだろう。

 だから、今のうちに必要な食料自給はしておかないと。


 課題は、受粉作業や収穫を自分の手でする必要がある事か。

 成長速度が個々で違い、それぞれの収穫時期を判別する何かを作るのは、さすがに面倒。

 なので。


「スラ子、収穫できるようになったら採るのをお願いしていいかな」


「つまみぐいして、いいなら」


「いいよいいよ、どうせ大量に余るくらい保存するつもりだから」




 さて、後は何が足りない?


「現状では、乳製品と海産物、発酵食品が補充できないか。買い溜めてたから、しばらくは大丈夫だけど」


 要は、動物性で採りにくい物。

 卵は野鳥から頂戴出来る。

 ウズラのような小さいサイズになるけど十分だろう。


 発酵食品の研究は、ずっと続けている。

 微生物の培養は簡単だから、そのうち完成する、多分。

 塩も動物から錬成すればいい、他の調味料も殆どは植物性だ。


 鉱物は物理的な摩耗で減るけど、劣化した程度なら再錬成することで長く使える。

 しばらく問題にはならないだろう。


「ここまでするひつよう、あるの?」


「もう、我慢出来ない! って訳でも無いけど」


 毎日のように美味しい物を食べられた世界から一転、我慢を強いられたわけで。

 気にならないかな、と思いきや日数が経てば経つほどストレスが溜まって来た。

 やっぱり、食の満足度は幸福度に直結するんだなあ。


「はっきり言って、うまいものが食べたい!」


「よくわからない」


 ぜいたく病だからね。

 お金のやりくりがつかないなら、まだ自分を誤魔化せる。

 だけど、今の状況で我慢するのは身体に良くない。

 スラ子にも、この地獄を味あわせてやるよ、ククク……。


「それじゃあ、昨日狩ったイノシシで料理をつくるかー」


「スラ子は、ほかのことやってるね」


 まだお昼を過ぎたあたり。

 だけど、灰汁取りや場合によっては下茹での時間が掛かって、いつ終わるか分からない。

 でもまあ、作りすぎてもインベントリでいくらでも保存が利くから気が楽だ。




「出来たよー!」


 スラ子の部屋のドアを勢いよく開けて、お知らせ!

 一緒の部屋で良いかと思っていたけど、スラ子が個人用の研究室が欲しいとかで別室になった。

 寝る時は一緒だけどね。


「ノックしてから、はいりなさい」


「はーい」


 別にノックする必要ないと思うけどなー。

 その辺りの考えは、よく分からん。

 そのまま、歩み寄り。

 ぎゅっと抱き着いた。


「だきついてきて、どうしたの」


「んー? 何となく?」


 完全に人の繋がりから解放されて、プライベートになり。

 人の目を気にせず、我慢しなくて良くなった。

 そう思ったら、すっごい甘えたくなっただけ。


 あー、体と内腿に反発する圧迫感がたまらない。

 まったく、スライムボディは最高だな!


「ん」


 スラ子が、指を差し出す。

 ぱくっと咥えた。

 んふーっ、犬歯の裏辺り、上あごをコスられると背筋にくる。

 そのまま喉の方まで抽送されると、思わず抱き着いた足をギュっと絞めた。


「このまま、つづきする?」


「ふぁめ~。まふぁ、はやいえふぉ」


 陽も落ち切ってないし。


「それで、なにをしにきたの」


 あ、そうだ。

 忘れてた。


「ぷはあっ、ご飯出来たから呼びに来たんだった」


「きょうの、ごはんは?」


「ふふふ」


 何でしょうか? って言いそうになった。

 そんな事言われても、分かる訳ないよね。


「豚骨……じゃあ無くて、シシ骨ラーメンの塩味です!」


「たのしみ」




「じゃーん」


 なあんて、声で演出するのは恥ずかしいな。

 宣言通り、シシ骨ラーメンと餃子のセットだ。

 イノシシの肉はガムみたいな食感が合わなかったので、玉ねぎに浸けて柔らかくしてある。

 出汁である猪骨も、灰汁取りと下茹でに時間は掛かったが、面倒だったのはそれくらいか。


「では、早速」


 豚骨より脂がアッサリとしていて、意識してなければ一気に食べきってしまいそうだ。

 せっかく作ったのに、味わえなければ勿体ない。

 麺は硬めで、トッピングした野菜と一緒に頬張れば、また別の食感になる。

 猪のチャーシューも出汁が染みて、溶けるような食感に変貌している。


 悪くない。

 初めて作った料理だから、改善の余地はあるけど十分おいしいと言える。

 餃子の方は、まあその、マズく作る方が難しいから言うことは無いかな。


「ドクター、ないてるの?」


「……そんなことは無いよ?」


 声が震えている訳でも無く、涙が浮かんでいる訳でも無い。

 そりゃあ、十年くらいぶりに食べたなら感動もしただろうけど。

 精々、久しぶりに食べたなー、と感じたくらいか。


「泣いてるように見えたかな」


「こういうとき、なくものかと」


 えーと、求めていた感動の一皿、的な?

 無いなあ、味見して事前に知ってしまった時点で感動なんて起きないよ。


「そういうスラ子の感想はどうなのさ」


「あまいものがいい」


 さよか。

 日常的に食べるものを飽きない味に調える努力なんて、スライムには関係ないからなあ。

 生きられる栄養さえ取れれば、後は好きな物だけ食べていいなんてズルイ奴め。


「甘いモノか、牛が欲しくなるなー」


「うし、あまくないよ」


「いや、牛乳がお菓子の材料でよく使うからね。あれば助かったなあと」


 無いものねだり。

 バター、ミルク、あと生クリームもそうか。

 洋菓子のバリエーションを増やすための重要な畜産だけど。


「ここで、かえばいいのに」


「この場所まで連れて、そして飼う? 牛だけにカウ?」


 んー、生き物の管理は大変だから本心としては嫌だけど、検討の余地はあるか。

 しばらく家に引きこもるなら、いてもいいかもねー。


「それか、ドクターのミルクでまかなうとか」


 この身体は乳腺を改造されて、スラ子の魔力刺激で出るようにされてしまった。

 だけど。


「ミルクって、人と牛じゃあ別物なんだよね」


「そのための、れんきんじゅつ」


「あー……? えっ、マジで言ってるの?」


 牛の乳に比べて、薄いから無理って思ってた。

 栄養成分も違うはずだけど。

 逆に言えば、そこを錬金術で何とかしたら活用できる、のか?


 不要物を除去して不足分を補充するって、まるで人工透析みたいな事をするのか。

 錬成したミルクを、体の中へお帰りなさいするわけじゃあ無いけど。


「スラ子、学術都市の分裂体ってまだ生きてる?」


「ぎゅうにゅう、かえばいいんだね」


「よろしく」


 スラ子の意識が繋がってる分裂体とは、インベントリが共有されている。

 これが知られたら相当ヤバイ案件なんだけど、今回は利用させてもらおう。


「分裂体ってどれくらいの間、本体から離れてもいいの」


「たぶん、あとすうじつ。それいこうは、ほかのスライムにのまれる」


 いつまでも、って訳じゃあないんだね。

 スライムである以上、常に増殖と死滅を繰り返しながら身体を維持している。

 司令塔であるスラ子の分裂体も、やがて他のスライムが呑み込み、指示が届かなくなってしまうようだ。

 そして、そのうち身体を維持できなくなり、他のスライムと見分けがつかなくなる、らしい。


「スラ子本体の意識が呑まれて、消えたりはしないんだね」


「まりょく、ほじゅうしているからだいじょうぶ」


「そう、ならいいや」


 何か問題が起きたら言ってくれるだろう。

 さて、牛乳が手に入った後、その先か。


 成分を調べて、補ったり取り除いて調整したら代用ミルクが出来るはず。

 代用元の……私の、ミルク、は?

 いやいや、どれだけの量を出さないとならないのか。

 乳牛と同じ量を出そう物なら、常識的に考えて死んでしまうぞ。

 なお、適宜回復することで耐えてしまう模様。


「ねえ、どくたー」


 ……はっ!?

 スラ子がいつの間にか、後ろに回り込んで抱き着いて来ていた。

 その表情は、これから起こる事を喜んでいるように見える。


「何かな?」


「どれくらいのりょう、ひつようになるの」


「い、一リットル」


「うそ。でも、わかりやすいの、すき」




 代用ミルクが完成してからは、一日に三リットル自給するようになった。

 錬成時の体積ロスが多く、必要量が増えてしまったのが原因。

 必要量が増えた最大の要因は、スラ子が消費しまくっているからだが。

 曰く、牛乳と違って私の魔力が凝縮されているから、魔物にとっては最高の甘味になるとか。

 元から甘くて、砂糖があまり使われてないからとってもヘルシー。


「素直に喜べないです」


「あんなに、よろこんでいたのに」


 それはまあ、そうなるように努力してくれてるのは嬉しいけど。

 突っ込まれた口から回復ポーションを流し込まれ、搾り取られる私の身にもなって欲しい。


 代用ミルク製から作ったバタークッキーを、ぱくっと。

 おいしい、おいしいけど。


「これが自分の味って、なんかさあ。気味悪くない?」


 Q、ミルクの原材料は何ですか。

 A、私のスーパー生絞りミルクです。


 一部の変態が喜ぶだけで、ほとんどの人はドン引きでしょう。

 私? 他人のかわいい子のだったら、まあ。


「うしのミルク、ドクターのミルク。そこに、なんのちがいもない」


 違うから。

 そもそも牛乳じゃねーし。

 そこを同じ物にするのが錬金術の恐ろしい所なんですよ。

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