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倉庫キャラにTS転生した私は、この世界で自由に生きる。  作者: うずいけ音叉
第四章 スローライフ及び平穏な日常での強化(仮)
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80 待つもの、待つのも

「げえっ、水たまり」


 森の中、木の根や腐葉土を落ち葉が覆い隠す。

 そして、ぽつんと水たまり。

 本当に水なら問題は無い。

 エコーソナー、は反応するはずも無いか。

 魔力レーダー、何か所か反応有り。

 やっぱり、水たまりじゃあ無かった。


「スラ子、他にスライム溜まりはある?」


 念のため、上方を確認。

 足を止めさせて、上から襲い掛かってくるスライムもいる。


「みえるまりょくで、ぜんぶ」


「そう、良かった」


 この世界で、初めて野生のスライムを見たなあ。

 町にいたのは汚物を吸収するために、錬金術ギルドが使役しているスライムだった。

 スライムは動きの遅さから、自発的な狩りはほとんど行わない。

 ハエトリソウとかウツボカズラみたいな、罠を張るタイプの魔物だ。


 浅い水たまりに見える、スライム溜まり。

 迂闊に足を踏み入れると、腰ほどの深さもあるスライムに引きずり込まれて溶かされる。

 避けて歩けばいいじゃん?

 なんて舐めてると、偽装して隠された場所にスライム溜まりがある。

 そして、慎重に避けようとすると、上から襲って溶かしてくるのだ。

 プレイヤーを三段構えで殺しに来る、えげつない奴。

 酸性かアルカリ性か、スライム次第なのも対処に困る。


「さて、このスライムは当たりかなー?」


 ぽいっと。

 鉄の欠片を投げ入れる。

 すぐに表面から気泡が現れ、溶けているのが確認できた。

 酸性、だけど。


「外れ、かあ」


「スラ子からみても、はずかしいくらいよわい」


 溶かす力が弱い。

 強酸、強アルカリなら素材として活用できるから期待したけど、無理か。

 逆に考えると、この程度のスライムでも生き残れるくらい現れる生き物が弱いって事だ。


「これなら、もっと奥まで進んでも大丈夫そうだね」


「ゆだん、きんもつ」


 採取もノって来た所だったのに。

 ファンタジー世界は殺意に溢れているから困る。


「スラ子、ストップ」


「こんどは?」


「多分、トレント……かな?」


 ドライアドだったらいいなあ。

 木の中に連れ込まれて、最大百年の間イチャイチャし続けるって設定だったし。


 残念ながら、前者の予想が当たってしまった。

 目の前の木が、ざわざわと枝を揺らし、共鳴するように伝播する。


「ちょっと下がろうか」


 危害を加えなければ襲われることはない。

 それでも、無遠慮に通ろうとすれば攻撃されることもある。

 一本だけなら刈り取って素材にするのもアリだけど。

 トレントはリンクモンスター。

 数が多いと、報復してくるから逃げるのも苦労する。

 黙って通してもらえるまで待つのが、一番面倒が少ない。


 離れた所の木に寄りかかり、座って待つ。

 やがて、ざわめきが収まっていく。


「じかん、かかるね」


「そだねー」


 手を出してないのに、ノンアクティブになるのが遅すぎる。

 まあ、普通に生きているならこんなものか。

 ゲームならクソゲー確実だな。


 トレントの一本が、こちらに寄ってくる。

 ……?

 枝をゆっくりと、私に伸ばしてきた。

 なんで?


「けむし、うにうに」


「毛虫? ああ、アンブロシアキャタピラーだ」


 別名、木食い芋虫。

 トレントと共生、してるわけないか。

 どうみても、ムシャってるし。


「駆除して欲しいの?」


 トレントは私に何も言ってはくれない。

 教えてくれ、スラ子!


「いただきまーす」


 あ、スラ子が食べた。

 不死身の芋虫と呼ばれるくらい、強固な芋虫がどんどん溶かされていく。


 トレントは入れ替わり、芋虫を差し出す。

 まるで、おやつのように食べるねえ。


「スラ子、おいしい?」


「えいようほうふ、なぞのコリコリかん。ドクターも、たべたら?」


 虫はたんぱく源として優秀って聞いたことはあるけど。

 さすがに、このゲテモノ感はちょっとね……。


「いや、スラ子が美味しそうに食べてくれたら満足だから」


 まあ、エビやハチノコは大丈夫なんですけど。

 食べ慣れて、抵抗感を薄くするって大事なんだね。


「それよりも、私に数匹ちょうだい」


「うん、どうぞ」


 アンブロシアの代用品に加工出来るので。

 これで、上級ポーションはしばらく困らないだろう。


 毛虫の駆除が一通り終わると、トレントは痛んだ枝を切り落とし始める。

 落とした枝を私達の前に積み上げると、トレント達は道を開けてくれた。


「ありがとう」


「ばいばい」


 身体が隠れるほどの枝を渡されても、普通の人は持って帰れないけどな。

 ありがたくトレントの枝をしまい、先に進む。


 何に加工しようかなー。

 杖なんて作っても持ち腐れするし、かといって薪にするのも勿体ない。

 そもそも、まだ生きている枝だから加工にひと手間かかるんだよね。


「ゴウエンタケみっけ」


 見た目通り、火属性のキノコ。

 耐火サテングローブをはめる。

 素手は厳禁、胞子が皮脂に触れると発熱して火傷する。

 体力の低い人ならケロイド化する危険もある。


 根元を掴み、一気に引き抜……!?


「ふぐーっ!? ぐっ、はあ。ありゃー? 全然抜けないんだけど」


 なんか、すっごいズルズルする。

 そのせいで引き抜こうとしても、サテングローブがシコシコしてしまうだけで全然抜けない。

 わわっ、胞子吹いてきた。

 風を送って胞子を追いやる。


「まかせて」


 スラ子が、ずぼっと引き抜く。

 何という、あっさり感。

 いや、それよりも。


「なんかさあ、私の力、すごく弱くなってない?」


「リミッターの、えいきょう」


「それは分かってるつもりだけど、それでも実質的なデメリットは能力が0.8倍になるだけでしょう?」


「ちがう」


「ちがうって言われても」


「ぜんりょくから、2わりのえいきょう」


「?」


 同じことでは……?

 今、全力からの二割って言ったな。


 まてまて、全力を100とした時リミッターの影響下では80の力が出せる。

 ここまでは問題ない。

 これ、0.8倍では無く、固定値で20引かれるって事では?

 普段、歩いたり料理したりするときに全力を出す事なんてありえない。

 精々10~50くらい、半分の力も出してはいないだろう。

 そこからマイナス20って考えると、まともな力が出るはずも無い。

 それこそ、力が足りなくてキノコが抜けない、みたいな事が他にも起こるのか。

 なんか調子悪いな、程度で考えてたけど。


「ヤバくない?」


「だいじょうぶ、みためそうおう」


 女の子程度の力しか出せないのがヤバイって話なのですが。

 ここまでリミッターの効果がキツイとは思わなかった。

 普通なら歩いたときに気が付きそうなものだけど。

 楽だからと体重を軽くしていたから、気が付かなかったなあ。


「ぎゅってされたとき、ほわほわした」


「ほわほわ、ねー」


 そりゃあ、非力な女の子にぎゅっとされたら胸の奥が温かくなるけどさあ。

 ……まあ、正直悪くは無いと思っている。

 全力で振り解こうとしても、無理やり抑えつけられる感覚とか。

 触手に絡まれて、もがいている間に逃げ切れずとか。

 意図せずに、手加減しなくとも、そういう環境を楽しめるって事だもんね。


「ドクター、そのニヤケかた、きもちわるいよ」


 思わず、口を抑える。

 いかんいかん、人に見られたらドン引き間違いなしである。


「あっ」


「えっ?」


 何? あっ!

 サテングローブ、着けっぱなしだった。

 ゴウエンタケを握ったやつ。

 やばっ。

 サテングローブをしまって、水を口の周りに掛けて、洗い流す。


「スラ子!」


「みず、かけつづけて。まずは、ほうしをながさないと」


 いくら頑丈な身体でも火傷なんてしたら、痛いに決まってる。

 だからといって、こんなしょうもない事にポーションを使うのも馬鹿らしい。


 水をかけ続けていると、口周りがヒリヒリしてきた。


「うぅ~、痛い~」


「ほうしはついてない、あかくなってるだけ。がまん」


 この程度の怪我で済んで良かった。


 力が出せないなら方法を考えないとなあ。

 もう面倒だから、スラ子に採取を任せてしまおうか。

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