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倉庫キャラにTS転生した私は、この世界で自由に生きる。  作者: うずいけ音叉
第四章 スローライフ及び平穏な日常での強化(仮)
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79 抱き合わせて値引きするなら単品で売ってください

 さあ、心機一転。

 ここはもう、町の外。


「旅に出るぞー!」


「あさでも、よかったのに」


 スラ子の言う通り、今は真夜中。

 ここからでは町の明かりは、もう見えなくなった。

 光源は星明りのみで、周囲は暗く、メガネが無ければ躓いてしまいそうだ。

 風が吹けば、葉擦れの音がうるさく感じる。


 一通り、欲しいモノは買い漁った。

 後は寝て、翌朝出発の予定だったのだけど。


「いやあ、えへへ。嫌な予感がしたから」


 予感では無く、予測だったわ。


 よくよく考えたら、タオ何とかちゃんに金貨10枚で作ってあげたのはヤバイのだ。

 その安さで作ってくれるなら、じゃあ俺にも作ってくれよ、と。

 私の懐と苦労を考えない、お金に汚い人達が集まってくると容易に想像できる。

 酒が入って、かわいい子に頼まれたからサービスしたに決まってるじゃん?


 そんな言い訳を聞いてくれるなんて、微塵も思っちゃあいない。

 だって、私でも同じ状況ならたかりに行くから。

 それに、命と生活が掛かった商人が機を逃すような事をするものなのかと。

 なので自衛のために、さっさと旅に出ることにしたのだ。


「えー、残念なお知らせがあります」


「ドクターの、あたまのこと?」


「言うねえ。私の頭が残念なのは、今に始まった事じゃあありません」


「ごめん、それでなんのおしらせ?」


「二輪の乗り物を作ると言ったな、あれは無理だ」


「むりだったんだ」


「頑張ってパーツを作ろうとしたんだけどね、時間が全然足りなくて」

 

 いくら錬金術でズルが出来ると言っても、精密機械は計算することが多くて。

 今のままだと、魔法で駆動させる必要があるのも乗らない理由。

 だって、エンジンの音や振動が感じ取れないバイクなんて嫌でしょう?

 その内作るよ、うん。


 え? 自転車を作る予定だった?

 何の話ですか?


「そこでお困りのお客様に、こちらの商品!」


 じゃーん。

 二本の、金属の棒を取り出す。

 長さは私の身長くらい。


「なに、そのうらごえ」


 なんだとー、不服かこのやろー。

 通信販売の神と呼ばれた男の真似だぞー。


「道の状態が悪い時、急いでいる時。辛いでしょう?」


 金属棒を立てると、膝から下に当たる部分には、ロボットの足のようなパーツが付けられている。

 その上端は台座になっており、パーツの上に足をのせて固定する。


 つまり、金属製の竹馬である。

 ハンドヘルドスティルツと呼んだ方が通りが良いかもしれない。

 テーマパークで足がやたら長いスタッフを見かけたら、スティルツだ。

 一時的に身長も高く感じて、気分も良好。


「これで準備オッケー。このように乗り、歩く事で、悪路もへっちゃらなんです!」


 胸の高さまである金属棒を、握って歩く。

 轍を踏んでも、横に崩れたりはしない、よし。

 道を外れて、木の根を踏んでも転ぶことは無い。

 接地面を検知して、自動でバランスが取れている。


「あるいたほうが、はやそう」


「そう思いますよね? ですが安心、そういったニーズに応える為の、機能を見てください」


 踏み台に魔力を流して起動。

 金属の足が沈み、魔力の供給を止めると跳ねた。

 軽く跳んだつもりだけど、木のてっぺんまで高さが出ている。


 仕組みは単純。

 魔力に反応して、内部のスプリングを伸縮させるだけ。

 姿勢制御や弾性エネルギーの調整は大変だったけど。


「とんだ、おもしろそう」


 前方に跳ぶと、結構な速度が出る。

 着地と跳躍を繰り返すことで、どんな場所でも踏破できるように作った。


「これだけじゃあ無いんです! もし、着地点に誰かが居るかもしれないですよね? そこで!」


 金属棒の握りに魔力を流す。

 跳ねて高く浮いたスティルツは、高度を維持してホバー。

 空中では慣性が掛かって癖があるね。

 乗り回して挙動に慣れないと。


 ホバーの持続も十秒持たない程度だが、緊急回避には十分だろう。


「ホバー機能は本人の魔力をほとんど使わないんです! 通常時に周辺から魔力を吸収するから、とーっても便利! 誰でも使えちゃうんです!」


「でも、おたかいんでしょう?」


「こちら、バニーホースくん。お値段19800金になります」


 おぉー!

 魔法でガヤのSEを鳴らす。

 名前の由来は、トビ跳ねるからウサギ、竹馬だからホース。

 合わせただけの単純なネーミング。

 値段については、実際売ろうと思ったらこれくらいになる。


「更になんと! スラ子の分も付いちゃいます!」


 バニーホースくんを、もう一対取り出してスラ子に渡す。

 嬉しそうな顔で受け取って貰えると、私も嬉しくなる。


「そして、更に! 二組のバニーホースくんをそのまま! 50%オフの9900金でのご奉仕となります!」


(拍手の音)


「ご連絡はこちらっ、この番組を見た後の三十分間限定となっておりますのでご注意ください!」


 あー、やり切った。

 もう満足だわ。


「おかね、もってないよ?」


「足りない分は身体で支払う、これは世界の常識だから」


「それと、あかいのはなぜ?」


「そりゃあ、ねえ。まあ、気にしないで、趣味だから」


 兎、馬ときたら赤でしょう。

 スラ子は、早速乗った。

 足の固定と握り、魔力を流すコツを教えるとすぐに歩けるようになった。

 ぴょんぴょんと跳ねまわり、楽しそうにしている。

 すぐには壊れないようで、良かった良かった。


「ジャンプとホバー、どうじにすると、どこまでとぶかな」


「あ、それはやらないでね。跳びすぎて、さすがに壊れちゃうから」


 10メートルくらいの高さから着地すると、耐久性の保障が出来ない。

 なので高い所から飛び降りる時には、ホバーを使うことで衝撃を和らげる。

 一応30メートルくらいなら耐えられるはずだけど、細かい所が歪んで故障するだろう。


「つまり、ホバーをつかったジャンプはげんきん、ということ?」


「地面が柔らかいとか、深い水場に着地するなら大丈夫なはずだけどね」


「わかった、きをつける」




「それで、どこにむかうの」


 今は、二人でバニーホースくんに乗って歩いている。

 スプリングが歩行時の衝撃を吸収して、快適な旅を提供している。


「道を外れて、北へ」


 私の振り向きにつられて、同じ方を向く。

 目の前には森が広がるのみ。


「なにもないよ?」


「だが、森はある。まあ、たまにはね、そろそろ色々な素材を採取しておきたいし」


 どうにも店で買える素材の種類が少なくて困る。

 何よりも、町に向かうとトラブルに巻き込まれそうな気がするから。

 気のせいだと思うのだけど、こうも短期間に色々起こるとねえ。


「さあ、いざ行かん。寄り道の旅へ!」


「おー」


 そして、二人ともバニーホースくんから降りた。

 何でかって、そりゃあ木の枝に顔をぶつけちゃうからだよ。

 足元の野草も探しにくくなるし。


「さらば、バニーホースくん」


「障害物が多い所での移動は、ちょっと考えの外だったかなあ」


 要改善。

 でもスニーカーサイズにまで落とそうとすると、私の魔法付与の実力では無理だ。

 耐久性も犠牲になるから、ランニングコストも増大する。

 いっそのこと、もっと単純化してホバーボードみたいな形で作ってみようか?

 でもなー、常に浮くと消費魔力がなー。


「あっ、野ウサギだ」


 陽の光も届きにくい深い森の中、遠くにいる野ウサギが草を食んでいる。

 指で銃のポーズを取り。

 魔力の弾を指先から飛ばす。

 首をえぐり、野ウサギはぐったりとした。


「おみごと」


「大分慣れてきたね」


 とは言ったものの、このオーラと呼ばれていた技術とは相性があまり良くない。

 対峙したゴブリンみたいに、鎧のように纏うことも出来ないし、筋力をブーストさせることも出来ない。

 元々、私の能力では無い魔力障壁を変形させているからなのか、才能が無いからなのか。

 精々、魔力を使った技術。“魔術”と呼べるレベルだろう。

 この程度の、狩りに使う分には便利なんだけど。


「私、ウサギを解体しているから、スラ子は適当に何か採って来て」


「わかった」




「あかい……たべてもいい?」


「野イチゴだね、スラ子が見つけたから食べていいよ」


 ぱくっと。

 果実にびっしりとトゲの付いた野イチゴを頬張る。

 直後。

 ぽんっ、と音が聞こえてスラ子が口に入れた野イチゴが破裂した。


「ハレツイチゴって名前でね、加工しないと生食は出来ないのだよ」


「すっぱい、けどおいしい」


 もっきゅ、もっきゅ。

 普通の人なら、口の中が血まみれになるけどね。

 よく見ると、群生していて結構な数がなっている。


「全部、採っていこうか」


 どうせ、こんな所には誰も来ないだろう。

 それに、それほど珍しい植物でも無い。

 ジャムにしてもいいし、ポーション類の錬金素材としても使える。

 運搬が面倒だからなのか、店に置いてなかったから補充できるのは助かる。

 幸先いいね。

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