78 オワッテシマッタ
錬金術ギルドから出たら、昼下がり。
町はお祭り騒ぎだ。
人の流れは止まらず、そこかしこで屋台が開かれている。
三日もの間、魔物が海から押し寄せて来ていた。
怯える日々から解放された人が、陽気になるのは当然と言える。
「それでも、何でこんなに皆さん活発なんですか?」
元気すぎない?
屋台のおやじさんからジョッキを受け取り、尋ねてみた所。
「冒険者が稼いだお金を狙ってるんだよ、特に今回は長かったからなあ」
三日かかっていた防衛戦が大変なのは想像できる。
逆にそれだけの魔物が出た事で、固有素材や魔石の量がすごい事になっていたらしい。
この一時的な特需を狙い、現地の人達が張り切っているとか。
ビールを一口、うん。
「強いですね」
「がはは! お嬢さんにはジュースの方が良かったんじゃないか!」
ビールの度数の話じゃねーし。
町の人が精神的に強いよねって話なんだけど。
「うえ~、しっかし口に合わないお酒だこと」
でも飲んじゃう。
温かったので気が付かれない様に、中身を冷却。
口の中ではじける冷えた炭酸が、スッキリ感を増してくれる。
エールかと思ったら、ラガーだったでござる。
「のむの、やめたらいいのに」
「いや、もう気にならなくなってきたかな」
「そうなの?」
うん、もう悪くない味。
地ビールは最初、数口までは激マズなんだけど。
それ以降は、味が悪くなくなるのは何でだろうね?
「あー、うまー、うまお。おっちゃん、もう一杯ちょうだい」
「おう、気に入ったようだな」
うへへ、結構度数が高くて好きな感じ。
「スラ子にも、ちょっとちょうだい」
はいどうぞ。
ジョッキを傾け、ちびりと一口。
「……かえす」
「こればっかりは好みだから、しょうがないよ」
一際うるさい集団が近づいてきた。
邪魔にならないよう、道の端に寄って眺める。
よく見ると、その内のひとりが知り合いだった。
「よう嬢ちゃん、奇遇だな。いやあ、情報助かったわ」
インテリヤクザの見た目は変わらないね。
ええと、オフィーク……だったっけ?
「情報って、なんの話でしょう?」
「とぼけんでもええ、アンデッドの居場所を教えてくれたろうが。無事、被害も少なく解決出来た事に、みんな感謝しとるで」
ああ、アンデッドの。
……解決?
「え?」
いつ間にか、うるさい集団は居なくなっていた。
適当に受け答えはした記憶がある。
今更になって正気を取り戻すほど、衝撃的だった。
あの集団は、アンデッドの討伐隊だったのか。
海の防衛とは別の部隊が動いていたんだね。
私がアンデッドの拠点に一番乗りして、お宝を荒らせると思ったんだけどなあ。
「あっ、と。スラ子、オレな?」
「きけてよかった」
「早い! 早すぎでしょ! 聞いてよスラえも~ん」
「しょうがないなあ、シャガ太くんは」
えーと、どこからの話だっけ。
「そもそも、緊急招集されたタイミングが最悪だったんだよね」
「ひつぜんだった」
起こってしまった事に文句を言っても、仕方ないのは分かってる。
「でも、あの時そのままアンデッドの拠点に潜り込めたらなあ」
町に出ていた不自然な被害から、リーダーのような存在がいたはず。
「隙を見て金目の物を漁り、リーダーの正体を墓守の所へ持って行くわけですよ」
「じゅんび。いろいろ、てつだった」
そう、道中色々と手伝ってもらっていたのだ。
で、どこまで話したっけ。
情報を墓守に届けると、カチコミに行こうと話が進むはずで。
墓地を守る人を置いて、ついさっき挨拶したインテリヤクザについて来てもらおうと。
まあ、後数人は戦える人がついて来るだろうか?
その際、お墓に預けたままの退魔の指輪も貰っていく予定だった。
物語の過程は、終盤まで省略。
奥に待ち構えたボスは、一筋縄ではいかないはず。
打開策として、退魔の指輪を使い潰すつもりだった。
「そのための、ツクモハンドガンだったんだよねえ」
ツクモハンドを取り出す。
更に、外付けの銃身を出すと、ツクモハンドに取り付けた。
安全装置を掛けたまま、歪みが無いか構えて確かめる。
「うん、きっちり仕様通り」
外付けの銃身部分に、退魔の指輪をセット。
打ち出される予定だった弾は、銃身で変換されて魔力に変わり、指輪の魔力を瞬間的に増幅。
オーバーロードさせて、光属性の純エネルギーに変える。
光のビームが貫き、好機を逃さずインテリヤクザが止めを刺しに行く。
やったか? と喜ぶもつかの間、あと少しの火力が足りない。
そして私はもう一度、光のビームを放つのだ。
指輪、もう一個あったんか。
そう言われた私は、こう返す。
「こういう事には詳しいって言ったじゃあないですか、私にも作れますよ。どやー! しびれるやろー!」
スラ子に、ぎゅー!
あー、ぷにすべ気持ちいいわあ。
「ねえ、ドクター」
「……うん?」
「ながい」
「ちくしょー! なんでじゃー!」
ビールを一気に煽る。
こんなん、飲まなきゃやってられねー!
退魔の指輪とか、あからさまな物が出たじゃーん!
絶対こんな感じになると思うに決まってるじゃーん!
どうしてこうなった。
誰がそうしたのか。
「のみすぎ、よくない」
ふ、ふふふ。
おーけー、冷静さを失っていたよ。
「それはそれとして、おっちゃん。もう一杯ちょーだい」
「こっちは金貰ってるからいいけどよ、大丈夫なのか?」
「こんなん水みたいなもんよ、よゆーよゆー」
ビールうまー。
あ、そうだ。
「おっちゃん、今からでも海側に行けば新鮮な魚、売ってるかな?」
「どうだろうな、ほとんど朝で売り切っちまうはずだが。行ってみたらどうだ」
「そうしてみる、ありがと」
旅に出たら、海の魚はそうそう食べられなくなるだろう。
私なら長期保存も出来ることだし、ある程度仕入れておかないと。
「あ、いた!」
漁港まで出て、お金に物を言わせて色々漁っていた所、聞き覚えのある声が。
誰だったかな、と振り向くと女の子が遠くにいた。
私の方へ走り寄って来ている。
「スラ子、魚仕舞うところ、見られてないよね?」
「だいじょうぶ、みられてない」
相当な数の魚介類が市場から消えてるから、不審に思われたのかと思った。
違うのか。
「どこいってたか、探してたのずっと。でも、会えての良かった」
あー、この無茶苦茶な文法、誰だったかな。
「タオ8イ8イ、だったっけ?」
「タオホン! それ、誰の名前? ハチイ……?」
「いや、気にしないで。それで、何故に私を探してたの」
ほっぺたを、ぷくーっと膨らませる。
何か、約束してたかな?
「その子!」
スズキスラ子?
「可愛い服の、作ってくれる言ったこと! それで探してたのに!」
ああ、スラ子のミニチャイナ褒めてくれた、シャンファの娘か。
一瞬だけ会った三日前の人なんて、覚えてられないよ。
「わすれるなんて、ドクターさいてー」
「ね! 酷いね!」
タオホンとスラ子が手を握ってブンブンしていらっしゃる。
あの時のタオホンも欲しいって言葉、リップサービスじゃあ無かったんだね。
可愛いとお願いの本音と建て前、もうちょっと分かりやすくなりませんか……?
「ごめんね。今、仕立てた方がいい?」
「もちろん! すぐの終わる?」
「うん、スラ子。寸法測ってあげて」
「ちょっとしつれい」
スラ子がタオホンに抱き着く。
接着面からスライム膜を広げ、身体のサイズを調べていく。
「おわった」
サイズの詳細が記入されたメモを渡された。
「ありがとう。それで、どんな服を作って欲しいの?」
「んーと、あれ。巫女服!」
シャンファ服じゃあ無いのかよ。
てっきり、スラ子とお揃いでって言うのかと思ったわ。
「ちょっと待って。今、紙に書き起こすから」
ポーチから取り出す風を装って、紙とペンを出す。
装飾は後回し、とりあえず分かりやすく。
「こんな感じで、どう?」
ごく一般的な、普通の巫女服。
面白味が無いと思うか、それともそれが良いと思うかは人による。
「ペン、借りるいい?」
「どうぞ」
手直しが入る。
袴がスカートに、膝上丈。
上はノースリーブで、白衣一枚。
もう別物なんですけど。
「今回参加は出来なかった対アンデッド服、欲しかった」
そう言う事だったか。
戦闘服として欲しかったんだね。
参加できなかったって事は、アンデッドの討伐は任意参加の少数で向かったのか。
港の防衛が優先されると思うのだけど、同時に対応できるだけの頭数が揃っていたって事だろう。
三日掛かった割には、実はそれほど大変では無かった?
海から来る魔物から防衛し終わるまでだから、日数の長さが辛さに繋がるとは限らないのかも。
「デザインはこのままで? おっけー、ちょっと待ってて」
ポーチから生地と道具を以下略。
「……そのポーチ、入りすぎですよ?」
「荷物が多く入るバッグ、見たことない? 探せばあると思うんだけどなー」
そんな荷物入れ、作り方は思いつかないけど。
まあ、そんなものが有ってもおかしくは無いだろう。
もし空間の拡張と収縮が出来るなら、応用すると一瞬で長距離移動が出来そう。
前も、こんな事考えてた気がする。
さて、すぐに終わらせてしまおう。
スキル情報から必要な動きをトレース、裁縫をパパっと済ませる。
作るものさえ分かっていれば、こんなのは十分も掛からない。
そこから、更に価値を上乗せするのが錬金術の見せ所。
結局、使わなかった自作の退魔の指輪を再利用しようか。
液状化させて光属性の液体金属に変える。
銀糸に吸わせ、糸の性質を保ったまま縫い付けて闇属性への耐性をつける。
作っている間、待たせるのも失礼だから何か聞いてみようか。
「ねー、タオホン」
「なにか?」
「護衛してもらった時の話なんだけど、魔物であるはずのゴブリンが更に凶悪に変質したんだよね。何故なのか知ってる?」
「魔物が悪魔化、生きてる良かったね」
「はあ、悪魔。魔物が?」
イマイチ、ピンと来ない。
悪魔トリガーでも引いたのか?
「元々、魔力を不安定さ魔物が、更に力が求めて魔力の悪質化が進行する状態だよ」
魔物の魔力が悪質に変異した結果、更に肉体が変貌する。
だから悪魔、ね。
「強い魔物が限定する。ゴブリンならキングクラスは強い無いと、悪魔化しない。だから、生きてる良かった言った」
「なるほどねー、よし」
縫い終わった、完成。
「じゃーん! どうかな?」
おいおい。
ぼーっとした顔で口が開きっぱなしになってるぞ。
「上を羽織って見せてくれないと、手直しも出来ないんだけど」
私から声を掛けられて、ハっとする。
「すごいね……何か魔法使った? 早い過ぎるよ」
「まあまあ。はい、どうぞ」
押し付けられるように受け取らせ、上だけ羽織って見せてもらう。
重ね着になってしまったが、裾も襟周りも問題ないだろう。
細かい調整は、後で自分でやってもらえばいいかなと。
あ、お金の事忘れてた。
「代金は……しまったなあ、相場が分からないわ。今回は特別だから、払いたい値段で良いよ」
適当な物言いにビックリされてしまった。
「銅貨、一枚だとでも?」
「それが、その価値だと思うならどうぞ」
「……もちろん、そんな事が出来ないよ」
苦笑いと共に、懐からお金を手渡される。
金貨、十。
思わずグッと握りしめる。
……他の人に見られてないよね?
「多くない?」
「予想ただしいと、さらに高いはずよ。手持ちこれしか無かったから、それで我慢おねがい」
「いやいや、十分だよ」
「タオホン、もう行くね。みんなに見せてこないと!」
「うん、じゃーねー」
「ばいばい」
大事そうに抱えて走って行ってしまった。
冒険者って、お金持ってるんだなあ。
あ、ちなみに相場が分からないなんて嘘です。
値が張るのは、上衣に使った生地。
雑貨の値段から相場を計算すると、金100枚~150枚くらいかな?
技術料も入れると、倍率ドン。さらに倍!
それと雑魚ゴブリンすら悪魔化した、あのゴブリン集落はヤバイ所だったんだな。
別世界チートの恩恵を受けたゴブリンの、その部下ならそうもなるか。
次ページから章変更になります。
うーん、この打ち切り感。
物語の主人公ではあっても、世界の主人公では無い。
なので、逃したイベントは未達成で終わるのは想定通りなんですけども。
拾いきれてない話はどこかで再利用予定。
面倒になったから打ち切った、なんて言わなきゃばれないだろー。
これは書いてるだけで言ってないからセーフ。




