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75 まるで自分じゃあ無いみたい

 六畳一間の調剤室。

 仕事の締め切りは明日の朝まで、らしい。

 時間の猶予はたくさんある。

 私が実質新米で、任せられる仕事の量が少ないから。

 つまり、さっさと終わらせれば自由な時間が増やせる!


「じゃあ、スラ子。奥の小窓から仕事を受け取って」


「ほいほーい」


 ノックして、引き戸となっている小窓を開ける。

 小窓の奥へ声を掛けると、男の人の声が聞こえてきた。

 顔だけ見える状態で、挨拶をしてくる。


「よろしく……っと、さっきも会ったね」


 ひえっ。

 あかじるの鑑定士。

 いや、悪い事をされたわけじゃあ無いんだけど。


 変に知ってる人ばかり担当になるなあ。


「お昼くらいにお会いしましたね、お久しぶりです」


「よろしく」


「運命の出会いに、もう一杯特製ドリンクを飲まない?」


「いりません。それに、今はそれどころでは無いでしょう」


「少しくらい、話をする猶予はあるんだけどな」


「仕事を残すと、気になってしまうので」


「ま、いいか。じゃ、これ、頑張ってね」


 粉末化された薬草類を瓶に入った状態で渡された。

 あとは、何をどれだけ作るのか書かれた紙が添えられている。


「廊下を出て、左に行くと休憩所と仮眠室があるから。分からない事があったら聞いてね」


「どうも。これを、朝までに終わらせれば良いんですよね」


「いや、品質チェックと運搬もあるから。外が明るくなる前には終わらせてね」


 ああ、そりゃあそうか。

 でもまあ、そこまで時間を掛けるつもりは無いからいいや。


「分かりました、それでは終わったら声を掛けます」


「待ってるよ」


 小窓は閉じられて、後は作るだけ。

 その前に、作業台で使う物をチェックしておかないと。


「しかし、何でまた都合よく、こんな騒ぎが起きたのだろうね」


「わかる、かもしれない」


「お? スラ子先生の推理ショーでも始まる? 始まっちゃう?」


「ちがう、みなとにミニスラ子をとばした、そのじょうほう」


「ほえー、んで? 何かそれっぽいこと言ってる人いたの?」


「はなしを、まとめる」


 纏めてもらいました。

 話の元は沖に出て、漁を行っていた船団から。

 屈強で、そこらの魔物にも引けをとらない漁師の集団だとか。

 まあ、それは今する話じゃあないね。




 昨日の夜ごろ、海は静かで魔物の姿は見えなかった。

 漁に出ていた人も魔物の襲撃は無く、いつもより大漁だったそうだ。


 そこから小魚タイプの魔物が現れ始める。

 一時的な平穏だったのかな、と思っていて気にもしていなかったらしい。

 漁からの帰還時、魔物の数は多くなっていることに気が付く。

 襲われることは無かったが、それが逆に気味が悪く、急いで帰った。


 港を目視で確認できる所まで戻って来た。

 後ろを確認。

 遠くでは、サメやウミヘビタイプの中型魔物が、水面から顔を出して捕食を繰り返している。

 これはまずいぞ、と冒険者ギルドへ報告。

 偵察として使い魔を飛ばすと、追われている魔物が町の方へ向かってきているのを確認。

 捕食者がこのまま追い続けると、港の人に標的を変えてくる可能性が出てきた。 

 小型の魔物はともかく、中型の魔物になると短時間ではあるが陸に出て襲えるだけの活動能力はある。

 少数なら個人でどうとでもなるが、数が多い。

 このままでは、大きな被害が出ることが予測される。

 よって、招集が掛かったと言う訳である。


「全くまとまって無くない? つまり、原因が分からないって事だよね」


「げんいんは、わかる」


「昨日の夜ごろ、何かに追われて魔物の大移動が起こったって事でしょう?」


 それが、何……。

 あれ。


「スラ子。昨日、操っていたタコを殺す直前まで、海に出てたよね」


「うん」


「海で何をしてたの?」


「うみのまもの、おいしかったよ?」


 沖合で、大ダコに出会った魔物は、みんな逃げ出してたよね。

 そして、港近くの海を荒らしていたとスラ子は言っている訳だ。


 住みかを追われて、逃げた魔物。

 海を荒らし、空白地帯となっていたため、他の魔物から見れば天敵のいない良物件と化した近海。


 ……。

 私はつっこまないもんね!

 しーらない! いやちがう、関係ない関係ない。

 偶然の可能性が無くなったわけでも無いし。


「仕事しよっか」


「げんいんは、わかるっていった」


「掘り返さなくていいから」


 これ以上、この話を続けて誰かに気付かれたくないよ。






「がんばれー、まけるなー」


 うるさいよ。


「もう少し後ちょっと、もう少し後ちょっと」


 ぷるぷる。

 ぼく、わるい薬つくってないよ。


 震えてるのは理由がある。

 今更、薬効を抽出して魔力水と錬成するだけの作業、ミスなんて出ない。


「ふあぁ、首筋がつりそう……!」


「かみのけ、うごきがよくなってきた」


 そう、髪を自由に動かす練習をしている。

 巻き付けたり、硬くして突き刺したり、大雑把な事は楽にできる。

 物を掴むだけなら触手のように使えばいい。

 だけど、それだけでは精密な事が出来ない。


 なので、髪を纏めて、手のようにして使おうと頑張っている。

 今は、頑丈で壊れないものを、つまんでいる。

 慣れたら、髪だけを使ってポーションを作るつもりだ。


「よく考えたらさあ、自分の身体の一部をまともに使えないのはおかしくない?」


 私の髪は、魔物由来の意思が宿り、魔力を吸いあげて伸びた。

 この意思が曲者で、私の意思とぶつかり合って操作にエラーが出ている。


「かみのけを、ドクターのまりょくで、ねじふせるしかない?」


 そう言われてもね。

 髪の魔力そのものは、私の魔力でコントロール出来ている。

 意思と魔力が紐づけされてない奇妙な髪の毛。

 私であって私ではない。

 まあ、元はタコの魔力が髪の毛になったのだけど。

 魔力以外の要因でなんとかしないと。


「喧嘩して分からせるか、仲良くなる努力をしないと解決しない……?」


「でも、うまくなってる」


 最初に比べたら、確かにそう。

 結果がすぐに出ると考えず、気長に練習していくしかないか。


「でも、やっぱり。ふぎぃ! 頭皮から肩までの筋肉に負担かかるのはしんどい!」


「しかたない、べつのからだ、つくったようなもの」


 神経も筋線維も繋がってるわけじゃあ無いから、痛くならないはずなのに。

 どうにも痛みが髪から伝達されてくるというか、レースゲームで曲がる時に身体が傾く現象に近い。

 自身に起こってないはずの髪の感覚が、私の身体に反映される。

 変に力が入って、それがまた上達を妨げる。


「まわりのくうき、あやつればいいのに」


 髪の周りを魔力で固めて疑似的に操作。

 それでも結果は同じに見える、でも。


「それじゃあ普通の魔力障壁操作と変わらないでしょう、そこに頼らないから価値がある」


 とは言ったものの。

 練習が必要になるし、痛みも伴う。

 普通にやったら数か月はかかりそう。

 やってられません!


「うむ、ズルをしよう」


「おれるの、はやい」


「楽をする努力をするから人、足りえるのです!」


 取り出したるは、酸の詰まったポーション瓶。

 これを髪に近づけて。


「ほーら、言う事聞かないと溶かしちゃうぞー」


「ゲスい」


 そして危機感に震えた髪の意思と、私の意思が結合し。

 一体化を始めた!







「ぜんぜん、だめ」


「そんな馬鹿な」


 全くダメでした。

 むしろ、スネてしまって操作難度が上がってしまう始末。


「私、キレました」


 髪を前側に纏め、固定する。


「私のオーラをかためた、この一撃でお前の意思をスッ飛ばす! くらえ、黄金の右フック!」


 強力な一撃。

 それは、私の髪に吸い込まれる。

 かと、思われたが。


「ぼふぇ!?」


 完璧なカウンター。

 私の頭と同じくらい大きな拳を髪で作り、私の横面を殴って来た。

 その一撃が限界だったのか、纏まった髪はすぐにほどける。


「ドクター、ひとりしばい、うまいね。てんさいてき」


「うっさい、みりゃあ分かるでしょう」


 それだけ出来るなら、最初からやれよ。

 あーあ、髪の魔力も抜けてムラが出来てる。

 最後の切り札みたいな事を、ここで実践してどうするんだか。

 キューティクルを整えるように髪をいじっていると、不意に小窓が開けられた。


「あの、うるさいんで静かにやってもらえます?」


「あっはい。すみませんでした」


 仕方ない、地道に操作技術を上げていくしかないか。

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