73 世界をまたいだ少女
「やっほー、助けに来たよー!」
捕まっていた男に呼びかける。
自分の事ながら、明るいキャラのロールプレイは違和感がある。
でも、こういうのも嫌いじゃあないんだよなあ。
「ああ、待っていた。さっきは当たり散らして悪かったな」
後ろ頭をかいて、気まずい様子。
ありゃ、解放されて外に出た後ならともかく、この状況で謝れる余裕があるのか。
それなら、一人で帰って貰っても大丈夫かな。
「気になさらず。それで、もう終わったって聞いたけど?」
要約すると、コイツから必要な情報を聞き取れば解放してくれるという話だった。
それだけの事が、何故こんな面倒な事に?
私には理解できないね。
「終わった……と、思うが。あんな短い時間で良かったなんて、最初から言ってくれよ」
知らんがな。
そんな事すら受け入れなかっただけの事でしょう。
入口で受け取った鍵を使って、解放する。
「まあ、良かったじゃない。あの母娘に元気な姿を見せることが出来るんだから」
「……そうだな」
「道案内は要る?」
「ゴツいゴブリンの他にも話せる奴がいた。そいつが帰り道を教えてくれるらしい」
ほえ~、エスタ以外にも人間の言葉を知っているゴブリンがいるとは。
「それじゃあ、ここからは一人で大丈夫だよね」
「ああ、世話になったな。お礼は……すまないが、すぐには出来そうにない」
「気にしなくてもいいよ、今回は好きでやった事だから」
今回は、ね。
「どうせ、またすきでやる」
私にだけ聞こえるようにボソっと言うんじゃあないよ、スラ子。
本当に、そうなりそうだから困る。
いや、好きでやってるから困りはしないのだけれど。
そこからは、何かある訳でも無く、解散。
男はこれから帰るが、私はエスタと話の続きをしたいので進む方向が違う。
「あ、もらえる報酬があった……」
「なあに?」
「おやこ丼」
「まえ、はなしていた、どんぶり? りょうり、しらないとおもう」
「料理をするのは、むしろ私の方だけどね」
「??」
おやこ丼について、じっくり説明した。
最初は軽蔑する目をされたけど、途中から食いつき方が変わった。
うんうん、良さを知ってくれて私はうれしい。
「ドクターと、そのこども、たのしみにしてる」
えっ。
あーあー、なにもきこえない。
忘れる事を祈って、話題に出さないように注意しなくては。
私だけならどんな内容でもどうぞ、と言えるけど。
「他の誰かを巻き込むのは、ちょっと違うかなあ」
「だいじょうぶ、カエルのこはカエル」
あっそっかあ。
途中、牢番に鍵を返した。
その牢番は、ビンとフタで笛のように演奏をしている。
天性の音感があるのか、適当なようでいて決して耳障りにはなっていない。
「うまいね」
そう思ったから、銅貨数枚を投げ渡した。
嬉しそうな様子を見せ、返事の替わりに演奏で返す。
その後、歩いている間も演奏が聞こえてくる。
その音に変化があった。
「まりょくを、かんち」
音楽に魔力が乗った?
わざわざ戻ったりはしないが、それ以降は演奏がされなくなった。
魔力も感知しても、さっきの奴がいない。
「浄化された、わけじゃあないよね?」
「しょうしつ。きえてる」
よく分からないな。
おそらく、たまたま音楽と魔力が合わさって何らかの魔法に変わった、と思う。
これが転移なら有用だけど、自殺しただけって可能性もあるからなあ。
気軽には試せないけど、そういう事もあるって覚えておこう。
制御出来れば面白そうだ。
「で、そんな感じで消えちゃった」
「そうか、他の奴を用意せねばな」
場所を変え、エスタの家の中。
話の続きとやらを受けに来た。
そのゴブリン達のリーダーであるエスタが、言いにくそうにした後。
「お前は、元の世界に帰りたくは無いのか?」
……ふむん?
質問の意図は? そもそも何故、私がそうだと?
口を開き、閉じ。
返事に窮して、どうしようか。
「やはりそうか」
カマを掛けていたのは何となく分かってはいたけど、どう返せばよかったのかなあ。
「そういった話を知らない奴は、そんな深刻な表情はしない」
正解は、何言ってんだこいつ? と返すことでしたとさ。
要反省。
「それに喋るスライムも、お前の見た目と中身も釣り合ってない。異質すぎる」
見た目も悪かったらしい。
まあ、私だって言動のおかしな少女が目の前に現れたら警戒はするけど。
「……で? 私がそうだとして、それが何だって?」
「すまん、ぶしつけだったな。お前の住んでた世界はチキュウか?」
どこだよ。
私以外の人が来たであろう形跡はいくつもあったけど。
まさか、複数の世界から来ていたのか?
「なにそれ、聞いた事無いけど」
「そうか……俺の元主人が、そこの出身でな。元の世界に帰ったその後を知りたかったんだが」
「ごめんね、知らない事は答えられないよ」
そもそも何時の話で、その人は何歳だよって言う。
ゴブリンの見た目年齢とか、寿命なんて気にした事も無いわ。
「いやまて。お前、別の世界の人が居ると知っても驚かなかったな?」
「そりゃあ、だって。ねえ」
技術力が進んでたり、進んでなかったりで。
どっちだよ、ってツッコミたい気持ちを抑えてたし。
チグハグな技術は、大衆に受け入れられた物だけが残ったのだろう、と考えてはいた。
では、誰がもたらしたかっていう話になるけど。
最初考えていたのは、超古代文明説か異世界人説だった。
一部違うものの、それなりに知っている世界に、私という前例。
この状態で、私が初めてこの世界に降り立った、最初の異世界人だ、なんておこがましいでしょう?
これ見よがしに太古のオーパーツが出土されました、といったイベントが起きてくれたらともかく。
「外から見たら、おかしく見えるよ」
「む、そうか。この世界の人達は当たり前としか思ってないが……」
「もう少し、独自の変化や進化をしてくれたら分からなかったかもね」
「スラ子、みたいな?」
スラ子が肩から跳びあがり、頭に埋まる。
そして、私の髪から顔を出した。
「俺のようなゴブリンも、そのスライムも、外の人は異質な遺産を残しがちだ。分かるやつには分かる、気を付けた方がいい」
「いわれちゃったね、ドクター」
「だが、私は今の生き方をやめない!」
「強く言う事では無いと思うが」
「おとなしくなったら、みていてつまらない」
「私も、つまらないのは嫌いだから良いけどね」
「もう一度聞くが、元の世界に未練は無いのか?」
「むーん……無い、かなあ」
待っている人が居るならともかく。
単身で世界移動、ねえ。
外国に単身赴任しているのと変わらないよね?
もっと、規模を小さく言い換えても良い。
人生を変えに、地方へ再就職したようなものでは。
地方へ行けば、実質異世界だよ! やったね!
「どちらでもいい、が答えになるね」
「そうか……」
空を仰いで考え込んでしまった。
もし、元主人とやらが残ってくれたら。
もし、一緒に連れて行ってくれたら。
そんな感じに見える。
「エスタは今、幸せでは無いの?」
「ふっ、くくっ、変に気を遣わせてしまったな。幸せで、後悔もしていない。自分の意思で決めた道を振り返っていられるほど、暇な立場では無いのでな」
「そう……で、私の用事はまだあるんですけど」
「何の用だ」
「アンデッドの被害、こちらには来てないですか?」
来ていないはずが無い、黒幕なら別だが。
まあ、どうせ関わる可能性がありそうなら、先手を打とうと思った訳で。
「被害ならあった。それと、拠点は割れている」
「場所は? というか、その様子だと攻め込むつもりだったとか?」
少しだけ、イラついている様子。
いきなり理不尽な攻勢をかけられたら、そうもなるか。
「攻める理由が無いだろう、このような急増の集落なら捨てて、移動した方がマシだ」
普通、パッと集落は作れないと思うんだけどね。
得るものが少なく、報復に出る意味が無い、とのことで。
ああ、だから耐えられない奴が分裂して、今回のあぶりだしに私が使われたのか。
「それでも、あの男を解放した以上はこの集落も捨てる。でなければ、町との戦いが始まるだけだ」
まあ、そうだろうねえ。
意外といい奴らだったな、で終わらないのが人ってものですよ。
それから、アンデッドの拠点となる場所を聞いた。
どうも操っている親玉がいるようで、それなりの数が集まっているらしい。
この辺りの情報を町に持ち帰るだけでも、十分だろう。
「ありがとう、次に会えた時は一緒にお酒でも飲もう。また会えるとは思わないけどね」
「さらばだ、外の少女。少なくとも、俺はそこらの人には劣らない。いつか、会う機会もあるだろう」
「それじゃあね、スラ子にはピンとこない、はなしだった」
はたから聞くと、何言ってんだこいつ、としか思われない案件だからね。
設定を固める気が無いだけです。
全く別の世界なのか、それとも平行世界にしようか。




