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72 TS(物理)

 人を一人、連れて帰るだけなら痛い思いをする必要は無かった。

 姿を消して潜入し、男を眠らせ、横穴でも掘って逃げればいい。


 しかし、話せるゴブリンに興味が湧いた。


 実験体が欲しければ、適当な相手を見繕えばよかっただけ。

 面倒な手順を踏んで、許可など取る必要も無い。


 こんな事をしているのは、私の好奇心を満たすための気まぐれ。




 だらだら余計な事を考えるなんて、罪悪感から逃れようとしているね。

 これは良くない。


 もっと素直に行こう。

 自分を誤魔化すために、利用された振りをして、この状況を利用した。


 今から私は、このゴブリンを犠牲にする。

 自分に嘘はつかない。


 よし。

 ひっかかって、もやもやしていた心が晴れた。

 開き直ったともいえる。




「スラ子、手伝いよろしく」


 私に隠れていたスラ子が、肩から飛び出す。

 ゴブリンの観衆に囲まれていると、視線が少しうっとおしく感じる。

 まあ、気にせず準備を始めよう。


「けっきょく、つかわなかったね」


「うん? ああ、そうだね」


 実は、スラ子は胃の中に隠れていた。

 本当に危なくなったら、体の中で直接、回復薬による治療をしてもらう予定だった。

 そんな必要は無くなったけど。


「エスタの速さも、やばかったな――」


「うん、あのはやさ、まともにたたかったら、かてるかどうか」


「――跳んできた時の速すぎる落下速度、物理に喧嘩売ってるでしょう」


「えっ」


「えっ」


 ……。

 こほん。




「じゃあ、始めるよ」


 私を中心に、適当な範囲を指定して、魔力障壁で立方体の部屋を作る。

 地面に水を張り、内部を清浄化する。

 このままだと窒息するので、呼吸器を使用して。

 そうだ、釘を刺しておかないと。


「エスタ、この中には誰も入れないでね。ほこりも入れたくないから」


「ああ」


 目の前で跪いているゴブリンを、魔力で作ったベッドに、仰向けで寝かせる。

 そのまま、足をガニ股に開かせて固定。

 意識を失っている状態だからなのか、すっかり萎えてしまっている。


 身体を動かすことが出来ないまま、意識を取り戻させることも出来るけど……。

 これからの事を考えると、少々悪趣味なのでやらない。


「それじゃあ、打ち合わせ通りに。ここからの会話は魔力通話で」


「りょーかい」


 スラ子は棒と玉に移ると、スライムの膜で覆っていく。

 同時に、尿道から侵入して、精巣まで侵入。

 明るい所で、他人のコレをまじまじと見ると、ちょっと内臓感がキツイね。


「どう?」


「もうすこし……おわった。もんだいは、いくつか」


 無理が出ることは分かってた。

 しかし、何とかできる範囲だ。


「切り取る尿道の再形成、必要なスペースの確保、骨格もか」


「そう。ぼうこうは、そのままでいい」


「おっけー、それじゃあスライム細胞の材料を頂戴」


「どうぞ」


 尿道から、カプセル状のスライム膜で包んだ、白い材料を渡された。

 で……と、やっぱり道具が無いと無理。


「エスタ、道具出していい?」


 近くで腕組をして、こちらを見ていたエスタに声をかける。


「ああ、構わんが……どこから?」


 よし、言質は取った。

 早速、必要な道具を取り出す。

 いまは外野の反応なんて無視、これからは時間との勝負になる。

 きっちり集中していこう。


 まずは人工授精させる。

 そして用意しておいたスライムの核に受精卵を突っ込み、再生薬で無理矢理増殖させる。

 増殖過程で遺伝子を変異させ、このゴブリンと同一になるようにする。

 勿論こんな事、道具があろうと私個人で出来ることでは無い。

 スライムの増殖、擬態の力を利用する為、スラ子の感覚に任せている。

 イヤー、スライムベンリダナー。

 ……深く考えない様にしておこう。


 どの細胞にも変化できるスライム細胞を作るだけなら、ここまでの手順を少し変えるだけで良い。

 ここから先の作業で、スライムを使わず細胞分裂させたらコイツのクローンが出来るが、それはさておき。


「染色体は、そのままでも大丈夫かな」


「りろんじょうは。えいきょうあるのは、せいちょうとちゅう、のはず」


 やってみないと分からないよなあ。

 私の身体を作った時も、一発目で成功したわけじゃあない。

 命に直接影響が出る部分は変えないから何とかなる、と思うしかないね。


「ほいっ、と」


 回復薬に浸け込んで保存してある、女性の生殖器を取り出す。

 いやまあ、私のと同じ物だけど。

 今作った受精卵で、機能している事は確認済み。

 これにスライム細胞を移植。

 生殖器の細胞をゴブリンのものに置き換えていく。


 思ったより置き換わりが早い、魔物としての特性も影響しているのかな?


「そっちは?」


「いつでも」


「じゃあいくよ、いっせーのー」


 ぷつっ、と。

 軽い音を立てて、ゴブリンの生殖器が全部取り外された。

 止血も完璧、神経や筋肉も綺麗に選り分けてある、さすが。

 これは後で使うので、回復薬へ劣化させない為に浸けこみ、インベントリにしまって保存。


 見た目に強烈さを感じたのだろう。

 直接目撃したゴブリンが完全に無言になった。

 股間も抑えている奴もいる。

 その不気味な無言の空間は波のように広がり、声を発するものは誰もいなくなった。


「腰回りのモデルよろしく」


「はい」


 スラ子から腰回りの骨格に擬態したスライムを渡される。

 今まで出会った女性を参考にして骨格を変化させ、適合するようにすり合わせていく。

 決まったらゴブリンの股間周りの骨を直接錬成するために。


「スラ子、溶かしていいよ」


 邪魔になる、筋肉や脂肪分を溶かしていく。

 そして錬金魔法による、骨の再形成。

 同時に女の生殖器を組み込む。


「バイタルは」


「へいき」


 細かい位置調整はスラ子に任せ、支配中の魔力体に働きかける。

 このまま再生させても、肉体が生殖器に拒否反応を起こすか壊死する可能性がある。

 なので、ゴブリンの魔力体を引き延ばし、外付けした生殖器との一体化を進める。


「再生薬飲ませてもいいよ」


「わかった」


 再生速度が遅いポーションを使う。

 神経などがきちんと接続されているか、スラ子がモニターしている。


「胸まわりをいじるから、何かあったら言ってね」


「わかった」


 まずは、胸部の切除。

 生殖器の時と同じように、こちらも女性の乳房を移植していく。

 ただし、サイズが合ってないので再生前に胸周りを調整した。

 結果、三角型になって思っていたよりもボリュームが無いが、まあ仕方ないだろう。


「乳腺に異常が無いか、確認よろしく」


 機能しなければ意味が無いからね。

 まあ、スラ子のことだから乳腺を改造して出やすくするだろうけど。


 女性ホルモンを注入していく。

 再生薬との相乗効果で身体に取り入れるのが早いからどんどんいこう。


 続けていくうちに、股間部分から血が流れてきた。


「……感染症?」


「ちがう、せいり」


「は? あり得るの?」


 スラ子と顔を見るが、冗談を言っているとは思えない。

 再生薬とは別に、代謝促進薬も使っている。

 そのため、肉体に流れる時間が一時的に速くなっているはず。

 女性ならば、その関係で生理が来る事も有るだろうけど。


「生殖器をつけたからって、すぐに生理がくるものなの?」


「サンプルが、たりない」


 いや、助かるんだけどさ。

 エスタに強制排卵薬でも渡して、後は頑張れって放り投げるつもりだったが。


「次は喉」


 声が男のままとか台無しである。

 とはいっても、こっちはそう難しくは無い。

 喉仏を変形させ、抑えるように薄くしていく。

 これだけで声が高くなるだろう。

 まあ、今までとは声の出し方が変わるから、しばらくはまともにしゃべる事が出来ないかもしれない。


 ともあれ、手術は終わった。

 ホルモン注射と代謝加速のお蔭で、筋肉量が大幅に減った。

 かわりに女性のような柔らかい脂肪分が付いている。

 多分、中性的でボーイッシュな見た目になっていると思うのだけど。


「どうだろう、女性らしいと思う?」


「わからない」


 これが人間なら、ねえ。

 ゴブリンの体が変化されても評価に苦しむ。


「魔力支配を解除するから、スラ子は念のために拘束していてね」


 解除っと。

 意識を失ったままなので、当然だが反応は無し。


「感覚は繋がってるかな?」


 不感症だなんて、可哀想だもんね。


「それなら、しはいしたまま、スラ子がそうさするべきだった」


「あっ。うん、まあ、やってしまったものは仕方ないからね。で、どう?」


 スラ子が、ぐちゅぐちゅと潜り込んでいく。

 動くたびに下腹部がピクリと動く。

 色々な所を確かめた後、潜らせたスライムを取り出した。


「だいじょうぶ、だとおもう」


「神経は繋がっているのに、分からないんだ?」


「ほんにんが、どうかんじるかは、べつもんだい」


 なるほど、そういう所は開発していく過程で変わっていくからね。


 これで、大体把握できたかな?

 欠損を再生させると、元の姿に戻る性質が気になっていた。

 生殖器を切り落としても同じように治るだろう、普通なら。

 そこで別のモノに組み換え、魔力体と馴染ませたときにどうなるか。

 その答えは得られた。

 魔力体に元からその肉体だったと認識させることで、肉体の改造は可能になる。


 腕を千本にする事も、理論上は可能。

 ただし、まともに動かせるかは別だけど。

 私の髪のように、自分の意思を酌み取る何かが宿っていないと、神経を通しただけでは普通は動かせないはず。

 手の指を六本に変えても、頭が対応してくれないはず。

 ……なんて偉そうに考察したけど、実際やってみたら訓練しだいで出来たりして。




「よし、終わり」


 障壁を解除。

 血の臭いが拡散し、新鮮な空気が入ってくる。

 あー、空気おいしい。


「どれくらい掛かった?」


「いちじかん、くらい」


 内容を考えると、結構早いね。

 さて。


「エスタ、連れて行ってもいいけど。念のため、体調をみてからお願いね」


「……ああ、分かった。しかし、なんだ。見ていて面白いものでは無かったな」


 その顔を見ると、確かに血の気が失せているように思える。

 やってる方は真剣だから、そんな事を考えてる余裕は無いんだけどね。


「いやまあ、面白さを求めてやったわけでも無いし」


「そうだな。……話の続きは、俺の家に戻ってからだ」


 後始末は任せて、エスタの家で残った話をするようだ。

 いやー、疲れた。

 ああ、そうだ。


「子供がデキても、メスが産まれるかは別問題だからね」


「ふむ、やはりそうなのか」


「こればっかりは、子や孫が出来てみないと分からないから」


「ところで、ドクター」


「どしたの?」


「かいしゅうした、おとこのアレ、ドクターがつかうの?」


「まだ、決めてない」


 そのまま使っても種がゴブリンのままなので、改変はする。

 それが自分で子供を産むためなのか、私につけるためなのかは、まだ決まってない。


 もし自身につけたとして。

 機能上、前立腺が膀胱直下につく関係でトコロテンがエグい事に。

 少し怖いような、楽しみなような。


「おとこになるとか、いいだすかと」


「いやー、女だろうと男だろうと私は私でしょう? どっちでも良くない?」


 スラ子には、まだ元々男だったこと言って無かったか。

 そのうち伝えよう、うん。


「それとアレをつかって、ほかのじょせいと、こどもをつくるなら、もんだいがある」


「子供が出来にくいとか?」


「たぶん、おんなのこしか、うまれない」


 えーっと?

 女性の染色体には、Yが無いから、かな?


「だからどうした、としか思わないんだけど」


「きにならないなら、べつにいい」


 男の子ねえ。

 どうしても欲しい、なんて思う時が来るのかな?

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