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70 実はギリギリまで罠の可能性を疑ってました

「起きてますかー? シャガちゃんが来てあげましたよー」


 私の声に反応して、びくりと反応する。

 木の格子で出来た牢で監禁されていた旦那さんが、すぐさま起き上がった。


「助けが来たか! すぐに出してくれ! 早く!」


 格子を掴んで、こちらに叫ぶ。

 正直、うるさい。


「すみません、今すぐには出せないんですよ」


「ああ!? なんで女の子が一人で……? そうか、お前ゴブリンだな!?」


「いや、違いますけど」


 んー?

 なんか、すごい恐れられてるね。


「ドクター。ふつうはゴブリンにつかまったら、いきたここちしない」


「な、なんだそのスライムは……お前、魔物か! ゴブリンとグルになって俺を騙そうとしてるな!?」


 そうかあ。

 暗いし、不安から来る恐慌状態かな、そういう事にしておこう。

 ちょっと落ち着いてもらわないと、話も出来ないわ。


「助けに来たのは事実ですから、少し落ち着いてもらってもいいですか」


 とは言っても言葉では信用できないだろう。

 首にかけてあるギルド証をジャラつかせて、見せびらかす。

 ほれほれ、どーだ、うらやましいだろー。


「これで、信用してもらえますかね?」


「それは……? う、あ。そう……か、いや、すまない、少し、どうかしていたようだ……」


 はい、どーぞ。

 町で買っていたバゲットを差し出す。

 男はパンを受け取ると、表面の焦げを削ってすぐにパクつく。

 お腹が満たされたら、少しは落ち着くだろう。


「ついでに水もどうぞ」


 水……と同じ無味無臭の回復ポーションを渡した。


「? このガラス瓶どうやって開けるんだ?」


 口を、もごもごさせながら聞いて来る。

 フタの部分をクルクル捻じると開きますよ、とジェスチャーしたらすぐに理解してくれた。


「それでですね、貴方が出る為の条件がありまして」


「そんな事をしなくても、ゴブリン共を皆殺しにすればいいだろう」


 ……はあ。

 いや、魔物とコミュニケーションできるなんて常識の外だ、と思うのは当然か。

 これが普通の反応だろうなあ。


「それが出来れば、ですけど。今は助かるための最善を尽くしませんか?」


「お前が、他の人を呼びに町にいかないのか」


「実は私、貴方の奥さんから生きているなら連れ戻してほしいと個人的に頼まれて来たのですよ、無報酬で。まあ、助けを頼みに戻ってもいいですけど、呼んだ方がいいですか?」


「そりゃ、そう……?」


 ここで男は考え始めた。

 しかし、まだぼーっとした様子。

 眠れていなかったのか、よく見ると顔色があまりよくない。

 これは、頭がまわってないな。

 仕方ない、少しヒントをあげよう。


「いいですか、私が戻って助けを呼んだとしますよ」


 無報酬で。

 つまり、依頼として受理されることはない。

 ギルドからの厚意での救援という形になるだろう。

 場所は歩いて半日掛からない程近いが、そこはゴブリンの集落。

 まとまった戦力が必要になる。


 まず偵察、必要な人員を集めて、安全マージンを取ったうえで救出計画が練られる。

 成功報酬も無く、自分の命を懸けたボランティアだ。

 人の集まりが悪いことは容易に想像できる。

 助けは、いつになる?

 最悪、人質に取られることも考えられる。

 偵察に気付いたゴブリンが報復を恐れて逃げる際、方角が割れない様に殺される可能性は?


「本当に……お前が、助けてくれるのか?」


 こういった説明をしたが、穴はいくつもあるはず。

 冒険者をやっている以上、実はギルドからの救援なんてありえない、とか。

 そもそも、ギルド側が私の話を信用してくれるのか。

 まだ冒険者ギルドの、詳細な契約内容を知らないからなあ。


 それと、私が善意で現れたという前提ありきの説明なわけで。

 話したことは全て嘘として一切信じない、という選択肢もあった。 

 しかし、どういった考えに至ったにせよ、信じてくれるなら応えましょう。


「はい、とはいっても難しい事ではないです」


 その後も、なんで魔物と話をする必要が有るのか、教えてやる必要はないだろう等。

 そんな愚痴を垂れ流した相手にキレなかった私を褒めてやりたいところだ。

 この男、本当に助かる気はあるのか?


 これで、やっと。

 やあああっっっと、この人を家に帰す為の話し合いが終わった。




 牢から出ると、緑帽子のゴブリンは瓶とフタで隙間を作り、笛のように音を出していた。

 器用な奴。


「それじゃあ、戻るけど」


「勝手ニ戻ッテイイゾ」


 いいのかなあ。

 無事に帰すのも仕事、と考えるのは私の勝手な考えか。


 暗い通路を通るが、一人は少し寂しい。


「ドクター、すこしおこってる?」


「うん? そう見えた?」


 そうかな。

 ……彼が捕まった経緯によるけど。

 話が通じようと魔物は無条件で殺すべき、なんて。

 説明している間、終始そんな態度を見せていた。

 そういった凝り固まった考えが気に入らなかったから、かな?


 微妙に違うかも。


「……もう、大丈夫だよ。たぶん」


 私は聖人君子でも無ければ、正義の味方でも無い。

 これを忘れて首を突っ込むと、いつか痛い目を見るから気を付けないとなあ。


「ドクター、こっちみて」


「なに、ぶっ」


 アゴに軽く、不意打ちパンチを食らった。


「やってくれるじゃあないの」


 指でツンツンして反撃する。

 即席で行われた指フェンシングの試合はスラ子が勝った。

 強い。剣先を使って横に反らす技術が卓越している。


「ふふっ、ありがとう、元気出たよ」




「戻って来たか」


 地下から戻るとエスタが待っていた。

 わざわざ出迎えてくれるとは。


「もう準備は終わったの?」


「ああ。ん? 案内をしていた奴はどこに行った?」


「下で、さぼってるよ」


「またか、まあいい。俺は決闘が始まるギリギリまで男から話を聞く、向こうで用意を始めてくれ」


 言われた方へ行けばわかるかな。

 その言葉を最後に、エスタは地下に降りていった。

 忙しそうにしてるけど、本当に神聖な儀式なのか?

 まあ、裏方作業なんてそんなものか。


「じゃあ、私達も行こうか」


「けっこうなかず、あつまってる」


 魔力を感知して見ると、確かにかなりの数が集まっていた。

 それだけ重要な……いや、見世物目当てだろうなあ。


 言われた通りの方向に歩いて行く途中、じろじろ見られていることに気が付く。

 全てのゴブリンに見られているわけでは無いけど、どうにも熱っぽいと言うよりは、暗い感情が見えている。

 これは、敵意か?


「コッチダ」


 私に声をかけてきたゴブリンについて行く。

 決闘場に繋がっていると思われる、いびつな掘っ立て小屋。

 ここが控室だと言われた。


 小屋の背後には観客のゴブリンが好き勝手にくつろいでいる。

 ちらりと見えた隙間からは会場が見える。

 そこは地面が、深く掘られていた。

 広いには広いが、一般的な催し物をする場所として見たらそれ程でも無い気がする。

 一対一で戦う前提の舞台で、小規模の集落規模ならこれくらいで十分とも言える。


「掘って作ったコロシアムみたいなものかな?」


「みせものとしては、ごうりてき」


「ハイレ」


 ゴブリンと共に、小屋に入る。

 内装はほとんど無く、奥側にドアがある。

 配置を考えると、ドアを通れば決闘場の目の前なのだろう。


「話ハ聞イテイルナ、武器ノ持チ込ミハ禁止ダ」


 ポーチを外し、靴や装飾品をスラ子へ放り投げる。

 目だけは保護しないと光にやられるので、魔力でアイガードを。

 いや、魔力操作にも大分慣れてきた。

 コンタクトレンズの形で偏光させよう。

 髪もポニーテールにして、邪魔にならない様に纏める。


「これで良し」


「マダダ」


 あれ、まだ何か忘れてた?


「服モ脱ゲ」


 服もかよ。

 仕方ないね、それがルールなら従いましょう。

 キッズドレスを脱ぎ、上下ともに下着だけの状態。

 少し恥ずかしいが、始まってしまえば、すぐにそれどころではなくなるだろう。


 懸念があるとするなら、膝まで伸びている髪の毛か。

 自由に動かせることはギリギリまで隠しておきたい。

 もし掴まったとしたら?

 毛根付近だけ操作して抵抗、これで怯まないで済む。

 そして、無駄な一手をかけている相手の隙をつく。

 これほどあからさまな隙を突いてくれるかどうかは相手次第だけど。


「マダダ」


「服は脱いだよ?」


「下着モ武器ニナル」


 あっ、そっかあ。

 まあロープみたいな物だからね。

 特にパンツなんて幻惑属性とかついてそうだし。


「いやいや、本気で言ってるの?」


「相手モ、同条件ダ」


 チッ、エスタの奴。

 わかっていて曖昧なルールを伝えたな。

 まあいい。

 フロントホックを外し、下も脱ぐ。

 ゴブリンから視線を感じるが、不思議と何も感じないな。


 二、三度跳ねる。

 おっぱいが上下するのが煩わしい、このままではおもりになる。

 動きに遅れが出てしまうのは大きなハンデ。

 胸の周りで魔力を固め、さらしを巻くように固定する。

 透明なフィルムを巻き付けたように胸が変形して不格好ではある。

 しかし、大きく動けるようになった。


「これでいい?」


「……」


 返事が無い。

 ゴブリンは、まるで灯りに誘われるように私の胸に手を伸ばし。


 手の甲をつねってやった。

 まだ、お触り厳禁だっての。


「イダダダ! スマナイ、始マルマデ、待機ダ」


 終わり?

 かーっ、キミには失望したよ。

 まだ隠すところがあるだろう。

 指では奥まで届かないな、この棒でしっかりと確かめないと。

 みたいな? みたいな?


「また、へんなことかんがえてる」


「んーん、そんな事無いよ」


 嘘だけど。

 さーて、よく会場をよく見ておかないとなー。

 奥のドアを開けて下見をしようとしたが、その必要も無かった。

 乱暴に扱われていたドアはよく見るとボロボロで、蹴破ったような跡がある。

 興奮した出場者が、暴れた跡だろうか。

 隙間から覗くと、あんのじょう決闘の舞台に繋がっている様だった。


 待っている間、ウォーミングアップ。

 ついでに色々と仕込んでおく。

 私が使える個人能力は、自由に使わせてもらう。

 手段を選んでいられるほど余裕があると思っていない。

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