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 走って数分、緩く曲がっている道路を進むと、アルトと大きな存在が少し距離を取り、向かい合っていた。

 後ろで見ていろと言われた以上、声もかけられないので道路から外れて木の陰に入り観察する。

 そいつは確かに職員の男、だった。


 その男の体には赤色のおびただしい量の血と思われるものが付いている。

 アルトの方はまだ怪我を負っているようには見えないので先行していた斥候のものだろうか?

 まあ、ここまでは普通といえる。

 見える情報がこれだけならアルトが始末して終了だったのだろう、方法までは知らないけど。


 大きさは2メートル50センチほど。

 その男の体と手足の付け根から先まで黒い石のような、鈍い光沢のあるごつごつとした物に覆われていた。

 わかりやすく言えばゴーレムだろうか、その手足は太くてそこらの木なら薙ぎ倒せそうだ。

 男の顔はゴーレムで例えると頭の部分から露出しており、まるで重厚な兜のように見えなくもない。

 ゴーレムで作ったパワードスーツに一見みえるが、それはその男が身体の主導を握っていればの話だ。


 目は白目を剥き、口が大きく開きっぱなしになっている。

 その姿はマネキンのようにおとなしい、どう見ても意思があるようには見えない。

 ゴーレムを着ていると言うよりは、ゴーレムに取り込まれているように見えた。


 ゴーレムが足を開き、前傾姿勢を取る。

 それはまるでレスラーが相手に組み付く時のポーズに見える。

 だがあの鈍重そうな体ではアルトに触れることも出来ずに負けるだろう。

 ゴーレムが踏み込む。


 ドスドスと重量物特有の重い加速を付けた突進から左腕を振りかぶり、アルトに向かって地面に叩き付けた。

 アルトは難なく上に飛んで躱し、地面に叩き付けられた腕に乗る。

 肩に向かってフロントステップを踏み、手刀を構える。

 その手刀はほのかに光り魔力による切断を狙っているのが解る。

 武器は使わないのか。


 肩まで一瞬でたどり着いたアルトは腕を大きく上に振りかぶり。

 きれいなフォームで肩を関節の部分から切断し――


 ガヅッ!

 切り落としたかと思ったが重い打撃音を立てただけで手刀が石の体で止まっていた。

 そのまま肩を蹴り、万が一腕を振り回しても範囲内に入らない距離まで離脱する。

 アルトの顔はここからは一瞬しか見えないが痛みか怒りで歪んで見えた。


 ゴーレムはアルトに振り向き攻撃を加えに行くだろう。

 そう思っていたのだが。


 その巨体の向きを私の方向に変え、走り出してくる。


 なんで!?


 木の裏にいたところでゴーレムの腕でもろとも薙ぎ払われるだけだ。

 原生林の側に行ってもアルトが戦いにくくなるだけだろうと思って道路に飛び出す。

 ゴーレムは走りながら左腕を振り上げて攻撃の予兆を見せてくる。

 芸のない奴め、だが近くで見ると案外早い。

 振り下ろされた左腕をバックステップすることでかろうじて躱す。

 カウンターで出したアシッドポーションを職員の肉体部分に放り投げる。


 顔にド真ん中、直撃コース。


 だがその瓶を見て過剰に体をねじってそらし、回避した。

 ゴーレムは横に一歩動いて態勢を回復させながら私の身長を捉えるために、右腕でフック気味のアッパーで殴り掛かってくる。

 その距離ならもう一回後ろに飛んで躱せる!


 もう一度後ろに飛んで、その拳を躱し。


 不意にその拳が伸びてくる。

 当たったその拳は強烈な衝撃で私を殴り飛ばした。


「おげぇえええぇ!」


「レディ!」


 アルトが叫ぶのが聞こえる。


 身体の芯にジャストミートして数十メートル吹っ飛ぶ。

 吹っ飛んでいる間にゴーレムがフォロースルーをしているのが見えた。


 勢いよく地面にこすられ、転がりながら勢いを殺していく。

 横になったまま身体のチェックをする。

 結構派手にダメージをもらっているような気がしたが見た目の怪我はない。

 身体の物理耐久力と耐物理マントでほぼ凌ぎ切れているようだ。

 一応念のためにポーションを飲んでおく。


 立ち上がろうとすると、アルトがゴーレムを追い越してこちらに走って来ているのが見えた。

 そのままの勢いで私を拾い、横抱きにして走り抜けていく。


「怪我は無いですか」


 抱かれた時のバランスが少し悪かったのでこちらから抱き着く。


「ない、というか何で私の方に来たんだ?」


 アルトは速度を落とさず走りながら冗談めかす。


「貴女の事が好きなのでしょう」


 やめてくれよ、まったく嬉しくない。

 というか、あの伸びてきた腕って。


「あの右腕、私のナイフ取り込んで伸びるようになったんじゃないのか」


「無機物なのであり得ないとは言い切れないでしょうね」


 そういえば男の体に掛かっていた赤い返り血。


「先行していた人って生きてるのか?」


 私の言葉に少し考えた後、腑に落ちたようで。


「勘違いさせていたようですが、人ではなく動物の使い魔ですよ。あの赤い目印をかけた後戻ってくる予定でしたが、相手を怒らせたようで別の方向に避難しています」


 なるほど、現地からの通達が早かったのはそういう事か。

 接敵する前の雄たけびも怒ったからだと。


「で、ああいうゴーレムはこの辺りではよく湧くのか」


「私もこの近辺でゴーレムを見るのは初めてです、濃度の高い魔力と鉱石、あとは行動原理となる他者からの命令か怨霊のような強い意思が無ければどうあっても発生しないものですから」


 じゃああの男が材料を持ち込んだのか、と尋ねるとそれも無いと言う。

 そんな簡単にゴーレムを作れる実力があったならあの男は国に呼ばれてゴーレム軍でも作るだろうと。

 確かにそうかも、そもそもゴーレムに取り込まれてるから作ったというのは違うのか。


 あの男がここに来るまでには元々発生していた?

 自然に発生していたなら指示されたものではなく何らかの意思で。あれ?


「どうしました? 汗が急に出てますがやはり痛みますか」


 冷や汗です。


 私が最初に目覚めた時、何をしていた?

 襲っていたケモノを殺して放置して。

 高濃度魔力で作ったポーション飲んで、いや瓶を叩き割ったとき漏れたかも。

 そんで重いからって大量の鉱石を捨てたな。

 あれ? 全部そろってないか?

 私を狙って来たうえにアシッドポーションの事を知っていたかのように避けたな……。


「どうしました? 震えていますよ、怖くなりましたか」


 抱き着いている私の震えから心配してくれるのはありがたい。

 深呼吸をひとつ、ふたつ。アルトの胸に耳を当てて心臓の音を聞いて心を落ち着かせる。

 死んでも尚、私に執着する事に面倒くささを感じるが、あいつ自体はそれほど脅威には感じていない。

 私を追いかけてくるだろうから町の方に逃げても被害を増やすだけだ。

 このままだと私のせいで他の人に迷惑がかかる、それだけが怖い。

 いや、少なくともアルトには迷惑をかけていると言えるか。

 だがまだその程度で済んでいるとも言える。


 震えも収まって来たから作戦を考えよう。

 あいつはここで何とかする、出来なければ逃げて解決方法を探す。

 今採れる方法はこれだけだ。


「ありがとう、大分距離を離したから降ろしてもいいよ」


 アルトは拒否をしようとしてこちらを見る。

 私の顔が真剣さを帯びたのを見たのか素直に降ろしてくれる。


「アルト、さっきはあいつの腕を切り落とせなかったみたいだけど倒す方法はあるか?」


「多分何とかなるでしょうが……それほど現実的ではありませんね」


 何とかなるのか、鉄が主成分のゴーレムだから無理だと思ってた。

 最悪手持ちのアイテムを大量に消費しようかと思ったが。


「具体的には何をすればいいんだ」


「この方法は魔力を浸透させて直接崩壊させる都合、個人が持つ天然の魔力障壁の解析と中和をして叩き込みます。よって近い距離で時間を稼いでもらう必要があります」


 さらに攻撃の溜めと解析でアルトは動けなくなり、無防備になるらしい。

 

「じゃあ私がその時間を稼ぐよ、どれくらい持たせればいい?」


「相手が射程であるおよそ10メートル以内に入ってから1分も頂ければ、しかし先ほどの闘いを見る限り難しいのでは?」


 体も軽くてすぐに吹っ飛ぶんじゃあ時間稼ぎもないよね。

 だから少しやることを変えるのだ。


「まあ見ててくれ、私にもやれることはあるのさ」

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