67 ツクモオリジナル
「私は旅を続けるぞ、スラ子ーッ!」
「どうしたの、やぶからぼうに」
町から出て、今はスラ子の案内で街道を歩いている。
まだまだ先は長い、散歩道のような状態だ。
「だって、ご飯が舌に合わないんだもん」
「おいしいごはんは、どこかにあるの?」
「あるでしょう、あるよね?」
クニツギとか、設定そのままなら和風な国のはず。
色々知っている事とズレはあるけど、食事面ではそこまで変わらないだろう。
そこまで遠くに行かなくても、美味しいモノは近くにあるかもしれないし。
「ところで、ドクター。ぶき、よういしないの」
? ぶき。
武器ね、うーん。
「長物は把持力が足りない、短刀や格闘は速さが足りない、弓は胸が邪魔、……んー?」
「おどろくほど、むのう」
「いや、あるにはある。これだあ」
おもむろに取り出す。
ネイルガンのような見た目で、トリガーガードが大きく、手をすっぽりと覆う程。
自動でリサイズしてくれる、なんてことは無く。
グリップを握っても、指がまわりきらず余ってしまう。
暗色系の重量感がある色合いだが、見た目に反して軽く、取り回しは良好。
少女が持つには、少々大きく見える。
もしも体格相応の力しか無く、かつ実弾なら肩が外れるだろう。
「九十九ハンドと呼ばれていた魔法銃だよ」
正式名称はちょっと違う。
九十九式魔法銃、バーストハンドガン。
「早速撃ってみようか。使用感が変わっていたら嬉しいんだけどなあ」
狙いは街道横の大木。
念のため、周囲確認。
誰もいないな、よし。
グリップ底部から、緑に光る弾倉を露出させる。
ここに直接魔力を供給することで、99発の弾が装填される。
弾倉は露出するが引っかかり、抜き取る事は出来ない。
弾倉を戻すと、装填完了。
魔力を吸われた感覚はあるけど、本当にリロードされているのか不安になるのが不満点。
おもむろに片手を持ち上げ、銃口を木の幹真ん中に定めて。
――トリガーを引く。
魔力で構成された、秒速100メートル程度の低速弾が反動も無く射出された。
炸薬は無く、音速を超えているわけでも無い。
しかし、ドップラー効果の掛かったホイッスルのような射出音が鳴り響く。
自動六連射され、緑の弾丸は木の幹に吸い込まれて行く。
ドスッ、と重い音が六連続。
一発目で中頃までえぐり、六発目で弾が通り抜けていく。
破壊規模は狭く、槍を連続で刺し貫いたような貫通力。
あくまでも、ただの貫通弾。
着弾時に爆発したりはしない。
「すごい、ぜんぶおなじところに、あたってる」
ワンホールショット。
使用感は残念ながら変わらず、同じところに命中してしまった。
「もっとまえから、つかえばよかったのに」
「そう思うでしょう? ところがどっこい、どっこい賞。スラ子、動く的を用意して」
試し撃ちは終わったのでは?
そう言いたい顔をしながらも、素直に地面からクレー射撃で使う皿のような物を作ってくれた。
「いつでも投げていいよ」
スラ子はフライングディスクの要領で投げる。
空中に飛び出した皿を狙って、偏差射撃。
一発目が皿を砕き、残りの五発が空へ飛んでいった。
「もう一回、今度は私が動きながら撃つ」
同じように一発目が皿を砕いて、残りの五発は同じ座標を撃ち抜いた。
「ドクター、それかして」
「どうぞ」
スラ子は横に走りながら、ツクモハンドを撃つ。
雑に撃ったはずの弾は狙われた木の一か所に、寸分たがわず吸い込まれる。
もう一度、同じように撃つ。
結果も、ほとんど同じ。
銃を見ながら眉間にしわを寄せた。
うん、私も初めて使った時は同じ顔をしたよ。
マジで使えないのよね。
「ほかの、ぶきにしたら?」
「いや、これしかまともに使えそうな武器が無いんだってば」
ツクモハンドの問題点を挙げていこう。
おさらいしていけば、もしかしたら使い道が思いつくかもしれない。
まず、弾の速度が遅い。
時速360kmの弾は、この世界の基準で言えば遅い……はず。
速さに特化した人なら避けられたし、もっと速い銃弾を手でつかむ人もいた。
まあ、この武器は魔力弾だから掴んだ時点でダメージが入るのだけど。
次に、威力が低い。
六発かけて、やっと木を貫通出来る程度の威力。
一振りで木を横断する剣の威力を、体で受け止める魔物が跋扈する世界だ。
実践では、火力に不満が残る。
それでも、状況次第なら使える。
実弾では無いので、空気摩擦で威力が減衰しない。
撃った弾の魔力が拡散し始めた時が、実質的な射程距離。
つまり、環境を選ばない。
雑魚魔物が相手なら、威力面では十分通用するという点では有用。
致命的なのは次。
すべての弾が、同じ座標に飛ぶ。
飛びやすい、ではない。
そして、同じ相手に、でもない。
一度トリガーを引いたら、呪いのような力がはたらく。
手が固定されて、銃口の制御がきかなくなり、同じ座標を狙い続ける。
しかも、必ず六連射される。
一発目が出てから0.2秒毎、六発撃ち終わるまで1秒の間、銃口が向き続ける。
ヒット&アウェイは出来なくはない、だが数の暴力には弱い。
当然、接近戦は難しいと言わざるを得ない。
ワイヤートラップを利用して固定砲台に変えたら?
残念ながら、魔法弾を射出する為にはグリップをしっかりと握ってトリガーを引く、このアクションが必要不可欠。
更に撃っている間、グリップが手に吸い付いて離れないから、撃った瞬間に手を離して、なんて事も出来ない。
「こんなゴミ、すてたらいいのに」
「いやいや! 全てのソロクエを高評価でクリアした記念品ですよ! 不壊属性が付与された限定ユニークアイテムですよ!」
こんな記念品、捨てるだなんてもったいない。
しかし、どれだけ乱暴にしても傷すら付かないのは盾としては便利なのか?
衝撃力をもろに受けてしまうのはマイナス点か。
受け流せないなら、手首か肩に深刻なダメージが入りそう。
「ただ、性能が残念なだけじゃあないか」
「そこが、いちばんのもんだい、バカなの?」
「いえーす、私ばかでーす。はっはー」
スラ子の目が私から逸れ、溜め息をつかれる。
「それで、だいじょうぶなの」
「何とかするよ」
そもそも、銃タイプは全体的に弱い。
筋力や魔力の、本人の素質が威力に乗らないタイプの武器は火力が出ないのだ。
それでも十分な火力を持った遠隔武器はある、重かったり大きかったりするけど。
ツクモハンドは、その火力が足りていないだけ。
「何か戦う事を前提にしてるけど、そもそも私は隠密能力高いから、戦う事態にはならないでしょう」
姿を消して空を飛べば、もう追い付ける存在なんて限られる。
心配なんて杞憂だと思うんだよなあ。
「それが、そうでもなさそう」
「それって」
「だんなさん、みつけた」
捜索対象の旦那さんを見つけ、戦う可能性を示唆する。
もし、すでに亡くなっていたら遺品の回収だけで済むだろう。
それってつまり。
「状況、あんまり良くない?」
「そうでもない、かも」
どっちだよ。
てっきり危ない状態で、救援に入らなければならないのかと。
「こっち」
街道から外れて、森の中に入っていく。
「後、どれくらいで着く?」
「さんじゅっぷん、くらいかも」
「旦那さんは生きてるんだよね?」
「いきてるけど、まわりがよくわからない」
わからない?
聞くと、飛ばしたスライムは魔力の探知に特化させていたらしい。
生きていることは確認出来ているが、周りに多くの生き物が居る、という事だった。
確かにそれだけなら分からない。
森の中に町があるのか、何かの集落に潜入しているのか。
はたまた、軍隊の中にいて行軍中なのか。
わざわざ生き物が居ると警告するという事は、周りに虫がいっぱいいるだけ、では無いのだろう。
「ごめん、つぎから、かいぜんする」
「気にしないでいいよ。それより、姿を消していくから、引き続き案内よろしくね」
少し早いだろうけど、前もって姿を消しておかないと不意打ちに対応できなくなる。
体も軽くしていく。
元から軽い体がさらに軽くなり、足音が小さくなっていく。
「スラ子も、ふくぬいでおく」
「その方が良いかもね」
いざとなったら、スライムのフリをするだけで警戒されにくくなるだろう。
現場に近づき、周囲を警戒しながら距離を詰めていき。
目の前が開けた。




