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66 これじゃない

「ねえ、そこのお姉ちゃん。一緒に食事しない?」


 スラ子が少女姿になったので、道を歩く女性に早速ナンパ。

 うまい飯屋を知りたいなら、現地の人に聞くのが一番。

 ついでに面白い話も聞く事が出来ればいいな、と欲張りセット。


「わたしですか? いえ、娘が待ってますので」


「娘ちゃんも誘っていいからさあ、お金は私が出しますので」


 指に挟んだ銀貨を見せる。


「それとも、わたしたち、きらい?」


「えっと、その……」


 食いつきが悪いな。

 スラ子、プラン変更だ。

 後ろ手によるハンドサイン。


「仕方ないなあ、それならあのオジサン達を誘おっか」


「うん、いろいろ、しってそう」


 どう見ても浮浪者のおっさんと、横で話していた土方の兄ちゃんを指し示す。

 人相も悪く、笑顔から見える歯は茶色く変色し、唇から粘着質な糸が引いているように見える。

 別に、あんな男達を本気で誘う気は無い。

 だが本当に誘ってついて行った場合、少女の私達二人がどうなるか。


 これこそ奥義、あからさまにヤバイ未来を想像させて保護欲を掻き立てる作戦よ!


「あ、あの」


「何でしょう?」


「娘も、良いと言ったら大丈夫ですよ」


「わぁい、ありがとうお姉ちゃん」


「かんしゃ」


 ふっ、ちょろい。

 早速ついて行く。

 女性の顔は寝不足なのか、肌の状態が悪い。

 だが、見た目は悪くない。

 あわよくば娘ちゃんも合わせて母娘ど……いや、まだ気が早いな。

 あとスラ子、抱拳礼で返すなんて中華系キャラをまだ諦めていないな?






 歩いて数分、並ぶ平屋の玄関前。

 子供の数が多く、付近の家から出入りしていて遊び場になっているようだ。

 それぞれが、色々な遊びをしている。

 あや? 意外にも児童労働は一般的ではないのか。

 それとも、この辺りの家庭が裕福なだけ?


「うん、いいよ」


 知ってた。

 まだ初等部に上がらない程ちいさな子の、ありがたいお許しである。

 スラ子のスライムボディが珍しいのか、高周波の鳴き声を上げながら抱き着いていた。


「それで、探してるのは魚料理がおいしい店なんですけど」


「そうねえ、あそこかしら?」


 娘さんを中心に、スラ子と三人で手を繋いで、お母さんについて行く。

 腕を前後にぶんぶん振りながら歩くのが微笑ましい。


 道中、普段の生活について聞いた。

 一般的には、一日一食か二食。

 大抵の家庭では女性が家で家事をするようだが、今日は用があって彼女一人で外出されていた。


 食事に乗ってくれたのは、私のおごりでいくらでも食べられると思ったから。

 中々現金である、これが食べ盛りを抱えるお母さんの強さか。


「ここだけど。お嬢様には、こういう所でも合うのかしら」


 着いたところは大衆食堂らしい看板が掛かっていた。


 もしかして、良い服を着ているから高貴な人だと思われてたかな?

 これは気を遣わせてしまったかも。


「誤解させてしまったならすみません、私達は旅の者でお嬢様では無いのですよ」


「そのへんのおじさんには、まけない」


 見せても知っているか分からないが、身分の証明をしておこう。

 ネックレスとして着けているギルド証を、襟から出して見せる。

 スラ子も、手首の従属証を見せていた。


「あら、小さくても優秀なのね」


「おねえちゃんたち、すごい人なの?」


「そうだよ、これでも強いんだから。まあ、話の続きは食べながらしましょう」




 メニューは完全なお任せらしく、四人分の料金を支払う。

 娘ちゃんと遊んでいたら、いつの間にか料理が提供されていた。


 複数の魚から造られる刺身!

 いいねえ、こうでなくちゃあ。

 少し気にかかるのは、付け合わせのタレ。

 魚醤のような独特のにおいがするが、合うのだろうか?


 まずは赤身を一口、タレをつけずに食べる。

 新鮮で、素材本来の甘味を感じて結構おいしい。

 今度はタレをつけて食べる。

 臭み消しがタレに混ぜ込まれていて、辛味を感じるが……。

 うーん、正直に言って生臭い。

 やはり、私にはしょう油でないと刺身はおいしく頂けないようだ。


 スラ子を見ても、タレには手を付けていない。

 しかし、現地の二人は普通にタレをつけて美味しそうに食べている。

 うん、これはあれだ。

 食生活の習慣、嗜好の違い。

 本当に自分が美味しいと思えるものを食べたいと思ったら、自分で作るしかないのだろう。

 こういう舌に合わない味を楽しむのも、旅の醍醐味ではある。

 食べていくうちに臭いは気にならなくなったが、味はまだ慣れない。


 料理の味の話を振られると気まずくなりそうなので、他の話で先制する。


「ところで、お姉さんは何故外に? 買い物でもしていたの?」


 振られた話題が悪かったのか、空気が凍る。

 えっ、いきなり地雷?


「ごめんなさい、ドクター、くうきよめない」


 私が悪いの?

 爆弾避けたら地雷ってひどくない?


「おかあさん、話してみよ?」


「うーん、でもねえ」


「話すだけでも、楽になりますよ、きっと」


 少し悩んだ後、お姉さんは話し始めた。


「夫がね、帰ってこないの。二日前から」


「お仕事ですか」


「当日中に帰るって言ってたんだけどね、外の仕事とは聞いてたし、帰るのが遅れることも今回が初めてじゃないのよ、それでもね」


「不安で町の中を探していた、と」


「冒険者とはいえ、せめて、何の仕事か言ってくれたら……」


「あの、冒険者仲間とかは?」


「一人の仕事で、危ない事は基本的にないって。もし捜索依頼を出すにしても、外の個人捜索なんて、そんなお金は無いし」


「そうですか、大変ですね」


「……え!? 今の流れって探してくれる感じだったよね?」


 だって、話を聞くだけのつもりだったし。

 そう言おうとしたのだが、娘さんもスラ子も私を見る目が厳しい。

 うわあ、詰んでた。いつの時点だ?


 それでも断ろうと思えば断れる。


「はあ……何か、その旦那さんが、常に身に着けていた物はありませんか?」


 だが、試したい事がある。

 タダでは済まさん。


「ええ、仕事中は邪魔になるからと。……これを預けていきました」


 お姉さんがしているのと同じ、ペアリング。

 結婚指輪かな、まあいいや。

 丁重に受け取る。


「今も、町の外にいるのですよね?」


「おそらく、ですけど」


 常時はめていたなら間違いないだろう。

 指輪の魔力を感知。

 長い間使っている物は、その人の魔力に染まっていくもの。

 馴染んでいく、といえばいいのだろうか。

 この指輪もまた、旦那さんの魔力に染まっているはず。

 そこから探知できないか、それを試したかったのだ。


「スラ子、魔力パターンは記憶できた?」


「たぶん、だいじょうぶ」


「じゃあ、お願いね」


 一口グミのようなサイズのスライムを切り離して、店の外へ高速で転がっていく。

 べんりだなー。


「指輪、お返しします。あっそうだ」


「何でしょう?」


「お名前、まだ伺ってませんでしたね」


 もし旦那さんを見つけても、奥さんの名前を告げなければ怪しまれるだけだろう。




 店を出て、母娘と別れる。

 報酬の相談をされたが、旦那さんに直接お願いするから気にしないで、と言っておいた。

 まあ、タダ働きになるだろう。

 もし生きていたとしても、金よこせなんて言おうものなら帰れと言われるだけだ。

 今回は、私の実験ついでみたいな物だからいいけどね。


「それで、スラ子の魔力感知って、どこまで信用できる?」


「スライムの、かんちはんいは、ひろい。きたいしてて」


 野生のスライムは、微量な魔力でも感知し、取り込む本能がある。

 それだけ魔力の感知能力に特化されている。

 それでも見つけられなかったら、すっぱりと諦めよう。


「町の外に出ようか、色々準備もしないといけないし」

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