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51 この能力で何個目だよ

 よし、考えは纏まった。


 悠長にしている間に、触手はどんどん絡まってくる。

 両足と左手、お腹を拘束されて、抵抗が無くなったと思ったのか口をこちらに向けてきた。

 今にも食われそうだが、素直に食われてやるつもりは無い。


「スラ子、あいつの中に入る事が出来たら内臓を食い破る事って出来そう?」


「やってみないと。でも、たぶんできる」


 では、早速。

 魔力を野球ボールくらいの大きさで固めて作り、中に海水が入った状態にする。

 中の海水を錬金魔法で分解、水素に変えて内圧を上げていく。


 あっ、もう足をかじり始めた。

 早いね。でも、もうちょっとまってね。


 次に、また魔力を固めて片方だけ開いたシリンダーを作り、さきほどの水素ボールを込める。


「スラ子、よろしくね」


「まさか、そのなかに?」


「なんと、スラ子砲弾です」


 スラ子に入ったあとは、ボールを炸裂させるだけでいつでも打ち出せる。

 しぶしぶ、といった感じでスラ子が入る。


 ズルリと吸い込まれるように、足の方から頭まで一気呑みされた。

 だが、こちらの準備はもう終わっている。


「食べる時は! よく噛んで食べようねっ!」


 食道の奥に向けて発射。

 水中特有の鈍い炸裂音と強い反動を受けて、スラ子が突き進んでいく。




 まだかなー。

 結果は、まだ出ない。

 撃ち込んだ後、暴れ始めてすぐにでも息絶えると思ったんだけどなあ。


 ずるずると粘着質な、狭い壁に擦られながら飲み込まれていく。

 全身にぴったりと貼りつき、締め付けて来る粘壁を通っていると、むらむらとした欲求が湧き上がってくる。


 幻影を解いて、自分の身体で直に受けてみたい。




 落ち着け。

 最大の敵は自分。

 まだ冷静な頭で、次の策について考えよう。


 まず、胃液に晒されたとしても耐えられるかどうか。

 多分、大丈夫。

 耐える方法はいくつか考え付くけど、最悪そのままでも数時間は持つだろう。


 足先の圧迫から解放されていく。

 その後、すぐに勢いよく吐き出された。


「ようこそ」


「お前が、ここのボスだったのか」


 そんな訳がない。

 スラ子が先に来ていただけだった。


「スラ子ね、とばされて、こわかったんだよ?」


「ごめんね、ところでタコちゃんに全然ダメージが入ってないみたいだけど」


 海中と同じように水で満たされた状態の胃の中。

 当然灯りなんてあるはずも無く、真っ暗。

 消化液が分泌されているのか、あまりよろしくない感覚がする。

 体の自由がきく程の空間の余裕があるから、このタコは相当大きかったのか。


 魔力を感知して、周りの状況を確認。

 出口となる場所は、入って来た場所のみ。

 他に穴が無い所を見ると、消化と吸収をここで一遍に行うようだ。

 溶かせなかった場合、どうするんだろうね?


「いのかべ、がんじょうで、やぶれなかった」


 当たり前だが、スラ子はスライムだ。

 本来、消化能力だけが取り柄の生き物。

 胃の中が胃酸に耐えられる造りになっていようが、普通はスライムの消化能力の方が勝る。

 相当強い魔物だったとしても、スライムに体の中から溶かされることを恐れて口に入れないくらいだ。


 そのスラ子に耐えられるとは、丈夫な胃袋をお持ちですこと。


「ダメだったかあ。それなら、貫通できる攻撃が効果的なのか?」


 この胃液に満たされた、水の抵抗が強い中で使える強力な貫通攻撃って何かあったかな。


「ドクターは、ふかくかんがえすぎ。じかんをかけて、ちょくせつさわれる、つまり」


 ん、ああそうか。

 相手を錬金魔法で分解してしまえばいいんだ。

 私が生き物の魔力に合わせて、素材として錬金分解しようと思ったら数分触れる必要がある。

 普通、戦闘中にそんな事は出来ないから頭から抜けてたわ。


「ありがとうスラ子、それじゃあやるか」


 あ、そうだ。


「クリオネの支配能力が使えるか確かめたいから、タコに入り込んでギリギリまで弱らせてみて」


 胃の壁に手を当て、魔力の流れを感知する。

 生きてる相手、それも敵対してる魔物の魔力は探ろうとしている私への拒否反応を示している。

 うわあ、これはウナギを手づかみするような面倒臭さだねえ。


 始める前から、ややゲンナリした気分になったが諦めるわけにもいかない。

 タコの魔力を把握して、私の魔力を変えていき、合わせていく。

 無防備に魔力を合わせて同化しないように、タコの魔力が逆流しないような弁も作っておく。

 胃の壁に穴を開けるだけならこれで終えてもいいけど、支配能力を試したいのでタコ全体の魔力を把握する。

 うん、こんなもので良いだろう。


「スラ子、いける?」


「イケるイケる」


 まるで溶けるように、胃に穴が開いた。

 うわあ、いたそー。

 スラ子が、その穴にすかさず入るとタコに痛みがあったのか暴れ始める。

 多分勢いよく泳いでいるのだろう、急激にGが掛かり胃壁に押し付けられる。


 痛みが取れないと思ったのか、次は胃の入口を広げて中にあるものを吐き出そうとしてきた。

 胃が縮んでいき、外への水流が生まれる。

 今吐き出されてしまうと、その後逃げられるかもしれない。

 そこで魔力を固めて板を作り、胃にフタをした。


 次は身体をシェイクさせて私に直接ダメージを与えようとしてくる。

 ハハハ、愛い奴め。

 完全に悪あがきだね、まったく効果は無い。




 そのまま、しばらく待機。

 タコの動きが徐々に収まり、感じられる魔力も弱弱しくなって来た。


「ドクター、そろそろいいよー」


「ういっす」


 タコに合わせていた魔力を私の魔力に書き換える。

 津波のように存在を飲み込んで、タコの自我を崩壊させていく。

 感覚的には自我を休眠させるだけって事も出来そう。

 その場合簡単な自立行動をさせる事で、その存在本来の自然な行動をさせることが出来そうだ。

 だが、今はそんな事は求めてないので完全に呑み込む。




 繋がった。

 自分の手足の延長であるように、タコを操れる。

 でも、いちいち自分で動かさなきゃあならないのは面倒だな。


 あっ、「支配せよ(コントロール)!」とか「私の物に成れ(キャプティベート)!」とか決め台詞入れるの忘れてた。


「スラ子に操作を任せてもいい?」


「いいよ、スラ子のからだ、そうさするコツ、つかいまわせそうだから」


 スラ子はスライムの群体だから、人には出来ないような肉体操作に向いているのだろう。

 早速頼んで、タコの外に出してもらう。

 スラ子の言っていた通り、問題なく操作出来ているようで自然な動きも見せてくれた。


「そうだ、船にいる皆に連絡って取れる?」


「だいじょうぶ、リンクがつながっているスライムとは。れんらくがとれるから」


「それって、スラ子が通信機になれるのでは」


「ごうけい、よんたいくらいなら。それいじょうはいしきが、あいまいになってあぶないかも」


 そこまで万能では無かったか。

 いや、十分便利だな。


「じゃあ、皆に私はしばらく海底散歩してるから遅れて追い付くって言っといて」


 意識を飛ばしているのか、目の前の大ダコの動きが止まる。

 通信中は無防備になるのか。状況次第では、これは危ないな。


「おわったよ。ベリアが、ずるーい、わたしもつれていって! だって」


 そう言われてもね。

 何でもない様にしてるけど、ほとんど明かりが届いていないのか、深い青一色にしか見えない。

 それほど水深も深くなっているわけで。

 私とスラ子は大丈夫だけど、他の人がこの水圧に耐えて活動できるのかという問題がねえ。


 試しにポーションを出してみる。

 劣化防止の魔法効果を刻んだ瓶が割れて、中のポーションが海中に霧散してしまった。

 うーん、ワンカップ型のガラス容器がダメだったのか、魔法効果の為に刻んだ部分に脆弱性があるのか。

 飲むことが出来ないときの為に、割りやすく細工はしてあるけど。

 安全性の保障が出来ないから、保留で。


「べリアに。機会があれば連れて行ってあげるから、その時まで待っていて」


 そんな機会があるのか分からないけど。

 これじゃあただの悪い大人だなあ、いつかの為に潜水服でも研究しておくか。




 周辺を探知しても小魚くらいしか泳いでない。

 いざとなったらタコを盾にしてしまえば安全だろう。

 ふむ。


「ところでスラ子、そろそろ我慢できないんだけど」


 我慢は精神的に良くないからね。

某東の虹が届いたので更新に影響がでると思います

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