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47 サーバーへの接近に失敗しました。

 すう……、すう……。


 ベッドの上、私の胸に顔を突っ込んでベリアが眠っている。

 頬をつまむと、もちもちした触感がつい癖になっていじってしまう。

 寝苦しそうな声が聞こえるから、そろそろやめてあげようか。


 あー、だるー。

 出した後、半日以上虚脱感があったあの感覚が来てる。

 母乳に身体の栄養を奪われてるから、再生成に体力を使うのも不思議じゃあないか?


「それで、気持ちよくなったからって出る量が増えるのはおかしくない?」


 私を挟んで逆側に寝ているスラ子に聞いてみる。


「それくらいでないと、スラ子のほきゅう、たりてなかった」


 私の母乳には大量の魔力も入っていたらしい。

 その魔力を使って、スラ子の保有魔力の拡張を助けていたのだとか。

 それでベリアも魔力につられて吸いに来るって、まるで黒虫ホイホイだな。

 体のだるさは魔力が減ってる事も影響しているか。


「そろそろ起きたいなー。ベリア、起きて、朝だよー。朝ごはん食べて学校行くよー」


 髪を梳いて、覚醒を促す。

 べたついていた髪も、スラ子が汚れを吸い取ってくれたようで、さらさらしている。


 ぐぐぐっと部屋が傾く。


「うわっと。所でここ、どこなの?」


「おぼえてないの? ここは、おふねのへやのなか」


 ……船室?

 だから、揺れて傾くのか。


「い、いや。覚えていたし、スラ子の記憶が正常かチェックしただけだし」


 スラ子は溜め息を吐くだけだ。

 おかしいな。

 今まで、直近の記憶を忘れたりした事無いんだけどな。

 ……まあ、最中の内容を覚えてない事はあるけど。その時の話か?


 話し声にベリアがむずがる。


「むー、おはよ」


「おはようベリア。そろそろ起きてほしいな」


 寝ぼけているのか、私の胸に吸い付いた。

 多分、出なかったのだろう。唸った後、頭を上げる。

 そして、私の首筋に噛みつき、ようやく身体を起こした。

 そのまま目を半開きにして、ぼーっとしている。


 私の身体は朝ごはんじゃあないよー。


「いっつぅ……ねえスラ子、歯型ついてない?」


「ついてる」


 強く噛みすぎでしょう……はあ、仕方ないなあ。

 私も身体を起こし、ベリアの寝癖を手櫛で直してあげる。


「はい、終わり。身体はスラ子が洗ってくれたみたいだから、服を着ましょう」


 それくらいは、自分でやって欲しいのだけど。

 色気のないアンダーも、いつの間に買い足したのか動きやすいアウターも着せてあげる。

 枕元に置いてあったリボンを拾うと、いつものピンクのツーサイドアップに整えてあげた。

 まだ起きてこないその顔にイタズラ心が湧き、おでこにキスをしてあげる。


 ここまでして、ようやく目が覚めたのかベリアが立ち上がった。


「おはよう、お姉さま。先に行ってるわね、皆に伝えてこないと」


 そう言うと、足取り軽く部屋を出ていった。

 一度起きると元気だな、これが若さか。

 先に行ってると言われても、どこにいけばいいのか分からないんだけどね。

 取りあえず、体調を回復したいのでポーションを一本ぐいーっと。




 さて。

 私も、そろそろ服を着ようと考えて。

 何を着ようか、インベントリウィンドウを開いて選ぼうとしたが。


 ……おやあ?

 開かない。

 他のシステムウィンドウを開こうとしても開かない。

 まじか、サーバーとの接続がキャンセルされましたってやつ?

 もしくは、この身体に変わって不具合が発生したか?


 保持しているアイテムは出せるし、戻せる。

 インベントリを使う分には問題が無いようだ。


「スラ子、スキル書って渡していたっけ?」


「うん、きちんともってる」


 スラ子はインベントリからレシピや技術手順の載っているスキル書を出して見せてくれた。

 少し焦ったけど、取りあえずは大丈夫、かな?

 そういえば。


「スラ子って、インベントリに荷物しまえるけど、他の人が出来ないのは何故か分かる?」


 ベリアもジェーラさんも出来ないのに、スラ子がすぐ使えたのは驚いたんだよなあ。


「じぶんのまりょく、じざいにかえることができれば、だれにでもかのう。でも――」


「でも?」


「ふつうのひとは、できないかもしれない。かわらないぶぶんの、まりょくをつかって、けいやくしょや、とうろくシステムを、りようしているから」


 あ、魔羊紙の契約書や個人登録プレートの原理ってそういうことか。

 まるで声紋みたいだな。

 確か、あれも声真似程度では変わらない部分があるから、個人を判別出来るって聞いたことがある。

 それが個人の魔力にもある、と。


「なるほど、だからスラ子が私に触れているとお互いのインベントリを利用出来るのか」


 私がスラ子の荷物を引き出せるし、スラ子も私の荷物を出せる。

 ほとんど同じ魔力が流れていて、少しくらいずれた魔力も自然に合わせることが出来る。


「万が一、他の人に荷物を取られない様に何か対策練った方がいいかな」


「たぶん、だいじょうぶ。スラ子はつかいまだから、まりょくがあってるだけ、ふつうはありえない」


「ありえない、か。確かに」


 まあ、普通は無理かな。

 よく考えると、魔力波長を合わせたらインベントリを探られる以前に肉体の同化の危険が先に来る。

 スラ子と私の関係は特殊だから問題ないだけで、そんな危険を冒す奴なんてそうはいないだろう。

 そもそもインベントリを使える人が何人いるのか、という問題があるが。


 う……さむっ。

 考えていると、身震いしてきた。

 いい加減、さっさと服を着ないと風邪をひきそうだ。

 そんなやわな身体じゃあ無いけど。


「まあ、いいや。服を選ぶの手伝ってもらっていい?」


「もちろん」




 数分後。


「ちょっと、子供っぽい気がするんだけど」


「みためそうおう」


 着た後で文句を言うのも、おかしいとは思うが。

 膝丈のノースリーブなキッズドレス。

 子供が着ているのを見る分には微笑ましいが、自分でかわいい系の服を着るのはなあ。


「動きやすかったり、露出多めの服とかじゃあダメ?」


「ダメ、あとこれも」


 ストローハット。

 完全に子ども扱いですね、これは。

 その程度の力しかないから心配されてるのかもね。

 見た目だけでも庇護欲をそそる恰好をして身を守れ、と言われてるのか。


「どう? 似合う?」


「バッチリ」


 まあ、似合うと言われたら悪い気はしないかな。


「わるいひとに、ゆうかいされそう」


「そこまで言うなら、やっぱりこの格好やめた方がいいんじゃあない?」


「だいじょうぶ、きちんとまもるから」


 誘拐する悪い人は誰か、と聞かれたら目の前のスラ子が一番危ないのだけど。


「守られるだけじゃあねえ、自分の身を守る為に自分の能力を確かめたいから、協力してね」


 何が出来なくなっていて、何が出来るようになったのか。

 それを知らないと、自衛や対策のしようがないからな。






「ドクター、たのしい?」


「すっごい、たのしい」


 あぐらをかいている状態で空中に浮いている。

 クリオネの結晶体を取り入れた事で特性をいくつか引き継いでいるみたいだ。


 今、浮いているのもその一つ。

 自身の重さを、時間は掛かるが減らせるようになり、限りなくゼロに近づける事が出来る。

 ベリアの魔法出力を使えなくなったが、それでも私の魔力で出せる程度の軽い風を起こすだけで十分空宙に浮くことが出来た。


 修業したぞ! 修業したぞ! 修業したぞ!

 徹底的に修行してレベルを上げ切り、非戦闘能力にステータスを振った結果が今の身体なんだよなあ。


 戦闘能力はどこ?

 一般市民クラス。


 スラ子が、手を扇風機に変えて風を送りこんで来る。


「あ~、流される~」


 体が壁に押し付けられて動けないので、仕方なく元の重さに戻す。

 軽くするのも、重くするのも時間が掛かるから咄嗟に使える能力じゃあないな。


「酷いなあ、イタズラするなんて」


「そのわりには、たのしそうだったよ?」


 おっと、顔に出てたか。

 実際楽しい、ほとんど意識しなくても空を飛べるのは面白い。

 専用の噴射装置でも作ってみようかな、それほど難しくも無いだろうし。


「中々出来ない体験だったからね。じゃあ次、試してみようか」

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