45 錬金すること、化学すること
カンッキンッ! カンッキンッ!
小気味いいリズムで叩く金属音が響く。
火を入れて、叩く。無心になって、叩く。
スラ子に手伝いをお願いして、一本のカタナを作っている。
この手の製造作業は良い。
余計な事を考えずに、ただ目の前の作業を淡々とこなしている間は迷いも無く、澄んだ気持ちになれる。
「いまさらだけど、たたくいみ、あるの? れんきんして、つくればいいのに」
え、このタイミングで聞くの?
まあいいけど。
今行っている工程、叩く意味は鋼の炭素量の調整と、不純物の取り除きが目的になる。
この点だけ見れば錬金して調整することで達成できるので、確かに叩く意味はない。
でも、ダメなんだよなあ。
「外側に被せる皮鉄を錬金で造っても何故か脆いんだよね、折り返した層が出来に影響してると思うんだけど」
それに錬金で武器作成すると、魔力が武器に残留したままになって魔法付与が安定しなくなる。
今、どの程度の魔法付与が出来るかの実験も含んでいるので、自力で作っているのだ。
「ほんにかいてること、てきとうだった」
そりゃあ、ゲームではカタナの製造方法を一から十まで要求してこないからね。
変にこだわって、細かく作りたがる変態はいたみたいだが。
素材や大まかな手順は書いてあっても、細かいコツは実体験で学んでいくしかない。
それはゲームであっても、現実であっても同じことだ。
ともあれ皮鉄は出来た。
次に心鉄をつくって組み合わせ、伸ばして……うーん。
「……飽きたな」
「は?」
「残りは錬金魔法で作ろう、打刀の錬金作成手順なんて慣れてるからよゆー、よゆー」
手持ちの素材を使ってカタナを造っていく。
細かい魔法手順を頭の中で指定していき、消費魔力に気を遣いながら経験勘に沿って魔法を発動させる。
動画を高速再生していくように、みるみるうちに出来上がっていく。
数分後には、刃渡り七十センチのカタナが目の前に鎮座していた。
きちんと刃文も入ってるし、研磨も終わっている。
うん、何のひねりもない錬金魔法だけど腕は落ちて無くて良かった。
「いままでの、くろう、かえして?」
だって、私はカタナ職人じゃあないもん。
「大丈夫、スラ子にはまだ仕事をお願いしたいから」
カタナをスラ子に持たせる。
「この打刀の魔力、吸い取って」
私の注文に口をとがらせて文句を言おうとしたが、やめたようだ。
どうせ文句を言ってもやる事は変わらないからね、仕方ないね。
「わかった、ちょっとまってて」
スラ子は溜め息を吐いた。
肺呼吸してないのに、器用だなあ。
いやあ、助かる。
一度物体に魔力がこもると完全に抜けることは殆どない。
魔力を抜く方法はいくつかあるけど、スラ子のようにほぼ全て無くすことが出来る訳じゃあない。
だから魔法付与が安定しないって事だったけど、スラ子が吸い取ってくれるから楽が出来ていいね。
意思のないスライムだと、魔力どころか渡したものを溶かされるリスクがあるからなあ。
先ほども注意点として挙げた脆くなる問題は、魔法付与で無理矢理カバーする。
魔力がほぼゼロの状態から付与出来るって事は色々組み込めるかな。
まあ、出来が良すぎても貰ってくれないだろうし適当でいいか。
「はい、どうぞ。そういえば、これって、ドクターがつかうの?」
「いんや、ウノスケにあげるんだよ。ほら、なんか剣の使い方が、いかにもカタナじゃあ無いから動きが悪いですって感じだったから」
それに私は刀剣で戦うの、あまり好きじゃあない。
魔法や暗器で対峙する前に勝負をつける戦い方が性に合っている。
格下相手や模擬戦の遊びなら近接戦闘もやぶさかでないのだが。
それでも状況を選べない場合の方が多いだろう、弱音を吐いたところで助けに来てくれるヒーローなんて期待するものじゃあないのだから。
「そうだ、持ってる物で使えそうな武具を改造しておこうか」
対空砲のアリクイ君は問題だらけだった。
一般人程度なら感電させられるスタンナイフも使い所がなさそうだから、強力な電流を発生させる使い捨てのハンドグレネードに変えておこう。
小爆破の指ぬきグローブも手榴弾に変えていいかな。
魔法効果のある武具の改造は本体の寿命を大きく損ねる、逆に言えば使い捨てる覚悟があれば無茶な改造をしても実用に耐えるってこと。
問題は補充が利かず、ただ消耗していくリソースに焦りを感じる所かな。
外に出たら金策を始めよう、お金さえあれば補充出来るものはいくつもある。
「なにか、しごとある?」
他にも作っておきたいものはある。
「今からやる事を紙に書いていくから、仕様書に沿って適当に改造しておいて。私は……これから他にやる事あるから、後よろしくね」
「おっけー」
………。
「うーん、味はほぼ再現出来てるけどなあ」
「いま、なにやってるの?」
スラ子が研究室に入って来た。
「随分はやいね、そっちは終わったの?」
「まだまだ。むこうにまかせて、きぶんてんかん」
という事は、分裂してこっちにきたのね。
気分転換とは、なんとも人間臭いことで。
おっと、質問に答えてなかったな。
質問を質問で返すのは礼儀に反するからね。
「しょうゆ、のフレーバーを作ってるところ」
「ふーん、おいしいの?」
うん? ああ、スラ子に味覚が何なのか教える機会はなかったね。
教えたとしても、舌に味蕾なんて無いだろうから味覚を感知できないと思ってたし。
「私は好き、でも好きな人はあまりいないかも」
発酵食品の味を再現しているので。
好き嫌いは、はっきり分かれるものだと聞いたことがある。
ちなみにこのフレーバー、匂いと舌の味蕾を適切に刺激するだけで本物とは似ても似つかないものだ。
「できたら、スラ子にも、ちょうだい」
え? いるの?
「スラ子って味、分かるんだっけ?」
「ドクターのからだ、つくるレシピさんこうに」
べーっ、と舌を出して見せてくれる。
いや、見せられてもそれがどう変わったのか全く分からんのだけど。
なるほど、人体作成時のノウハウを自分にも利用するとは中々やるねえ。
んむ? 味覚が分かるって事は嗅覚も、辛さを感じる為の痛覚も感じることが出来るって事か?
「ま、いっか。一応出来てるから、感想お願いね」
小瓶から、小皿に無色透明のしょうゆ味の水を垂らす。
スラ子が受け取ると、舌を突き出し、恐る恐る一舐めした。
「う、ふかいなかんじ」
「調味料だから、それ単体で舐めてもマズイんだよねえ」
私の言葉に感づいて、こちらを睨む。
「……いやがらせ?」
「あー、本当に味が分かるのかなって。ちょっと待っててね、美味しいと思えるものを作ってあげるから」
手元の宙に空気のカプセルを作って、砂糖、水を突っ込んで熱を入れて水飴になるまで水分を蒸発させる。
熱を入れ過ぎて再結晶化する前に加熱を止め、しょうゆもどきを入れて軽く混ぜる。
混ざり終わったら、空気のカプセルで個包装をして小分けにした後、冷却。
しょう油飴の出来上がり……ならいいなあ、分量が合ってないかも。
皿に落とした飴を摘み、一粒口に入れる。
少ししょっぱい、かな?
個人の好みの範疇か、私は嫌いじゃあないが。
味見しなかったことを後悔。
それでも、これくらいなら十分美味しいと言えるだろう。
「はい、どうぞ」
私が差し出した皿を訝しんで見て来る。
騙してないってば。
少々はしたないが、前歯で飴を挟んで私も舐めてるから大丈夫だと伝える。
私を見てきたスラ子に、ねっ? と首をかしげてあげると、一粒受け取り口の中に入れた。
「どう? 美味しい?」
「うん、わるくない。しあわせなきもちに、なれる」
んふー、そう言って貰えると嬉しいねえ。
しょうゆが口に合うようで良かった良かった、
いや、そもそも私の舌を参考にした味覚だから感性が似通るのは当然なのか。
だったらこの実験も色々相談できるか?
「ところで、どうしてなやんでいたの?」
「味はほぼ再現出来ているんだよね、ただ――」
あくまで、これはフレーバーであること。
味覚はいくつもの味を組み合わせた、化学で変化するものであること。
だから、このままでは料理に使っても、料理+しょうゆ味がするだけで和風料理を作る為に利用するのは難しいことを説明した。
「刺身にこのフレーバーをつけても、魚の油の旨みがしょうゆと反応して美味しさに変わるプロセスが無いんだよね」
「つまり?」
「本物と同じように使える、しょうゆ含むその他の調味料を作りたいなって」
「むりでしょ」
ですよねー。
でも、無理かと言われたらそうとも限らない。
この実験をやめる理由にはならないね。
長期で考える課題だなこれは。
まあ、出来ても売りには出さないが。
そもそも栄養が無いから、摂取しすぎると栄養バランス崩して体を壊しそうだ。
相当適当な事を書いてる自覚はあります




