42 今後の展望、世界の情勢
もうサブタイトルを考えるのが面倒になった模様。
今後のサブタイは内容にそぐわない可能性があるので注意。
暴走したアリクイ君の急加速のせいで腕がちぎれるかと思った。
もうゴブリンの密集地帯を抜けて、まばらにしか見えない。
整地されてない草原を進んでいるけど、トラッキングボールが浮き沈みをして衝撃を吸収してくれる。
それでも結構ガタガタ揺れる、まあ振り落とされることは無いだろう。
現地に着くまで、少し時間がある。
アリクイ君の改良……というかこの先、作る兵器の性能をどこまで上げるかだなあ。
勢いで出したけど、これくらいの兵器ならまだ目を付けられないよね?
身分や身元の証明が無い人間の人権が、この世界でどの程度保障されているか怪しい。
いや、どの世界でもそんな人がひどい扱いを受けた所で、どこからも文句は出ないか?
公的な機関に睨まれる性能の物を作ってしまった場合、捕まって延々と作らされるか殺されるかどちらかになるかもしれない。
そう考えると、超性能な物なんて怖くて作れないんだよなあ。
もし、考え無しにそんな事をして、結果的に国を相手に喧嘩するなんて国を造るくらいの野心がないとやれる事じゃあないだろう。
行きついた先で、お前はやり過ぎたのだ! とか言って不幸になる人生はいやだよ?
出来るだけ平和に生きたいわ。
いやいや、今はまだこの件を考えても仕方ないね、想像だけで実際はどうか分からないのだから。
「ふむ、そっかあ」
唐突に、思い至った。
地理を考えると、山を挟んで隣の国になる学術都市から砂漠の方への支援が早いことに疑問はあった。
防衛力の落ちた所に魔物の進行が来て、国が食われたら明日は我が身ってことなのかも知れない。
もし、砂漠方面の町が魔物に食われた場合。
山を越えて来るのは大きく魔力を蓄えた魔物って事に。
普通なら、正常性バイアスでも掛かって鼻で笑い飛ばすところだ。
だが、この世界に来てから過去の歴史を学んでいた時、滅んだ国の経緯を思い返すと似たような出来事の顛末がいくつも記述されていた。
国単位での危機感が強い。
生活圏で敵性の強い魔物がほとんどいないのも、徹底的に狩ってるからだろう。
魔物らしい魔物に遭遇したのは今回が初めてだからねえ。
私が主原因のゴーレム? 魔物化したおっさん? 知らんなあ……。
ゲームならその辺りをうろつけば魔物なんて、しょっちゅうリスポーンしたんだけどね。
なるほど、この世界の人たちは強さのピラミッドで上位にいないと認識しているのだろう。
まあ、マシンガンでも持てば個体単位ならほぼ最強の元の世界とはそりゃあ違うってのは分かるんだが。
人外じみた英雄が都合よくポンポン生まれて、世界を救ったりして楽な暮らしをさせて欲しいものだね。
つまり、この世界での冒険者って国を越えて人類を守る超エリートでは?
認定される方は人格・実力、両面で優秀で無いと信用されないから質も保障されるだろう。
わーれらじんるいまっもるっためー、とか歌いながら防衛するのか。
楽しそうだね、難易度の上限が常識的な範囲で、かつ参加権が自分の命じゃあなければ。
そうなると、やっぱりベリアの為に二人、いや三人も護衛に就くって違和感あるよなあ。
待遇が良すぎるんだよね、それとも身分次第ではそれくらい当たり前なのか?
おおっと、考え事をしていたらいつの間にか大分近づいていた。
今も変わらず対象からベリアに似た魔力が出続けているから、場所はすぐに分かる。
結構な速度が出続けているので、通り過ぎないようアリクイ君にブレーキでも掛けようかと思っていると。
姿を捉えた。
クリオネはまだ、その姿のまま地面にいる。
問題は、その上に乗っている何者かがクリオネの身体に腕を突っ込んでいる所だった。
逆光で良く見えないな。
そいつは腕を引き抜いた。
ここまで近づけば、もう見える。
肩パッドにハーネスだけを着けた、筋骨隆々としているゴブリンジェネラルだ。
まるでイノシシのような下牙が特徴的ですぐに分かる。
こいつは後方待機していたのか、それとも野良なのか。
あと、革パンツ履いてるから別に見苦しくは無いんだけど、服くらい着たらどうですかね?
その手にはゴブリンジェネラルの拳くらいに大きな結晶体を持っている。
離されたクリオネの肉体部分は、まるで水だったかのように溶けて結晶体に吸い込まれていく。
結晶体が本体か?
そしてそのまま飲み込もうと大きく口を開けて――
させるか!
「くらえ! アリクイ君にはこういう使い方もあるんだーっ!」
速度の乗ったアリクイ君を重くして、そのままゴブリンジェネラルに突っ込ませる。
ぶつかる瞬間飛び降りて、アリクイ君とゴブリンジェネラルだけ吹っ飛んでいった。
飲み込まれなかった結晶体は、こぼれ球になって舞い上がる。
「スラ子、カマン!」
「よばれて、とびでて、おいでましー」
空中三回転して出てきた。
ついでに結晶体をキャッチして私に手渡してくれる。
スラ子は魔力が尽きたら消失する存在で、スラ子自身が蓄えられる魔力の量も多くない。
べリアからあまり出したくはないが、少しくらいなら問題ないだろう。
「いいの? スラ子のこと、ベリアに、ひみつにしてたのに」
「今は感覚切ってるから大丈夫、べリアもゴブリンの酷い姿にはショックを受けてたから」
内臓のポロリもあるよ、な光景は見ていて楽しくないもんね。
「そんな事より、向こうに吹っ飛んでるゴブリンジェネラルの相手をして頂戴」
「えー、どうしよっかな、やる気でないなー」
ごねるんじゃあないよ。
「……して、いいから」
「んっふっふ、なにを、していいって?」
「終わって安全になったら私の事、好きにしていいから」
「やる気、でた、いってきます」
飛んでいくように高速移動していく。
ふっ、ちょろい。
ちょっとそれっぽい事言うだけで、やる気を出すとは。
「いま、ちょろいって、おもったでしょ」
うわあっ!?
肩を見ると手乗りサイズのスラ子が居る。
耳元から急にささやくとびっくりするでしょう。
「……スラ子?」
「ちょうしにのると、うらめにでる、スラ子、とめるように、いわれた」
私の思考パターンを読むんじゃあない。
「きょうは、じっくりスペンス、きたいしててね」
背筋がゾクゾクする。
おっと、口元がにやけてるのを押さえないと。
いまはそれどころじゃあないぞ。
おちつけー、すーっ、はーっ。
よし。
受け取った結晶体を空にかざして見る。
八面体の透明な殻に包まれて、側面が光を屈折させてプリズムみたいに色を反射させている。
内部の中心には石のような物が浮いており、その衛星軌道上で小さな欠片が周っている。
これ、見た目に違和感があるけど、やっぱり知ってるわ。
「迷彩ドローンじゃん」
「なにそれ」
ああ、まだスラ子がいるんだっけ。
遠方に見える竜峰山脈に目を向ける。
「竜峰内部の中層に居る威力偵察機……が魔物化した奴、で合ってたかな?」
あんな旨みの少ない狩場には殆ど行かなかったから、うろ覚えだ。
こいつは周辺の魔物を隷属化させて、安全な所からプレイヤーを襲わせる面倒くさい敵だった記憶がある。
今回はゴブリン程度だからこれくらいで済んだけど、高レベルの魔物を引き連れていたらやばかったな。
性質上、こいつ自身に戦闘能力は無く、同レベル帯の魔物に比べたらとても弱く脆い。
なんでこいつが外に出てきているんだ?
いやまあ、外に出る道はあるだろうから、おかしくは無いのかもしれないけど。
そして、こいつ。こんな状態でも。
「まだ生きている」
多分、放っておけば活動を再開するだろう。
そんな事はしないけど。
「ころさないの?」
んー。
「もうちょい待ってね」
よく見ると、べリアの魔力と他の魔力が混ざっている気がする。
恐らく核となっている中心の石、これは全く違う。
衛星軌道で浮いてる欠片、これかな?
じっと集中すると、しっかりベリアの魔力が感じられる。これだな。
ベリアの魔力を放っている欠片を取り込もうとしている途中、のような魔力の動きが感じられる。
ベリアに縁のある品って何があったっけ。
魔力を送信していたリボン……は送るだけで蓄える機能は無さそうだったな。
あのリボンには魔力波長を利用した送受信機の発想に役立っています、いや今はそこじゃあないな。
やっぱり、魔力を受け取って蓄えていたらしい魔力球だよなあ。
持って行った奴が運んでいる最中に、高魔力に誘われたこのドローンと配下に襲われて。
そして結果として、砕けた魔力球の一部をコイツが取り込んで……か?
うわあ、ありそう。
他の欠片を持っている奴もいるんだろうけど、考えたくないわ。
連れていた配下がここにいないのは多分、欠片を取り込んで強力になったお蔭で支配から脱したのだろう。
これが真実だとしたら最悪だな、そうじゃあない事を祈る。




