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41 Undiscovered Flying Object

 みんな、いっしょうけんめいたたかっている。


 もしかすると、飛行体の思惑では数で圧殺するのが目的だったのかもしれない。

 しかし、半死のゴブリンで壁を作り、定期的に間引かれて魔力に還っていく。

 いつしか一度に接敵している数は数匹程度になり、戦況は安定していた。


 まだかなー。

 まだ起動しないなー。

 アリクイ君に魔力を送っている間、守ってもらっている。

 でも、何もしていない訳じゃあない。


 ゴブリンの壁の上から新手が、にょっきり現れる。

 私は空いている方の手で棒手裏剣を投擲して足首を貫通させると、バランスを崩して膝をついた。

 その隙にジェーラさんが鞭を首に巻き付け、ゴブリンを地面に叩き付けるように周りを薙ぎ払う。


「まだ掛かりそうですか」


 やめてくれ、進捗どうですかは私に効く。

 おっと、そうじゃあないよね。

 声を掛けたウノスケの額から汗が見えている。

 他の二人よりも疲れているようだけど、もしかして振っている剣が合っていないのだろうか。


「もう少し、いや終わったよ……起動だけ、発射までもうちょい待ってね」


「そろそろ飽きてきたぞ、早くしろよ」


 ごめんね。

 ここまで掛かるとは思わなかったんだ。


 さて、アリクイ君の起動も終わったので射角の調整をする。

 クランクを回して。

 そりゃあ対象物をロックしてオートエイムする機能とか付けたかったよ?

 でもねえ、対象の認識と識別をさせるのは簡単じゃあないんだよね。

 射角はオッケー、次は、えーっと。


 操作盤のタッチパネルから魔力を通しつつ、コッキングレバーを引いて30mmミスリル弾を砲身に装填する。

 わざわざレバーを引く動作も本当は付ける必要はないんだけど。

 これがないと気分が出ないわ。


 弾は魔力の通りがいいミスリル。

 この弾と魔力パスを繋げたまま射出することで、小細工が出来る。


「そろそろ撃つから、射線上に立たないでね!」


 私の注意を受け取って、砲身の延長線上から退ける。

 飛行体は細かく左右に動く微妙な動きで、回避行動を取っているように見える。

 最初の投擲で警戒しているのだろう。


「じゃあいきます! 3、2、1、シュート!」


 キャリングハンドルに付けていたトリガーを引き、発射。

 重量軽減されたミスリル弾は、一時的に軽量化したことで砲身の安定性を、必要なエネルギーを少なくすることで弾の加速力を増す。

 電磁加速砲を参考に作ったアリクイ君から、魔力を変換した推進エネルギーを受け、砲身を通るミスリル弾は急加速する。

 だが、音速を超えるほどの速度は出ない、それでも暴発もせずに問題なく使えるなら上出来かな。


 ミスリル弾が風を切りながら飛んで行く。

 最初に私が投げた投擲物よりも格段に速いミスリル弾は一瞬で飛行体に近づく。

 発射角が甘かったのか、このままだと当たらない。

 飛行体も避け方が念のため離れているような動きをして。


「ディフォーム!」


 繋がっている魔力を使い、弾に指示を与える。

 私が、弾と目標を繋ぐ追尾装置の役割を担って、精度の悪さをカバーするのだ。

 明後日の方向に飛んでいた弾が急に軌道を変え、飛行体の真ん中に突き進む。

 更に弾が液状化を始めて、小さい無数の弾に……いや、空気抵抗を受けて針状の散弾に変化する。


 ここまでされては流石に避けきれない。

 針の雨は飛行体に突き刺さり。

 透明化が解けた。


「なんだ、あれ?」


 飛行体はバランスを崩して地面に落ちていく。

 しかし、高さが半分ほどになった所で持ち直して、空中で停止した。


「珍妙な姿ですね」


「少し可愛くみえます」


 クリオネにしか見えないです、しかもぬいぐるみにして抱えてもらいたいくらい結構でかい。

 んー、よく考えたらこの特徴は知ってるやつかも?

 それよりも、仕留めきれなかったのが痛い。

 透明化と多数への指揮能力があるからクリオネ自体はそれ程強くないと思っていたのに。


「あいつ、相当強いね」


「期待してよかったんじゃねえのか? くそっ、逃げ始めたぞ」


 見た目からは意思を感じられないが、危なくなったら逃げるだけの知能があるのか。

 レバーを引いて次弾を装填。

 今度は消費魔力のリミッターを切って全力で仕留める。


「もう一発行きます、あいつは逃がさない」


 ミスリル弾の重量軽減を制御できるギリギリまで軽く。

 砲身による加速も壊れない程度まで早く。

 必要な作業を操作盤で調整していく。

 その間、クリオネは大分離れてしまったが、まだ射程圏内だ。


「行きます! 3、2、1、シュート!」


 ミスリル弾はアリクイ君の限界を超えた加速を得る。

 加速レールを通っている間に音速を超え、空気が破裂する音をまき散らして射出される。

 暴れた砲身は跳ね上がり、狙いがぶれた。


 一瞬見えた弾は砲身を通る際に摩擦熱で赤熱化していた。

 弾の周りの空気がプラズマ化し、曳光弾のような残像を生み、まるで赤いビームのように見える。


「ディフォーム!」


 タイミングなんて、ほぼ勘でしかない。

 軌道も大幅にズレて、修正が出来るかも運だ。


 だが、やれる。

 上方向に逸れた弾がクリオネを叩き付けるような軌道で突っ込んでいく。

 今度は散弾に変えて威力を落とす真似はしない。

 ライフル弾のような形状にして貫通力を上げ、弾に残った魔力を絞り切って再加速させる。

 私の制御から離れた弾はクリオネに向かい。


 咄嗟に半透明なバリアのような壁を出してきた。

 ビームが壁に接触。

 そして、二連続で大きな破裂音を発生させる。


 一回目は壁を食い破った音。

 二回目はクリオネを貫通し、赤いビームより一回りは大きな穴を開けて通り抜けていく。


「っし! どうよ!」


 嬉しくなって喜ぶと同時に、頭が警鐘を鳴らしてくる。

 最後に出されたバリアは魔力障壁か?

 魔力を魔法で物質化せずに、そのまま物理的な防御として利用するって相当レベルが高くないと無理じゃね?


 ……仕留めきれてるか、これ?


 私の心配に反して、ゴブリンに異変が起きる。

 近くにいたゴブリンはそのまま襲ってきているが、ゆっくりとこちらに向かって順番待ちをしていたゴブリンは同士討ちを始めた。




 魔物は魔力を取り込んで成長、または強力になる。

 魔物の集団ならば長になり、敵対関係なら弱い魔物を捕食。

 今まで操られていたゴブリンは、クリオネの指揮を離れて独立して動くようになった。

 普通のゴブリンなら紆余曲折はあれど、群れを組むだろう。

 だが我に返っても動きがアンデッドそのもの、こいつらはゴブリンゾンビのようで他の生き物は全部餌に見えるだろう。

 周りには魔物の本能を刺激する、おいしそうな魔力を持った存在が近くにいる。


 つまり、共食いが始まった。

 勉強をしていた時、共食いの記述を見た時は物理的に食べきれないのでは、と思ったが。

 浄化――魔力に還って、霧散する前に取り込む過程の事を書かれていたのだと思い直した。

 よく見ると、浄化の際に残された魔石を飲み込んで一回り存在感が増した個体が生まれている。


「やったみたいだな」


「これからが大変ですね」


「先ほどのように、アリクイ君で吹っ飛ばしちゃってください」


 うん、そうしたいんだけどね。


「ごめん、無理。最後撃った時、砲身が歪んじゃって、もう使えないわ」


 三人からブーイングが起きる。

 まあ、面倒だもんね。


 共食いを、ただ見ているわけにもいかない。

 放っておいたら強力な魔物が生まれるって事になる、まるで蠱毒のように。


「じゃあ皆、掃討頑張ってね。私は、あの飛行体が食われる前に確保しに行ってきます」


 そう、この状況で食われたらヤバイのがクリオネだろう。

 倒したのに他の魔物が取り込んで、クリオネと同じくらいの強さの敵が立ちふさがるとか最悪だ。


 幸い落下地点の周りにはゴブリンを出して無かったように見えた。

 偶然、他の魔物がいない事を祈ろう。




 アリクイ君には、まだ機能がある。

 地対空砲として使うだけなら、底部のトラッキングボールなんて要らない訳で。

 操作盤をいじる。

 キャリングハンドルの下部に折り畳まれていた、足場を展開させて乗りこんだ。


「アリクイ君、ゴー!」


 トラッキングボールが回転する。

 アリクイ君自体の重量を減らし、少しずつ前進を始める。

 おもちゃ(・・・・)を参考にしてボールに溝を掘って空転しないよう工夫してみたけど、あまり効果は無かったかな。

 重量を増減して速度の出る重さに調整する。

 次に、側面に二基付けてあるエアスラスターから空気が吐き出される。


 速度は出た、出過ぎた。

 リミッターが切られていた事を忘れたまま、空気を吐き出すスラスターが瞬間的な急加速。

 進行方向にいたゴブリンを、まるでボウリングのピンのように弾き飛ばしながら暴走を始めた。


「ぎょえ~~~~っ!?」

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