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 男二人は解体を終えて、カークはフライパンで色々な肉を焼いていた。

 焚火の横に作った即席かまどの上で。

 カークの手は可動域が広いのか、犬のような特有の手でもしっかりとフライパンの取っ手を掴んでいる。


「こういうのって焚火の横の地面に突きさして焼くものだと思ってた」


「ああ? そんな焼き方してたら焼きムラが出来ちまうだろうが。油も落ちて味が落ちるからいいことねえぞ?」


 いや、そうなんだろうけど。

 こういうのってその微妙なマズさを楽しむ、みたいな。

 でもまあ、旅慣れて何度も料理してるとそんなもったいないことはしないか。


 下処理をしていたウノスケが、カークの手元をチラチラと見ながら聞いた。


「ところでカーク、そのフライパン。油を敷かずに焼いているようですが」


「お、これか? へへっ、いいだろこれ、ライトミスリルコーティングで焦げ付かねえんだ。取っ手もとれるし滅茶苦茶軽いぞ」


 ほれほれと言いながら手首を返してフライパンをしゃくって見せた。

 一見ふざけてるように見えても手慣れているから突っ込みに困る。


「ちなみにお値段は?」


「なんと金貨一枚、素材を考えればすげー安くていい買い物だった」


 調理器具一個に金貨飛ばすって正気ですか?

 普通のフライパン十個は買えるでしょ。


「よっし、焼けたからお前ら先に食ってていいぞ」


 焼いた部位の肉と、内臓を三人分の葉皿に取り分けられた。

 あわてて荷物からフォークを取り出す。

 各々防水シートの上に座ると食べ始めた。

 鳥肉の油と香辛料の香りが食欲をそそる。

 早速一口。


 塩と胡椒が効いた胸肉を噛むと肉汁のうまみが染み出してくる。

 水筒から水を飲む。

 ちょっとパサついているけど、きつね色のお肉を相手に手が止まることは無かった。

 一緒に添えられた内臓を口に入れると、こりこりした食感でさっくりと噛み切れる。


「すごくおいしいね!」


 調理にうまくいった事に納得したのか、カークは笑顔を見せる。


「そいつは良かった、今日みたいに美味いものが食える日だけとは限らねえからな」


 そう言ってフライパンから焼き上がった肉を指でつまみ食いする。


「ああ、これはうまいな、酒が欲しくなる」


「気持ちはわかりますけどね、水は作って水筒に詰めるだけでいいですが、お酒を持ち運ぶのはちょっと」


 お酒ねえ、まだ飲んだことないけど。


「魔法でお酒も作れるよ?」


 その言葉に反応してカークがこちらを向く。


「まじかよ、酒を出せる奴なんて聞いたことねえな。そこにある……水筒のコップに入れてくれねえか」


 指示された所にあったカークのコップを手に取り、中にお酒を出す。

 カークは丁度焼き終えた所らしく、フライパンから葉皿に移し替えていた。

 私からコップを受け取って、期待しながら一口飲んだ。


 カークの顔が凍り付く。


「うん、まあ、なんだ。ウノスケ、これ飲んでみろ」


 ウノスケは別にお酒には興味が無かったのか、回されたコップを遅れて受け取った。

 カークの顔に何かを感じ取って、恐る恐る少しだけ口に含んでいく。


「うーん、なんといいますか。確かにお酒ではあるんでしょうけども」


「酒じゃなくて消毒薬じゃねえか?」


 味がない。

 癖が無い。

 物足りない。

 うー、そんなにダメ出ししなくてもいいじゃない。


「お酒なんて飲んだこと無いんだから仕方ないじゃない」


「ま、今度落ち着いたときにでもうまい酒をおごってやるよ。これは、まあ、怪我した時にだしてくれ」


 そのフォローは慰めになって無いからね。

 お肉を食べて気を取り直す。

 まだ一羽分しか焼いてないのに、お腹いっぱいになっちゃった。


「私は洗い終わった内臓やまだ残ってる肉を焼きにまわりますね」


 私の食べるペースに合わせてくれたジェーラが席を立つ。

 男二人はまだ全然足りて無いようで、話をしながら食べていた。

 手が開いて少し暇。


「ねえ、さっきの骨が付いた肉や野草とか木の実を入れた鍋って調理しないの?」


「あれか? あれは夜の番をしている奴が煮込むのさ」


「夜の間ずっと煮込むの? 辛くない?」


「ただ火の番をするのは暇になるからな、灰汁を取りながら時間を潰せるのはむしろ助かるんだ」


 へえー、夜の間何もしないのは辛いもんね。

 でも私が出来るかな?


「ちなみにベリアは朝まで寝てろよ」


「えっ、どうして」


「もう身体が限界だろ、一日ずっと歩き通しでまだ喋る元気がある方がすげえよ」


 ばれたか。

 落ち着いて体の緊張が無くなってからは膝がぷるぷる震えてる。

 でも強化魔法を使って歩くと自分で歩いてるような感覚じゃないのよね。

 私の身体を包んでるスライムを歩かせているような感じ?

 まあ立ちっぱなしな事には違いないから、そのぶん足には来ているんだけど。


「あ、じゃあ最後にあれ教えてよ、ウノスケがカークの肩に手を乗せて魔力をボフンってやったやつ」


「あれですか、あれは、えっと、そうですね。言葉では説明が難しいので実際にやってみましょうか」


 ウノスケが私の隣に座る。

 む、意外と肌がきれいだ。

 黒い瞳を見ていると吸い込まれそうになる。

 視線を下にさげると唇が肉の油でテカっていた。

 ウノスケも気になったのか唇をペロリと舐め取る。


「まず僕の肩に手を乗せてください」


 考え事をしていた私が動かなかったので、両手を取ってウノスケの両肩に乗せられる。

 うー。ちょっとドキドキする、かも。

 顔を見てると話を聞けそうにないので首元を見る。


「今から僕の魔力を手のひらに当てます、感覚でも良いので覚えてくださいね」


 ふう、目をつむって心を落ち着かせる。

 服越しに肩に触れていた手が魔力を受ける。

 なるほど、よくわからない。


「今当てられた僕の魔力を体内で似せて調整して、二人のそっくりな魔力を同時にぶつけて共鳴させるんです」


 いや、これは無理でしょ。

 魔力を覚える段階からもうわからないし。

 というか何を言ってるかわからないし。

 戸惑っている私を気遣ったのか練習方法を変えてきた。


「そうですねえ、自分の魔力を感じ取ってみてはどうでしょうか。魔法を使う人でも自分の魔力がどういったものかを気にしている人はそれほどいないようですから」


 自分の魔力を感じ取る。

 確かに魔法は使う時は無意識に魔力を引き出しているかも。

 私の身体の中に意識を集中する。

 存在する魔力の量、質などを色や形に見立てられないか視点を変えながら確認するといいとか何とか。

 意識を沈めていく、魔力と、大きななにかを見つけて近づいた私が別の意識に触れた、気がする。

 それが誰かの手だと分かると、握り、思いっきり引っ張った。






「あれ? うそでしょ?」


 が目を覚ます。


「どうしましたベリア……では、ありませんね?」


 私を見ていたウノスケの顔つきが少し鋭くなる。

 右の赤い瞳が両目とも緑色に変化したかな、顔を見ただけでベリアでは無いと気が付かれた。

 まだ出る気は無かったんだけどなあ。

 ベリアの意識もはっきり残っているように感じる。


「べリアに引きずり出されちゃった、みたいな?」


 てへっと後ろ頭に手を当てる。

 急な空気感の変化に気が付いたのか、カークとジェーラもこちらに視線を送っていた。

 でも皆その程度の反応だ、この辺りの情報も伝わっているようだ。


「ええっと、一応聞きますが。あなたのことはなんと」

「ちょいまって!」


 手のひらを前に突き出して制止する。


「トイレいくから、ついてこないでね」


 森の方にダッシュする。

 ベリアもずっと我慢していたとか、体に悪いからちゃんと席を外そうね。


 もう夜になった森の中、焚火の光が届くギリギリくらいの木の陰に入る。

 スカートをめくって、飾り気のない白いショーツをひざまで降ろす。

 裾をつまんだまま、木の幹を背もたれにしてしゃがみこんだ。


 老廃物を勢い良く出しながら考える。

 ジェーラも旅で歩く事が分かっているのに膝丈のワンピースを着せるなんて、何を考えてるんだろう。

 靴下でカバーしてない部分とか、木の枝で傷が付くかもしれないのに。

 でもまあ、赤いフードマントを被った姿は赤ずきんみたいで可愛いと思う。


「ふう……」


 私自身、持っていた荷物が減って魔力が自然回復するようになった。

 更にベリアが私で肉体を補完する、この二重の影響で病気を克服するようになるなんてなあ。

 あーやっと出し終わった。

 デリケートな場所を水で洗って、温風をかけて乾かす。


 さて、戻りますか。

 スッキリした気分で、ゆっくりと焚火の方に歩いて行った。

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