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 ゆっくりと手をグーパーする。

 うん、手の指を魔法で自由に制御できるくらいには慣れた。


「これならもう大丈夫。ジェーラ、今度は指相撲しよう」


「いや、今日はここまでだな」


「そうですね、この辺りが丁度いいでしょう」


 カークとウノスケが話を遮る。


「何が、って。あ、もう日が傾いてきてる」


 いつの間にか砂漠地帯を抜けて木々の生えている緑地帯に入っていた。

 太陽は大分傾き、もうすぐ空が茜色に染まるだろう。

 前を見ると尻尾、横を見てもジェーラの姿が目に入って気が付かなかった。

 魔法の制御に気を取られてたし。


「今日はこの辺りで野営なんだね」


 街道から少し外れた場所。

 焚火が出来るくらいの広さがあって、すぐそこには木々が生えている。

 その奥を見ると、空はまだ明るいのに薄暗くなるほど密集して伸びている。


 ジェーラがバッグから防水布を取り出して広げると、地面に敷いて皆が荷物を置く。


「オレは食えるものを取ってくる」


「じゃあ僕は燃やせるものを」


 カークとウノスケはそれだけを告げて森の中に行ってしまった。


「私は何もしなくていいの?」


「べリア様は……二人が置いて行った荷物を見張る係でしょうか」


「えー、何でもできるようにあんなに勉強したのに! 何でもするよ?」


 ジェーラは腕を組んで真面目に考え始めた。


「うーん、乾燥地を抜けたので水は簡単に作れますし。本当にすることは無いんですよねえ」


 じゃあ二人のどっちかを手伝いに行こうっと。

 カークはあの鼻と耳を使って狩りをしそうだから邪魔しちゃ悪いかな?


「ウノスケの所に行って薪拾い手伝ってくるね」


 言いながら私も森に入っていく。

 確かこっちの方に歩いて行ったような。


「あー……まあ、いいでしょう。危ない事なんてそうそう起きないでしょうから」




 バッチリ聞こえてた。

 薪拾いに行っただけ、だよね?

 でも無理をしてでも止めてないんだから大丈夫でしょ。


 ちょっと森の中に入っただけで一気に暗くなる。

 木漏れ日の少ない、日中の森は散策に丁度いい空気感、空気感だけ。

 あと、一人じゃ無ければ。

 微かな風が葉擦れの音を鳴らすだけで、他の物音は自分の足音と呼吸音だけだ。

 地面では木の根がうねって生えてるから歩きやすいとは言えない。

 結構心細いかも。


 ……やっぱり待ってた方が良かったかな。

 そんなに遠くまで行かないはずだけど、全然見つけられないのはどういうことなのか。

 はぐれたり、道に迷うのも馬鹿らしいので戻ろう。

 そう思っていたとき。


 ガサリッ。


 やぶをかき分けるような物音。

 二人のどっちかがいるかな、と思いつつ野生の動物の可能性を考えて気配を殺して近づく。

 ぬきあし、さしあし。

 木の陰からそーっと見ると人影があった。


「そっちはどうだ?」


「それらしい痕跡はなさそうですね」


 おや、二人ともここにいる。

 何やってるのかしら?

 見ていたらウノスケがカークの肩に手を置いた。

 カークが目を閉じる。

 こ、これは! ……ごくり。




 よく見ようと身体を少し乗り出した瞬間。

 二人を中心に物凄い風が吹いて私の身体が大きくのけぞって……いない? 気のせい?

 あれ、でも今すごい何かはあったよね。

 びっくりしたけど、よく聞いたら遠くから多くの鳥が飛び立つ音が聞こえてくる。

 野生の動物がさっきのを察知したから逃げた、と思う。


「べリア、そろそろ見物はやめてこちらにきたらどうですか」


 ウノスケがこちらに声を掛ける。

 やばっ、ばれてた。


「あー、うん、いつから気づいてたの?」


「そこから覗き始めた時からですね」


「うう、ジェーラには覗いてたって言わないでね? 絶対怒られるから」


「構いませんとも。さて、それでは何故ここに来たのですか」


「何か手伝えないかなーって来たのよ、そしたら、二人で」


「二人で?」


「ちゅーでもするのかなって」


 それを聞いたカークが大笑いする。


「ぶぁははは! 聞いたかよウノスケ! ちゅーだってよ、するか? ちゅー、ほら」


 カークがウノスケの肩に腕を回して口をとがらせる。

 残念ながらウノスケは嫌そうな顔をして顔を反らした。


「やめなさい、べリアが本気にするでしょう。ふんっ」


 ウノスケのボディブローがみぞおちに刺さる。


「うげぇ、マジに……殴ってんじゃ、ねえよ」


「それくらい咄嗟に防いでくださいよ」


 カークは膝を折ってお腹を押さえて苦しんでる。

 あの毛皮を貫通して悶絶させるなんて、やるわね。


「で、さっきのは何だったの?」


「ああ、カークの魔力を借りて結界を張ってたんですよ。結界と言うより効果としてはマーキングに近いものですが」


 この辺り一帯を一時的にカークの縄張りにするため魔力を増幅拡散していたらしい。

 私が受けた風のようなものは強い魔力が身体を突き抜けた時の物だったのね。


「さっきいろんな動物が逃げていったみたいだけど、あれがそうなんだ」


「ううっ、ゴホッ。ああ……鳥を仕留めて拠点に置いてあるから、あとは戻るだけだな。おらあっ!」


 カークはお返しにウノスケにボディブローを放つ。

 それを手のひらで流しつつ身体を半分引いて躱していた。


「はい、これで一回ですね。満足しましたか?」


「くそっ、いつか借りを返してやる」


 仲がいいんだか、悪いんだか。

 自分から絡んでいったのを忘れてるのはどうなんだろうね。


「そうだ、カーク。採ったのは鳥だけですか?」


「ん、ああ、そうだが」


「べリア、カーク、少し付き合ってください。途中、食べられる野草があったので戻るついでに採りましょう」





「あら、三人ともおそろいで。少し遅かったのでは?」


 空を見上げると、もう赤く染まっている。


「ええ、戻るついでに野草も採って来たので」


「食べられる木の実も拾って来たよ」


 戻るとジェーラが焚火を組んで燃やしていた。

 横には石で組まれた即席のかまどが作られて、上に片手鍋が乗っている。

 中を見ると鳥が二羽、水に沈んでいた。


「今から羽を抜くので手伝ってください」


「あ、私やる! 一羽ちょうだい!」


 鍋から引き揚げた鳥を受け取る、ぬるま湯に浸けていたのか水気が少し暖かい。

 私の顔くらいある大きさの鳥で抜き終わるまで少し時間が掛かりそう。

 そう思ってある程度いっぺんに引き抜いた。

 ずるり、と驚くほど簡単に抜ける。

 面白くなって次々引き抜いていたらすぐに終わってしまう。


「ねえ、ジェーラ。この細かい産毛も引き抜くの?」


 これだけはしっかりしていて引き千切るような形になってしまう。


「これは、こうして」


 ジェーラは鳥の足を掴んで吊るすと。

 ボフンと瞬間的な発火をして産毛だけ焼き払ってしまった。

 羽抜きの終わった鳥を男二人に渡す。

 受け取った二人はナイフを取り出して解体に掛かって行く。


「どうぞ、やってみてください」


 なるほどね。

 火を出してどれくらいの火力を出せばいいか確かめる。

 ……これくらいでいいかな?

 鳥の足を掴んで吊るして、表面だけ焼くように、一瞬だけ発火を。

 ボフッと少し強かったくらいの火を出したものの、綺麗に皮だけが残り――。


「あっつ~~~!」


 思わず鳥を取り落として、手に魔法で水をかける。

 落とした鳥はジェーラがナイスキャッチ。


「とまあ、このように。自分を保護しながら魔法を使わないと痛い目を見るという事ですね」


「分かってるなら言ってよ、もー!」


「こういう事は実際に体験してみないと実感が湧かない物ですからね」


 そうかもしれないけどさあ。

 そんなのもっと他に安全な事で教えられるでしょう。


「手は大丈夫そうですね、やけどはしてないみたいなので次に行きましょう」


 まだちょっと手のひらがヒリヒリする。

 それでも終わったわけじゃないから途中でやめたくない。


「ええ、次は何かしら」


「内臓を取り出すのでナイフを準備してください」


 バックパックの中に入っていたはず。

 中からナイフを出すとジェーラの元に戻った。

 縦に割った薪の上に、小さ目の鉄のプレートが置いてある。

 まな板として用意された、その上に鳥を置く。


「鍋はともかくこの鉄板は荷物として無駄じゃない? なんか大きさも中途半端だよね」


「ああ、これは通行プレートですよ。こういう時に使うには便利ですから」


 裏をチラと見ると、登録者名が~とか記載されているのが見えた。

 ……こんな使い方して本当にいいのかな。

 まあ、ジェーラが言うのなら大丈夫なんでしょうね。


「ではまず首の、この部分から――」


 内臓は傷つけない様に切っていく。

 呼吸器官、頭、肛門から内臓を。

 爪と足を切り落としたら、部位ごとに解体。

 血抜きは仕留めた後すぐにしていたのか、全然血が出なかった。

 可食部位は入れ物に分けていく。


「選り分けた内臓はどうすればいいの?」


「血がまだ残っている内臓は塩水に浸けて血抜き処理した後食べましょう、他は洗った後焼けば食べられますよ」

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