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ふん、周辺集落のゴミ共はあまり魔力の足しにはならなかったな。
いくつ潰しても足りないとは予想外だった。
集落内のゴミ共を殺しつくしてから魔力を奪って回るのは案外効率が悪かった。
念入りに死の煙を撒いたにもかかわらず生き残りが出たことも準備不足を痛感した。
おかげで生き延びた連中を奴隷として、各所に橋渡しする必要があったのは面倒だった。
だがいくつか潰してコツも掴めた。
その後は生き残りもゼロに出来たし……いや、最近一人だけいたな。名前も覚えていないが。
このままではまだしばらく掛かりそうでストレスが溜まっていたが、変わらず周辺集落を潰すしかなかった。
だが急に風向きが変わった。
大きい町に手を出すと自分の事が露見しそうで我慢していたが、それが功を奏していたらしい。
あのメイドから話しを聞いたときは耳を疑った。
吸魔のリボンが消失するなどまだまだ先の予定だったからだ。
どうせ不意に紛失したのだろうと決めつけて替えのリボンを取りに行ったときだ。
もし聞いた話が事実なら? バカバカしいと思いつつも魔力球を確認した時は驚いたものだ。
既定の数倍の量が回収されている。
なるほどリボンも壊れるだろう、こんな短期間に大量の魔力を送ってしまったら耐用限度は大きく超える。
だがこれは嬉しい誤算だ。
このペースなら後一本分のリボンで十分な魔力が確保できる。
あの煙の中で意外とメイドも耐えていたようだが、その内息の根も止まるだろう。
しかしベリア嬢がこれ程の魔力を抱えて安定しているとは想定外だった。
もうリボンなどいらん、後は研究室に戻って魔力球の魔力と合わせて変性させれば遂に秘薬が完成する。
ふ、ふふふ……クックック。
やっと、やっとだ……!
これでやっと私は不老不滅の力を手に入れることが出来る!
ふんふん、なるほど?
どうやら今の私は相手の魔力波長に同調することで考えている事や過去の事を覗けるようだ。
これはすごい、けど使い道が限定的って感じもする。
そんな事よりもべリアが意識を失っている間に限られるのだろうが、私が身体を動かせているのは助かる。
しかしまだ私は生きているつもりだが、これじゃあ憑依するタイプのゴーストと変わらないかもな。
目を薄く開ければ地面は見たことのある石畳の廊下。
つまりここはまだゴールド家の館内。
私はシロノに俵担ぎされて廊下を歩いている途中。
ベリアが意識を失ってからそれほど時間は経ってないかな。
こいつ入口の検問はどうやって通るつもりだったんだろうか。
マリーさんも連れずに急きょ治療院にでも運ぶ必要があるとか言えば騙せるのか?
しかしその、なんだ。
周辺の町を潰していたのがこいつって事はだ。
野宿していたときに人狩りに遭ったのは元はと言えばこいつのせいって事だよな。
はあ……まあその件はもうどうでもいいが、こいつやってる事は無茶苦茶だな。
他の大勢を生贄に不老不滅の力を得るとか悪の幹部みたいなこと言ってるし。
マリーさんもこのままじゃあ危ないようだしさっさと何とかしないとな。
俵担ぎの状態で添えられていた手から振り解くように足を跳ね上げ掌底をシロノの肩に押し、飛んで宙返り。
半回転ひねりを加えつつ、この男に向き合うように着地する。
2.8点!
着地時に膝が地面に着いて態勢も傾いている。
今までインドアな生き方をしてきたべリアならこれくらいの身体能力しかないのは仕方ないか。
「おはようございます、シロノおじさま」
声を掛けた後、押されてよろけているシロノが振り返る前に後ろに下がりながら錠剤を口に入れ、飲み物が入った瓶を取り出して一口飲む。
あ゛ーしばらく飲めないかもしれないと思うと美味しさも一入だわあ。
こちらを見たシロノがおどろいているのが分かる。
まあ目の前でマリーさんを蹴り飛ばした後で私がこんな態度を取ったら異常だと思うよな。
「べリア嬢、か? 一体なぜ――」
さっき知った限りではあのシロノの自称、死の煙を吸ってなぜ生きている。
もしくはなぜそんなものを、どこから出して飲んでいるってところかね。
「なぜ両目とも緑色をしている?」
どっちでも無かった。
んー? 両目が緑色になっている、ねえ。
まあ考えられるのは私が表に出ているからだろうけど。
そんな事説明する義理はないな。
「さてなぜでしょう。この飲み物に興味はありませんか? どうぞ、毒などは入っておりませんわ」
無理やり話を逸らして飲みかけの瓶を投げ渡す。
素直に受け取られた瓶を不思議な物を見るように見ていた。
「あらやだ、これでは間接キスになりますわね。私ったらはしたない」
頬に手を当ててイヤイヤする。
シロノはこちらを白い目で見てきた。
冗談も通じないのかこいつは。
「なるほど、この飲み物で……」
何か勝手に納得し、こちらを得体の知れない生き物であるかのように見ながら飲み物を口に含む。
私が平然と動けているのは飲み物のおかげとでも思っているのかな。
「む、これは!」
「いちごドリンク!」
おいしいよね、いちご味。
飲んだシロノは首を傾げた。
「……だがこれはただの飲み物のようだが」
そりゃあ治癒効果があったのは錠剤の方ですし。
くだらないやりとりでいくらか時間は稼げた。
さっきよりも身体は動くからこいつに遅れをとる事は無いだろう。
気付かれない様に後ろ手に火球を出したり消したりする。
ベリアは筋力が無いようだが魔力を扱う素質は高いな。
強力な魔法はまだ使えそうにないが操作力は高い、これなら魔法で身体能力を高めた近接戦が出来そう。
「さて、べリア嬢。立っているのも辛いだろう、治してあげるから着いてくるんだ」
シロノを前に逃げることもしない私がロクに動けないと思ったのか手を伸ばして近寄ってくる。
この状況になってまだ善意の顔を見せれば騙せると思っている辺りこいつやっぱりまともじゃあないわ。
伸ばされた手が私を掴もうとした瞬間バックステップして逃れる。
余裕の顔を見せながら避けた私にシロノは空を掴み、握りこぶしを作る。
その顔は怒りをにじませていた。
「子供だと思っていい顔をしていたが、少々乱暴に扱う必要があるようだな!」
怒りの沸点低くない?
踏み込み、飛びかかる様に顔めがけて殴り掛かってくる。
冷静にサイドステップして避けたが思ったよりもシロノの動きが早い。
というかあんな殴り方したら普通首の骨が折れると思うんだが。
殺したくないから生け捕りにして運んでいたんじゃあないのか?
シロノはすぐさまこちらに向き直り、突っ込んで来る。
こちらの速さを警戒したのかさっきのような大振りはせずに速度を重視した殴りかたをする。
肩、胸、腹と速さに任せて殴ってくるので流石にすべて避けることが出来ない。
腕で受けて、弾き、上体を反らせて避ける。
戦う事は慣れていないのか見切るのは楽だが一発が結構重い。
だがこいつ、肉体の強さと体の動かし方がまるでかみ合っていない。
一発の隙も大きいし攻撃毎の連携もなってない。
動きの程度は読めてきた、そろそろ反撃に移ってもいいかな。
いま私は特撮ヒーローのように魔力で身体を覆って外骨格のように扱う魔法を使っている。
筋伸縮を魔法で再現して立ち回ることで体に負担を掛けずに戦えるわけだ。
力は普段のベリアの数倍出る、その結果は。
シロノの拳が迫る。
さっきまでとは違い、弾かずに巻き込むように抱きかかえる。
腰を落として足を払い、身体を縦に落とすように回転して投げ飛ばした。
突然の反撃にシロノは起き上がりに時間がかかってしまった。
当然そんな隙を見逃すはずは無く、駆け寄る。
私の攻撃を避けようと不安定な態勢で避けようとするが、させない。
棒手裏剣をシロノの体にかすめるように投げて地面に刺さる。
その瞬間シロノはぴたりと止まった。
マジカルスナップ。
相手の魔力に干渉して凝固する事で体の自由を奪う技だ。
本来覚えていないと使えないこのスキル、一定条件下なら本人の素質次第で使える。
その条件はもう満たしている、こいつの魔力波長は俵担ぎされていたとき覚えたからな。
加速した私の速度が十分に乗った蹴りはシロノの側頭部に入り。
だが少し頭を揺らしただけで終わり、すぐ後ろに下がって間合いを取る。
シロノは歯を見せて笑っていた。
「軽いなあ、もっと食べたらどうかね」
うっさいわ。
身体を動かした感じでは身長辺りの平均体重とあまり変わらないっての。
最後の蹴りは首の骨が折れるくらいの威力を出せたと思ったんだけどな。
どんだけ頑丈なんだこいつ。
これだけ硬い強敵を相手にするのなら、片手半剣を使わざるを得ない。
私の身長とほぼ変わらない抜き身の片手半剣を出す。
シロノの視線から隠すように後方下段に構えるがこのままではまだ使えない。
魔力を通すことで切れ味と重量の変化をさせることが出来るが、時間が少しかかってしまう。
だがその時間も身体を縫いとめている今なら十分ある、何かされることもなく終わるだろう。
レアリティが高いだけだよ、重量操作バスタードソード
片手剣と両手剣、両方のスキルが使える! 強い!
両手剣スキルは長さを生かした広い攻撃範囲とヒット&アウェイが基本
短いこの武器じゃ攻撃対象が少なくなりがちで反確をもらいやすい……
片手剣スキルは属性魔法付与か状態異常付与でダメージを稼ぐのが強み
重量を増減できるだけの無属性運用しか出来ないので火力がでない……
片手剣・両手剣・魔力操作のステータス・スキル半端振りが強いと思ってんの?
鈍器のように使えるし……
それ斧でよくね?
つ、突きもできるから……
物理の複合属性がお好み? では筋力をあげて片手でハルバードを扱って?
対人なら強いだろ!
他の武器でも投擲武器で誤魔化しがきくから特に……
「こんなんじゃメインキャラで持てないよー、トレード用に倉庫キャラに持たせておくか」




