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「ねえマリー、お姉さまがどこにいるか知らない?」


「べリア様はご存じないのですか? 一緒にいるように命じておいたのですが」


 私達の頭の上に疑問符が乗っかる。

 声をかけるタイミングを図っていたのだろうシロノおじさまがマリーに話しかける。


「マリー殿、彼女があの例のリボンを着けていた子なのか?」


 身長も伸び、変わり果てたと言える私を見てシロノおじさまがとまどっている。


「そのようです、リボンが無くなってしまって危険な状態だったので呼んだのですが。今の状態は大丈夫なのでしょうか」


「ふむ、まあ直接診ない事には何ともね。べリア嬢、触れてもいいだろうか」


「ええ、いいですけど。あのう、今の私が大丈夫とはどういった意味で……?」


 私の身体が急に変わった事と何か関係が?


「気にすることは無いさ、少なくともすぐに何か起こるわけではあるまい」


 だが放っておくわけにもいかないだろう、と私は診察してもらう事になった。




 私は身体を詳しく調べるために椅子に座る。

 私の向かいにはシロノおじさまが座り、私の手を取って何かを透かしてみているようだった。

 どうしてかは分からないがとても体調が良い。

 ただちょっとだけ頭にもやがかかっている、かな。


「リボンが消えたのはいつごろかな?」


「今日の朝ごろ失ったものだと思われます」


 私に聞いてきた質問をマリーが返す。


「じゃあリボンが無くなった今、危ないかもしれないってこと?」


 リボンを着けていないと体調が悪くなるとは聞いていたけど。


「それを調べている途中ってことさ」


 シロノおじさまがそう答えた。

 そして続けて私に声をかける。


「今から問診をするから答えてもらってもいいかい」


「はいっ、おねがいします」


 思わず膝の上に置いた手をグっと握る。


「ハハッ、そう緊張しなくてもいいさ。いつも話しているように言ってくれればいい」


 そう言われて肩の力を抜く。

 少し大げさかもしれないけど深呼吸をして心を落ち着かせる。


「ではいくよ、今日の朝食べたものは何かな」


 質問の内容に思わず目がテンになる。

 身体の調子がどうとか聞かれると思っていたから予想外。

 なんだったかな?


「確か、ピリ辛サラダスープに、エッグベネディクト……だったかな」


 思わずマリーの方を見るとうなずいてくれる。

 よかった、それは数日前のメニューですって言われたら自分の記憶を信じられなくなっていたかも。

 それからいくつか日常の何でもない質問が繰り返される。

 多分、私が緊張しない様に配慮してくれているんだとおもう。


「では次、その目の色。前と違うみたいだが、うずいたりはしないかい」


「大丈夫です、見え方も変わらない……と思います」


「記憶障害はあるかい、覚えている事があいまいになったりは?」


 顎に人差し指を当てて上を見て思い出そうとする。


 そういえば昨日お風呂入ったときのお姉さまは可愛かった。

 玉飾りを中の敏感な部分にえぐった時、あれは気持ちよかったなあ(・・・・・・・・・)

 ……あれ?

 気持ちよさそうにしていたのはお姉さまで、私はそんな事はしていないはず?

 指くらいならともかく、私がああいうモノを使うのは禁止されているし使った事も無い。

 でもでもあの溝の部分が私のおく――


「べリア様、体調がわるいのですか? 顔が赤いですよ」


 マリーの言葉に背筋がピンと跳ねる。


「ひゃいっ!?、なっなんでもないよ、マリーのバカ!」


 私の言葉を聞いてマリーの片眉が上がる。

 更に腕まで組みだしたその姿は怒っているようにしか見えない。


「へえ、反抗期? 教育を間違ったかしら、今後の方針を変える必要がありますね」


 あれ、私いま何かしちゃいました?

 圧倒的な威圧感に体が震え出した私にシロノおじさまが笑いを漏らしながら助け舟を出してくれた。


「それで、記憶障害は無いんだね」


「あ、はい。大丈夫です、何も問題ないです!」


 ううっ、嘘ついちゃったけどこんな事話せないから仕方ないよね?


「うん、では次だね。今体調が悪かったりはしないかい」


「体調は……悪くな、いえむしろいい方です」


 そう聞いたシロノおじさまはフーム、と少し考えながら小声でぶつぶつと独り言を言い始めた。

 あんてい……とか、まさかなおっ……など耳が拾った言葉からは内容の予想が付かない。


「最後に測定道具を使って今の魔力を検査したいのだけれどいいかな」


 私とマリーの二人に同意を得るために声をかけてくる。

 どういったものか見なければ分からないけど私の為にする事なんだよね。

 マリーはええどうぞ、と同意した。

 もしかしたら予定していない物を持ち込んだ事に許可を求めたのかな。

 私もお願いします、と答える。


「いやあ、そう身構えるような物じゃ無いんだ。これを腕に巻き付けて魔力の測定をするだけさ」


 そう言いながら持ち込んでいた鞄から取り出したのは……ベルト?

 テーブルの上に出されたのはベルトに何か箱のような物が取り付けられた道具だった。

 続けてディスプレイの付いた箱と二本のケーブルが出てきて最初の道具と繋ぎ始める。


「では着けるから左腕をテーブルの上に置いてもらえるかな」


 言われた通りテーブルに腕を出すと二の腕にベルトを巻き付ける。

 そしてベルトの箱についていたスイッチを入れると箱から魔力が一定間隔で伝わってくる。

 肌でギリギリ感知できる程度なので不快なわけではないけど少しくすぐったいかも。


「うん、これで正常に動いている。正常に動いているようだね」


 道具をチェックし終えるとディスプレイを見入っている。


「それでどうなんでしょう、私の魔力がおかしくなってたりしませんか?」


 シロノおじさまは口元を抑えてうんうん唸っているだけで答えてはくれない。

 しかし指の隙間から見える口はニヤリと笑っているように見えた。


「くくくっ……!」


 !?


 私達はおかしな笑い方をしたシロノおじさまを思わず注目する。

 彼は思わず漏れてしまったというように手を振って否定する。


「いやあすまない、悪気は無かったんだ。だがここまで魔力量が多くなっているとは……想定以上だよ」


「シロノオーナー、それは一体どういう……?」




「これを見たまえ」


 そう言いつつテーブルの上に置いてあった箱のケーブル二本を同時に引っこ抜く。

 それがなに……!?


 ケーブルを引き抜いた穴から勢いよく白い煙が出てくる。

 思わず袖で口をふさいで立ち上がろうと思った、その瞬間。

 腕に着けた箱からチクリとした痛み。

 思わず外そうと、もう片方の手を動かそうとしたが動かない。

 とりあえずこんなのは後、部屋の外に出ようと立ち上が――――れなかった。

 手、いや腕だけじゃない。

 全身が麻痺して動かない、マリー!


 かろうじてまだ動く目を向けるとマリーがシロノの首に蹴り降ろしている所だった。

 しかし蹴りは腕でガードされて弾き飛ばされると、マリーは空中をふわりと舞う。

 白く煙っていく視界の中でマリーが一瞬こちらを見て眉間に皺を寄せる。

 この事態で動かない私に何か異常を感じ取ったようだ。

 その後視線を左右に揺らして位置関係を測っている。

 入口側にはシロノがいて扉にたどり着くまで見逃すとは思えない。

 窓側は私しかいないが一人で逃げるならともかく動けない私を連れていこうとしてもシロノが咎めてくるだろう。

 せめて私が動けたら窓から逃げることが出来たのに。




 マリーは腰の後ろに手を回して蛇状の一本鞭を取り出す。

 シロノがマリーに走り出した時にはすでに頭上で勢いをつけた鞭を振っていた。

 音の速さを超えた先端が破裂音を鳴らしてシロノを打ち付ける。

 息をつく暇も与えない連続打ちにシロノの動きは止まり、顔が歪んでいく。

 このまま押し切れるかと思ったとき。


 鞭の音が変わった。

 マリーはシロノを睨みつけていてシロノは逆に余裕の表情を見せる。

 シロノは前進しながら一瞬とまった手の指は長く、かぎ爪になっている。

 腕を振るたびに鞭の音が変わっていっている所を見ると段々と鞭が短くなっているようだ。

 鞭が切り飛ばされていく。

 もうあと一歩で手が届く距離まで近づくとマリーは鞭をシロノに投げ捨てて殴り掛かった。

 ガードされ、反撃のかぎ爪の突きを交わし、蹴り掛かる。

 攻防は数度続いていたがマリーはいきなり膝から落ちた。

 突然の肉体の変調にマリーの目は見開かれる。

 その胸に強烈な膝蹴りが入り吹っ飛ぶと起き上がることは無く意識を失っていた。


 シロノがこちらを振り向く。


「マリー殿は眠っているだけだから安心するといい。べリア嬢も眠いだろう、我慢しなくていいよ」


 散乱した道具を鞄にしまいながらシロノはこちらに語り掛ける。

 確かに急激に眠くなってきた、どうやらこの煙は睡眠ガスだったらしい。

 シロノは私を俵担ぎして部屋をでる。

睡眠ガスっていうか神経ガスか麻痺毒じゃあないかな?

マリーさんをあのままにしてたらやばいかもなあ。

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