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 その日からはしばらく一日のサイクルが決められたものになった。

 朝にべリアを起こして朝食を共にする。

 その後夕食まで自習、行き詰まったら30分ほど仮眠をして頭を整理。

 夜はお風呂でストレスを発散して夜中はマリーさんとの個人授業を受ける。

 まともに寝てなくてもポーションを飲めば無理がきく。




 そんなある日、夕食後にべリアと一緒に遊んでいたときである。


「ほらお姉さま、みてみて!」


 突き出された両手を見ると、あやとりに使っていた魔力糸が二本に増えていた。

 そのまま糸を編みかえて見せてくれるがすぐに切れてしまった。

 おそらくはもっと維持が出来ていたはずなのだろう。

 集中しすぎて疲れた指先を震えさせながらしょんぼりとしてしまう。


「よく出来てたよ、もう一度。ほら落ち着いて」


 私の言葉に気を取り直してもう一度挑戦し始める。

 一本目の糸はすぐに出せるようだ。

 だが二本目になると途端に両方とも安定しなくなる。

 そのうち集中が切れて一本目も消えてしまった。


 魔力糸の作成行程は吹きガラスによる成型に近い感覚がある。

 一本でもそれなりに難しく、二本同時にとなれば曲芸に近い。

 今やって見せてくれたように限られた魔力で成すならば、だが。

 まあそう説明したところでべリアは納得しないと思うけど。


 手を広げ、おいでと声をかけてあげると私の胸に顔をぶつけて抱き着いてくる。

 相当ストレスが溜まっていたようで顔をぐりぐりしながら唸っていた。

 両手を使って頭と背中を撫でてあげながらマリーさんを呼ぼうと周りを見る。

 だが彼女の姿は確認できない。

 最近この時間になるといつの間にかいなくなるんだよなあ。

 本人に聞いてもいいのか迷ったのでマリーさんを探していたのだが直接べリアに聞くか?


 吸精している魔力と普段使っている魔力の収支が合わない。

 いやまあ成長する為に食事の意味で吸精しているのだから合わないのは当然なんだけど。

 一度の吸精が一般人基準で十人分くらい、それなりに吸った魔力が保有されているはず。

 おかしいと思ったのは魔力糸の操作だ。

 魔力糸なんて放出魔力量を多くすることで強度が増して簡単に安定する。

 いつもギリギリの魔力で遊んでいるべリアの事は気になっていた。


「ねえべリア、いつも吸ってる魔力はどこに行ってるの?」


「そのうち無くなっちゃうの、すーって」


「無くなるって、何かに使っていたりして?」


「ううん、いつの間にか。ホントだよ?」


 いや信じるから安心していいよと言ってあげるとうなずいてくれた。

 しかしいつの間にか消えているか。

 まず外的か内的要因なのかを調べる必要があるのだが。

 それこそマリーさんを外して勝手に進めるわけにもいかないよなあ。


「べリア、今度は二人で魔力糸を繋いで遊ぼうか」


 いいよと応えてくれたので椅子に座ってべリアを呼ぶ。

 私の膝に乗っかって背を預けてくれた。

 早速手を握ってべリアの魔力と波長を合わせる。

 指を合わせて糸を出すと一緒にあやとりを始める。


 まあ目的は別にあるのだが。

 遊びを続けながら触れている体の方に意識を集中する。

 魔力は合わせてあるので触れた部分からべリアの魔力がどうなっているのか診てみるのだ。

 マリーさんに調べることもダメって言われるかもしれないのでこっそりとね。

 無いものねだりになるけど解析スキルが欲しくなるな。

 今できるのはべリアの中にある魔力量と流れがどういう推移をしているか。

 結構な時間をかけないと何もわからないのでもうしばらくあやとりに付き合ってもらう。


「はい、つぎはお姉さまのばんだよ」


 おっと、集中しすぎてあやとりがおろそかになっていたようだ。

 指を編みこんで次をうながす。

 体内魔力の検査なんてした事も無いから同時にこなすのは大変だな。

 だがこういうデータ採取は嫌いじゃない。




 もうすぐお風呂の時間になる。

 データはまあまあ採れたので明日の自習時間にでも整理してみよう。


「魔力糸を作るときのコツを教えようか?」


「え、いいの? おしえて!」


 もちろんいいよと教えてあげることにした。

 魔力糸は実体がなく、自由な形を作ることは出来る。

 しかし安定させるとなったら現実の糸を参考にしたほうがいいんだよね。


「まず普通ににゅーっと伸ばして」


 わかりやすく指くらいの太さの糸を出していく。


「そしてこう捻じっていくと」


 螺旋を描くような糸になる。

 普通に糸を作るよりも細かい操作は必要になるけどこれが安定する。

 それを見たべリアが真似しようと頑張るがすぐにはうまくいかないようだ。


「うー、今日はもういいや。お姉さま、おふろいこ」


「また今度出来るようになればいいから、これは宿題だね」


「それでは二人とも、お風呂に向かいましょうか」


 後ろからマリーさんが声をかけてくる。

 いつからいたんだろう、扉を開けた音も聞こえなかったよ。






 翌日。

 昼前の自習時間を使ってべリアの魔力について書き出していた。

 紙をペンで叩いたり、紙の隅に落書きしながら考える。


 測定開始した時点で魔力は大分少なくなっていたので不十分なデータではある。

 だがべリアの申告通り魔力保有量が徐々に減少していっているように感じた。

 記憶のまま書いた線グラフがほぼ等直線で下降線を辿っており、ある程度少なくなると減少が緩やかに。

 もっと減って普通の人より多いくらいになると減少はストップしている。

 最低値まで下がったとしても吸精したくなるだけで特に体に影響はないように見える。

 いや、べリアの場合は魔力が無ければ命に関わるのかな?

 飢餓感を覚えるくらい減ってる時にはもう魔力を貰っているはずだから気にする事でもないかな。


 話を聞いたときは魔力が勝手に抜ける病気のようなものだと思ったんだけどなあ。

 まあ例えそういう病気だったとしても手持ちで治せたとは限らないんだけど。

 一定以下までは下がらないので魔力に頼らず生活する分には問題ないのだ。

 他にお世話してくれる人がいればわざわざ魔力を使う機会も無い。

 しかし自分で魔力を使うとなると使用量に制限がついているので安定しなくなると。


 制限、ね。

 何らかの意図が無いとこういうグラフにはならないかな。

 やっぱり直接マリーさんに聞いた方がいいか、もやもやしたままだと仕事に影響が出そうだし。






 夜、地下のマリーさんの私室。

 ここで教わる様になってからは部屋は綺麗にされるようになっていた。

 人に見られない環境だと汚くなりやすいよね……。

 そのうちここで一緒にお酒でも飲んでお話したいなあ、ってそれはおいといて。


「マリーさん、始める前にちょっといいですか」


「ええ、構わないわよ。今日何かあったのかしら」


「べリアの事ですけど」


 魔力が抜けていく現象について聞いてみた。

 マリーさんは話すべきか少し迷っていたようだが教えてくれた。


「べリア様って髪にリボン着けているでしょう、藍色のを」


 ツーサイドアップを纏めているリボンだね。


「あのリボンが魔力を放散させているのよ」


 何故なのか聞いてみると、べリアにとって必要な事だと分かった。

 彼女の種族は吸精して魔力を体に還元することで成長するらしいのだが。

 何らかの理由で還元率が悪く、同種の人と同じだけ魔力を吸うと体に溜まって行って自力で放出しきれないようだ。

 他の人に比べて成長が遅く、溜めすぎると魔力が飽和する。

 そうなると魔力物質変化――魔物になる可能性がある、と説明された。


「吸収した魔力を自分で放出しきれない恐れがあるからあのリボンを着けられてるの」


「お風呂に入っているときは外してますけどいいんですか?」


「数日外す程度なら恐らく平気だと言われているわね、飽和するほどの魔力量なんてそうそう吸えないもの」


 ソーデスネ。

 私の保有魔力が普通の人レベルならそうでしたね。

 がっつり吸われたときの量を基準にするとすぐに飽和しそうだな?

 まあそんな事態にはならないように作られているはずだから大丈夫だろう。

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