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 ~♪ ~~♪


 私は今椅子に座っている。

 べリアは私に座っている。

 マリーさんは説明をしてくれている。

 これからの生活にめまいがしてくる。


 勉強を一時中断したべリアが私を椅子にして休憩している。

 機嫌のいいべリアの鼻歌を耳に入れながら現実逃避をしていた。

 ゆらゆら身体を揺らすべリアの頭を撫でてあげると嬉しそうに笑ってくれる。


「あとはこれとこれと、こちらも覚えるように」


 何の話か?

 べリアのお世話をするにあたって覚えること、やってはいけないこと。

 まあ簡単に言うとその辺りの書類がテーブルに積まれているのだ。

 それはまあ分厚いもので、この紙一枚一枚がべリアという人物の価値を確かめさせている。


「マリーさん? これらはいつまでに習得することが出来ればいいんでしょうか」


「今日まで……と、言いたいところだけど無理なのは分かってます」


 ですのでこれから覚えるまで特訓しますとのお言葉をいただいた。

 これはやばいですね。


 自分自身、今まで生きてきて覚えようとも思わなかった事を学ぶ必要がある。

 仕事を始めてすぐの大変だった時期を思い出す。

 自分を信じるしかない、やれば出来る。




 その後はもうずっとお勉強の時間だ。

 私の膝の上で首筋の匂いを嗅いでいたべリアを横に置いてマリーさんと勉強の続きをしてもらう。

 私はその間まだ誰もいない食堂に退避して覚える内容とにらめっこを始めた。


 出来そうな事から順番に。

 学生時代に学んだ基礎を思い出しながら読んでいく。

 これ最低限の学力をつける為の勉強内容も混じってるな……。


 自分の経験で参考になるのは計算能力、後はゲーム時代から記憶を引っ張ってこれる地理くらいか。

 歴史や情勢、各地の特産品なんて本当に覚える必要あるのかと。

 そんな文句を言っても仕方ないので内容を声に出して書きながら記憶していく。


 この世界の基礎知識だけでも自分の知識とのすり合わせで相当かかりそうだ。

 知恵熱を出しそうだったのでポーションを飲んで疲労を回復しておく。

 同じことをしていても覚えが悪くなりそうだったので別の書類に手を掛ける。


 礼儀作法に弦楽ってこれらはいわゆるお嬢様的な教育ですよね。

 この辺りは書面で間違った覚え方をすると遠回りになるのでパス。

 パラパラと捲っていくと私自身の体調管理について書かれている紙が挟まれていた。


 長々と書かれているが、まあ簡単に直すと吸精には必ず応えろって事かな。

 少しでも体調不良を感じたら横になって回復に努める事とも書いてある。

 これって早い話が生贄とか生餌みたいな扱いですよって事だよね。

 まあまだ吸われる量には余裕はあるから一晩中吸われても多分大丈夫。

 本当に危なくなったら適当に席を外してポーションでも飲めば何とかなるだろう。




 自習を続けていると、夕食時にマリーさんが私を呼びに来た。

 行き先はべリアの部屋の隣のようで、いつもはそこで食事を摂るらしい。


「マリーさん、もしかして食事をサーブする順番なども覚えないとならないのですか」


「今はまだ食事マナーだけを気にするだけでいいわ、あと今日の夜迎えに行くので起きていてね」


 それってその内に覚えてねって言ってるんですよね。

 提供する側も覚えるとなると苦労も二倍では?

 ついでのように夜に迎えに来るって言ってるけどもデートの約束じゃあ無いんだろうなあ。


 べリアが使っている食堂に入る。

 彼女はすでに席に着いており、こちらを見ると顔をほころばせた。

 若干そわそわしてはいるものの行儀よく座ってマナーを守っているようだ。

 部屋は少人数用の食堂なので私が向かいに座れば満席である。


 べリアの近況を聞きながら食事は進んでいく。

 何故べリアがここでお世話になっているかを聞くと教えてくれた。

 北の学術都市に住んでいたのだが親が長期の用事で顔を見せることも難しくなったとか。

 家で一人過ごすくらいならばと、ここゴールド家に留学・観光を兼ねて預かる事になったらしい。

 それでこの家を預かっているマリーさんとこの町に来て暮らしていたと。


 という事は少なくともマリーさんはこの家の管理者ではあるのだろうけど。

 やっぱり当主だったりするんですかね?

 マリーさんの方を見ても今はまだ何かを答えてくれる様子は無いようだ。


 私の事も聞かれたが、書類仕事や客商売なんかの経験した出来事を話していった。

 だが仕事の話をしてもべリアにとってはあまり面白い話では無かったようだ。

 かわりにとゲームの時の冒険を話していくと興味を示してくれた。

 事実ではあるのだがマリーさんには嘘で話を合わせたように聞こえたかもしれない。

 実際話した内容の内どこまでこの世界であり得ることなのか、実はこの世界で経験した範囲だけがたまたま似ていただけの可能性もあるわけで。

 私の姿はまだ中学にも上がっていない見た目である以上、そういう過去があるようには思えないだろう。


 食事のマナーについては、まあ努力はした。

 自分でも優雅さが足りないのは分かってはいたが一朝一夕に身に着くものではない。

 多分この後ダメ出しされるだろうから覚悟の準備はしておこう。


 食後の紅茶を楽しむ。

 普通においしいなあと思って飲んでいたらマリーさんからの視線が飛んできた。

 その一瞬で体に緊張感が走る。

 確かに気が緩んでいた、作法が自然と出るようになるにはまだ遠い。


 この後の予定をマリーさんに聞くと何か用事が入っているわけでも無く。


「じゃああれをやりましょう」


 手を叩いてべリアから提案があった。




 この世界には娯楽は少ない。

 だがそれは私が知っているものが少ないだけで、子供は勝手に思いつくものだと感心する。


 べリアは私を背もたれにして膝に座ると、両手を前に出すように指示された。

 私の手を使って手と手の間が空いた状態、まあ透明なボールを両手で持ったような感じだ。

 その私の指とべリアの指を合わせて魔力を相互間で繋げてきた。

 何をするのかなと思って合わせてあげると魔力を糸のような状態で安定させる。

 伸ばしたり短くしたり、うんうん唸っている内に丁度いい長さを整えることが出来たようだ。


 一本の糸が出来上がる。

 魔力を繋いでいる私とべリアは分かるけど、無属性魔力は外から見たら透明でしかない。

 そこで属性を加えて色を着けることで目視できるようにする。

 魔力パスの曖昧な中間を境に、私側の糸を着色させるとべリアはこちらを見て目を輝かせた。

 負けじとべリアも色を変化させようと集中する。

 糸の太さや長さが安定せず、色は徐々にしか変化できていないが糸が切れることだけは無かった。

 遊び慣れているのかセンスがいい、魔力の操作力はコツをつかむまでは経験を重ねるしかない。


 糸が二色に変わり終えても集中力を切らせばすぐに台無しになる。

 真剣な表情をしているべリアを見ながら糸をつまんで手首と指に編んでいく。

 糸自体は物理的な発現はしていないが、操作中の本人なら魔力で干渉が出来る。

 この不安定な特性を維持しつつあやとりを始める。


 最初は他の指に引っ掛けることだけを私とべリアで交互に繰り返す。

 これくらいなら今までやっていたのだろう、べリアは危なげなくこなしていく。

 しかし何回か繰り返して図形が複雑になると魔力維持が出来なくなり糸が切れてしまった。


 同じように糸を編んでは切れていく。

 べリアは手先にストレスが溜まって来たのだろう。

 背もたれにしていた私を向かい合うように座り、抱き着いて来てイライラをごまかしている。

 私も体をさすって慰めてあげた。


 ふと思い出したのであれを作ってみる。

 自分の指から魔力糸を出して編み込んでいく。

 右手を上方に、左手の親指と人差し指で広げた糸の輪を下部分に作る。

 糸の先端を独立させてボール型にし、下部の広げた輪の中で前後させる。


「マギテックプレイスパイダーベイビー!」


 べリアは突然の謎詠唱を聞いてびっくりしてしまった。

 何事かと私の手を見ると、魔力の糸付きボールが前後している。

 この緻密なコントロール、すごいだろう?


「えっと、すごいけど……これなに?」


 なにって、まあうん。

 そういうものだからね。

 多分くもの子供を模したものなんじゃあないかなあ。


 そんなどもった私を気にせずにべリアは手元で自分の糸を操っていく。

 完成した型は糸にボールを付けて前後させるという単純なものだった。


「えへへ、できた! ……ベイビー!」


 見た目は全然出来ていない。

 でも私はかわいいからありだと思う。

 ほめて頭を撫でてあげると嬉しそうに笑っていた。




 遊んでいたら結構な時間が経っていた気がする。

 ではお風呂にでも入ろうと思い、席を外す事を伝えて立ち上がろうとした。

 それを聞いたべリアがこちらに告げる。


「お姉さまもいっしょにおフロにはいろ?」


 マリーさん?


「それでは浴場に向かいましょうか」


 マリーさんも当たり前のように受け入れたな。

 いや別に一緒に入ったからと言って何かがあるわけでないんだけど。

 そのままの流れで歩いている二人の後ろをついていく。

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