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158 鼠のタワラ

「さて、まずは通行料を頂きましょうか」


 隠し通路に待ち構えていたメイドさん。

 ネズ耳が特徴的。

 その彼女が最初に提案したのが、カツアゲとは。


「進みながら、お話するんじゃあ無かったんですか」


 別に、通行料が惜しいわけでは無い。

 要求した真意を知りたかっただけである。


「大したものが欲しいわけではありません……ほら、最初にくれた奴ください」


 最初?

 会った事ありましたかね?

 んむ……あ、思い出した。


「お菓子をせびって来たメイドさん!」


 マトリックの屋敷前でどうするか迷っていた時に、取り次いでくれた人だ。

 お菓子をせびって、その後たんこぶを作っていた人でもある。


 あれ、あの時にネズ耳を見ていたらすぐに分かったはずだけど。

 今はホワイトブリムを着けて無いから、それで隠されていたのかな?


「せびったのではありません、あれは正当な報酬です。本来は殴られる理由も無かったのに……」


 ぶつぶつと、たんこぶの原因である人に恨み節を吐いている。

 良い性格をしている。


 多分、メイドとしての職務を果たせなかったから殴られたのだと思うよ?

 それまでにも何度か面倒を起こしていないと、たんこぶに化けたりはしないでしょう。


「だから、頂戴?」


 くいっと手でアピールする。

 仕方ないなあ、こんな事で時間を取られたくは無い。


「いや、お菓子を今は持って無いので――」


 嘘だけど。

 何故そんな嘘を吐いたか? 何となくだ。


「こちらをどうぞ」


「とても食べ物には見えませんが……?」


 黒い三角。

 実態はパリパリ海苔に包まれたおにぎりである。


「えーと、食感のふっくらした穀物の中に、魚と調味料で旨みを足した食べ物ですよ?」


 この説明で合っているかは微妙だけど。

 中身はツナマヨである、聞いただけなら凄くマズそうだ。


 受け取ると、においを嗅ぎはじめた。

 そうだよね、毒物を疑うよね。


「気になるなら、私が一口食べましょうか」


「いえ、それには及びません」


 彼女からすれば、得体の知れない食べ物に容赦なくかじりつく。

 なんと勇気のある行為。

 それと同時に歩き、進み始める。

 足を止めても話が進まない事に気が付いたのか、私の誠意に満足してくれたのか。


「ちゅー。まあまあですね、んぐっ、ふむふむ、まあまあです」


 まあまあと繰り返しながら、結構なペースで食を進める。

 そうだ、名前くらい聞いておこう。


「すみません、お名前は?」


「タワラです」


 タワラのネズ耳が、米食って、ちゅー。

 ちゅーちゅーちゅー。


「それで、何でまた不審者である私の案内を?」


「おや、自覚があったとは。てっきり、迷い込んできたと言い訳をすると思っていました」


 当然ながら、偶然迷い込む場所では無い。

 うーん、彼女の意図が掴めない。


「あっ、ほらほら、スラ子」


 糸を垂らし、もう片方の手で糸に触れる。

 掴む際に引き抜き――


「いとが、つかめない……ふんッ!」


「ぐふぇ!?」


 中々良いレバーブローをしてくれるじゃあ無いか。


「ごほっ、けほ。それで、迷い込んだ私を助けてくれるあなたの用事は?」


「たのしそうですね……確認しますが、ユキ支部長で合ってますか」


 否定する意味も無いので、すぐに肯定。

 たのしそうと思っているようだが、これは意味のある行為だ。

 もし敵対する意思があるなら、ふざけた事をした時点で冷ややかな態度を取られるからね。

 少なくとも、現時点では話が通じる相手だと分かる。


「タワラはユキに感謝します。彼女からの伝言があります」


「伝言?」


「教会からの仕事で、見たのでしょう? 亡霊と化した彼女を」


 ソテラ教からの仕事は一つしか受けていない。

 亡霊を何とかしろと言われたやつ。

 最後、いつの間にか消えたけど浄化されずにタワラの所に来ていたのだろうか。


「彼女の訃報を聞いたときは心が痛みましたが。最後は救われていたようでした」


 正直に言って、そう言われてもピンと来ないけどね。

 狼に食われて死んだはずなのに、亡霊に成ったら美醜を気にしているとか。

 死んでいるのに生き生きしていたように思える。

 見た目はホラーだったけど。


 そうだ、家の荒れ具合から考えると怪しく感じていた部分があった。

 教会からの説明だけでは無く、第三者からも聞いてみないと。


「その、現場を見たのですが。実は死因が狼では無いとか、あり得ますか?」


 狼では無く、銃殺された後で狼の犯行に見せかけた。

 私は、その可能性を疑っている。


「タワラは原因となる個体が討伐された所を見ました。他の原因は考えられません」


 おや、そうだったのか。

 これは予想外。


 てっきり、マトリック辺りが黒幕だと想定していた。

 銃の製造は戦争準備の為で、反体派を銃殺したのかと。

 まあ、彼との付き合いは浅いけど、そんな事をするようには見えなかったが。

 脳筋タイプで人当たりも良い。

 それでも裏では良からぬ事を企んでいる……そういった可能性を考えていた。


「それで、伝言の内容です。“化粧の技術が、まだまだ甘い”以上です」


「ええ……?」


 ダメ出しかよ。

 それじゃあ、白塗りのっぺらぼうは分かっていてやってたのか。

 なんだよ、構ってちゃんだったのかよ。


「出会った時は呪われそうな感じだったけどね」


「遊び相手が欲しかったようです。冒険者は根性が無く、逃げ帰ってしまったと」


 亡霊の未練と考えたら、そこまでズレてはいないのか?

 きちんと説明しなかった教会に、抗議を入れるべきだね。

 この話は、もういいや。

 今は重要じゃあ無い。


「それで、タワラさんは何故ここに?」


「清掃管理の為です。内情を知り、男爵も雑な事をと内心思いましたが」


 雑ですねえ。

 管理が面倒だからと、第三者に任せるとは。

 せめて機密を漏らさない様に、外出を禁止して軟禁状態にするとか。

 しかし、そうはしなかったと。


 タワラが手を差し出し、再度要求をしてくる。

 やっぱり、まだ食うのか。

 はい、それじゃあ次は筋子ね。


「ちゅー、んぐんぐ、あ、気を付けてください。連絡通路により、足元がしばらくアップダウンします」


 一度、話の腰を折るように忠告を受けた。

 確かに地面の配線を跨ぐように階段がアップダウンしている。

 気付きにくいけど、少しずつ地下方向へ潜っているようだ。


「そうだ。どうやって私が来る事を察知したのですか」


 今回、半ば思い付きで潜入している。

 待っていたの言葉を信用するなら、何かしらの理由があって察知していたはずだけど。


「そんな事ですか。簡単な事です、とても」


「ほう」


「たまたまです。それっぽい事を言えば、話の主導権を得られるかと思って」


 聞いといてよかったわ。

 そんなの、推察出来る訳無いじゃん。


 いや、そうじゃあ無いのか。

 何でも合理的に考えれば推察できると思っていた私が傲慢なだけ。

 人生、こういう所が面白い。


「まあ、細かい話はまた今度しましょうか」


「今、出来ない理由が?」


「はい。タワラさんは、元の道を辿って戻ってください」


 一度、足を止める。

 私の意図に気が付いたのか、タワラも直後に立ち止まった。

 いや、ネズ耳を見ると何かが聞こえている動きが見て取れる。

 もちろん、私の耳にも。


「今度、タワラさんに何かお礼しないと。何か希望はあります?」


「特に何も。彼女の言葉を伝えるのが目的でしたから」


 そうなのか。

 私にとっては、しょうもない伝言でしか無かったが。

 タワラにとっては、何か思う所があったのだろう。

 感情が読み取れないから、どう思っているかは分からないけど。


「それでは。まさか、奥に人が居るとは思いませんでしたが」


「足元に気を付けてね」


「またねー」


 私とスラ子が、手を振って見送る。

 脇道も無かったし、とりあえず屋敷に戻るまでは無事だろう。


 しかし、先客ね。

 タイミング的に、用心棒のような人が控えていたのか。

 たまたまでは無く、知られたうえで待ち伏せをされている?


「スラ子、心当たりは」


「みてこようか?」


「んー、そうだね。場合によっては戻ろうか」


「へー」


「無理にでも進むと思ってた?」


「うん」


「だって、無理をする意味が無いでしょう」


 それに、何の為に逃げる準備までしているのかと。

 今の私は、ただの不法侵入。

 誰かが、問答無用で殺しに来てもおかしくない。

 どんな相手でも対応できるなんて、甘えた考えをするつもりも無い。

 無理そうなら逃げるのは当然である。


「まってるの、ロストラータだよ」


「あ、そう。じゃあ進もうか」


 油断? これは余裕と言うもんだ。

 あのワン子程度の実力なら、どうとでも出来る。

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