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153 別物

 村内の清掃業務を終え、村をぶらつく。

 その最中、子供たちが遊んでいる空き地を見つけた。

 適当に座り込み、子供たちの声に耳を傾ける。

 働くだけだと気が滅入る。

 たまには遊んでいる子供たちを、視か……見て、癒されよう。


「ねーねー、おねーちゃん」


 どこかから少女の声が聞こえる。

 姉妹で遊んでるなんて、平和だなー。


「ドクター、よばれてるよ」


「……ふぇ!?」


 ぼーっとして気が付くのが遅れた。

 座っている横に、私より少しだけ身長が低い少女がいる。

 私の裾をつんつん引っ張りながら、声を掛けて来ていた。


「あ、何々? どうしたの?」


「おねーちゃん、錬金じゅちゅし、でしょ? ママが言ってた」


「そっかー、ママにばれちゃったかー。そうだよ、錬金術士であってるよ」


 どこのママか知らないけど。

 ギルドの仕事上、インフラ関係もやってるから、知名度が上がるのは助かる。

 何か困った時には相談してくれないと、黙っていられても解決できないからね。


「なんでバレたかなー、不思議だなー」


「りょうての、キンピカの子だって」


「ん? ああ、これね」


 今は両手首に着けている、金色ブレスレット。

 確かに仕事中は、これが光を反射して目立つかも。


「ねー、この子、なおして?」


 そう言われ、見せられて……ああ、これは重症だ。

 変色して、色が薄くなってきている。

 更に切れた所から、中身が飛びだし始めていた。

 随分と長い間、一緒に過ごしていたのだろう。


 ぬいぐるみ、どうやって直そうかな。

 色は褪せ、破れた場所から綿らしき物が出ている。


「ちょっと借りて良い?」


「うん!」


 どうやって直すのか、興味があるらしい。

 私の正面にしゃがんで、手元を見ている。

 うーん、白か。

 汚れが目立たないように、染めるものだと思っていた。


 おっと、気が逸れた。

 どうやって直そうかなー。

 まずは、うん。

 座っている周りの、そこらに生えている草を採る。


「危ないから、黙って見ていてね」


「まほー?」


「うんうん、良く知ってるね」


「えへへ」


 話しながらも、手を進めていく。

 草を撚り、土と混ぜて錬成。

 即席の針に変える。

 同じく、草の繊維を錬成して、糸にする。

 後は、破れた所を仮縫い。

 終わったら生地同士を錬成してくっつけるから、とりあえずはここまで。


 綿は、羊毛のような質感だった。

 劣化して、ぬいぐるみがペチャンコになっていたが。

 この中身も錬成して、ふわふわに戻す。


 褪せた色は……まあ、適当に周りにある土や植物で着色し直そうか。

 最後に付着した土や草のニオイを取り除き、全体を修繕して終わり!


「はい、終わったよ」


「わあ、ありがとう。おねーちゃん!」


 受け渡すと、女の子はぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめた。

 愛情表現が激しい。

 これは、またすぐに潰れそうだなあ。


「おねーちゃん、横むいて?」


「うん?」


「ちゅー」


 ほっぺにキスされちゃった。

 まあ、お礼としては上等だろう。


「これからも、その子を大事にしてあげてね」


「うん! だいじにするねー!」


 ママに報告しに行くためか、どこかに急いで去って行く。

 しばらく腕をぶんぶん振って来たので、私も振り返し続けた。


「いやあ、平和って良いねー。ちゅーされちゃったし、ちゅーされちゃったもん」


「ドクター、うれしそうだね」


「だって女の子の、心からのちゅーですよ? 価値が高いわあ」


「はいはい、ヘンタイよくできました」


 失礼な、見た目が二次な造形じゃあ無かったら、ここまで興奮しないよ。

 三次のロリに、ちゅーされても心が温まるだけで邪な想いは抱かない。

 二次ロリに理解が無い人は、そこを誤解しているから困る。

 度々非現実的な考え方をしている自覚はあるけど、見た目の影響が強いと思うんだよね。


「ママー! こっち、こっち!」


 んや? さっきの女の子の声が聞こえる。

 その女の子が手を引き、女性を連れてきた。


「どうも、ウルフズピーク錬金術ギルド支部長のユキです」


 肩書が長すぎる。

 やっぱり、次からはユキだけでいいや。


「スラ子だよ」


 ちなみに、アーリャは錬鉄の錬成中。

 ママさんに軽くお辞儀をすると、向こうも頭を下げ返してきた。


「この子のぬいぐるみを直してくれたんですって? ありがとうねえ」


「ええ、まあ。暇だったので構いませんよ」


 逆に言えば、暇じゃあ無いならお金を取りますよ?

 便利アイテム扱いのタダ働きをさせられて困るのは、私以外の錬金術士なので。


 ふと思ったけど。

 村の人は貨幣での取引をしているのだろうか。

 ギルド間の取引は書類上のみで、私個人には利益がほとんど無いんだよね。

 いや、大丈夫か。

 貨幣で経済を回せないなら、村の中央市場なんて成り立たないはず。

 今度、買い物に出て確認しないと。


「そうね! 暇だなんて言ってられないものねー。期待してるわよ、注文した……名前、何て言ったかしら?」


 はい?

 注文って、何の話だろう。


「何を発注されたのでしょう?」


「ほら! アレよアレ! えーと、子供用の、おむ……オム?」


 おむそばでは無いし、オムライスでも無い。

 その心当たりは一つしかないね。


「ああ、はいはい。オムツですね」


「明日には届くらしいから期待してるわね」


 は? 明日?

 まだ、一枚も作ってないんですが?

 いや、それ以前に発注書も冒険者ギルドからの問い合わせも無いんですけど?


「あ、あーあの。すいませんが、用事を思い出したので支部に戻ります」


「あら、そう? それじゃ、頑張ってね!」


「はい、それでは」


 行くべきは冒険者ギルドか?

 違うな、もう発注書が届いているはず。

 数によっては時間の猶予が無い、戻ろう。




「アーリャ、誰か来なかった……?」


 あれ、工房に居ない、一体どこへ?

 錬金釜はカラッポ、錬鉄のサンプルを作り終わった形跡は無い。

 テーブルには発注書があった。

 うわ、結構な数の注文が来たなあ。


「ドクター、トイレにいるよ」


「トイレ? ああ、そうか。間に合わなかったのか」


 魔法のタルトには副作用がある。

 耐性が付いてしまうとしか話さなかったが、他にもあった。


 脂肪を排出する。

 それは、皮膚から浸透するように出てくるわけでは無い。

 想像したら気持ち悪いな……じゃなくて。

 便として出るのだ。

 当然ながら、アーリャの場合相当な量になる。

 なので……今、トイレでは激しい戦いが繰り広げられているだろう。


「はあ、錬鉄サンプルも私が作らないとダメか」


「がんばれー」


「うぐぅ、こればかりは頑張るしかない」


 自業自得、とまでは言えないだろうけど。

 だが錬鉄くらいなら、すぐに終わる。

 問題はオムツ、その数だ。


 一枚一枚、丁寧に作っていては……まあ、今回はギリギリ翌朝には間に合うけど。

 毎回そんな事をするのは、苦痛である。

 仕事を提案しといて苦痛に思うのは自分勝手だと思うけど……まあ、人の心なんてそんなものだ。

 なので。


「手数の足りない仕事が相手なら、簡易的な工場を作らざるを得ない」


「つまり、どうするの」


「吸水樹脂のカットやオムツ部分の繊維を伸ばす工程とかとかとか」


 錬成に直接関わる部分は自力で行い、魔力が必要にならない部分を工場化する。

 いや、しなければ今後が辛いのだ。

 動力は魔石、最悪はクランク手回しで……うん、青写真が浮かんできたな。

 設計書にさらさらとインクを走らせ、心の余裕が出て来た所で別の話。


 アーリャの食事の内容。

 同じ内容を続けると、また太ってくるだろう。

 単純に減らそうとしても、本人が納得しない。


 そもそも、私の食事量に引っ張られて多く食べるようになったのが原因だよなあ。

 ミルクを生産して、スラ子の品種改良を日毎に進める私の栄養消費量はとても多い。

 なので……うん、使う食材を工夫してみようか。


 代用食材を使うのが現実的だろうか。

 味も、過去に開発したフレーバーと調香の組み合わせで色々誤魔化せるはず。


「生地にして……味も落とさず……」


「えっ、オムツでりょうりを!?」


 ぶつぶつ独り言を言ってたのかな。

 気を付けよう。


「いやいや? ちょっと余計な事を考えてたかな、それじゃあ工作を始めようか」


 料理の事を考えるのは後。

 まずは、請けた仕事を終わらせないと。

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